ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

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第五章

206:セス、一二年ぶりに「はじまりの丘」へ

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 LH五〇年一二月一四日の朝、三人がユニヴァースを尋ねると、あっさりと中に通された。
「どのようなご用件でしょうか?」
「我々はECN社からでフェイ・イヴ・ユニヴァースという人にある調査を依頼してくれと言われて来たのだが……あなたがユニヴァースさんで間違いないだろうか?」
 ロビーが言葉を選びながら、建物の中に案内した男に尋ねた。

「間違いありません。私がフェイ・イヴ・ユニヴァースです」
 三人を建物の中に案内した男ユニヴァースは表情を変えることなく、ロビーの言葉を肯定した。
 その様子を見たセスがユニヴァースに詳しい事情を説明する。
「……という訳でして、ユニヴァースさんにこちらの端末に格納されているデータの暗号を解除していただいて中のデータを閲覧できるようにしてほしいのです。ECN社のイナ社長からの依頼状がこちらです」
 説明を終えたセスが、オイゲンからの依頼状をユニヴァースに差し出した。

「内容を確認させてください」
 ユニヴァースは無造作に依頼状を受け取ると、難しい顔をしながら目を通し始めた。
 十分ほどかけて依頼状を読み終えると、
「……ECN社からの依頼ですか。承知しました。やってみましょう」
 と答え、セス達に問題の情報端末を渡すように命じた。
 セス達は無事に依頼を請けてもらえたことにほっと胸をなで下ろした。
 気難しいとされていた相手だったが、何とか機嫌を損ねずに済んだようだった。

 ユニヴァースに情報端末を預けると、セスはロビーに頼んで「はじまりの丘」の頂上へと登らせてもらった。
 モリタは暗号の解析に興味があるといって、ユニヴァースと一緒に部屋に引っ込んでしまっていた。

 ロビーが車椅子を押して、丘を登っていく。
 丘にはスロープ状に道ができていて、遠回りさえすれば、車椅子でも登ることができそうだった。
 丘の隅の方には、セスの育ての父が記した石版がある。
 一二年前、セスはこの地を訪れた。
 そのとき、可愛がっていた小鳥をこの地に放ったのだ。

(そういえば飼っていた小鳥をここで放したのだっけ……どうしたのかな……?)
 放した小鳥がどうなったか、セスは知らない。
 十二年も経過しているので、既に寿命を迎えている可能性もある。
 だが、セスはそう考えなかった。

 次にセスは亡き育ての父親に思いを馳せた。
(……父は強い人だったと聞いた。道を失い、我をも失った人々を導き、フジミ・タウンへと到達した……
 最期の様子がどうだったかはわからないけど……
 恐らく市民を守って立派に亡くなったのだろう。血のつながりは無いけど、誇ることのできる人だった……)

 そこには、いつもの軽快な様子のセスの姿はなかった。
(育ての父は失った。でも、僕には兄がいる。そして、ここで兄が何者だか知ることができる……)
 セスの目は遠くの大空を見つめていた。

 ロビーにはその様子が痛々しくさえ見える。
(もうすぐだぜ。何とか身体の方が持ってくれよ……)
 ロビーも祈るような気分である。

 セスの命が長くない、と知ってしまった今、彼にできることはあまり多くない。
 兄に引き合わせること、そして奇跡を祈ることだけである。
 それ以上のことができない自分がもどかしい。
 しかし、セスは自分の身体のことを知らないのか、それとも悟ってしまったのか、穏やかな様子だ。

「……ロビー、そろそろ戻ろうか。暗号が解けているかもしれないし」
「……そうだな」
 十分ほど丘の上でたたずんだ後、二人はユニヴァースの館へと戻った。

 館に戻ると中央の部屋でモリタが一人、テレビを見ていた。
 ロビーが理由を尋ねたところ、ユニヴァースが情報端末を持って部屋に篭ってしまったのでやることがない、とのことだった。

「……まったくしょうがない奴だな」
 ロビーはあきれ顔でユニヴァースが篭った部屋の扉を開けようとした。
 しかし、扉は開かない。どうも鍵がかかっているようだ。
 そこでロビーはドアを何度もノックし、「状況はどうなんですか?」と大声で尋ねた。
 すると中から返答があった。

「静かにしなさい! 今端末を調べている。調査の邪魔です!」
 落ち着いた声であったが、その調子は強い。
「……ロビー、機嫌を損ねられて調査を止められたら困るから、ここは引き下がっておこうよ」
 セスの忠告にロビーもすみませんでした、と謝って引き下がった。
 以前のロビーなら、ユニヴァースとやり合っていたであろう。

 しかし、最近のロビーは怒りに任せて他人とやり合うことが減ってきている。
 短気なのは生まれついての性格でもあるためか、他人とやり合うことが皆無になったわけではない。
 それでも以前のように我を忘れて、ということは皆無に近くなったように思われる。

 この地へ向かう道中、ロビーは二三歳の誕生日を迎えた。
 最近のロビーを見る限り、一つ年を取ったことが彼の性格に何かの影響を与えたかのようにも思われるのだった。

「……しょうがないな、待つしかないか」
 ロビーが床に腰を下ろした。セスとモリタもそれに倣った。
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