220 / 436
第五章
214:誓いが果たされた日
しおりを挟む
フジミ・タウンの役場の建物は町のほぼ中央にある広場に面している。
ハドリは無言で歩を進めていく。その歩みは規則正しいものであった。
ハドリが住んでいたときと役場の場所は変わっておらず、ハドリは迷うことなく目的の建物の前に到達できた。
建物はあちこちが破壊され荒れ放題であったが、辛うじて原形をとどめていた。
今回の攻撃による破壊もあったが、傷の断面などから大部分は攻撃の前からのものであることが見てとれた。
食べかすや割れたコップなどが散乱していたことから、賊どもは手入れをすることなく建物を利用していたことが予想される。
ハドリは移動中、周囲の様子にあまり関心を向けていなかったが、町の中の他の建造物も似たり寄ったりの状態であった。
住居と思われる建物の大半は荒れており、手入れがほとんど行き届いていなかった。
ハドリは後で知ったが衛生状態もよいとは言えず、少なくない住民が病に悩まされていたのだった。
トップを失った賊は住民たちを力で押さえつけるだけの野盗の集まりに過ぎなかった。
近くの街道を行き来する者達から物資を奪うときだけは集団として機能していたが、それ以外で集団として機能することはほぼなかったようであった。
「……」
ハドリは周囲を一瞥した後、一直線に下に向かう階段に歩を進め、地下へと下りていった。
地下には床が破壊され、土が剥き出しになっている部分があった。
そこにキョウジ・トイの墓標があった。
世紀の大悪人に相応しいというべきなのだろうか、墓標は近くにあった石の板に名前と生没年月日を記しただけの粗末なものであった。
恐らく近くのはがれた壁を加工したものであろうが、あちこち崩れて、原形をとどめていない。
墓標の近くには小型の耐衝撃ボックスが置かれていた。埃をかぶっていたが、ボックス本体、中身のいずれも問題なさそうに見える。
大きさは大人の手に辛うじて収まるくらいだ。
ボックスを手にとって開けようとしたが、鍵がかかっているようで開かない。
形状から記録チップが保管されているようであった。
「爆破班を役場の地下へ寄越せ! 衛生班もだ!」
ハドリはボックスをポケットに入れた後、通信機で部下を呼んだ。
数分で部下が飛んでくると、ハドリは役場の建物の爆破を命じた。
「いいか、建物の痕跡が無くなるまで吹き飛ばせ。周囲の建物には傷をつけるな」
「あ、跡形もなく、ということでしょうか……?」
ハドリの意図が読み取れず、部下は困惑した。
「やれと言っているのがわからんのか!」
「は、はいっ! 承知しましたっ!」
ハドリの怒号に部下は慌てて爆発物のセットを開始した。
「衛生班は生き残った住民を治療せよ! 賊どもは無視しろ!」
「承知しました!」
ハドリ衛生班に命令した後、建物の外へ出て爆発物のセットが完了するのを待つ。
数分後にセットが完了したという連絡が入った。
「見るがいい! これが『フジミの大虐殺』を企てた卑劣漢の最期だ!」
そう宣言した後、ハドリは爆破を命じた。
十秒後、爆音と共に建物が吹き飛んだ。
立ちこめる煙と粉塵の中へとハドリは進んでいく。
部下が声をかける間もなく、ハドリは煙の中へ飛び込んだ。そして、右手に土を握りしめて出てくる。
「後処理を進めておけ」
部下にそう命じハドリは別の方向へと進んでいった。彼の生家のある方へ。
決して速い歩みではない。
地面を踏みしめるように一歩一歩歩いていく。
そして、目的の場所に達した。
生家のあった場所は空き地となっていた。
(これが卑怯者の最期だ。よく見ていてくれ)
ハドリは右手に握っていたものを空き地に向かってぶちまけた。
灰や土が地面へと落ちていく。
(遅かったが……最低限のことはしたか……)
灰や土が地面に落ちたのを確認するとハドリは踵を返し、いずこかへと去っていった。
彼が後ろを振り返ることは無かった。
一三年前に立てた誓いは、こうして成就した。
OP社を設立したのも、司法警察権を獲得し治安改革部隊を結成したのもすべてこの日のためであった。
一八万近い従業員を抱えるサブマリン島最大の企業は、その最大の目的を達成したのだ。
しかし、OP社、エイチ・ハドリの歩みがここで止まることはないだろう。
今までのOP社は、彼の復讐のための企業であった。
これからは、彼の理想を実現するための企業になる。
ただ、それだけのことだ。
後にハドリ自身の命により、彼の自宅のあった場所には「フジミの大虐殺」で犠牲となった市民の慰霊塔が建てられた。
「犠牲になった者達の気が晴れるよう、慰霊塔はOP社の名に恥じないものにせよ」
ハドリは慰霊塔の建築を命じる際、部下にそう伝えたのだった。
部下はその言葉を忠実に守り、落ち着いたデザインながらも三階建ての建物より少しだけ高い慰霊塔を建てた。これはフジミ・タウンに現存する建造物の中で最も高い。
慰霊塔完成の報せを受けたハドリは、フジミ・タウン内に慰霊塔より高い建造物を建設することを禁止したのだった。
塔には全ての犠牲者の姓名が記された。
最初に記されたのは彼の母、サトミ・ハドリの名であったという。
