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第五章
200:水と油の交渉
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トニーがウォーリーとエリックを「リスク管理研究所」の奥へと案内していく。
その途中、エリックはそろそろ戦闘チームが集まるころだから、として一旦外へ出て行った。
案内された研究所の奥では、数十名の研究員が作業中だった。
「……ここで日々研究をしている。OP社がこのまま勢力を伸ばし続けた場合、サブマリン島で何が起こるか、分析した結果がこれだ」
トニーは奥に掲げられたスクリーンを指差した。スクリーンの脇にはECN社の元経営企画室長ヨシクニ・サワムラが立っている。
「副所長、始めてくれ」
トニーの声にサワムラが説明を始めた。
リスク管理研究所の分析は次のようなものであった。
OP社の従業員数はここ三年で約九千人減少している。これは、OP社の全従業員数の約五パーセントにあたる。
特に発電関係の技師の減少が著しい。三年前は七万人に達してしていた技師の数は現在五万人を少し超える程度にまで減少している。
技師の減少は全従業員数の減少の他に、技師を治安改革関連の業種に異動させたのが大きな要因となっている。
OP社が供給する電力量は三年前から殆ど変化がないが、これは技師の平均労働時間が長くなったためである。
発電量はある程度までは技師の労働量でカバーできるので当面は今の技師数の水準でも電力供給量を維持できると思われる。
しかし、長期的には技師が疲弊し、電力供給量の大幅な減少を招く可能性が高い。
一方、電力の需要量は年々伸びるばかりである。現在のペースでは八年後に需要量が供給量を上回る計算だ。
そうなっては市民生活が大混乱に陥る可能性がある。
その前にOP社が治安改革業務に従事する従業員を発電関係に戻す必要があると考えられる。
治安改革業務に一番熱心なのは社長のハドリであり、彼の意識を変えない限り、電力事情の将来は暗い。
しかし、ハドリは他人の意見を聞かない性格である。ならば、強制的にOP社のトップから退いてもらい、後任に電力供給への意識が高い者を据えるのがベストだと考えられる。
「それは捨ておけないな。そういう視点での危険性には気付かなかったが……」
ウォーリーは報告に素直に感心していた。
電力供給に支障を生じるという視点に気付かなかったのは迂闊だったかもしれないが、ハドリの危険性を訴えるのには格好の材料だということは彼にもわかる。
ウォーリーはトニーや元経営企画室の態度は嫌っていたが、その分析力については高く評価していた。相手の態度さえ悪くなければ認めるべきところは素直に認めるのだ。
「リスク管理研究所としては、ハドリ氏を退場させるのに手段を選ぶ必要はないと思っている。奴が退場したという結果が必要だ」
「なるほど……」
(……まあ、経営企画室の連中も馬鹿ではなかったということか。俺のように人を見抜く力は無くても、理詰めで判断できる能力はあるってことだな)
ウォーリーは経営企画室の意見に一理あることを認めたが、釘を刺すことを忘れなかった。彼らの過去のやり方を見ていたからだ。
「ハドリの奴を退場させる、というのはいいだろう。ただ、方法を問わない、というのはなしだ。暗殺とかは俺は絶対にやらないからな! 正々堂々やるのが、俺達を支持してくれる人たちへの義理、ってやつだからな」
「……」
ウォーリーの答えにトニーは心の中で舌打ちした。
(不必要なところでカタブツだからな、この男は)
ここで必要なのは、ハドリが退場するという結果であって、方法を選択している余地などないはずだ。
「タブーなきエンジニア集団」とOP社とではメンバーの数も、戦闘要員の数も二桁違う。このような状況で選り好みをするとはどういう神経か。
しかし、トニーにも他に有力な対抗勢力がない以上、「タブーなきエンジニア集団」を使うしかない。
ECN社と職業学校は既にハドリの手にある。他に有力な勢力は「タブーなきエンジニア集団」以外に存在しないのだ。
トニーとしてもこれ以上OP社の勢力が拡大することに危機感を抱かざるを得ない。
彼の出身母体はいずれもOP社に呑み込まれているのだ。
ハドリは容赦が無く、執念深く、限りない欲望を持つ人間だ。トニーはそう考えている。
ECN社、職業学校を呑み込み、まだ飽くことを知らないのだ。
(このまま奴を放置すれば、俺達の活動場所まで奪われる……)
こうした危機感が彼を「タブーなきエンジニア集団」と結ばせる原動力となった。
「とにかく結果を出すことを優先しなければ意味がない。目的と手段を混同するのは愚かなことだ」
トニーがそう言った直後、エリックが戻ってきた。戦闘チームの一部のメンバーと合流し、彼らを引き連れてきたのだ。
「いい加減にしろ! 結果だけを求めても過程に問題があれば市民の支持を得ることはできん! 『タブーなきエンジニア集団』は、卑怯な手段を使ってでも結果がよければそれでよし、という集団じゃない!」
ウォーリーの怒鳴り声に、エリックとサワムラが緊張のためか身体をピクリと強張らせた。
その途中、エリックはそろそろ戦闘チームが集まるころだから、として一旦外へ出て行った。
案内された研究所の奥では、数十名の研究員が作業中だった。
「……ここで日々研究をしている。OP社がこのまま勢力を伸ばし続けた場合、サブマリン島で何が起こるか、分析した結果がこれだ」
トニーは奥に掲げられたスクリーンを指差した。スクリーンの脇にはECN社の元経営企画室長ヨシクニ・サワムラが立っている。
「副所長、始めてくれ」
トニーの声にサワムラが説明を始めた。
リスク管理研究所の分析は次のようなものであった。
OP社の従業員数はここ三年で約九千人減少している。これは、OP社の全従業員数の約五パーセントにあたる。
特に発電関係の技師の減少が著しい。三年前は七万人に達してしていた技師の数は現在五万人を少し超える程度にまで減少している。
技師の減少は全従業員数の減少の他に、技師を治安改革関連の業種に異動させたのが大きな要因となっている。
OP社が供給する電力量は三年前から殆ど変化がないが、これは技師の平均労働時間が長くなったためである。
発電量はある程度までは技師の労働量でカバーできるので当面は今の技師数の水準でも電力供給量を維持できると思われる。
しかし、長期的には技師が疲弊し、電力供給量の大幅な減少を招く可能性が高い。
一方、電力の需要量は年々伸びるばかりである。現在のペースでは八年後に需要量が供給量を上回る計算だ。
そうなっては市民生活が大混乱に陥る可能性がある。
その前にOP社が治安改革業務に従事する従業員を発電関係に戻す必要があると考えられる。
治安改革業務に一番熱心なのは社長のハドリであり、彼の意識を変えない限り、電力事情の将来は暗い。
しかし、ハドリは他人の意見を聞かない性格である。ならば、強制的にOP社のトップから退いてもらい、後任に電力供給への意識が高い者を据えるのがベストだと考えられる。
「それは捨ておけないな。そういう視点での危険性には気付かなかったが……」
ウォーリーは報告に素直に感心していた。
電力供給に支障を生じるという視点に気付かなかったのは迂闊だったかもしれないが、ハドリの危険性を訴えるのには格好の材料だということは彼にもわかる。
ウォーリーはトニーや元経営企画室の態度は嫌っていたが、その分析力については高く評価していた。相手の態度さえ悪くなければ認めるべきところは素直に認めるのだ。
「リスク管理研究所としては、ハドリ氏を退場させるのに手段を選ぶ必要はないと思っている。奴が退場したという結果が必要だ」
「なるほど……」
(……まあ、経営企画室の連中も馬鹿ではなかったということか。俺のように人を見抜く力は無くても、理詰めで判断できる能力はあるってことだな)
ウォーリーは経営企画室の意見に一理あることを認めたが、釘を刺すことを忘れなかった。彼らの過去のやり方を見ていたからだ。
「ハドリの奴を退場させる、というのはいいだろう。ただ、方法を問わない、というのはなしだ。暗殺とかは俺は絶対にやらないからな! 正々堂々やるのが、俺達を支持してくれる人たちへの義理、ってやつだからな」
「……」
ウォーリーの答えにトニーは心の中で舌打ちした。
(不必要なところでカタブツだからな、この男は)
ここで必要なのは、ハドリが退場するという結果であって、方法を選択している余地などないはずだ。
「タブーなきエンジニア集団」とOP社とではメンバーの数も、戦闘要員の数も二桁違う。このような状況で選り好みをするとはどういう神経か。
しかし、トニーにも他に有力な対抗勢力がない以上、「タブーなきエンジニア集団」を使うしかない。
ECN社と職業学校は既にハドリの手にある。他に有力な勢力は「タブーなきエンジニア集団」以外に存在しないのだ。
トニーとしてもこれ以上OP社の勢力が拡大することに危機感を抱かざるを得ない。
彼の出身母体はいずれもOP社に呑み込まれているのだ。
ハドリは容赦が無く、執念深く、限りない欲望を持つ人間だ。トニーはそう考えている。
ECN社、職業学校を呑み込み、まだ飽くことを知らないのだ。
(このまま奴を放置すれば、俺達の活動場所まで奪われる……)
こうした危機感が彼を「タブーなきエンジニア集団」と結ばせる原動力となった。
「とにかく結果を出すことを優先しなければ意味がない。目的と手段を混同するのは愚かなことだ」
トニーがそう言った直後、エリックが戻ってきた。戦闘チームの一部のメンバーと合流し、彼らを引き連れてきたのだ。
「いい加減にしろ! 結果だけを求めても過程に問題があれば市民の支持を得ることはできん! 『タブーなきエンジニア集団』は、卑怯な手段を使ってでも結果がよければそれでよし、という集団じゃない!」
ウォーリーの怒鳴り声に、エリックとサワムラが緊張のためか身体をピクリと強張らせた。
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