ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

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第五章

199:思わぬ協力の申し出

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 ウォーリーがニジョウに到着したのはLH 五〇年一一月一八日のことである。
 ここで「タブーなきエンジニア集団」の戦闘チームを待ったのだが、意外な人物がウォーリーに接触を試みてきた。

 ウォーリーとエリックがニジョウの住宅地を通る道路脇に置かれているベンチで休んでいたところ、小声で話しかけてきた者があった。

「……『タブーなきエンジニア集団』のトワさんですね?」
 声の主は若い男だった。ウォーリーはその顔に見覚えがあるのだが、名前が思い出せない。エリックに確認したが彼はその男を知らないようで首を横に振った。

「以前、ECN社の経営企画室に在籍していたホルツと申します。私どもの研究所の所長が、トワさんとお話をしたい、ということでお迎えにあがったのですが……」
「ああ、経営企画室だったか」
 「ECN社経営企画室」と聞いてウォーリーが思い出した。
 経営企画室に所属していた者の大部分はウォーリーがECN社を辞めてから程なくして、職業学校へと転じたはずだ。
 ウォーリーはECN社経営企画室では副室長だったトニー・シヴァが人気教官だったことも聞いていた。

「『所長』とは経営企画室長のほうか? それともトニー・シヴァか?」
 ウォーリーがホルツに問うと、トニーが所長だと答えがあった。

「……気に入らないな、エリック、行くぞ」
 ウォーリーがエリックに立ち上がるよう促した。

 ECN社時代、ウォーリーは経営企画室を嫌っていた。
 徹底的にウマが合わないとしか言いようがないのだが、主義主張がことごとく合わない。
 特にトニーに対する印象は最悪に近い。
 それがこの期に及んで一体何だというのだ。
 ウォーリーからすれば、経営企画室こそが彼や彼の仲間が辛酸を舐めることになった原因であった。
 そのような連中に声をかけられて、なぜついていかなければならないのだ。

 ウォーリーがプイとそっぽを向いて歩き出そうとしたのを見て、慌ててホルツがウォーリーを呼び止める。
「何だよ、鬱陶しい」
 ウォーリーがホルツを振り払おうとしたが、ホルツは必死でしがみつく。
 そして、ウォーリーの耳元で囁いた。

「所長は過去の決定が過ちだったことを認め、トワさんに詫びたい。そして、『タブーなきエンジニア集団』に協力したいと申しています」
 その言葉にウォーリーは耳を疑った。

「はぁ? あのシヴァが、か? 本当か?」
「ええ、事実です。研究所にいらして、一度話をしていただきたいのですが……」
 その言葉にウォーリーは少し考える様子を見せた。
 エリックはウォーリーとホルツを交互に見ている。

 ウォーリーはトニーの他者を下げて自分を重く見せるという言動が気に入らなかった。
 そう簡単に反省するとは思えないが……

「……よし、過去の過ちを反省したか確認するとしよう」
 結局、ウォーリーはホルツの後をついていくことにした。
 今は味方が必要だ。
 たとえ過去にいがみ合っていた相手でも、お互いに歩み寄れば可能性はある、と考えたのだ。ウォーリーは基本的には人の好い男であった。
 
 ホルツは「リスク管理研究所」と書かれた看板のある建物へと入っていった。
 玄関脇の応接室に通され、ウォーリーとサクライはそこで相手を待つことになった。

(さて、どう態度を改めるのか……)
 ウォーリーはトニーを見定めてやろうと構えながら待った。

 二分ほどして小柄な男が応接室に入ってきた。元ECN社経営企画室副室長にして元職業学校運営委員会委員長のトニー・シヴァである。
 現在はこのリスク管理研究所の所長を務めている。

「このような時期にお時間をとらせてしまって申し訳ない」
 トニーは丁寧に挨拶をした。
「ああ」
 ウォーリーの返事は素っ気ない。

「ECN社時代の話だが……OP社と結んだ意思決定は誤りだった」
「経営企画室が大いに関係したと聞いているけどな」
「……それは否定しない。ただECN社では、OP社には対抗できない。社長があれでは……」
 ウォーリーはその言葉にやや不快な響きを感じた。
 彼は「ECN社社長」としてのオイゲン・イナには否定的だが、個人としてのオイゲンには決して悪い感情を持っていない。
 今回のゴタゴタが終われば、また飲みにでも行くことができるだろうと考えているくらいなのである。
 トニーもECN社時代、オイゲンを散々引きずり回した前科がある。何を今更、という気分になったのだ。

 ウォーリーは無言で席を立とうとしたが、トニーの次の言葉で思いとどまった。
「……確かにECN社の社長は、人としてはいい人だ。だが、OP社を打倒するという結果を出すのには向かない。今必要なのは、いい人ではなく、結果なんだ。結果を出さなければ意味がない」
「……結果を出すために、どうしようと言うのだ?」
「リスク管理研究所はOP社を打倒できるもっとも有力な勢力としての『タブーなきエンジニア集団』に全面的に協力したい」
 ウォーリーはトニーに対して取っていた懐疑的な態度をやや改めることにした。

「……どうして俺なんだ?」
「結果を出せる勢力と見ているからだ」
 トニーの言葉に場が静まりかえる。
 張り詰めた空気が間を流れたが、それも長い時間ではなかった。

 ウォーリーが舌打ちしながらくだけた口調で言う。
「……そう見込まれちゃしょうがねえなぁ。もともと同じ会社に勤めていたんだから、協力しない手はない、ってことか」
「よろしく頼む。こっちへ」
 ウォーリーが同意したため、トニーがウォーリーを奥へと案内しだした。
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