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第五章
194:「フジミの大虐殺」
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農業課の職員たちがレストランで昼食を楽しんでいたのと同じころ、市長のユキナリ・クルス率いる調査隊が丘の下を流れる川に到着した。
「これは……」
調査隊の視線の先にある川にはほとんど水がなかった。
「一体どうしたというのだ?」
ユキナリ・クルスが川の上流の方を見ると、大量の土砂で川が堰き止められている。
大雨の後で土砂により川が堰き止められることはあるが、土砂の積もり方がいつもと違う。明らかに人の手によって土砂を積み上げたものだ。
「??」
ユキナリが声をあげようとした瞬間、別の職員が悲鳴に近い声をあげる。
「市長! 火が……火が!」
何事かとユキナリが振り向くと、住宅が集まる丘の周辺を囲うように火の手が上がっている。
「携帯端末で連絡を取れ!」
ユキナリが職員に命じたが、電波が届かないらしく、通じない。
「急いで戻れ!」
ユキナリの命令で職員が全力で町へと走る。ユキナリも職員たちと一緒に走る。
町がある丘に登ると、丘の周りが火で囲まれているのがわかった。
そして、火を外側から囲むように大勢の人の姿がある。おそらく賊の類に違いない。その数は百や二百では済まない。
(まずは市民を逃すのが先決だ!)
ユキナリは全速力で役場へと向かう。
過去に何度も数十人程度の野盗を相手にした事はある。
町が裕福なのを妬んだポータル・シティの者が町を襲ったのだ。こうした襲撃はここ一〇年ばかり続いていたから、襲撃そのものは珍しくない。
しかし、今回は桁が違う。町をあげて応戦しても対抗できるかどうか、というほどの人数である。
ユキナリは役場に着くと最初に女性と子供の避難を指示した。
そして役場に隣接した自宅に戻った。八歳になった息子を避難させるためだ。
しかし、彼の意に反して彼の息子は言を左右にしてなかなか避難しようとしなかった。
ユキナリは息子の説得のため彼に真実、すなわち頼るべき人の存在を伝えたのだ。
それと並行して息子に付き添っている女性職員に息子を連れて避難することを依頼した。
ようやく説得を受け入れた息子が避難したのを見届けて、ユキナリは再び役場へと戻った。
役場は大混乱に陥っていた。火の回りが予想以上に速かったのだ。
丘の外周部はすでに火の海に呑まれており、多数の焼死者がでているようだ。
それ以外にも火の手を逃れようと丘の中央部に続々と人が集まってきた。
人々はパニックに陥っていた。
避難中に坂で将棋倒しになり、火の海に転がり落ちる者
逃げ惑う人々の下敷きになった者
衣服に火が燃え移り、熱さに耐えかねて泣き叫ぶ者
自暴自棄となり、崖の上から燃えさかる火の中に飛び込む者
何かが燃えた際の有毒ガスを吸い込み、生命を失って倒れた者
フジミ・タウンの町はこうした者たちで埋め尽くされたのだ。
水道を断たれたため、消火作業もままならない。
このままでは業火に焼かれ、焼け死ぬしか無いだろう。
既に市民の三割近くが命を落としたという情報もある。
「よし、若手は私と一緒に北側に回るぞ!」
ユキナリは若手職員を集めた。
丘の北側は比較的火の勢いが弱く、突破を図るならここしかない、と考えられたからであった。
三〇人ばかりの若手職員を従え、ユキナリは丘の北へと向かう。
彼らはまず水の代わりに砂を撒いて火の勢いを弱めた。
そして、各々が手にした鎌や鉄の棒などで、道を切り開いていった。
どうにか人が五、六人並んで通過できるほどの幅の道ができた。
「こっちだ! ここから外に逃げてくれ!」
ユキナリは人々を火の外へと導いた。
(これならいける! 逃げおおせれば再起を図ることができる!)
ユキナリは切り開かれた火中の道を眺めながらそう考えた。
「どうした?」
しかし、様子がおかしい。
悲鳴が聞こえてきたかと思うと、人々がこちらに逃げ戻ってくるではないか。
賊は火の外側に待ち構えていたのだ。
風向きと地形を考慮し脱出を図るとしたら北側からだと予想した上での行動だった。
「これまでか……」
ユキナリは、自ら切り開いた道へと進み出た。降伏を申し出るためだ。
両手を上げ、ゆっくりと歩み出る。
そしてすぐに賊に囲まれた。
そのとき、半狂乱になった女性職員が意味不明な奇声をあげながら道へと走っていくのが見えた。
「私は、ポータルのスパイなのよっ! フジミの人に殺されるわっ!」
その声に敵も味方も一瞬動きが止まる。呆気にとられたのだ。
ユキナリにはその職員に見覚えがあった。
「ハドリさんっ! 危ないっ!」
走っていったのは農業課のサトミ・ハドリであった。
ユキナリの声が合図となったのか、賊の兵士が彼女めがけて殺到する。
棒で足を払われたところを、何人もの賊が取り囲んで鈍器で殴りつけた。
彼女は意味不明の悲鳴をあげ続けた。
悲鳴で賊の興奮が高まった。破壊と殺戮の宴が開始されたのだ。
彼女の頭蓋は殴られるたびにその形を歪めた。
そして、ついに衝撃に耐えかねて彼女の頭蓋が割れ、脳漿が飛び散った。
なおも惨劇は続いている。
あまりの惨劇にユキナリも声をあげることすらできなかった。
しかし、我に返り、すべきことを思い出す。
降伏の意思を伝えねば……
「フジミ・タウン市長のユキナリ・クルスだ。降伏する。市民にはこれ以上手を出さないで欲しい」
ユキナリは、近くにいた者にそう伝えた。
「これは……」
調査隊の視線の先にある川にはほとんど水がなかった。
「一体どうしたというのだ?」
ユキナリ・クルスが川の上流の方を見ると、大量の土砂で川が堰き止められている。
大雨の後で土砂により川が堰き止められることはあるが、土砂の積もり方がいつもと違う。明らかに人の手によって土砂を積み上げたものだ。
「??」
ユキナリが声をあげようとした瞬間、別の職員が悲鳴に近い声をあげる。
「市長! 火が……火が!」
何事かとユキナリが振り向くと、住宅が集まる丘の周辺を囲うように火の手が上がっている。
「携帯端末で連絡を取れ!」
ユキナリが職員に命じたが、電波が届かないらしく、通じない。
「急いで戻れ!」
ユキナリの命令で職員が全力で町へと走る。ユキナリも職員たちと一緒に走る。
町がある丘に登ると、丘の周りが火で囲まれているのがわかった。
そして、火を外側から囲むように大勢の人の姿がある。おそらく賊の類に違いない。その数は百や二百では済まない。
(まずは市民を逃すのが先決だ!)
