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第五章
213:機は熟した
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年が明けてLH五一年一月一〇日。時刻は午前一一時を少し過ぎたころのことだ。
OP社治安改革部隊によるフジミ・タウンの包囲はまだ続いていた。
包囲を開始してから一ヶ月以上が経過している。
報告などから、敵がかなり疲弊していることは容易に予測できた。
包囲の輪の中では口論や乱闘が絶えず、少なくない負傷者が発生していることが判明している。
戦わずして相手の戦力を削れたのは、水と食料の供給源を断ったことが功を奏している。
しかし、誤算もあった。
この時期、例年だと雨はほとんど降らないのだが、今年は二度の降雨があった。
これが敵を救った。水があれば人はある程度の期間生きられるのだ。ハドリの敵、フジミ・タウンに巣食う賊どもにとっては恵みの雨であった。
だが、それも焼け石に水だ。ハドリの打った手は確実に敵を追い込んでいる。恵みの雨も賊どもの死期をわずかに遅らせるだけのものでしかないだろう。
ハドリは機が熟すのを待っていた。本来は短気な男であるが、勝利のためにはいかなる手を打つこともいとわない性質だ。
ハドリが攻撃を仕掛けず、相手の戦力を削りに出たのは次のような理由からであった。
もし、完全に敵が追い詰められれば打って出てくるだろう。
その場合は先手を取られる可能性がある。
ハドリの率いる兵は必ずしも強兵ではない。
先手を取られると総崩れになる危険性を秘めているといってよい。このため、できれば先手を与えたくはない。
一方で敵が完全に弱りきっていないときに攻撃すれば、それなりの損害が出るだろう。
この両者を勘案して、「敵が疲弊しきる直前にこちらから一気に仕掛ける」というのがハドリの基本方針だった。
「報告です! 敵の様子に変化がありました!」
「何だ? 詳細を話せ」
一月一〇日の正午近くに部下から臨時の報告があった。
本来の報告のタイミングではないので、何か異変が起きたのだろう。
「はい、先ほどですが……」
部下の報告をハドリは眉一つ動かさず聞き終えた。
報告は賊同士の食料の奪い合いで死人が出たという内容であった。
部下を下がらせた後、ハドリは報告の内容が正しいことを自ら確認した。
そして、総攻撃を命じた。
待っていたタイミングが訪れたと判断したのだった。
ハドリは現在の敵でもある先人と同じように、丘の周りから火を放った。
しかし、彼のやり方には先人と異なる点もある。
まず、敢えて乾燥する時期を選び、火の回りが速くなるようにした。
更に、フジミ・タウンの放送回線に割り込んで、一三年前の「フジミの大虐殺」に関するドキュメンタリー番組を放映させていた。相手の精神を折るためだ。
ドキュメンタリー番組については、フジミ・タウンだけではなくOP社の影響力が及ぶ都市全てで同時に放映させていた。
ハドリは徹底して相手の泣き所を突いた。
フジミ・タウン側に広域的に情報を発信する力はなかったから、マスコミを利用した戦いは圧倒的にOP社有利である。
ドキュメンタリーの中では街頭インタビューも放映された。
インタビューの回答者の多くが、フジミ・タウン側の残虐非道さを責め立てる回答をしている。
こうして、フジミ・タウンの内部に絶望感を植えつけることもハドリの狙いだった。
戦わずして敵の戦意を削ぐという訳である。
炎の中から打って出る敵もいるが、その姿はまばらだ。
圧倒的な多数で敵を狙い打つ。
OP社側は一部の兵士に銃器を持たせていたが、飛び出してくる敵の数は、それらの銃器で狙い打てば十分な程度である。
既に大勢は決した。否、戦う前から大勢は決していた。
今の時点で行われているのは、単にとどめを刺す作業だけだった。
総攻撃開始から数時間で敵の抵抗も殆どなくなった。
火を放った時点で、フジミ・タウン側には満足に戦える戦力がほとんど無かったのだ。
敵の抵抗が治まった。この時点でOP社、ハドリの勝利が確定したといってよい。
勝利を確信したハドリは部下に消火を命じると、自ら丘の上へ向かって歩を進めた。
「まだ火が消えていません! 危ないですからもう少しお待ちください!」
部下の一人が叫んだが、ハドリは構うなと答えて歩を進めていく。
その途中、動くに動けずその場にへたり込んでいる家族が見つかった。
母親らしき人物に見覚えがある。
年を取り、やせ衰えていたが、確かにハドリがフジミ・タウンに住んでいた頃に見た顔だ。
ハドリは通信機を取った。
「医療担当! 中に怪我人がいる! 賊でない者は急いで助けてやれ!」
通信を終えるとハドリはへたり込んでいる家族に声をかけた。
「一三年前の事件の首謀者は誰だ? 名前を知りたい」
すると首謀者は既に死んだ、という回答が得られた。
不審に感じたハドリが更に問いただすと、キョウジ・トイという首謀者の名前と墓所の位置が判明した。
「風土病だと?!」
ハドリはトイの死因を聞いて怒りを覚えた。
彼にとって世紀の大悪人が病ごときに生命を奪われたというのは納得できなかった。
地獄ですら生温いというくらいに罰せなければ意味がないのだ。
しかし、ハドリはすぐに冷静さを取り戻した。とにかくトイとやらに罪を償わせなければならない。
トイの墓所の位置はかつてフジミ・タウンの役場が入っていた建物の地下だという。
