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第五章
202:虎視眈々
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LH五〇年一ニ月八日、OP社社長エイチ・ハドリが率いる治安改革部隊は、フジミ・タウンが位置する丘を取り囲むように布陣していた。
部隊の兵士達の前には三重にバリケードが張り巡らされ、内側から打って出てくる者を牽制している。
ここ数日はバリケードに向けて敵である賊どもが攻撃してくることはなかった。
また、バリケードを越えるような飛び道具を売ってくる気配もない。
OP社側もじっと動かずただひたすら待つだけであった。
(奴らは動かない、か。まあ、いいだろう……)
ハドリはバリケードに身を隠すように立っている。
近くにいる治安改革部隊の者達と同じ服装をしている。それだけではなく、バイザー付きのヘルメットで顔を隠している。これも周囲の他の者達と同じだ。
これならば傍目からはトップ自ら最前線に出ているとは気付かれないだろう。
というよりも、周囲にいる者達も自らの部隊のトップがすぐそばにいるとは気付いていない。
その証拠に周囲の者達は、時々他愛のない会話をしている。
ハドリの目があると知ったら、緊張でその場に固まるはずだ。
(周囲の奴らは緊張感が足らんな……後で引き締めておく必要がある)
ハドリは敵だけではなく味方の様子もしっかりと観察していた。
一一月の末に現在の位置に布陣して以降何度か小競り合いはあったのだ。
その度にハドリはほぼ全戦力にあたる人数を投入して当たらせ、すべての小競り合いに圧勝していた。
数の上ではOP社治安改革部隊の方が少なくとも二倍以上であり、地の利があったとしても賊の側の不利は否めない。
賊も圧倒的な数的不利の状態で無策で戦うことの愚を悟り、今は丘の上に固まって布陣している。
その隙を突いてハドリは丘の周りにバリケードを張り巡らせたのだ。
この状況になってから一週間が経過している。
ハドリの狙うところは兵糧攻めであった。
フジミ・タウンの食料庫とも言える農地はすべて丘の下の平地にある。
丘の上にあるのは住宅や商店で、食料を大量に持っている訳ではないのだ。
「フジミの大虐殺」以前から町の構造に大きな変化がないことをハドリは調べ上げていた。
その理由まではハドリの知るところではなかった。
実際のところは強力なリーダーを失ったことで変革を起こせなかったというのが大きい。
そのため人々が居住し生活する主な場所は丘の上、生きるための糧を作るのは丘の下というのは変わっていなかったのだ。
ハドリはこの土地の弱点を冷静に見抜いたうえで丘と平地を分断し、相手の補給を断った。
一二年前この地に侵攻した敵に倣い、水源となる川の流れを堰きとめることも忘れていない。
(一二年前、貴様らがやったのと同じ……いや、違うな。より凄惨なやつを味合わせてやろう。どこまで貴様らは耐えられる?)
ハドリはバリケードの向こう側で一人ほくそ笑んだ。
ハドリが敢えて攻撃を急がなかったのには訳がある。
OP社所属の者は能力的に問題がないと考えてよい。
しかし、ECN社所属の者は弱兵であり、戦闘になればその能力が露呈する可能性がある。
そこを突かれた場合、負けることはないだろうが、損害が大きくなる。
鍛錬などを継続して実施しているが、思うように成果が出ていないようにハドリには思われた。
必ずしもハドリの見方が正しいとは言えない。要求水準が高すぎるのも大きく影響している。
人材の質という点も見逃せない。
OP社の支援に割り当てられたECN社の者は、デスクワーク職の者が大半だったのだ。
肉体労働が少なくない発電技術者と異なり、業務で身体を使うことが少ない者ばかりであった。
だが、兵糧攻めならこうした弱点は解決できる。
ハドリ側は輸送部隊を往復させて食料を持ってくればよいし、いざとなったら農地を押さえているのでそこから食料を奪えばよいのだ。
更に辛辣だったのは相手を敢えて攻撃しないことで、食料の需要量を減らさなかったことだ。
生き残った者が多ければ、それだけ食料を多く必要とする。その分、相手が飢えるのも早まる、ということだった。
また、食料を巡って戦闘員同士、または戦闘員と非戦闘員の間で仲間割れが起これば更によい。戦わずして敵の戦力を削ぐことができるからだ。
ハドリは本来短気な方だが、こうした計算もできるリアリストだ。計算が成り立てば、自分を抑えて耐えることもできる。勝利のためなら。
彼は戦いを望むのではない。望むのは勝利であり、彼を頂点とした秩序ある世界であった。
「あれを見ろ! 向こうで何か揉めているようだぞ!」
「……そうだな、ちょっと見てみるぞ……何やら言い争っているな」
「建物に近い方では殴り合いになっているぞ」
「リーダーに報告するぞ!」
ハドリの周囲から敵側で内輪もめが始まった、という興奮気味な声が聞こえてきた。
その様子にハドリは、
(判断が遅い! 浮足立つな! 異変に気付いたら直ちに上に報告しろと言っているだろう! リーダークラスには後で指示を徹底しろと教育する必要があるな……)
と周囲の部下の様子を冷静に分析していた。
ハドリは周囲の喧騒をよそに、本来の居場所であるテントの方へ悠然と歩きだした。
部隊の兵士達の前には三重にバリケードが張り巡らされ、内側から打って出てくる者を牽制している。
ここ数日はバリケードに向けて敵である賊どもが攻撃してくることはなかった。
また、バリケードを越えるような飛び道具を売ってくる気配もない。
OP社側もじっと動かずただひたすら待つだけであった。
(奴らは動かない、か。まあ、いいだろう……)
ハドリはバリケードに身を隠すように立っている。
近くにいる治安改革部隊の者達と同じ服装をしている。それだけではなく、バイザー付きのヘルメットで顔を隠している。これも周囲の他の者達と同じだ。
これならば傍目からはトップ自ら最前線に出ているとは気付かれないだろう。
というよりも、周囲にいる者達も自らの部隊のトップがすぐそばにいるとは気付いていない。
その証拠に周囲の者達は、時々他愛のない会話をしている。
ハドリの目があると知ったら、緊張でその場に固まるはずだ。
(周囲の奴らは緊張感が足らんな……後で引き締めておく必要がある)
ハドリは敵だけではなく味方の様子もしっかりと観察していた。
一一月の末に現在の位置に布陣して以降何度か小競り合いはあったのだ。
その度にハドリはほぼ全戦力にあたる人数を投入して当たらせ、すべての小競り合いに圧勝していた。
数の上ではOP社治安改革部隊の方が少なくとも二倍以上であり、地の利があったとしても賊の側の不利は否めない。
賊も圧倒的な数的不利の状態で無策で戦うことの愚を悟り、今は丘の上に固まって布陣している。
その隙を突いてハドリは丘の周りにバリケードを張り巡らせたのだ。
この状況になってから一週間が経過している。
ハドリの狙うところは兵糧攻めであった。
フジミ・タウンの食料庫とも言える農地はすべて丘の下の平地にある。
丘の上にあるのは住宅や商店で、食料を大量に持っている訳ではないのだ。
「フジミの大虐殺」以前から町の構造に大きな変化がないことをハドリは調べ上げていた。
その理由まではハドリの知るところではなかった。
実際のところは強力なリーダーを失ったことで変革を起こせなかったというのが大きい。
そのため人々が居住し生活する主な場所は丘の上、生きるための糧を作るのは丘の下というのは変わっていなかったのだ。
ハドリはこの土地の弱点を冷静に見抜いたうえで丘と平地を分断し、相手の補給を断った。
一二年前この地に侵攻した敵に倣い、水源となる川の流れを堰きとめることも忘れていない。
(一二年前、貴様らがやったのと同じ……いや、違うな。より凄惨なやつを味合わせてやろう。どこまで貴様らは耐えられる?)
ハドリはバリケードの向こう側で一人ほくそ笑んだ。
ハドリが敢えて攻撃を急がなかったのには訳がある。
OP社所属の者は能力的に問題がないと考えてよい。
しかし、ECN社所属の者は弱兵であり、戦闘になればその能力が露呈する可能性がある。
そこを突かれた場合、負けることはないだろうが、損害が大きくなる。
鍛錬などを継続して実施しているが、思うように成果が出ていないようにハドリには思われた。
必ずしもハドリの見方が正しいとは言えない。要求水準が高すぎるのも大きく影響している。
人材の質という点も見逃せない。
OP社の支援に割り当てられたECN社の者は、デスクワーク職の者が大半だったのだ。
肉体労働が少なくない発電技術者と異なり、業務で身体を使うことが少ない者ばかりであった。
だが、兵糧攻めならこうした弱点は解決できる。
ハドリ側は輸送部隊を往復させて食料を持ってくればよいし、いざとなったら農地を押さえているのでそこから食料を奪えばよいのだ。
更に辛辣だったのは相手を敢えて攻撃しないことで、食料の需要量を減らさなかったことだ。
生き残った者が多ければ、それだけ食料を多く必要とする。その分、相手が飢えるのも早まる、ということだった。
また、食料を巡って戦闘員同士、または戦闘員と非戦闘員の間で仲間割れが起これば更によい。戦わずして敵の戦力を削ぐことができるからだ。
ハドリは本来短気な方だが、こうした計算もできるリアリストだ。計算が成り立てば、自分を抑えて耐えることもできる。勝利のためなら。
彼は戦いを望むのではない。望むのは勝利であり、彼を頂点とした秩序ある世界であった。
「あれを見ろ! 向こうで何か揉めているようだぞ!」
「……そうだな、ちょっと見てみるぞ……何やら言い争っているな」
「建物に近い方では殴り合いになっているぞ」
「リーダーに報告するぞ!」
ハドリの周囲から敵側で内輪もめが始まった、という興奮気味な声が聞こえてきた。
その様子にハドリは、
(判断が遅い! 浮足立つな! 異変に気付いたら直ちに上に報告しろと言っているだろう! リーダークラスには後で指示を徹底しろと教育する必要があるな……)
と周囲の部下の様子を冷静に分析していた。
ハドリは周囲の喧騒をよそに、本来の居場所であるテントの方へ悠然と歩きだした。
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