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第五章
207:かみ合わないコミュニケーション
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ロビーとセスが建物の中に戻ってから一時間ほどして、ユニヴァースが部屋から出てきた。
それまでの間、ロビー、セス、モリタの三人はほぼ無言であった。
扉が開く音がして、三人の視線がそちらに集中した。
暗号が解除されたのか?
三人が色めき立つ。
「……間違いありません、確かにECN社の前社長、カズト・イナ氏が使っていた端末です」
ユニヴァースの言葉に、セスが身を乗り出して反応した。
「それで、暗号は解除できましたか?」
「暗号解除のキーをこれから調べます」
ユニヴァースの答えは素っ気無かった。
「おい? まだ暗号解除のキーはわからないのか?」
ロビーはしびれを切らしたようだ。やはり、素では短気なのである。
「まだです。イナ氏の使っていた端末かどうかの確認に時間を要したので」
そう答えて、ユニヴァースは本棚に積み上げられた資料を漁り、端末の裏と見比べている。
「どうも、本体の製造番号をチェックしているみたいだよ」
モリタがロビーに小声で耳打ちした。その口調はかなり不安そうだ。
「……何で紙の資料なんだ?」
ロビーもユニヴァースの様子を疑わし気に見つめている。
サブマリン島では文書資料を紙で保管するのは一般的とは言えないからだ。通常は記憶チップなどを用いる。
「さぁ?」
モリタが首を傾げた。
一方、セスは待ちきれないといった様子を見せながら、ユニヴァースの横で資料を見ている。
「……これではない。次を調べるか」
ユニヴァースは資料に書かれた番号と情報端末の製造番号を丁寧に見比べながら、資料を読み進めていく。
たっぷりと二時間ばかり資料と格闘した後、ユニヴァースは三人に向けて言った。頼むというにはあまりに不遜な態度である。
「ECN社のイナ社長に通信をつないでください」
言われた通りセスが携帯端末でオイゲンを呼び出す。幸い、ここでは携帯端末での通信が利用できるらしい。
「つながりました」
ユニヴァースに代わろうとセスが端末を差し出したが、ユニヴァースはそれを受け取らなかった。
君が会話しなさい、ということのようだ。
最初にユニヴァースからカズト・イナ愛用の万年筆の製造番号を聞くように指示があった。
セスが指示をそのまま伝えると、オイゲンがすまなそうに答えた。
「それは……申し訳ないんだけど、父が火葬される際に棺に入れてしまいました。確か、燃えてしまって跡形も無かったはずですが……すみません」
オイゲンの答えにセスは失望したが、気を取り直してそれをユニヴァースに伝えた。
ユニヴァースは血相を変えてセスに向かって大きな声を出した。
「何という不手際! そんなことも気付いていなかったのですか?」
ユニヴァースの声にセスとロビーが顔を見合わせた。
端末からもオイゲンのすまなそうな声が聞こえてくる。
「……あ、すみませんとユニヴァースさんに伝えてください。代替案があれば指示して欲しいのですが……」
セスがオイゲンの言葉をユニヴァースに伝えたが、ユニヴァースは代替案などありません、と素っ気無く答えた。
「セス、俺が話す」
見かねたロビーがセスから携帯端末をひったくった。
「社長さんさぁ、何とかならないかな? セスの兄貴が見つかるかどうかの瀬戸際なんだぞ。今からでも墓を掘り起こして探すとかさぁ」
「いや、火葬の時点で既に万年筆は溶けてしまっていましたから……すみません。
それにしても変ですね、ユニヴァースさんは父の葬儀に参加していましたし、父の万年筆を棺に入れたのは彼なのですけど……」
オイゲンの言葉に思わずロビーがのけぞった。
「何だって?!」
ロビーは端末から顔を離し、ユニヴァースに詰め寄る。
「おい、社長さんは万年筆を棺に入れたのはアンタだと言っているぞ!」
しかし、ユニヴァースは平然と答える。
「不手際は不手際です」
ロビーは呆れて物も言えなかった。困り果ててオイゲンに助けを求める。
さすがの彼もユニヴァース相手だと調子が狂うようだ。
「……おい、社長さんよ、何か考えてくれないかな?」
「困りましたね……あ、ちょっと待ってください」
どうやらオイゲンが携帯端末の前から離れたらしい。
スピーカーからは少し離れた場所でオイゲンが話をしているのが聞こえる。
音が遠いので何を話しているのかはよくわからないが、何か良いアイデアを思いついたのだろうとロビーは期待した。
二言三言何かを話した後、こちらに向かってくる足音が聞こえた。オイゲンが携帯端末の前に戻ってきたようだ。
「……お待たせしました。ユニヴァースさんが一部でも端末内の文章を覚えているならば、キーを逆算することができるかもしれません」
ロビーはオイゲンの言葉をユニヴァースに伝えた。
するとユニヴァースは、「わかった」と言って端末を手に取り、再び部屋へと篭ってしまった。
部屋に取り残された三人は、呆然とその姿を見送るしかなかった。
オイゲンが「どうしましたか?」と必死で呼びかけているが、反応はない。
ようやく我に返ったロビーが携帯端末を手に取って、オイゲンに答える。
「ユニヴァースさんなら端末を持って部屋に篭ってしまったぜ。どうなってるんだ?」
オイゲンに返す言葉はなかった。
それまでの間、ロビー、セス、モリタの三人はほぼ無言であった。
扉が開く音がして、三人の視線がそちらに集中した。
暗号が解除されたのか?
