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第五章
188:痕跡を消すための謀(はかりごと)
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ポータル・シティという安住の地を得たマサヨシは、手を尽くしてサトミの行方を探した。
しかし、手がかりらしい手がかりはまったく得られなかった。
身体が強くない彼女のことだ、恐らく放浪中に亡くなったのだろう。マサヨシはそう考えた。
ルナ・ヘヴンスで暮らしていたときも、彼女はしばしば体調を崩して伏せっていたからだ。
マサヨシ・ハドリには野心があった。
ポータル・シティに居住してから三年後、彼は海岸エリアのナンバーツーと言われたハドリ家に婿入りした。
マサヨシは当主トモヤ・ハドリの妹と結婚した。このとき、自らの姓「カワチ」を捨てマサヨシ・ハドリとなったのである。
この夫婦は打算の結果、生まれたものだ。
地球におけるハドリ家は代議士を何人も輩出している名家だった。
トモヤ・ハドリの父ヨシトモは日本の国会議員の地位にあり、ルナ・ヘヴンスの建設を強力に推し進めていた。
ルナ・ヘヴンスの安全性を宣伝するため、ヨシトモ・ハドリは二人の息子と一人の娘を強制的に移住させたのである。そして、本人は「議員としての仕事のため」地球に残った。
下の息子のタケルはルナ・ヘヴンスに移住してからすぐに家を飛び出して、現在も行方不明である。
エクザロームにおけるハドリ家は資源開発のため海洋調査を推進している。名目は資源開発であったが、有力者に都合の悪い者を排除するという顔も持ち合わせていた。
しかし、現在のエクザロームにおけるハドリ家の当主トモヤは長年心臓を患っており、海洋調査の統括をするのは困難な状態である。
そこでトモヤは妹に婿を取り、その夫に自らの業務を託そうとした。妹は自己主張の少ない女性で、こういう場合に扱いやすかったのだ。
マサヨシはハドリ家に目をつけた。当主の妹といっても五〇近くだし、彼自身も齢六〇に達している。結婚は形式的なものに過ぎなかった。それでもハドリ家の一員として、権力の座に就くことができる。
マサヨシの結婚後、ほどなくしてトモヤが亡くなりマサヨシがハドリ家の当主となった。
そして現在に至る。
婿養子であるマサヨシに母親の異なる隠し子がいる、という事実が発覚すれば現在の彼の地位は危うい。この子の母親が、彼の姪であるというのならなおさらである。
このまま放置しておけば、彼の地位が危険に晒される。
マサヨシは解決策を求めるために更にフローレンスについての調査を進めた。
そもそも何故、彼女が海洋調査隊などに身を投じたのか。
彼女の夫となる人物が鍵を握っているようだった。
マサヨシは彼女の夫であるモトム・トワについても調べてみた。
モトム・トワは「ルナ・ヘヴンス」内の研究所に勤務する研究員であり、学校の生物学の教師でもあった。
四〇近くまで独身を貫いていたが、あるとき、教え子と恋に落ちた。
この教え子こそが、フローレンス・トワであった。
彼女が学校を卒業した翌年、二人は結婚した。決して恵まれた結婚ではなかった。篤志家だったフローレンスの養父母は、この婚姻に怒り狂い、彼女を勘当したのだ。
教え子に手を出す教師、そしてその男と結婚するような娘を許すことができなかったのである。
「ルナ・ヘヴンス」の不時着による放浪生活などの苦難があったにもかかわらず、二人は幸せに過ごした。
ポータル・シティに定住するようになってからほどなくして、夫のモトムは学校の設立に手を貸すようになり、その生物学教師の職を得ることができた。
結婚からニ年、ポータル・シティに移り住んでから約一年後、二人に息子が生まれた。
この頃から教え子と関係した教師がいる、と学校へ苦情が入るようになった。
対応に苦慮した結果、学校はモトム・トワに辞職を求めた。彼は学校を去った。
手に職のないモトムは仕事探しにも苦労した。教え子と関係した教師、というレッテルも大いに影響した。
彼の妻も必死で働いたが、若い彼女の稼ぎだけではとても追いつかない。
子供の存在も問題であった。「教師と生徒が関係してできた子」などというレッテルを貼られるのは、子供が不憫である。
そう考えた二人はウォーリーと名づけた息子を父方の祖父母に預け、海洋調査隊に身を投じた。危険の伴う仕事であったが、俸給は悪くなかった。生物学教師としての知識も活用できる。
資料を読み終えたマサヨシは、すぐに決断した。
アキレス腱となる夫妻をこのまま放置しておくのは、危険極まりない。
フローレンスが自分の出生の秘密をどこまで知っているかは不明だが、本人の口から事実が漏れれば、自分は職もハドリ家の当主としての地位も失うだろう。
彼女や彼女を知る悪意の者がそれを材料にマサヨシを脅迫する可能性も考えられる。
ならばどうすべきか?
