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第四章
170:鍵の在りか
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サンドイッチを買って社長室でランチを済ませた後、セス、ロビー、オイゲンの三人はメディットに向けて出発した。セスの検査結果を聞くためである。
出がけにオイゲンはメイに留守番を依頼したが、これも意味があるのかどうかセスやロビーには疑問である。
相変わらずメイは通信も取らないし、パーティッションの中に篭ったまま、なかなか外には出てこないからだ。
メディットでモリタ、レイカと合流した。
モリタはレイカをメディットに送り届けていたのである。表向きは仕事を辞めるほどの病状ということになっているから、付き添いがいたほうが自然ではないか、ということであった。
セスとロビー、オイゲンが診察室に呼ばれた。
医師は検査の結果を報告し、
「……いいでしょう。明日にでも退院ということにしましょう」
と伝えた。
それを聞いたセスはそれまで死にそうな顔をして医師やロビー、オイゲンの顔色を窺っていたのに、急に落ち着いた様子になった。
「ありがとうございました、先生!」
セスは医師に礼を述べた。その声は弾んでいる。
「ただし、薬は続けてください。それと薬を取りにくるときと一緒で結構ですが、当面の間、三ヶ月に一度検診を受けてください」
「わかりました。問題は無いのですね」
「……ありません。ただ、薬を忘れると辛くなることもあると思うので、薬は飲み忘れないようにしてください」
「どういうことですか?!」
セスの表情が再び不安げになる。ロビーとオイゲンをチラチラと見やりながら医師に問いかけを続けている。
「……貴方の場合、前の先生から聞いているかも知れませんが血液から酸素を取り込む機能が少しだけ弱いのです。それで時々貧血のような症状を起こすのですが、それを防止するためのお薬なのですよ」
医師はにこやかにそう答えた。
セスはまだロビーとオイゲンの表情をチラチラ見ていたが、両者の表情が落ち着いているのを確認すると、納得した様子で薬を受け取った。
診察を終えた後、退院準備のためセスは病室に戻って片付けを始めた。ロビー、モリタ、オイゲン、レイカもそれを手伝う。
オイゲンはその途中、社の総務に連絡を入れ、セスの住む社宅を準備するように依頼した。
依頼を受けたのは職業学校時代、レイカの補助をしていたカネサキである。
レイカの退職と同時にカネサキ、オオイダ、コナカの三人も職業学校を退職し、ECN社の総務の社員となった。
カネサキが強引にねじ込んだ結果なのだが、ECN社としても若手従業員の不足が目立ち始めていた時期なので、願ったりかなったりだったのだ。
病室のドアが開いているにも関わらず、律儀にドアが三度ノックされた。
セスが返事をすると、ノックの主はオイゲンが来ていないかと尋ねた。
オイゲンがドアのところまで移動して、ノックの主を部屋に招きいれる。
「クルス君ですね。退院おめでとう」
「副院長先生、ありがとうございました」
ノックの主はメディットの副院長、ヴィリー・アイネスであった。
相変わらずシワ一つ無い白衣を着て、その背筋はピンと伸びている。
「社長、お呼びいただいたのはどのようなご用件でしょうか?」
アイネスはオイゲンの方に向かって尋ねた。用件を知らされずに呼び出されたのだった。
オイゲンは持ってきた携帯端末をアイネスに見せる。
「……私の父が使っていた情報端末です。父はどうもこの端末を使っていたようなのですが、キーが見つからず何をしていたかがわからないのです。この端末に入っている情報がわが社に必要なのですが、先生はこの端末をご覧になったことがありますか?」
アイネスはオイゲンから端末を受け取った。そしてそれを開いてみたり、表面に貼られたシールを確認したりしている。
「……少しお待ちください」
アイネスは胸ポケットから自分の携帯端末を取り出して何かを確認している。
数分後、アイネスが何かを見つけたようだ。
「社長、貴方のお父様が亡くなる直前に入院したとき、病室に持ち込んだ端末に間違いありません」
アイネスが情報端末のシールに記載された製造番号を指差した。
反対側の手には自身の携帯端末を持ち、画面をこちらに向けている。
「こちらは病院に提出した端末の持ち込み申請書です。申請書に記載された製造番号の一つが一致しているのがわかると思います」
確かにアイネスの言う通り申請書に記載された端末の製造番号の一つと、オイゲンが持ち込んだ端末の製造番号とが一致している。
「へ? 端末を持ち込むのにそんな書類を書いたっけか?」
ロビーが間の抜けた声をあげた。
