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第五章
195:降伏……ならず
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燃え盛る火の壁と大勢の賊とに囲まれ、フジミ・タウンの住民たちは進退窮まったことを悟った。
市長のユキナリ・クルスは市民の生命を守るため、近くにいる賊に降伏の意思を伝えた。
ユキナリの言葉を聞いた賊がどこかへと走っていく。
少しして賊が集まっている奥のほうから低い男の声がした。賊のリーダーだろうか?
「……降伏の時は既に過ぎ去った。戦うか、逃げるか、さもなくば死ぬか、だ。このみっつから選べ」
冷酷な回答だった。
とても受け入れられる内容ではないと、ユキナリは更に交渉を試みる。市民の生命は彼と相手との交渉にかかっているのだ。
「……戦えばそちらも傷つくだろう。われわれはこのまま町を明け渡す。そうすればお互い傷つかずに、必要なものが手に入るだろう」
ユキナリは過去の事例などから、賊の狙いが豊富な食糧または、これらを生み出す土地もしくは川にあると考えた。
求めるものが手に入れば、市民を殺害する理由はなくなるかもしれない。
ユキナリの見たところ、相手は数千以上の大集団だ。彼らを食わせていくにはそれなりの食料が必要だ。そして、付近にそれだけの食料を生み出せる場所はフジミ・タウン以外にあり得ない。
こちらとしても食料や農地、川を失うのは痛いが、これらは新たに開拓できる可能性がある。
だが、市民の生命は失われればそれで終わりだ。
ユキナリは何が重要であるか、既に結論を出していた。
「……」
相手からすぐに答えは返ってこなかった。無表情で口を閉ざしたまま、腕組みをしている。
(迷っているか……もう一押しすればあるいは……)
ユキナリは相手の様子から市民を助けられる可能性はあると判断した。
すぐに答えが返ってこないこと自体、相手に迷いがあると考えられるからだ。
「他に求めるものがあるのだろうか?」
「……」
ユキナリの問いに、相手からの返答はなかった。
その代わり背後からユキナリの頭目がけて斧の一撃が振り下ろされた。近くにいた賊の兵士の仕業だった。
「ぐっ!」
ユキナリはたまらず前のめりにその場にどうと倒れた。
斧を振り下ろした賊の兵士は馬乗りになり、斧でユキナリの後頭部を殴り続けた。
頭蓋骨が砕ける嫌な音が繰り返され、ユキナリはそのたびに悲鳴をあげたが、それも長い時間のことではなかった。
賊の兵士はユキナリが動かなくなったのを確かめると、ユキナリから離れた。
「……交渉決裂だ。死を選択してもらおう」
ユキナリの言葉を聞いていた相手はそうつぶやくと、部下に総攻撃を命じた。
この者こそ賊のリーダーキョウジ・トイであった。
トイはつまらなそうな顔をしながら、倒れて動かないユキナリの頭を踏みつけた。
「……つまらん。この程度のことの軽重もわからぬ者にポータルの有力者共は振り回されていたのか」
トイはユキナリの頭を軽く蹴飛ばした後、悠然と兵士たちが集う戦場へと歩き出した。
総攻撃命令の直後、キョウジ・トイ率いる一万の兵士は文字通りフジミ・タウンを蹂躙した。
残された市民に抵抗する力は残されていなかった。
トップである市長を失い、生き残った者も賊の攻撃や炎により大半が負傷していたからだ。
既に様相は戦いではなく、一方的な虐殺でしかなかった。
賊と生き残った市民の他に聞いた者はなかったが、この日フジミ・タウンには血の香りに興奮した賊の喚声が響き続けた。
その一方で襲われた市民たちには悲鳴をあげるだけの体力、気力共に残されていなかった。
こうして一日足らずの間に、フジミ・タウンの全人口の七割近い八〇〇〇を超す生命が奪われたのである。
生き残った者の多くは捕らえられ、労働力として酷使された。
ごくわずかの者が無事に逃げおおせた。
この中には市長ユキナリ・クルスの養子、セス・クルスも含まれていた。
彼は同行した女性職員の機転により、丘の東側から脱出したのである。
東側は火の手が一番強く脱出には困難が伴ったが、丘のすぐ下が海岸で大勢を展開しにくい地形だった。
パニックに陥り泣き叫ぶセスを女性職員二人が叱咤激励しながら、海沿いを大回りして二週間をかけてポータル・シティまで落ち延びた。
それだけでは飽き足らず、二人の女性職員はセスをエクザロームにおける人類のルーツともいえる「はじまりの丘」まで引き連れたのだ。
「はじまりの丘」には、ユキナリ・クルスがエクザロームでの第一歩を記した石碑があるという。女性職員はこの石碑をセスに見せ、再起への覇気を持たせようとした。
セスは一見女の子にも見えるような外見で、外見どおり心優しい子供であったからこうした復讐心とは縁が薄いように見える。
だからこそ、男としての覇気を持ってもらわなければ、と女性職員は考えたのだった。
持ち運んでいた鳥籠の中の二羽の小鳥も、この地で空へと放った。
セスと女性職員は「はじまりの丘」訪れた後、ハモネスへと移動した。
そこでセスは孤児院に預けられた。
二人の女性職員は姿を消し、その後の消息はわからない。
市長のユキナリ・クルスは市民の生命を守るため、近くにいる賊に降伏の意思を伝えた。
ユキナリの言葉を聞いた賊がどこかへと走っていく。
少しして賊が集まっている奥のほうから低い男の声がした。賊のリーダーだろうか?