ハドリは無言で歩を進めていく。その歩みは規則正しいものであった。
ハドリが住んでいたときと役場の場所は変わっておらず、ハドリは迷うことなく目的の建物の前に到達できた。
建物はあちこちが破壊され荒れ放題であったが、辛うじて原形をとどめていた。
今回の攻撃による破壊もあったが、傷の断面などから大部分は攻撃の前からのものであることが見てとれた。
食べかすや割れたコップなどが散乱していたことから、賊どもは手入れをすることなく建物を利用していたことが予想される。
ハドリは移動中、周囲の様子にあまり関心を向けていなかったが、町の中の他の建造物も似たり寄ったりの状態であった。
住居と思われる建物の大半は荒れており、手入れがほとんど行き届いていなかった。
ハドリは後で知ったが衛生状態もよいとは言えず、少なくない住民が病に悩まされていたのだった。
トップを失った賊は住民たちを力で押さえつけるだけの野盗の集まりに過ぎなかった。
近くの街道を行き来する者達から物資を奪うときだけは集団として機能していたが、それ以外で集団として機能することはほぼなかったようであった。
「……」
ハドリは周囲を一瞥した後、一直線に下に向かう階段に歩を進め、地下へと下りていった。
地下には床が破壊され、土が剥き出しになっている部分があった。
そこにキョウジ・トイの墓標があった。
世紀の大悪人に相応しいというべきなのだろうか、墓標は近くにあった石の板に名前と生没年月日を記しただけの粗末なものであった。
恐らく近くのはがれた壁を加工したものであろうが、あちこち崩れて、原形をとどめていない。
墓標の近くには小型の耐衝撃ボックスが置かれていた。埃をかぶっていたが、ボックス本体、中身のいずれも問題なさそうに見える。
大きさは大人の手に辛うじて収まるくらいだ。
ボックスを手にとって開けようとしたが、鍵がかかっているようで開かない。
形状から記録チップが保管されているようであった。
「爆破班を役場の地下へ寄越せ! 衛生班もだ!」
ハドリはボックスをポケットに入れた後、通信機で部下を呼んだ。
数分で部下が飛んでくると、ハドリは役場の建物の爆破を命じた。
「いいか、建物の痕跡が無くなるまで吹き飛ばせ。周囲の建物には傷をつけるな」
「あ、跡形もなく、ということでしょうか……?」
ハドリの意図が読み取れず、部下は困惑した。
「やれと言っているのがわからんのか!」
「は、はいっ! 承知しましたっ!」
ハドリの怒号に部下は慌てて爆発物のセットを開始した。
「衛生班は生き残った住民を治療せよ! 賊どもは無視しろ!」
「承知しました!」
ハドリ衛生班に命令した後、建物の外へ出て爆発物のセットが完了するのを待つ。
数分後にセットが完了したという連絡が入った。
「見るがいい! これが『フジミの大虐殺』を企てた卑劣漢の最期だ!」
そう宣言した後、ハドリは爆破を命じた。
十秒後、爆音と共に建物が吹き飛んだ。
立ちこめる煙と粉塵の中へとハドリは進んでいく。
部下が声をかける間もなく、ハドリは煙の中へ飛び込んだ。そして、右手に土を握りしめて出てくる。
「後処理を進めておけ」
部下にそう命じハドリは別の方向へと進んでいった。彼の生家のある方へ。
決して速い歩みではない。
地面を踏みしめるように一歩一歩歩いていく。
そして、目的の場所に達した。
生家のあった場所は空き地となっていた。
(これが卑怯者の最期だ。よく見ていてくれ)
ハドリは右手に握っていたものを空き地に向かってぶちまけた。
灰や土が地面へと落ちていく。
(遅かったが……最低限のことはしたか……)
灰や土が地面に落ちたのを確認するとハドリは踵を返し、いずこかへと去っていった。
彼が後ろを振り返ることは無かった。
一三年前に立てた誓いは、こうして成就した。
OP社を設立したのも、司法警察権を獲得し治安改革部隊を結成したのもすべてこの日のためであった。
一八万近い従業員を抱えるサブマリン島最大の企業は、その最大の目的を達成したのだ。
しかし、OP社、エイチ・ハドリの歩みがここで止まることはないだろう。
今までのOP社は、彼の復讐のための企業であった。
これからは、彼の理想を実現するための企業になる。
ただ、それだけのことだ。
後にハドリ自身の命により、彼の自宅のあった場所には「フジミの大虐殺」で犠牲となった市民の慰霊塔が建てられた。
「犠牲になった者達の気が晴れるよう、慰霊塔はOP社の名に恥じないものにせよ」
ハドリは慰霊塔の建築を命じる際、部下にそう伝えたのだった。
部下はその言葉を忠実に守り、落ち着いたデザインながらも三階建ての建物より少しだけ高い慰霊塔を建てた。これはフジミ・タウンに現存する建造物の中で最も高い。
慰霊塔完成の報せを受けたハドリは、フジミ・タウン内に慰霊塔より高い建造物を建設することを禁止したのだった。
塔には全ての犠牲者の姓名が記された。
最初に記されたのは彼の母、サトミ・ハドリの名であったという。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる