214 / 436
第五章
208:ユニヴァースの日記
しおりを挟む
ユニヴァースが端末を手にして部屋に籠ったので、再び三人が部屋に残された。
セスは部屋の本棚を見て、一冊のファイルを取り出した。
「これは……」
セスがファイルを広げてみるとユニヴァースの日記らしいことがわかった。
表紙にLH二八年四月~六月、と記されているから、今からニニ年前のものである。
セスがファイルのページをめくると、ロビーがそれを覗き込んできた。
「四月三日 (月)
九時、出勤
九時四五分、シラネ氏より調査隊名簿確認依頼
一三時三〇分 調査隊名簿修正版提出 四名追加
一八時五〇分 退勤」
「何だこりゃ?」
ファイルに記された文字を追っていたロビーが素っ頓狂な声をあげた。
「……ユニヴァースさんの日記みたいだね。ニ〇年以上前のものみたい」
セスは更にファイルを読み進めていく。
ところどころに海洋調査隊の記述が見られる。
どうもユニヴァースは海洋調査隊に関係のある人物のようだ、とセスは理解した。
「これは有力かもしれない」
セスも職業学校、トニー・シヴァ、レイカ・メルツなどから海洋調査隊に関する情報は手に入れていたから、それなりの知識がある。
自分の携帯端末を広げて、セスはファイルに登場する固有名詞を検索してみる。
いくつか過去に見たことのある固有名詞があったが、セスが過去に見たこともない固有名詞のほうが多い。特に、人名はほとんど見たことがないものばかりである。
(一体これは、どこの情報なのだろうか……?)
エイチ・ハドリが自治権を譲り受ける (奪い取った、という方が正しいが)まで、ポータル・シティには一〇人の有力者がいた。そのうち海洋調査隊を出していた有力者は半分の五人だったはずだ。
「四月一ニ日 (水)
八時五五分、出勤
九時三〇分、スザキ氏訓示」
セスが見覚えのある人名はこれだけだった。
ポータル・シティ海岸エリア、現在のポータル・シティの南西部にあたる場所を管理していた有力者の名前だ。
「ユニヴァースさんは海岸エリアの関係者……?」
セスがつぶやいた。
海洋調査隊を出していた有力者の中で、もっとも情報が集まらなかったのがこの海岸エリアであった。特にLH三〇年以前の情報が少ない。
これはマサヨシ・ハドリが実の娘フローレンスを調査にかこつけて殺害した際、情報流出を恐れて関連書類を処分したことが原因なのだが、セスたちがそのことを知る由もない。
「どうだい、セス。面白い情報でもあった?」
モリタが話しかけてきた。
セスは今まで見たことのない情報かもしれない、と答えた。
モリタが興味を持ったようで、ロビーを押しのけてファイルを覗き込みに来た。
しかし、中身を見てすぐに興味を失ったようだ。
「素っ気無い文章だなぁ。面白味も何にもないよ」
そうぼやいてモリタは携帯端末片手に外に出て行ってしまった。
「あ、別に通信なら気を遣わなくてもいいよ」
セスがモリタを気遣ったが、モリタにセスの言葉は届かなかったようだった。
「誰と話すのだか……」
ロビーがやってられませんなぁ、という表情でつぶやいた。
セスはロビーを見やってからファイルに目を落とした。
セスにとってファイルは宝の山だった。
今まで兄に会えずにいるのはこの地の歴史に疎いからだ、と痛感させられていた。
歴史に対する無知が、兄に関する情報を得られない原因を作っている。
セスは歴史を知るためにファイルを読んだのだった。
ユニヴァースの記したファイルの内容は至って簡潔で、日時と出来事だけが書かれている。
本人の感想や意見は一切書かれていないし、文も極めて簡潔である。
面白味には欠けるが、出来事を知るにはこれでよい。
セスは淡々とファイルを読み進めている。
ロビーは菓子をかじりながら昆布茶を飲んでいる。
「……しかし、モリタの言う通り面白味も何もない日記だな」
「しーっ! ユニヴァースさんに聞こえちゃうよ。でも、僕はこれでいいと思う。余計なことが書いてないから、必要な情報を探しやすいよ」
「なるほどな……」
ロビーが感心した様子を見せた。
そして、書棚から「LH二八年七月~九月」と書かれたファイルを取り出した。
セスが今見ているファイルの次にあたるファイルだ。
「おい、セス。俺はこっちを見るわ。何て固有名詞を探せばいい?」
ロビーの言葉にセスはいくつかの固有名詞を挙げた。
そして、空になったロビーの湯飲みに昆布茶を注ぐ。
(ロビーは手伝うことに抵抗が少ないみたいだけど……モリタが嫌がるかな……
退屈するくらいならいいけど、怒って帰ったりしたら大変だな……)
セスはそう思い至り、ロビーに声をかける。
「モリタの様子を見に行った方がいいんじゃないかな。退屈しているかもしれないし」
ロビーは、ほっとけ、と答えたのだが、セスは心配になって外を見に行く。
(ロビーはああ言うけど、モリタ、退屈しているか怒っているかも知れない。僕が当り散らしたこともあったし、そのことをどこかに電話しているのかも。だとしたら、謝っておかないと……)
外に出て周囲を見回すと、モリタはまだ通信で話していた。
セスが引き返そうとすると、モリタがそれに気づいた。
モリタが軽く手を上げた。後で行く、というサインのようだ。
セスはそれを見て、安堵の表情を浮かべて部屋へと戻った。
セスは部屋の本棚を見て、一冊のファイルを取り出した。
「これは……」
セスがファイルを広げてみるとユニヴァースの日記らしいことがわかった。
表紙にLH二八年四月~六月、と記されているから、今からニニ年前のものである。
セスがファイルのページをめくると、ロビーがそれを覗き込んできた。
「四月三日 (月)
九時、出勤
九時四五分、シラネ氏より調査隊名簿確認依頼
一三時三〇分 調査隊名簿修正版提出 四名追加
一八時五〇分 退勤」
「何だこりゃ?」
ファイルに記された文字を追っていたロビーが素っ頓狂な声をあげた。
「……ユニヴァースさんの日記みたいだね。ニ〇年以上前のものみたい」
セスは更にファイルを読み進めていく。
ところどころに海洋調査隊の記述が見られる。
どうもユニヴァースは海洋調査隊に関係のある人物のようだ、とセスは理解した。
「これは有力かもしれない」
セスも職業学校、トニー・シヴァ、レイカ・メルツなどから海洋調査隊に関する情報は手に入れていたから、それなりの知識がある。
自分の携帯端末を広げて、セスはファイルに登場する固有名詞を検索してみる。
いくつか過去に見たことのある固有名詞があったが、セスが過去に見たこともない固有名詞のほうが多い。特に、人名はほとんど見たことがないものばかりである。
(一体これは、どこの情報なのだろうか……?)
エイチ・ハドリが自治権を譲り受ける (奪い取った、という方が正しいが)まで、ポータル・シティには一〇人の有力者がいた。そのうち海洋調査隊を出していた有力者は半分の五人だったはずだ。
「四月一ニ日 (水)
八時五五分、出勤
九時三〇分、スザキ氏訓示」
セスが見覚えのある人名はこれだけだった。
ポータル・シティ海岸エリア、現在のポータル・シティの南西部にあたる場所を管理していた有力者の名前だ。
「ユニヴァースさんは海岸エリアの関係者……?」
セスがつぶやいた。
海洋調査隊を出していた有力者の中で、もっとも情報が集まらなかったのがこの海岸エリアであった。特にLH三〇年以前の情報が少ない。
これはマサヨシ・ハドリが実の娘フローレンスを調査にかこつけて殺害した際、情報流出を恐れて関連書類を処分したことが原因なのだが、セスたちがそのことを知る由もない。
「どうだい、セス。面白い情報でもあった?」
モリタが話しかけてきた。
セスは今まで見たことのない情報かもしれない、と答えた。
モリタが興味を持ったようで、ロビーを押しのけてファイルを覗き込みに来た。
しかし、中身を見てすぐに興味を失ったようだ。
「素っ気無い文章だなぁ。面白味も何にもないよ」
そうぼやいてモリタは携帯端末片手に外に出て行ってしまった。
「あ、別に通信なら気を遣わなくてもいいよ」
セスがモリタを気遣ったが、モリタにセスの言葉は届かなかったようだった。
「誰と話すのだか……」
ロビーがやってられませんなぁ、という表情でつぶやいた。
セスはロビーを見やってからファイルに目を落とした。
セスにとってファイルは宝の山だった。
今まで兄に会えずにいるのはこの地の歴史に疎いからだ、と痛感させられていた。
歴史に対する無知が、兄に関する情報を得られない原因を作っている。
セスは歴史を知るためにファイルを読んだのだった。
ユニヴァースの記したファイルの内容は至って簡潔で、日時と出来事だけが書かれている。
本人の感想や意見は一切書かれていないし、文も極めて簡潔である。
面白味には欠けるが、出来事を知るにはこれでよい。
セスは淡々とファイルを読み進めている。
ロビーは菓子をかじりながら昆布茶を飲んでいる。
「……しかし、モリタの言う通り面白味も何もない日記だな」
「しーっ! ユニヴァースさんに聞こえちゃうよ。でも、僕はこれでいいと思う。余計なことが書いてないから、必要な情報を探しやすいよ」
「なるほどな……」
ロビーが感心した様子を見せた。
そして、書棚から「LH二八年七月~九月」と書かれたファイルを取り出した。
セスが今見ているファイルの次にあたるファイルだ。
「おい、セス。俺はこっちを見るわ。何て固有名詞を探せばいい?」
ロビーの言葉にセスはいくつかの固有名詞を挙げた。
そして、空になったロビーの湯飲みに昆布茶を注ぐ。
(ロビーは手伝うことに抵抗が少ないみたいだけど……モリタが嫌がるかな……
退屈するくらいならいいけど、怒って帰ったりしたら大変だな……)
セスはそう思い至り、ロビーに声をかける。
「モリタの様子を見に行った方がいいんじゃないかな。退屈しているかもしれないし」
ロビーは、ほっとけ、と答えたのだが、セスは心配になって外を見に行く。
(ロビーはああ言うけど、モリタ、退屈しているか怒っているかも知れない。僕が当り散らしたこともあったし、そのことをどこかに電話しているのかも。だとしたら、謝っておかないと……)
外に出て周囲を見回すと、モリタはまだ通信で話していた。
セスが引き返そうとすると、モリタがそれに気づいた。
モリタが軽く手を上げた。後で行く、というサインのようだ。
セスはそれを見て、安堵の表情を浮かべて部屋へと戻った。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

シーフードミックス
黒はんぺん
SF
ある日あたしはロブスターそっくりの宇宙人と出会いました。出会ったその日にハンバーガーショップで話し込んでしまいました。
以前からあたしに憑依する何者かがいたけれど、それは宇宙人さんとは無関係らしい。でも、その何者かさんはあたしに警告するために、とうとうあたしの内宇宙に乗り込んできたの。
ちょっとびっくりだけど、あたしの内宇宙には天の川銀河やアンドロメダ銀河があります。よかったら見物してってね。
内なる宇宙にもあたしの住むご町内にも、未知の生命体があふれてる。遭遇の日々ですね。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる