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第五章
192:フジミ、討つべし!
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「マサヨシ・ハドリに関する情報をお求めですか。お役に立てるかもしれません」
トイのもとを訪れたのは二十代後半くらいの若者だった。
彼はインデストへ鉄鉱石の採掘に借り出され、事故のためにポータル・シティへと戻ってきたのだった。
採掘の仕事を紹介した相手に事故に関する補償を求めたものの、申し出を却下されたので、トイのもとへと駆け込んだのである。
この若者こそ八年前にマサヨシ・ハドリからモトム、フローレンス・トワ夫妻の乗る海洋調査船へ工作を命じられたエンジニアであった。
彼はマサヨシに協力し、多額の謝金と口止め料を手にした。
当面の生活に困ることはないと考えた彼は海洋調査隊を抜けた。
堅実な生活を続けていれば、一生食うのに困ることはないくらいの金はあったのだ。
はじめは彼も慎重に行動していたが、分不相応の大金を手にしたためか、その生活は徐々に派手になった。
そのような生活が長く続くはずがなく、三年ほどで手にした金の大半を使い果たした。
以降はポータル・シティの海岸部とは反対側のエリアで日雇いの仕事をしながら生命をつなぐ日々を過ごした。
そこにインデストでの鉄鉱石採掘の仕事を紹介されたのだ。その後のことは冒頭に記したとおりである。
「当面の生活の面倒は見よう。情報の概要を教えろ。役に立ちそうなら、今後も続けて面倒を見てやってもいい」
「……わかりました。それでお願いします。概要はこちらです」
こうしてトイと若者との間で取引が成立した。
これは若者にとって必ずしも良い条件とは言えない。売り方によってはもう一度大金を得られる可能性もあった。
しかし、彼はインデストでの仕事で十分な報酬を得られず、生活に困窮していた。
明日の食料にも事欠く状況では、背に腹は代えられなかった。
当面の生活の心配をしなくてよい、というだけでも彼にとっては魅力的な条件だったからだ。
情報は持っているだけでは金にならないし、トイ以上の好条件を提示できる相手に心当たりもなかった。
インデストから戻った直後、若者は口止めをしたマサヨシ・ハドリのところに駆け込もうと考えていた。
しかし、保身のために都合の悪い相手を葬り去った相手である。自分が次のターゲットとされない保障はどこにもない。
マサヨシを相手にするのであれば、自身の生命を守る手を打つ必要がある。
自身を守るために、若者はトイと結ぶことを選択したのだった。
トイは得られた概要から慎重に情報の裏を取り、この若者を自分のところへ取り込むことを決めた。
補償を断られたことで裏切るような者だから信用はできない。だが、そのことで情報そのものの価値が減じることはない、と判断したためだ。
この追加の情報が決定打となって、今やポータル・シティでもっとも強力な有力者であるマサヨシ・ハドリをもその掌の上で躍らせることに成功した。
最後にトイは手下となるテント生活者の意思をひとつの方向に向ける。
トイの計画は「ポータル・シティの有力者憎し」では成り立たないのだ。
真の敵はフジミ・タウンにある……
トイのこの考え方も、現在の状況がポータル・シティの有力者に原因がある、としていない点では、あながち間違ったものではない。
フジミ・タウンの農産物が豊富とはいえ、人口規模ではポータル・シティの五〇分の一に過ぎない。
余剰食糧をすべてポータル・シティへ提供しても、その量はたかが知れている。
また、フジミ・タウン側も農産物の品質と価格を安定させるため、供給量を絞っている面があることは否めない。
フジミ産の農産物は美味なことで知られている。金に糸目をつけない者が値を吊り上げた結果、ポータル・シティ全体の食料品の平均価格が上昇したのである。
これはエクザロームのエネルギー事情が悪いために、家庭で食事を作る習慣がほとんどないことも影響している。
多くの人々は調理したものを購入して食べるか飲食店を利用するので、安い材料だけを選択する、ということが困難なのだ。
トイは部下を利用して、「真の敵はフジミ・タウンにある」という情報を流布させた。
フジミ・タウンの者達が不当に食料の値段を吊り上げている!
この言葉は飢えかけたテント生活者たちの理性を狂わせた。
ポータル・シティの住民はフジミ・タウンの住人を快く思っていない。
不当に農産物を高く売りつけた上に、通貨や情報通信などのインフラにただ乗りしている、と感じているのだ。
これらのインフラはポータル・シティの住民達が心血注いで作り上げたものだ。
現在、ポータル・シティ郊外でテント生活を余儀なくされている者たちの多くもこの点では同じである。彼らの多くはもともとポータル・シティの市街に住んでいたからだ。
「生活の基盤を作ったのは我々であるのに、何故フジミの奴らはそれにただ乗りし、我々は住処を失わなければならないのだ!」
こう考える者が出るのも無理はなかった。
トイはこうした嫉妬にも近い感情を巧みに操り、皆の意思をひとつに向けた。
フジミ、討つべし!
