ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

文字の大きさ
上 下
208 / 436
第五章

202:虎視眈々

しおりを挟む
 LH五〇年一ニ月八日、OP社社長エイチ・ハドリが率いる治安改革部隊は、フジミ・タウンが位置する丘を取り囲むように布陣していた。
 部隊の兵士達の前には三重にバリケードが張り巡らされ、内側から打って出てくる者を牽制している。
 ここ数日はバリケードに向けて敵である賊どもが攻撃してくることはなかった。
 また、バリケードを越えるような飛び道具を売ってくる気配もない。
 OP社側もじっと動かずただひたすら待つだけであった。

(奴らは動かない、か。まあ、いいだろう……)
 ハドリはバリケードに身を隠すように立っている。
 近くにいる治安改革部隊の者達と同じ服装をしている。それだけではなく、バイザー付きのヘルメットで顔を隠している。これも周囲の他の者達と同じだ。
 これならば傍目からはトップ自ら最前線に出ているとは気付かれないだろう。
 というよりも、周囲にいる者達も自らの部隊のトップがすぐそばにいるとは気付いていない。

 その証拠に周囲の者達は、時々他愛のない会話をしている。
 ハドリの目があると知ったら、緊張でその場に固まるはずだ。

 (周囲の奴らは緊張感が足らんな……後で引き締めておく必要がある)
 ハドリは敵だけではなく味方の様子もしっかりと観察していた。

 一一月の末に現在の位置に布陣して以降何度か小競り合いはあったのだ。
 その度にハドリはほぼ全戦力にあたる人数を投入して当たらせ、すべての小競り合いに圧勝していた。
 数の上ではOP社治安改革部隊の方が少なくとも二倍以上であり、地の利があったとしても賊の側の不利は否めない。

 賊も圧倒的な数的不利の状態で無策で戦うことの愚を悟り、今は丘の上に固まって布陣している。
 その隙を突いてハドリは丘の周りにバリケードを張り巡らせたのだ。
 この状況になってから一週間が経過している。
 ハドリの狙うところは兵糧攻めであった。
 フジミ・タウンの食料庫とも言える農地はすべて丘の下の平地にある。
 丘の上にあるのは住宅や商店で、食料を大量に持っている訳ではないのだ。
「フジミの大虐殺」以前から町の構造に大きな変化がないことをハドリは調べ上げていた。
 その理由まではハドリの知るところではなかった。
 実際のところは強力なリーダーを失ったことで変革を起こせなかったというのが大きい。
 そのため人々が居住し生活する主な場所は丘の上、生きるための糧を作るのは丘の下というのは変わっていなかったのだ。

 ハドリはこの土地の弱点を冷静に見抜いたうえで丘と平地を分断し、相手の補給を断った。
 一二年前この地に侵攻した敵に倣い、水源となる川の流れを堰きとめることも忘れていない。

 (一二年前、貴様らがやったのと同じ……いや、違うな。より凄惨なやつを味合わせてやろう。どこまで貴様らは耐えられる?)
 ハドリはバリケードの向こう側で一人ほくそ笑んだ。

 ハドリが敢えて攻撃を急がなかったのには訳がある。
 OP社所属の者は能力的に問題がないと考えてよい。
 しかし、ECN社所属の者は弱兵であり、戦闘になればその能力が露呈する可能性がある。
 そこを突かれた場合、負けることはないだろうが、損害が大きくなる。
 鍛錬などを継続して実施しているが、思うように成果が出ていないようにハドリには思われた。
 必ずしもハドリの見方が正しいとは言えない。要求水準が高すぎるのも大きく影響している。
 人材の質という点も見逃せない。
 OP社の支援に割り当てられたECN社の者は、デスクワーク職の者が大半だったのだ。
 肉体労働が少なくない発電技術者と異なり、業務で身体を使うことが少ない者ばかりであった。

 だが、兵糧攻めならこうした弱点は解決できる。
 ハドリ側は輸送部隊を往復させて食料を持ってくればよいし、いざとなったら農地を押さえているのでそこから食料を奪えばよいのだ。

 更に辛辣だったのは相手を敢えて攻撃しないことで、食料の需要量を減らさなかったことだ。
 生き残った者が多ければ、それだけ食料を多く必要とする。その分、相手が飢えるのも早まる、ということだった。

 また、食料を巡って戦闘員同士、または戦闘員と非戦闘員の間で仲間割れが起これば更によい。戦わずして敵の戦力を削ぐことができるからだ。

 ハドリは本来短気な方だが、こうした計算もできるリアリストだ。計算が成り立てば、自分を抑えて耐えることもできる。勝利のためなら。
 彼は戦いを望むのではない。望むのは勝利であり、彼を頂点とした秩序ある世界であった。

「あれを見ろ! 向こうで何か揉めているようだぞ!」
「……そうだな、ちょっと見てみるぞ……何やら言い争っているな」
「建物に近い方では殴り合いになっているぞ」
「リーダーに報告するぞ!」

 ハドリの周囲から敵側で内輪もめが始まった、という興奮気味な声が聞こえてきた。
 その様子にハドリは、
 (判断が遅い! 浮足立つな! 異変に気付いたら直ちに上に報告しろと言っているだろう! リーダークラスには後で指示を徹底しろと教育する必要があるな……)
 と周囲の部下の様子を冷静に分析していた。

 ハドリは周囲の喧騒をよそに、本来の居場所であるテントの方へ悠然と歩きだした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...