夫婦は海洋調査隊に所属しているのだ。危険極まりない仕事で、事故で命を落とす者も多い。そうだ、こちらで二人を殺害し、口を封じてしまえばよいのだ。
二人の子供や親をどうするかは迷ったが、こちらまで手を伸ばすと怪しまれかねない。
念のため、部下の職員を使って探りを入れてみた。
フローレンスの育ての両親は、どちらも既に行方不明であることがわかった。二人とも「ルナ・ヘヴンス」の片側が惑星エクザロームに着陸する際に、こちら側に乗り込まないことを選択したのだった。
宇宙空間に残された側の「ルナ・ヘヴンス」はエクザロームを離れ、今も遠くの宇宙空間を漂っているはずだ。彼らの口からフローレンスのことが漏れることはまずありえない。
また、この篤志家の夫婦には他の子がないから、問題ないだろう。
一方、モトム・トワの両親は、フローレンスを引き取った篤志家夫婦と不仲だったようで、フローレンスの出生に関する情報を持っていないように思われた。フローレンスが篤志家夫婦の実子と信じていたようだと報告があったためだ。
彼らの子供は幼い時分に祖父母の家に引き取られたようだからこちらは放置しても大過ない、として無視することに決めたのだった。
しかし、手がかりらしい手がかりはまったく得られなかった。
身体が強くない彼女のことだ、恐らく放浪中に亡くなったのだろう。マサヨシはそう考えた。
ルナ・ヘヴンスで暮らしていたときも、彼女はしばしば体調を崩して伏せっていたからだ。
マサヨシ・ハドリには野心があった。
ポータル・シティに居住してから三年後、彼は海岸エリアのナンバーツーと言われたハドリ家に婿入りした。
マサヨシは当主トモヤ・ハドリの妹と結婚した。このとき、自らの姓「カワチ」を捨てマサヨシ・ハドリとなったのである。
この夫婦は打算の結果、生まれたものだ。
地球におけるハドリ家は代議士を何人も輩出している名家だった。
トモヤ・ハドリの父ヨシトモは日本の国会議員の地位にあり、ルナ・ヘヴンスの建設を強力に推し進めていた。
ルナ・ヘヴンスの安全性を宣伝するため、ヨシトモ・ハドリは二人の息子と一人の娘を強制的に移住させたのである。そして、本人は「議員としての仕事のため」地球に残った。
下の息子のタケルはルナ・ヘヴンスに移住してからすぐに家を飛び出して、現在も行方不明である。
エクザロームにおけるハドリ家は資源開発のため海洋調査を推進している。名目は資源開発であったが、有力者に都合の悪い者を排除するという顔も持ち合わせていた。
しかし、現在のエクザロームにおけるハドリ家の当主トモヤは長年心臓を患っており、海洋調査の統括をするのは困難な状態である。
そこでトモヤは妹に婿を取り、その夫に自らの業務を託そうとした。妹は自己主張の少ない女性で、こういう場合に扱いやすかったのだ。
マサヨシはハドリ家に目をつけた。当主の妹といっても五〇近くだし、彼自身も齢六〇に達している。結婚は形式的なものに過ぎなかった。それでもハドリ家の一員として、権力の座に就くことができる。
マサヨシの結婚後、ほどなくしてトモヤが亡くなりマサヨシがハドリ家の当主となった。
そして現在に至る。
婿養子であるマサヨシに母親の異なる隠し子がいる、という事実が発覚すれば現在の彼の地位は危うい。この子の母親が、彼の姪であるというのならなおさらである。
このまま放置しておけば、彼の地位が危険に晒される。
マサヨシは解決策を求めるために更にフローレンスについての調査を進めた。
そもそも何故、彼女が海洋調査隊などに身を投じたのか。
彼女の夫となる人物が鍵を握っているようだった。
マサヨシは彼女の夫であるモトム・トワについても調べてみた。
モトム・トワは「ルナ・ヘヴンス」内の研究所に勤務する研究員であり、学校の生物学の教師でもあった。
四〇近くまで独身を貫いていたが、あるとき、教え子と恋に落ちた。
この教え子こそが、フローレンス・トワであった。
彼女が学校を卒業した翌年、二人は結婚した。決して恵まれた結婚ではなかった。篤志家だったフローレンスの養父母は、この婚姻に怒り狂い、彼女を勘当したのだ。
教え子に手を出す教師、そしてその男と結婚するような娘を許すことができなかったのである。
「ルナ・ヘヴンス」の不時着による放浪生活などの苦難があったにもかかわらず、二人は幸せに過ごした。
ポータル・シティに定住するようになってからほどなくして、夫のモトムは学校の設立に手を貸すようになり、その生物学教師の職を得ることができた。
結婚からニ年、ポータル・シティに移り住んでから約一年後、二人に息子が生まれた。
この頃から教え子と関係した教師がいる、と学校へ苦情が入るようになった。
対応に苦慮した結果、学校はモトム・トワに辞職を求めた。彼は学校を去った。
手に職のないモトムは仕事探しにも苦労した。教え子と関係した教師、というレッテルも大いに影響した。
彼の妻も必死で働いたが、若い彼女の稼ぎだけではとても追いつかない。
子供の存在も問題であった。「教師と生徒が関係してできた子」などというレッテルを貼られるのは、子供が不憫である。
そう考えた二人はウォーリーと名づけた息子を父方の祖父母に預け、海洋調査隊に身を投じた。危険の伴う仕事であったが、俸給は悪くなかった。生物学教師としての知識も活用できる。
資料を読み終えたマサヨシは、すぐに決断した。
アキレス腱となる夫妻をこのまま放置しておくのは、危険極まりない。
フローレンスが自分の出生の秘密をどこまで知っているかは不明だが、本人の口から事実が漏れれば、自分は職もハドリ家の当主としての地位も失うだろう。
彼女や彼女を知る悪意の者がそれを材料にマサヨシを脅迫する可能性も考えられる。
ならばどうすべきか?
夫婦は海洋調査隊に所属しているのだ。危険極まりない仕事で、事故で命を落とす者も多い。そうだ、こちらで二人を殺害し、口を封じてしまえばよいのだ。
二人の子供や親をどうするかは迷ったが、こちらまで手を伸ばすと怪しまれかねない。
念のため、部下の職員を使って探りを入れてみた。
フローレンスの育ての両親は、どちらも既に行方不明であることがわかった。二人とも「ルナ・ヘヴンス」の片側が惑星エクザロームに着陸する際に、こちら側に乗り込まないことを選択したのだった。
宇宙空間に残された側の「ルナ・ヘヴンス」はエクザロームを離れ、今も遠くの宇宙空間を漂っているはずだ。彼らの口からフローレンスのことが漏れることはまずありえない。
また、この篤志家の夫婦には他の子がないから、問題ないだろう。
一方、モトム・トワの両親は、フローレンスを引き取った篤志家夫婦と不仲だったようで、フローレンスの出生に関する情報を持っていないように思われた。フローレンスが篤志家夫婦の実子と信じていたようだと報告があったためだ。
彼らの子供は幼い時分に祖父母の家に引き取られたようだからこちらは放置しても大過ない、として無視することに決めたのだった。
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