ハドリは役場の建物の地下へと向かっていった。
彼にとってはこれからがこの戦いの本番になる。
OP社治安改革部隊によるフジミ・タウンの包囲はまだ続いていた。
包囲を開始してから一ヶ月以上が経過している。
報告などから、敵がかなり疲弊していることは容易に予測できた。
包囲の輪の中では口論や乱闘が絶えず、少なくない負傷者が発生していることが判明している。
戦わずして相手の戦力を削れたのは、水と食料の供給源を断ったことが功を奏している。
しかし、誤算もあった。
この時期、例年だと雨はほとんど降らないのだが、今年は二度の降雨があった。
これが敵を救った。水があれば人はある程度の期間生きられるのだ。ハドリの敵、フジミ・タウンに巣食う賊どもにとっては恵みの雨であった。
だが、それも焼け石に水だ。ハドリの打った手は確実に敵を追い込んでいる。恵みの雨も賊どもの死期をわずかに遅らせるだけのものでしかないだろう。
ハドリは機が熟すのを待っていた。本来は短気な男であるが、勝利のためにはいかなる手を打つこともいとわない性質だ。
ハドリが攻撃を仕掛けず、相手の戦力を削りに出たのは次のような理由からであった。
もし、完全に敵が追い詰められれば打って出てくるだろう。
その場合は先手を取られる可能性がある。
ハドリの率いる兵は必ずしも強兵ではない。
先手を取られると総崩れになる危険性を秘めているといってよい。このため、できれば先手を与えたくはない。
一方で敵が完全に弱りきっていないときに攻撃すれば、それなりの損害が出るだろう。
この両者を勘案して、「敵が疲弊しきる直前にこちらから一気に仕掛ける」というのがハドリの基本方針だった。
「報告です! 敵の様子に変化がありました!」
「何だ? 詳細を話せ」
一月一〇日の正午近くに部下から臨時の報告があった。
本来の報告のタイミングではないので、何か異変が起きたのだろう。
「はい、先ほどですが……」
部下の報告をハドリは眉一つ動かさず聞き終えた。
報告は賊同士の食料の奪い合いで死人が出たという内容であった。
部下を下がらせた後、ハドリは報告の内容が正しいことを自ら確認した。
そして、総攻撃を命じた。
待っていたタイミングが訪れたと判断したのだった。
ハドリは現在の敵でもある先人と同じように、丘の周りから火を放った。
しかし、彼のやり方には先人と異なる点もある。
まず、敢えて乾燥する時期を選び、火の回りが速くなるようにした。
更に、フジミ・タウンの放送回線に割り込んで、一三年前の「フジミの大虐殺」に関するドキュメンタリー番組を放映させていた。相手の精神を折るためだ。
ドキュメンタリー番組については、フジミ・タウンだけではなくOP社の影響力が及ぶ都市全てで同時に放映させていた。
ハドリは徹底して相手の泣き所を突いた。
フジミ・タウン側に広域的に情報を発信する力はなかったから、マスコミを利用した戦いは圧倒的にOP社有利である。
ドキュメンタリーの中では街頭インタビューも放映された。
インタビューの回答者の多くが、フジミ・タウン側の残虐非道さを責め立てる回答をしている。
こうして、フジミ・タウンの内部に絶望感を植えつけることもハドリの狙いだった。
戦わずして敵の戦意を削ぐという訳である。
炎の中から打って出る敵もいるが、その姿はまばらだ。
圧倒的な多数で敵を狙い打つ。
OP社側は一部の兵士に銃器を持たせていたが、飛び出してくる敵の数は、それらの銃器で狙い打てば十分な程度である。
既に大勢は決した。否、戦う前から大勢は決していた。
今の時点で行われているのは、単にとどめを刺す作業だけだった。
総攻撃開始から数時間で敵の抵抗も殆どなくなった。
火を放った時点で、フジミ・タウン側には満足に戦える戦力がほとんど無かったのだ。
敵の抵抗が治まった。この時点でOP社、ハドリの勝利が確定したといってよい。
勝利を確信したハドリは部下に消火を命じると、自ら丘の上へ向かって歩を進めた。
「まだ火が消えていません! 危ないですからもう少しお待ちください!」
部下の一人が叫んだが、ハドリは構うなと答えて歩を進めていく。
その途中、動くに動けずその場にへたり込んでいる家族が見つかった。
母親らしき人物に見覚えがある。
年を取り、やせ衰えていたが、確かにハドリがフジミ・タウンに住んでいた頃に見た顔だ。
ハドリは通信機を取った。
「医療担当! 中に怪我人がいる! 賊でない者は急いで助けてやれ!」
通信を終えるとハドリはへたり込んでいる家族に声をかけた。
「一三年前の事件の首謀者は誰だ? 名前を知りたい」
すると首謀者は既に死んだ、という回答が得られた。
不審に感じたハドリが更に問いただすと、キョウジ・トイという首謀者の名前と墓所の位置が判明した。
「風土病だと?!」
ハドリはトイの死因を聞いて怒りを覚えた。
彼にとって世紀の大悪人が病ごときに生命を奪われたというのは納得できなかった。
地獄ですら生温いというくらいに罰せなければ意味がないのだ。
しかし、ハドリはすぐに冷静さを取り戻した。とにかくトイとやらに罪を償わせなければならない。
トイの墓所の位置はかつてフジミ・タウンの役場が入っていた建物の地下だという。
ハドリは役場の建物の地下へと向かっていった。
彼にとってはこれからがこの戦いの本番になる。
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