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第五章
186:フジミ・タウン市長ユキナリ・クルス
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フジミ・タウンに人々が移り住んでから五年、市長のユキナリ・クルスの指揮のもと、町は順調に発展を続けていた。千人ほどではあるが人口も増えた。
ユキナリはこの五年間農業と漁業の振興に注力し、食料に関しては十分な供給体制を作り上げた。それだけではなく、外部に食料を提供するだけの余裕すらあったのである。
しかし、余剰の食料を提供する先はまだ見つかっていなかった。
フジミ・タウンの近くに多くの人々が暮らす都市や集落は存在しない。
ルナ・ヘヴンスから逃れた人々はどこかで集まって暮らしているのだろうが、フジミ・タウンの住民はその場所を見つけ出せていなかった。
ユキナリは公約に掲げた、『Economy:「経済」活動の復活』がまだ十分に成されていないことに気付き、食料の提供先を探すことにした。食料が十分に確保できる今であれば、客を探す余裕もある。
人々が住まう都市や集落を探そうとしていたところに、町の者がフジミ・タウンの郊外で外の者と見られる数名の集団を発見した。
話を聞くと彼らはフジミ・タウンの北西から来たらしいことがわかった。
ルナ・ヘヴンスから脱出した最大の集団が作り上げた都市、「ポータル・シティ」の住人だという。
フジミ・タウンの住民は「ポータル・シティ」なる都市の存在を誰一人知らなかった。
そこで彼らに詳しく話を聞くと「ポータル・シティ」にはルナ・ヘヴンスから逃れてきた多くの者達が暮らしているらしいことがわかってきた。
ユキナリをはじめとしたフジミ・タウンの関係者はポータル・シティの情報を集めたがった。
食料を売ることができる相手である可能性があったからだ。
早速、ユキナリらフジミ・タウンの幹部はポータル・シティに赴いた。
ポータル・シティまでは大人の足で歩いて三、四日くらいだ。
近くはないが、保存のきく食料であれば輸送することは可能だろう。
ポータル・シティは人口六〇万に近い大都市であったが、狭いエリアに人々が密集して住んでいるようだった。このためか農地が不足し、食料の供給不足が叫ばれていた。
これはいける。
ユキナリらフジミ・タウンの幹部がそう感じたのも無理はない。
ポータル・シティにはフジミ・タウンの人口の何十倍もの市場があるのだ。
幹部はその場でポータル・シティへの食料の販売を決めた。
ただ、これには障害があった。
何をもって食料の対価とするか、である。
フジミ・タウンにも通貨はあったが、ポータル・シティの通貨とは体系が異なる。
両替所を作ることも検討したが、ポータル側の通貨がコンピュータ上のデータに過ぎないことがネックとなった。
フジミの通貨は紙幣であったし、コンピュータで管理されているものではなかったから需要に連動した両替レートの設定が困難なのだ。
そこで経済活動の復活を優先し、フジミ・タウンの幹部はポータル・シティ側の通貨体系に合わせようと考えた。
通貨管理の仕組みはポータル・シティがかなり進んでいるからだ。
他にもポータル・シティが進んでいる部分が多々あった。
ルナ・ヘヴンス内で事業活動をしていたECN社が再建され、都市内の通信インフラの構築を担っていた。
また、社会に出て即戦力となる人材を育成するための学校である職業学校が建設され、既に最初の卒業生を輩出したことが知らされた。
更に海流を利用した発電所が建設され、市内のほぼ全域に電気が行きわたっている。
それだけではなく、三年後には市内を移動する鉄道が開通すると言う。
他者の良いところは積極的に取り入れてしかるべきである。
ユキナリはそう考えて最初にポータル・シティ側の通貨体系に参加することに決めた。
経済活動復活の第一歩を踏み出すためだ。
同じ通貨体系に参加してしまえば、両替などという面倒な対応が必要なくなるというのもフジミ・タウン側にとってメリットであった。
フジミ・タウンの規模では独自通貨でやっていくのも手間がかかりすぎる。
こうしてLHニ四年九月一日、フジミ・タウンは通貨体系の取り決めである「ポイント決定」へ参加した。
「ポイント決定」施行に遅れること五ヶ月後の出来事であった。
「ポイント決定」に参加してからしばらくの間、フジミ・タウンとポータル・シティの交易は双方に利益をもたらした。
食料を確保したいポータル側と、余剰の食料を売りたいフジミ側の思惑が一致したからだった。フジミ側の食料の質が良かったことも、双方の利益に大きく貢献した。
しかし数年も経つと、この利益構造も歪になってくる。
ポータル・シティ側は「フジミ・タウン側が不当に高い値段で食料を売りつけている」と考えるようになった。
その一方で、フジミ・タウン側は「通貨システムを握っていることを盾に、不当に安く食料を買い叩いている」と考えていたのである。
これは双方の産業構造が異なる上、価値観にも相違があるゆえ避けられない事態であるかもしれない。
しかし、これで両都市の関係が険悪なものに変わりつつあるのも事実だった。
ユキナリはこの五年間農業と漁業の振興に注力し、食料に関しては十分な供給体制を作り上げた。それだけではなく、外部に食料を提供するだけの余裕すらあったのである。
しかし、余剰の食料を提供する先はまだ見つかっていなかった。
フジミ・タウンの近くに多くの人々が暮らす都市や集落は存在しない。
ルナ・ヘヴンスから逃れた人々はどこかで集まって暮らしているのだろうが、フジミ・タウンの住民はその場所を見つけ出せていなかった。
ユキナリは公約に掲げた、『Economy:「経済」活動の復活』がまだ十分に成されていないことに気付き、食料の提供先を探すことにした。食料が十分に確保できる今であれば、客を探す余裕もある。
人々が住まう都市や集落を探そうとしていたところに、町の者がフジミ・タウンの郊外で外の者と見られる数名の集団を発見した。
話を聞くと彼らはフジミ・タウンの北西から来たらしいことがわかった。
ルナ・ヘヴンスから脱出した最大の集団が作り上げた都市、「ポータル・シティ」の住人だという。
フジミ・タウンの住民は「ポータル・シティ」なる都市の存在を誰一人知らなかった。
そこで彼らに詳しく話を聞くと「ポータル・シティ」にはルナ・ヘヴンスから逃れてきた多くの者達が暮らしているらしいことがわかってきた。
ユキナリをはじめとしたフジミ・タウンの関係者はポータル・シティの情報を集めたがった。
食料を売ることができる相手である可能性があったからだ。
早速、ユキナリらフジミ・タウンの幹部はポータル・シティに赴いた。
ポータル・シティまでは大人の足で歩いて三、四日くらいだ。
近くはないが、保存のきく食料であれば輸送することは可能だろう。
ポータル・シティは人口六〇万に近い大都市であったが、狭いエリアに人々が密集して住んでいるようだった。このためか農地が不足し、食料の供給不足が叫ばれていた。
これはいける。
ユキナリらフジミ・タウンの幹部がそう感じたのも無理はない。
ポータル・シティにはフジミ・タウンの人口の何十倍もの市場があるのだ。
幹部はその場でポータル・シティへの食料の販売を決めた。
ただ、これには障害があった。
何をもって食料の対価とするか、である。
フジミ・タウンにも通貨はあったが、ポータル・シティの通貨とは体系が異なる。
両替所を作ることも検討したが、ポータル側の通貨がコンピュータ上のデータに過ぎないことがネックとなった。
フジミの通貨は紙幣であったし、コンピュータで管理されているものではなかったから需要に連動した両替レートの設定が困難なのだ。
そこで経済活動の復活を優先し、フジミ・タウンの幹部はポータル・シティ側の通貨体系に合わせようと考えた。
通貨管理の仕組みはポータル・シティがかなり進んでいるからだ。
他にもポータル・シティが進んでいる部分が多々あった。
ルナ・ヘヴンス内で事業活動をしていたECN社が再建され、都市内の通信インフラの構築を担っていた。
また、社会に出て即戦力となる人材を育成するための学校である職業学校が建設され、既に最初の卒業生を輩出したことが知らされた。
更に海流を利用した発電所が建設され、市内のほぼ全域に電気が行きわたっている。
それだけではなく、三年後には市内を移動する鉄道が開通すると言う。
他者の良いところは積極的に取り入れてしかるべきである。
ユキナリはそう考えて最初にポータル・シティ側の通貨体系に参加することに決めた。
経済活動復活の第一歩を踏み出すためだ。
同じ通貨体系に参加してしまえば、両替などという面倒な対応が必要なくなるというのもフジミ・タウン側にとってメリットであった。
フジミ・タウンの規模では独自通貨でやっていくのも手間がかかりすぎる。
こうしてLHニ四年九月一日、フジミ・タウンは通貨体系の取り決めである「ポイント決定」へ参加した。
「ポイント決定」施行に遅れること五ヶ月後の出来事であった。
「ポイント決定」に参加してからしばらくの間、フジミ・タウンとポータル・シティの交易は双方に利益をもたらした。
食料を確保したいポータル側と、余剰の食料を売りたいフジミ側の思惑が一致したからだった。フジミ側の食料の質が良かったことも、双方の利益に大きく貢献した。
しかし数年も経つと、この利益構造も歪になってくる。
ポータル・シティ側は「フジミ・タウン側が不当に高い値段で食料を売りつけている」と考えるようになった。
その一方で、フジミ・タウン側は「通貨システムを握っていることを盾に、不当に安く食料を買い叩いている」と考えていたのである。
これは双方の産業構造が異なる上、価値観にも相違があるゆえ避けられない事態であるかもしれない。
しかし、これで両都市の関係が険悪なものに変わりつつあるのも事実だった。
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