ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

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第四章

171:一筋の光

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 フェイ・イヴ・ユニヴァースとは何者か?
 少なくとも病室にいるセス、ロビー、モリタ、レイカ、オイゲンの五名の知る名ではない。
 セスが真っ先にアイネスに問う。
「そのユニヴァースさんは、病院の方なのですか?!」
「いいえ、当院の関係者ではありません」
「では、どこで何をしている人なのですか?! 僕が直接訪問して端末のことを伺います!」
 セスがアイネスに詰め寄った。アイネスはセスの勢いに後ずさりしながら、本人と確認してみたい、と答えた。どうやらアイネスとユニヴァースは面識があるようだ。
「私も知らない人ですね? 父の知り合いの方なのですか?」
 まあまあとセスとアイネスを分けながらオイゲンが尋ねた。

 アイネスの話によると、オイゲンの父カズトが入院していた際、週に二度、いつも午後の早い時間にカズトを見舞いに来て、端末を囲みながら談笑していたとのことであった。
 オイゲンがアイネスと顔を合わせていなかったのは、訪問の時間帯が原因だったようだ。

「……談笑というよりは、端末を囲んで議論、と言った方が間違い無いです」
 アイネスはユニヴァースと連絡を取ってみるという。時間がかかるので、三時間後に再度訪ねて欲しいということだった。
 その間、セスの病室の片付けをすることとなった。

「メルツ先生は利き腕を痛めているからね。無理はさせられないのでその間休んでいてもらいますよ」
 モリタがそう宣言して、レイカに病室を出るようにさせた。
 レイカは既に職業学校を退職しており、現在は「先生」ではないのだが、いまだに「先生」と呼ばれることが多かった。
 レイカが利き腕を痛めているのは事実であったから、モリタの言葉には皆が納得した。

 しかし、レイカを連れ出したモリタがいつまで経っても帰ってこない。
「あの野郎! また逃げやがったな!」
 ロビーが怒りを露わにして怒鳴ったが、オイゲンに止められた。
「まあ、二人のやりたいようにやらせておきましょうよ。そっちの方が面白いでしょう」
「社長にかかったら、モリタとメルツ先生がくっつけられちゃうかもね。でも、それも面白いかな」
 セスまでオイゲンに同調する。

「片付けも終わりましたし、約束の時間までは暇ですから、近くの喫茶店でも行きませんか? 個室のあるところがありますから、そこへ行きましょう。僕がおごりますよ」
 オイゲンがセスとロビーを誘って外へ出る。
 ロビーは納得いかない様子であったが、オイゲンが昆布茶もありますよ、と言うとロビーもあきらめて付き合うことにした。
 セスは単純におごってもらえるということで、機嫌が良さそうだ。

 個室のテーブルに三人がオーダーしたものが運ばれてきた。セスはフルーツパフェ、ロビーは昆布茶と羊羹、オイゲンは紅茶とクッキーを注文している。

「ところで社長。いつも不思議に思うのですけど、カワナさんって、お昼のメニューがパターン化していますよね?」
 セスがフルーツパフェをほおばりながら尋ねた。その様子はまるで中学生くらいの女の子のようだ。

「これでも前に比べるとバリエーションが増えたんだ。前は、いつもビスケットみたいな栄養補助食品ばかりだったんだよ。ドリンク剤とかはダメで、栄養補助食品でもお菓子っぽいのしか食べてなかったんだ。
 今は、お店の種類ごとに決まったものを食べているみたいだね」
 オイゲンは苦笑しながら答えた。

「でも、相変わらずコンビニじゃ栄養補助のビスケットだし、サンドイッチ屋じゃいつもフルーツサンド、弁当屋じゃいつもオムライス、じゃないですか。お店ごとに一つの料理、ってそれで飽きないんですかね?」
 ロビーが納得できないという表情を見せている。
「でも、モリタだって野菜が食べられないよ。この前なんてスープに浮いていた刻みパセリを一つ一つフォークの先でよけていたし。好き嫌いが極端な人って、そういうものじゃないかな」
 セスの指摘にロビーとオイゲンが笑った。

「クルス君やタカミ君はよくカワナさんの話をしているけど、彼女を見ていて面白いのかい?」
「ええ! 変わったというか面白い人ですね」
 オイゲンの質問に間髪いれずロビーが答えた。

「ロビーが答えた通りです。ちょっと口が悪いかもしれませんが、面白い生態をしていますよね! 社長の気に障ったらごめんなさい」
 セスの言葉にオイゲンは苦笑したが、確かに彼の言う通りかもしれない、と思った。
 セスはセスで、オイゲンの心中を図ろうとしている。
 (存在を秘密にしてくれ、って言われている秘書の話を何故僕達だけにするのだろう……?)
 セスが頭の中で想像を巡らせはじめた。
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