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第五章
185:安住の地を求めて、放浪
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(しかし……待てよ。このような時こそ、政治家としての力を発揮すべきではないのか?)
ユキナリはふと、彼を頼ってくる者たちを前に、そのように考えた。
集団を国や地方と考えればよい。今の集団は一万数千人の彷徨う「町」のようなものではないか。
この「町」は比較的年の若い者が多いから未来がある。
定住する場所を見つければ、大いに発展するチャンスはある。
そのためにも、自分が政治家としての力を発揮すれば、きっとこの「町」の未来は明るい。
急にユキナリの表情が希望に満ちたものになった。
「どうしたんですか? 急に明るい顔になっちゃって」
近くにいた者が怪訝な顔をしながらユキナリに声をかけた。
「……そうか、明るいか?」
ユキナリはそう尋ねると、集団の先頭へと走っていった。
先頭に立つと後ろを向きこう力強く宣言した。
「絶対に生き残って、またルナ・ヘヴンスにいたときのような生活を取り戻そう!
生き残りたい奴は俺について来い!」
この瞬間、ユキナリの集団にリーダーが誕生した。
ユキナリのハイテンションに辟易した者もいたが、今は非常時である。
地図も無く、勝手もわからない地での単独行動は自殺行為になりかねない。
この集団は人生の約半分、社会人としてのほとんどの時間を宇宙ステーションの中で過ごした者で占められている。
屋外、それも初めて降り立った地にて活動するには知識や情報が足りない者がほとんどである。
ならば、せめて安住の地が見つかるまででも、皆で行動したほうがいいのではないか。
そう考える者が多かったのも無理はない。
結局、迷子の者達の集団はユキナリに賭けた。
それから安住の地を見つけるまでの旅は決して楽なものではなかった。
最初の問題は食料である。
彼らがルナ・ヘヴンスを出る際に持っていた糧食は、わずかニ〇日分であった。
ニ〇日を過ぎて彷徨っても、あたりは湿地ばかりでとても人の住めそうな場所ではなかった。
湿地の池や沼で魚を採り、周囲の草や果実などを食べ、飢えをしのいだ。
湿地での移動も難儀した。
足をとられるので、歩みは遅々として進まない。
休息を取るのは更に苦労した。
水の中で眠ることはできない。非常用のゴムボートを浮かべ、その上で交代で休息を取った。
こうして二ヶ月が過ぎ、大きな川にぶつかった。
現在はサイ川と呼ばれるこの川も、当時は名前すらなかった。
川の両岸は崖で、とても渡れそうにない。
ここで皆の心がくじけそうになった。
ユキナリは次の四項目を掲げて、皆を奮い立たせた。
「俺はこのよっつを実現するまで絶対にあきらめない」
すなわち、
Settlement:流浪生活を止めて、一定の場所に「定住」する。
Economy:「経済」活動の復活
Safety:「安全」な生活
Satisfaction:住民の「満足」が得られる生活環境の構築
の四項目である。
川の下流に向かって歩くことまる二日、ようやくボートで渡河できそうな場所に当たった。
交代でボートに乗り、二日がかりで川を渡った。
対岸は砂漠と呼んでも良いほどの砂ばかりの地であった。
水を得るため、海に近い場所を選んで歩いた。持っていた浄水キットは湿地帯の水だけではなく、海水も飲料水に変えることができたのだ。
海に近い場所を南下し、海岸線に沿うような格好で東へと向きを変えた。
実はユキナリ率いる集団より二週間ばかり遅れて、ルナ・ヘヴンスから逃れてきた人々が続々と現在のポータル・シティ付近に集まってきた。
このあたりは地盤が安定しており、住居を建てやすかったのだ。
また、広い平らな土地があり多くの住民がまとまって暮らすことができる。
北側には農地に適した平地もあり、定住の地としては申し分ないといえよう。
こうしてLH一九年四月下旬、サブマリン島西端部に人々が定住する都市が生まれた。
この都市が「ポータル・シティ」と命名されるのは少し後の話である。
一方、ユキナリたちはポータル・シティに定着することはなかった。
彼らは後から来た集団よりも東寄りのルートを移動しており、現在のポータル・シティの東端を通り過ぎ更に南下したのだ。
ポータル・シティの東端は今でこそOP社の発電施設などが立ち並ぶ場所だが、当時は岩だらけの海岸で多くの人々が居住できるだけの土地を確保するのは難しい状況であった。
ユキナリたちがルナ・ヘヴンスから脱出して五ヵ月半が過ぎた。
LH暦一九年七月一五日のことである。
彼らの視界に遠くに山の見える小高い丘が見えてきた。
丘のふもとには川が流れており、水の心配は無い。
土地も肥沃で、広さも十分にある。
それはユキナリが子供のころに見た写真の光景とよく似ていた。
ユキナリはこの丘を安住の地と決めた。
途中、事故などで一割近くの脱落者を出したものの、一万人を超える人々がこの地に定住することとなった。
ユキナリは初代の市長に選出された。市長としての最初の仕事は、この地の名前を決めることであった。
彼は迷うことなくこの地に「フジミ・タウン」という名前をつけた。
それは子供のころ写真で見た地につけられていた名前からヒントを得たものであった。
ユキナリはふと、彼を頼ってくる者たちを前に、そのように考えた。
集団を国や地方と考えればよい。今の集団は一万数千人の彷徨う「町」のようなものではないか。
この「町」は比較的年の若い者が多いから未来がある。
定住する場所を見つければ、大いに発展するチャンスはある。
そのためにも、自分が政治家としての力を発揮すれば、きっとこの「町」の未来は明るい。
急にユキナリの表情が希望に満ちたものになった。
「どうしたんですか? 急に明るい顔になっちゃって」
近くにいた者が怪訝な顔をしながらユキナリに声をかけた。
「……そうか、明るいか?」
ユキナリはそう尋ねると、集団の先頭へと走っていった。
先頭に立つと後ろを向きこう力強く宣言した。
「絶対に生き残って、またルナ・ヘヴンスにいたときのような生活を取り戻そう!
