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第五章
205:目的地へ
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自分が思うように進めないことについて、セスには焦りがある。ロビーはそう考えていた。
三、四日前から、セスがロビーに当たることが多くなってきた。
ロビーは焦ったときにセスがこうなることをよく知っていたから、今は落ち着いて対処している。
「はじまりの丘」へ向かう街道脇にテントを設置して、セス、ロビー、モリタの三人は束の間の休息をとっている。
モリタがセスとカネサキの関係をからかったことでセスが気を悪くし、一時三人の間に険悪な空気が流れた。今は多少落ち着いている。
モリタがそのようなことをしたのもセスに振り回されていたので、その仕返しをしたに過ぎなかった。思うように進まないことにはモリタも苛立っているのだ。
ロビーが落ち着いた対処をしているため、今のところ仲間割れに発展することはなさそうだが、この状況が長く続けばこの旅は崩壊するかもしれない。
最近になって特にモリタがセスに攻撃を加えることが目立って増えてきた。
嫌味を言うかセスとカネサキの関係をあげつらう程度なので、そこまで深刻な状況にはなっていないが、長引かせれば、セスにもモリタにも悪い影響が出るだろう。
ロビーは三人の中では年長者だったから、ここで自分が爆発する訳にいかないということを自覚していた。自分がキレやすい性格であることを彼は重々承知している。
だからこそ、今回は落ち着いて大人の対応をするよう、自分を戒めていたのだ。
モリタにも釘を刺しておく必要がある。
(セスが兄貴に会えるかどうかの瀬戸際だからな……焦るのも当然だ)
ロビーは自分がキレないようにそう言い聞かせていた。年長者としての自覚がそうさせているのだ。
この後、三人は口も聞かずにテントに篭っていた。
結局、暗くなるまで強風と雨が止まなかった、三人は気まずい雰囲気のまま眠ることになった。
消灯した直後、セスが申し訳なさそうにぽつりとつぶやいた。
「ロビー……モリタ、ごめん。車椅子が合わなくて気が立っちゃてて……
僕はこういう身体だから、二人に手伝ってもらわないと遠出をすることもできないのにね」
「んなもの気にするな。怒るたびにいちいち謝ってたら、俺なんか日に何十回も頭下げなきゃならん。いいか、モリタも気にするんじゃないぞ」
ロビーが敢えて強い口調でそう言った。
「確かにロビーがいちいち謝ってたら、身体を起こしている暇も無いね」
モリタの攻撃に、ロビーが「うるせえなぁ」と答える。
それを聞いたセスが笑った。
セスが笑ったのは何日ぶりだろうか。
落ち着きを取り戻せば、元来人好きのする青年である。
早急に、かつ無事に「はじまりの丘」へ到着することが、セスの精神衛生上、そして三人の友情のためにも望ましいのは明らかだった。
翌日、昨日までの風雨が嘘のように空が晴れ上がった。
ロビーはセスの車椅子を押し、砂利道を進んでいく。
モリタはロビーの後を歩いていく。
数時間後、遥か先にお椀をひっくり返したような緑の小山のようなものが見えてきた。
「……セス、あれは何だろう?」
目の良いモリタがそれを指差して問う。
セスはロビーから双眼鏡を借りてモリタの指差す方向を見た。
見覚えのある地形だ。
「多分……あれが『はじまりの丘』だよ」
セスの言葉にロビーが勢いづいた。
セスの車椅子を押す腕に力が入る。
「よし! 一気に飛ばしていくぞ!」
ロビーはセスの車椅子が大揺れに揺れるのも構わず突き進んでいく。
揺れに耐えきれず、セスが音を上げる。
「ロビー、そんなに勢いつけたら……酔っちゃうよ」
ロビーが慌てて車椅子をストップさせる。
「あー、すまん。ゴールが見えてきたんで、焦ったな」
後ろからはモリタがその巨体を揺らして走ってきた。
「……いきなり走り出すんだものな、ひどいよロビー」
モリタが息を切らせながらロビーに抗議した。
ロビーはモリタにもすまんと謝った。
早く到着せねばと道を急ぎすぎたようだった。
今度は普通のペースで歩を進める。
「はじまりの丘」はなかなか近づかない。
何度もモリタが音を上げそうになったが、その度にロビーはペースを落としたり、モリタを叱咤激励した。
三人が揃って到着しなければ意味がない、とロビーは考えていた。
職業学校の学生時代から、常に三人で行動してきたのだ。
セスの兄が見つかるかもしれないという重大場面は三人が揃った状態で迎えたかった。
結局、三人が「はじまりの丘」のふもとにあるフェイ・イヴ・ユニヴァースの館に到着したのは、その日の夜中だった。
月明かりが道を照らしていたため、目標を見失わずに進むことができたのだった。
「建物があるなら入れてもらうか……」
「ロビー、さすがに夜中はマズいよ!」「セスの言う通りだよ。何かうるさそうな人らしいし」
ロビーは強引に住人を起こして中に入ろうとしたが、セスとモリタが止めた。
ユニヴァースの知人だというメディットの副院長、アイネスからユニヴァースは気難しい人物だと聞かされていたためだ。