「……降伏の時は既に過ぎ去った。戦うか、逃げるか、さもなくば死ぬか、だ。このみっつから選べ」
冷酷な回答だった。
とても受け入れられる内容ではないと、ユキナリは更に交渉を試みる。市民の生命は彼と相手との交渉にかかっているのだ。
「……戦えばそちらも傷つくだろう。われわれはこのまま町を明け渡す。そうすればお互い傷つかずに、必要なものが手に入るだろう」
ユキナリは過去の事例などから、賊の狙いが豊富な食糧または、これらを生み出す土地もしくは川にあると考えた。
求めるものが手に入れば、市民を殺害する理由はなくなるかもしれない。
ユキナリの見たところ、相手は数千以上の大集団だ。彼らを食わせていくにはそれなりの食料が必要だ。そして、付近にそれだけの食料を生み出せる場所はフジミ・タウン以外にあり得ない。
こちらとしても食料や農地、川を失うのは痛いが、これらは新たに開拓できる可能性がある。
だが、市民の生命は失われればそれで終わりだ。
ユキナリは何が重要であるか、既に結論を出していた。
「……」
相手からすぐに答えは返ってこなかった。無表情で口を閉ざしたまま、腕組みをしている。
(迷っているか……もう一押しすればあるいは……)
ユキナリは相手の様子から市民を助けられる可能性はあると判断した。
すぐに答えが返ってこないこと自体、相手に迷いがあると考えられるからだ。
「他に求めるものがあるのだろうか?」
「……」
ユキナリの問いに、相手からの返答はなかった。
その代わり背後からユキナリの頭目がけて斧の一撃が振り下ろされた。近くにいた賊の兵士の仕業だった。
「ぐっ!」
ユキナリはたまらず前のめりにその場にどうと倒れた。
斧を振り下ろした賊の兵士は馬乗りになり、斧でユキナリの後頭部を殴り続けた。
頭蓋骨が砕ける嫌な音が繰り返され、ユキナリはそのたびに悲鳴をあげたが、それも長い時間のことではなかった。
賊の兵士はユキナリが動かなくなったのを確かめると、ユキナリから離れた。
「……交渉決裂だ。死を選択してもらおう」
ユキナリの言葉を聞いていた相手はそうつぶやくと、部下に総攻撃を命じた。
この者こそ賊のリーダーキョウジ・トイであった。
トイはつまらなそうな顔をしながら、倒れて動かないユキナリの頭を踏みつけた。
「……つまらん。この程度のことの軽重もわからぬ者にポータルの有力者共は振り回されていたのか」
トイはユキナリの頭を軽く蹴飛ばした後、悠然と兵士たちが集う戦場へと歩き出した。
総攻撃命令の直後、キョウジ・トイ率いる一万の兵士は文字通りフジミ・タウンを蹂躙した。
残された市民に抵抗する力は残されていなかった。
トップである市長を失い、生き残った者も賊の攻撃や炎により大半が負傷していたからだ。
既に様相は戦いではなく、一方的な虐殺でしかなかった。
賊と生き残った市民の他に聞いた者はなかったが、この日フジミ・タウンには血の香りに興奮した賊の喚声が響き続けた。
その一方で襲われた市民たちには悲鳴をあげるだけの体力、気力共に残されていなかった。
こうして一日足らずの間に、フジミ・タウンの全人口の七割近い八〇〇〇を超す生命が奪われたのである。
生き残った者の多くは捕らえられ、労働力として酷使された。
ごくわずかの者が無事に逃げおおせた。
この中には市長ユキナリ・クルスの養子、セス・クルスも含まれていた。
彼は同行した女性職員の機転により、丘の東側から脱出したのである。
東側は火の手が一番強く脱出には困難が伴ったが、丘のすぐ下が海岸で大勢を展開しにくい地形だった。
パニックに陥り泣き叫ぶセスを女性職員二人が叱咤激励しながら、海沿いを大回りして二週間をかけてポータル・シティまで落ち延びた。
それだけでは飽き足らず、二人の女性職員はセスをエクザロームにおける人類のルーツともいえる「はじまりの丘」まで引き連れたのだ。
「はじまりの丘」には、ユキナリ・クルスがエクザロームでの第一歩を記した石碑があるという。女性職員はこの石碑をセスに見せ、再起への覇気を持たせようとした。
セスは一見女の子にも見えるような外見で、外見どおり心優しい子供であったからこうした復讐心とは縁が薄いように見える。
だからこそ、男としての覇気を持ってもらわなければ、と女性職員は考えたのだった。
持ち運んでいた鳥籠の中の二羽の小鳥も、この地で空へと放った。
セスと女性職員は「はじまりの丘」訪れた後、ハモネスへと移動した。
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