生き残りたい奴は俺について来い!」
この瞬間、ユキナリの集団にリーダーが誕生した。
ユキナリのハイテンションに辟易した者もいたが、今は非常時である。
地図も無く、勝手もわからない地での単独行動は自殺行為になりかねない。
この集団は人生の約半分、社会人としてのほとんどの時間を宇宙ステーションの中で過ごした者で占められている。
屋外、それも初めて降り立った地にて活動するには知識や情報が足りない者がほとんどである。
ならば、せめて安住の地が見つかるまででも、皆で行動したほうがいいのではないか。
そう考える者が多かったのも無理はない。
結局、迷子の者達の集団はユキナリに賭けた。
それから安住の地を見つけるまでの旅は決して楽なものではなかった。
最初の問題は食料である。
彼らがルナ・ヘヴンスを出る際に持っていた糧食は、わずかニ〇日分であった。
ニ〇日を過ぎて彷徨っても、あたりは湿地ばかりでとても人の住めそうな場所ではなかった。
湿地の池や沼で魚を採り、周囲の草や果実などを食べ、飢えをしのいだ。
湿地での移動も難儀した。
足をとられるので、歩みは遅々として進まない。
休息を取るのは更に苦労した。
水の中で眠ることはできない。非常用のゴムボートを浮かべ、その上で交代で休息を取った。
こうして二ヶ月が過ぎ、大きな川にぶつかった。
現在はサイ川と呼ばれるこの川も、当時は名前すらなかった。
川の両岸は崖で、とても渡れそうにない。
ここで皆の心がくじけそうになった。
ユキナリは次の四項目を掲げて、皆を奮い立たせた。
「俺はこのよっつを実現するまで絶対にあきらめない」
すなわち、
Settlement:流浪生活を止めて、一定の場所に「定住」する。
Economy:「経済」活動の復活
Safety:「安全」な生活
Satisfaction:住民の「満足」が得られる生活環境の構築
の四項目である。
川の下流に向かって歩くことまる二日、ようやくボートで渡河できそうな場所に当たった。
交代でボートに乗り、二日がかりで川を渡った。
対岸は砂漠と呼んでも良いほどの砂ばかりの地であった。
水を得るため、海に近い場所を選んで歩いた。持っていた浄水キットは湿地帯の水だけではなく、海水も飲料水に変えることができたのだ。
海に近い場所を南下し、海岸線に沿うような格好で東へと向きを変えた。
実はユキナリ率いる集団より二週間ばかり遅れて、ルナ・ヘヴンスから逃れてきた人々が続々と現在のポータル・シティ付近に集まってきた。
このあたりは地盤が安定しており、住居を建てやすかったのだ。
また、広い平らな土地があり多くの住民がまとまって暮らすことができる。
北側には農地に適した平地もあり、定住の地としては申し分ないといえよう。
こうしてLH一九年四月下旬、サブマリン島西端部に人々が定住する都市が生まれた。
この都市が「ポータル・シティ」と命名されるのは少し後の話である。
一方、ユキナリたちはポータル・シティに定着することはなかった。
彼らは後から来た集団よりも東寄りのルートを移動しており、現在のポータル・シティの東端を通り過ぎ更に南下したのだ。
ポータル・シティの東端は今でこそOP社の発電施設などが立ち並ぶ場所だが、当時は岩だらけの海岸で多くの人々が居住できるだけの土地を確保するのは難しい状況であった。
ユキナリたちがルナ・ヘヴンスから脱出して五ヵ月半が過ぎた。
LH暦一九年七月一五日のことである。
彼らの視界に遠くに山の見える小高い丘が見えてきた。
丘のふもとには川が流れており、水の心配は無い。
土地も肥沃で、広さも十分にある。
それはユキナリが子供のころに見た写真の光景とよく似ていた。
ユキナリはこの丘を安住の地と決めた。
途中、事故などで一割近くの脱落者を出したものの、一万人を超える人々がこの地に定住することとなった。
ユキナリは初代の市長に選出された。市長としての最初の仕事は、この地の名前を決めることであった。
彼は迷うことなくこの地に「フジミ・タウン」という名前をつけた。
それは子供のころ写真で見た地につけられていた名前からヒントを得たものであった。
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