三人はその夜、テントで夜を明かし、翌日の朝ユニヴァースを訪ねた。
LH五〇年一ニ月一四日のことであった。
三、四日前から、セスがロビーに当たることが多くなってきた。
ロビーは焦ったときにセスがこうなることをよく知っていたから、今は落ち着いて対処している。
「はじまりの丘」へ向かう街道脇にテントを設置して、セス、ロビー、モリタの三人は束の間の休息をとっている。
モリタがセスとカネサキの関係をからかったことでセスが気を悪くし、一時三人の間に険悪な空気が流れた。今は多少落ち着いている。
モリタがそのようなことをしたのもセスに振り回されていたので、その仕返しをしたに過ぎなかった。思うように進まないことにはモリタも苛立っているのだ。
ロビーが落ち着いた対処をしているため、今のところ仲間割れに発展することはなさそうだが、この状況が長く続けばこの旅は崩壊するかもしれない。
最近になって特にモリタがセスに攻撃を加えることが目立って増えてきた。
嫌味を言うかセスとカネサキの関係をあげつらう程度なので、そこまで深刻な状況にはなっていないが、長引かせれば、セスにもモリタにも悪い影響が出るだろう。
ロビーは三人の中では年長者だったから、ここで自分が爆発する訳にいかないということを自覚していた。自分がキレやすい性格であることを彼は重々承知している。
だからこそ、今回は落ち着いて大人の対応をするよう、自分を戒めていたのだ。
モリタにも釘を刺しておく必要がある。
(セスが兄貴に会えるかどうかの瀬戸際だからな……焦るのも当然だ)
ロビーは自分がキレないようにそう言い聞かせていた。年長者としての自覚がそうさせているのだ。
この後、三人は口も聞かずにテントに篭っていた。
結局、暗くなるまで強風と雨が止まなかった、三人は気まずい雰囲気のまま眠ることになった。
消灯した直後、セスが申し訳なさそうにぽつりとつぶやいた。
「ロビー……モリタ、ごめん。車椅子が合わなくて気が立っちゃてて……
僕はこういう身体だから、二人に手伝ってもらわないと遠出をすることもできないのにね」
「んなもの気にするな。怒るたびにいちいち謝ってたら、俺なんか日に何十回も頭下げなきゃならん。いいか、モリタも気にするんじゃないぞ」
ロビーが敢えて強い口調でそう言った。
「確かにロビーがいちいち謝ってたら、身体を起こしている暇も無いね」
モリタの攻撃に、ロビーが「うるせえなぁ」と答える。
それを聞いたセスが笑った。
セスが笑ったのは何日ぶりだろうか。
落ち着きを取り戻せば、元来人好きのする青年である。
早急に、かつ無事に「はじまりの丘」へ到着することが、セスの精神衛生上、そして三人の友情のためにも望ましいのは明らかだった。
翌日、昨日までの風雨が嘘のように空が晴れ上がった。
ロビーはセスの車椅子を押し、砂利道を進んでいく。
モリタはロビーの後を歩いていく。
数時間後、遥か先にお椀をひっくり返したような緑の小山のようなものが見えてきた。
「……セス、あれは何だろう?」
目の良いモリタがそれを指差して問う。
セスはロビーから双眼鏡を借りてモリタの指差す方向を見た。
見覚えのある地形だ。
「多分……あれが『はじまりの丘』だよ」
セスの言葉にロビーが勢いづいた。
セスの車椅子を押す腕に力が入る。
「よし! 一気に飛ばしていくぞ!」
ロビーはセスの車椅子が大揺れに揺れるのも構わず突き進んでいく。
揺れに耐えきれず、セスが音を上げる。
「ロビー、そんなに勢いつけたら……酔っちゃうよ」
ロビーが慌てて車椅子をストップさせる。
「あー、すまん。ゴールが見えてきたんで、焦ったな」
後ろからはモリタがその巨体を揺らして走ってきた。
「……いきなり走り出すんだものな、ひどいよロビー」
モリタが息を切らせながらロビーに抗議した。
ロビーはモリタにもすまんと謝った。
早く到着せねばと道を急ぎすぎたようだった。
今度は普通のペースで歩を進める。
「はじまりの丘」はなかなか近づかない。
何度もモリタが音を上げそうになったが、その度にロビーはペースを落としたり、モリタを叱咤激励した。
三人が揃って到着しなければ意味がない、とロビーは考えていた。
職業学校の学生時代から、常に三人で行動してきたのだ。
セスの兄が見つかるかもしれないという重大場面は三人が揃った状態で迎えたかった。
結局、三人が「はじまりの丘」のふもとにあるフェイ・イヴ・ユニヴァースの館に到着したのは、その日の夜中だった。
月明かりが道を照らしていたため、目標を見失わずに進むことができたのだった。
「建物があるなら入れてもらうか……」
「ロビー、さすがに夜中はマズいよ!」「セスの言う通りだよ。何かうるさそうな人らしいし」
ロビーは強引に住人を起こして中に入ろうとしたが、セスとモリタが止めた。
ユニヴァースの知人だというメディットの副院長、アイネスからユニヴァースは気難しい人物だと聞かされていたためだ。
三人はその夜、テントで夜を明かし、翌日の朝ユニヴァースを訪ねた。
LH五〇年一ニ月一四日のことであった。
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