ユキナリは全速力で役場へと向かう。
過去に何度も数十人程度の野盗を相手にした事はある。
町が裕福なのを妬んだポータル・シティの者が町を襲ったのだ。こうした襲撃はここ一〇年ばかり続いていたから、襲撃そのものは珍しくない。
しかし、今回は桁が違う。町をあげて応戦しても対抗できるかどうか、というほどの人数である。
ユキナリは役場に着くと最初に女性と子供の避難を指示した。
そして役場に隣接した自宅に戻った。八歳になった息子を避難させるためだ。
しかし、彼の意に反して彼の息子は言を左右にしてなかなか避難しようとしなかった。
ユキナリは息子の説得のため彼に真実、すなわち頼るべき人の存在を伝えたのだ。
それと並行して息子に付き添っている女性職員に息子を連れて避難することを依頼した。
ようやく説得を受け入れた息子が避難したのを見届けて、ユキナリは再び役場へと戻った。
役場は大混乱に陥っていた。火の回りが予想以上に速かったのだ。
丘の外周部はすでに火の海に呑まれており、多数の焼死者がでているようだ。
それ以外にも火の手を逃れようと丘の中央部に続々と人が集まってきた。
人々はパニックに陥っていた。
避難中に坂で将棋倒しになり、火の海に転がり落ちる者
逃げ惑う人々の下敷きになった者
衣服に火が燃え移り、熱さに耐えかねて泣き叫ぶ者
自暴自棄となり、崖の上から燃えさかる火の中に飛び込む者
何かが燃えた際の有毒ガスを吸い込み、生命を失って倒れた者
フジミ・タウンの町はこうした者たちで埋め尽くされたのだ。
水道を断たれたため、消火作業もままならない。
このままでは業火に焼かれ、焼け死ぬしか無いだろう。
既に市民の三割近くが命を落としたという情報もある。
「よし、若手は私と一緒に北側に回るぞ!」
ユキナリは若手職員を集めた。
丘の北側は比較的火の勢いが弱く、突破を図るならここしかない、と考えられたからであった。
三〇人ばかりの若手職員を従え、ユキナリは丘の北へと向かう。
彼らはまず水の代わりに砂を撒いて火の勢いを弱めた。
そして、各々が手にした鎌や鉄の棒などで、道を切り開いていった。
どうにか人が五、六人並んで通過できるほどの幅の道ができた。
「こっちだ! ここから外に逃げてくれ!」
ユキナリは人々を火の外へと導いた。
(これならいける! 逃げおおせれば再起を図ることができる!)
ユキナリは切り開かれた火中の道を眺めながらそう考えた。
「どうした?」
しかし、様子がおかしい。
悲鳴が聞こえてきたかと思うと、人々がこちらに逃げ戻ってくるではないか。
賊は火の外側に待ち構えていたのだ。
風向きと地形を考慮し脱出を図るとしたら北側からだと予想した上での行動だった。
「これまでか……」
ユキナリは、自ら切り開いた道へと進み出た。降伏を申し出るためだ。
両手を上げ、ゆっくりと歩み出る。
そしてすぐに賊に囲まれた。
そのとき、半狂乱になった女性職員が意味不明な奇声をあげながら道へと走っていくのが見えた。
「私は、ポータルのスパイなのよっ! フジミの人に殺されるわっ!」
その声に敵も味方も一瞬動きが止まる。呆気にとられたのだ。
ユキナリにはその職員に見覚えがあった。
「ハドリさんっ! 危ないっ!」
走っていったのは農業課のサトミ・ハドリであった。
ユキナリの声が合図となったのか、賊の兵士が彼女めがけて殺到する。
棒で足を払われたところを、何人もの賊が取り囲んで鈍器で殴りつけた。
彼女は意味不明の悲鳴をあげ続けた。
悲鳴で賊の興奮が高まった。破壊と殺戮の宴が開始されたのだ。
彼女の頭蓋は殴られるたびにその形を歪めた。
そして、ついに衝撃に耐えかねて彼女の頭蓋が割れ、脳漿が飛び散った。
なおも惨劇は続いている。
あまりの惨劇にユキナリも声をあげることすらできなかった。
しかし、我に返り、すべきことを思い出す。
降伏の意思を伝えねば……
「フジミ・タウン市長のユキナリ・クルスだ。降伏する。市民にはこれ以上手を出さないで欲しい」
ユキナリは、近くにいた者にそう伝えた。
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