三人が色めき立つ。
「……間違いありません、確かにECN社の前社長、カズト・イナ氏が使っていた端末です」
ユニヴァースの言葉に、セスが身を乗り出して反応した。
「それで、暗号は解除できましたか?」
「暗号解除のキーをこれから調べます」
ユニヴァースの答えは素っ気無かった。
「おい? まだ暗号解除のキーはわからないのか?」
ロビーはしびれを切らしたようだ。やはり、素では短気なのである。
「まだです。イナ氏の使っていた端末かどうかの確認に時間を要したので」
そう答えて、ユニヴァースは本棚に積み上げられた資料を漁り、端末の裏と見比べている。
「どうも、本体の製造番号をチェックしているみたいだよ」
モリタがロビーに小声で耳打ちした。その口調はかなり不安そうだ。
「……何で紙の資料なんだ?」
ロビーもユニヴァースの様子を疑わし気に見つめている。
サブマリン島では文書資料を紙で保管するのは一般的とは言えないからだ。通常は記憶チップなどを用いる。
「さぁ?」
モリタが首を傾げた。
一方、セスは待ちきれないといった様子を見せながら、ユニヴァースの横で資料を見ている。
「……これではない。次を調べるか」
ユニヴァースは資料に書かれた番号と情報端末の製造番号を丁寧に見比べながら、資料を読み進めていく。
たっぷりと二時間ばかり資料と格闘した後、ユニヴァースは三人に向けて言った。頼むというにはあまりに不遜な態度である。
「ECN社のイナ社長に通信をつないでください」
言われた通りセスが携帯端末でオイゲンを呼び出す。幸い、ここでは携帯端末での通信が利用できるらしい。
「つながりました」
ユニヴァースに代わろうとセスが端末を差し出したが、ユニヴァースはそれを受け取らなかった。
君が会話しなさい、ということのようだ。
最初にユニヴァースからカズト・イナ愛用の万年筆の製造番号を聞くように指示があった。
セスが指示をそのまま伝えると、オイゲンがすまなそうに答えた。
「それは……申し訳ないんだけど、父が火葬される際に棺に入れてしまいました。確か、燃えてしまって跡形も無かったはずですが……すみません」
オイゲンの答えにセスは失望したが、気を取り直してそれをユニヴァースに伝えた。
ユニヴァースは血相を変えてセスに向かって大きな声を出した。
「何という不手際! そんなことも気付いていなかったのですか?」
ユニヴァースの声にセスとロビーが顔を見合わせた。
端末からもオイゲンのすまなそうな声が聞こえてくる。
「……あ、すみませんとユニヴァースさんに伝えてください。代替案があれば指示して欲しいのですが……」
セスがオイゲンの言葉をユニヴァースに伝えたが、ユニヴァースは代替案などありません、と素っ気無く答えた。
「セス、俺が話す」
見かねたロビーがセスから携帯端末をひったくった。
「社長さんさぁ、何とかならないかな? セスの兄貴が見つかるかどうかの瀬戸際なんだぞ。今からでも墓を掘り起こして探すとかさぁ」
「いや、火葬の時点で既に万年筆は溶けてしまっていましたから……すみません。
それにしても変ですね、ユニヴァースさんは父の葬儀に参加していましたし、父の万年筆を棺に入れたのは彼なのですけど……」
オイゲンの言葉に思わずロビーがのけぞった。
「何だって?!」
ロビーは端末から顔を離し、ユニヴァースに詰め寄る。
「おい、社長さんは万年筆を棺に入れたのはアンタだと言っているぞ!」
しかし、ユニヴァースは平然と答える。
「不手際は不手際です」
ロビーは呆れて物も言えなかった。困り果ててオイゲンに助けを求める。
さすがの彼もユニヴァース相手だと調子が狂うようだ。
「……おい、社長さんよ、何か考えてくれないかな?」
「困りましたね……あ、ちょっと待ってください」
どうやらオイゲンが携帯端末の前から離れたらしい。
スピーカーからは少し離れた場所でオイゲンが話をしているのが聞こえる。
音が遠いので何を話しているのかはよくわからないが、何か良いアイデアを思いついたのだろうとロビーは期待した。
二言三言何かを話した後、こちらに向かってくる足音が聞こえた。オイゲンが携帯端末の前に戻ってきたようだ。
「……お待たせしました。ユニヴァースさんが一部でも端末内の文章を覚えているならば、キーを逆算することができるかもしれません」
ロビーはオイゲンの言葉をユニヴァースに伝えた。
するとユニヴァースは、「わかった」と言って端末を手に取り、再び部屋へと篭ってしまった。
部屋に取り残された三人は、呆然とその姿を見送るしかなかった。
オイゲンが「どうしましたか?」と必死で呼びかけているが、反応はない。
ようやく我に返ったロビーが携帯端末を手に取って、オイゲンに答える。
「ユニヴァースさんなら端末を持って部屋に篭ってしまったぜ。どうなってるんだ?」
オイゲンに返す言葉はなかった。
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