こうして、キョウジ・トイは約一万の手下を連れて、フジミ・タウンへ向けて出撃したのだった。
LH三八年四月二〇日のことである。
トイのもとを訪れたのは二十代後半くらいの若者だった。
彼はインデストへ鉄鉱石の採掘に借り出され、事故のためにポータル・シティへと戻ってきたのだった。
採掘の仕事を紹介した相手に事故に関する補償を求めたものの、申し出を却下されたので、トイのもとへと駆け込んだのである。
この若者こそ八年前にマサヨシ・ハドリからモトム、フローレンス・トワ夫妻の乗る海洋調査船へ工作を命じられたエンジニアであった。
彼はマサヨシに協力し、多額の謝金と口止め料を手にした。
当面の生活に困ることはないと考えた彼は海洋調査隊を抜けた。
堅実な生活を続けていれば、一生食うのに困ることはないくらいの金はあったのだ。
はじめは彼も慎重に行動していたが、分不相応の大金を手にしたためか、その生活は徐々に派手になった。
そのような生活が長く続くはずがなく、三年ほどで手にした金の大半を使い果たした。
以降はポータル・シティの海岸部とは反対側のエリアで日雇いの仕事をしながら生命をつなぐ日々を過ごした。
そこにインデストでの鉄鉱石採掘の仕事を紹介されたのだ。その後のことは冒頭に記したとおりである。
「当面の生活の面倒は見よう。情報の概要を教えろ。役に立ちそうなら、今後も続けて面倒を見てやってもいい」
「……わかりました。それでお願いします。概要はこちらです」
こうしてトイと若者との間で取引が成立した。
これは若者にとって必ずしも良い条件とは言えない。売り方によってはもう一度大金を得られる可能性もあった。
しかし、彼はインデストでの仕事で十分な報酬を得られず、生活に困窮していた。
明日の食料にも事欠く状況では、背に腹は代えられなかった。
当面の生活の心配をしなくてよい、というだけでも彼にとっては魅力的な条件だったからだ。
情報は持っているだけでは金にならないし、トイ以上の好条件を提示できる相手に心当たりもなかった。
インデストから戻った直後、若者は口止めをしたマサヨシ・ハドリのところに駆け込もうと考えていた。
しかし、保身のために都合の悪い相手を葬り去った相手である。自分が次のターゲットとされない保障はどこにもない。
マサヨシを相手にするのであれば、自身の生命を守る手を打つ必要がある。
自身を守るために、若者はトイと結ぶことを選択したのだった。
トイは得られた概要から慎重に情報の裏を取り、この若者を自分のところへ取り込むことを決めた。
補償を断られたことで裏切るような者だから信用はできない。だが、そのことで情報そのものの価値が減じることはない、と判断したためだ。
この追加の情報が決定打となって、今やポータル・シティでもっとも強力な有力者であるマサヨシ・ハドリをもその掌の上で躍らせることに成功した。
最後にトイは手下となるテント生活者の意思をひとつの方向に向ける。
トイの計画は「ポータル・シティの有力者憎し」では成り立たないのだ。
真の敵はフジミ・タウンにある……
トイのこの考え方も、現在の状況がポータル・シティの有力者に原因がある、としていない点では、あながち間違ったものではない。
フジミ・タウンの農産物が豊富とはいえ、人口規模ではポータル・シティの五〇分の一に過ぎない。
余剰食糧をすべてポータル・シティへ提供しても、その量はたかが知れている。
また、フジミ・タウン側も農産物の品質と価格を安定させるため、供給量を絞っている面があることは否めない。
フジミ産の農産物は美味なことで知られている。金に糸目をつけない者が値を吊り上げた結果、ポータル・シティ全体の食料品の平均価格が上昇したのである。
これはエクザロームのエネルギー事情が悪いために、家庭で食事を作る習慣がほとんどないことも影響している。
多くの人々は調理したものを購入して食べるか飲食店を利用するので、安い材料だけを選択する、ということが困難なのだ。
トイは部下を利用して、「真の敵はフジミ・タウンにある」という情報を流布させた。
フジミ・タウンの者達が不当に食料の値段を吊り上げている!
この言葉は飢えかけたテント生活者たちの理性を狂わせた。
ポータル・シティの住民はフジミ・タウンの住人を快く思っていない。
不当に農産物を高く売りつけた上に、通貨や情報通信などのインフラにただ乗りしている、と感じているのだ。
これらのインフラはポータル・シティの住民達が心血注いで作り上げたものだ。
現在、ポータル・シティ郊外でテント生活を余儀なくされている者たちの多くもこの点では同じである。彼らの多くはもともとポータル・シティの市街に住んでいたからだ。
「生活の基盤を作ったのは我々であるのに、何故フジミの奴らはそれにただ乗りし、我々は住処を失わなければならないのだ!」
こう考える者が出るのも無理はなかった。
トイはこうした嫉妬にも近い感情を巧みに操り、皆の意思をひとつに向けた。
フジミ、討つべし!
こうして、キョウジ・トイは約一万の手下を連れて、フジミ・タウンへ向けて出撃したのだった。
LH三八年四月二〇日のことである。
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