「ルールはルールですから守って頂かなければなりません。あなた方の申請書は、イナ社長が提出されました」
アイネスの答えにロビーが思わずオイゲンの方を振り向いた。オイゲンは少し表情を緩めてうなずいた。
「私は端末のキーを存じてはいません。ただ、彼……私の古い知り合いでもあるのですが、フェイ・イヴ・ユニヴァース氏なら何か知っているかもしれません」
アイネスの言葉に部屋にいた全員が振り向いた。
アイネスを除く室内の誰もが聞いたことのない名前だった。
出がけにオイゲンはメイに留守番を依頼したが、これも意味があるのかどうかセスやロビーには疑問である。
相変わらずメイは通信も取らないし、パーティッションの中に篭ったまま、なかなか外には出てこないからだ。
メディットでモリタ、レイカと合流した。
モリタはレイカをメディットに送り届けていたのである。表向きは仕事を辞めるほどの病状ということになっているから、付き添いがいたほうが自然ではないか、ということであった。
セスとロビー、オイゲンが診察室に呼ばれた。
医師は検査の結果を報告し、
「……いいでしょう。明日にでも退院ということにしましょう」
と伝えた。
それを聞いたセスはそれまで死にそうな顔をして医師やロビー、オイゲンの顔色を窺っていたのに、急に落ち着いた様子になった。
「ありがとうございました、先生!」
セスは医師に礼を述べた。その声は弾んでいる。
「ただし、薬は続けてください。それと薬を取りにくるときと一緒で結構ですが、当面の間、三ヶ月に一度検診を受けてください」
「わかりました。問題は無いのですね」
「……ありません。ただ、薬を忘れると辛くなることもあると思うので、薬は飲み忘れないようにしてください」
「どういうことですか?!」
セスの表情が再び不安げになる。ロビーとオイゲンをチラチラと見やりながら医師に問いかけを続けている。
「……貴方の場合、前の先生から聞いているかも知れませんが血液から酸素を取り込む機能が少しだけ弱いのです。それで時々貧血のような症状を起こすのですが、それを防止するためのお薬なのですよ」
医師はにこやかにそう答えた。
セスはまだロビーとオイゲンの表情をチラチラ見ていたが、両者の表情が落ち着いているのを確認すると、納得した様子で薬を受け取った。
診察を終えた後、退院準備のためセスは病室に戻って片付けを始めた。ロビー、モリタ、オイゲン、レイカもそれを手伝う。
オイゲンはその途中、社の総務に連絡を入れ、セスの住む社宅を準備するように依頼した。
依頼を受けたのは職業学校時代、レイカの補助をしていたカネサキである。
レイカの退職と同時にカネサキ、オオイダ、コナカの三人も職業学校を退職し、ECN社の総務の社員となった。
カネサキが強引にねじ込んだ結果なのだが、ECN社としても若手従業員の不足が目立ち始めていた時期なので、願ったりかなったりだったのだ。
病室のドアが開いているにも関わらず、律儀にドアが三度ノックされた。
セスが返事をすると、ノックの主はオイゲンが来ていないかと尋ねた。
オイゲンがドアのところまで移動して、ノックの主を部屋に招きいれる。
「クルス君ですね。退院おめでとう」
「副院長先生、ありがとうございました」
ノックの主はメディットの副院長、ヴィリー・アイネスであった。
相変わらずシワ一つ無い白衣を着て、その背筋はピンと伸びている。
「社長、お呼びいただいたのはどのようなご用件でしょうか?」
アイネスはオイゲンの方に向かって尋ねた。用件を知らされずに呼び出されたのだった。
オイゲンは持ってきた携帯端末をアイネスに見せる。
「……私の父が使っていた情報端末です。父はどうもこの端末を使っていたようなのですが、キーが見つからず何をしていたかがわからないのです。この端末に入っている情報がわが社に必要なのですが、先生はこの端末をご覧になったことがありますか?」
アイネスはオイゲンから端末を受け取った。そしてそれを開いてみたり、表面に貼られたシールを確認したりしている。
「……少しお待ちください」
アイネスは胸ポケットから自分の携帯端末を取り出して何かを確認している。
数分後、アイネスが何かを見つけたようだ。
「社長、貴方のお父様が亡くなる直前に入院したとき、病室に持ち込んだ端末に間違いありません」
アイネスが情報端末のシールに記載された製造番号を指差した。
反対側の手には自身の携帯端末を持ち、画面をこちらに向けている。
「こちらは病院に提出した端末の持ち込み申請書です。申請書に記載された製造番号の一つが一致しているのがわかると思います」
確かにアイネスの言う通り申請書に記載された端末の製造番号の一つと、オイゲンが持ち込んだ端末の製造番号とが一致している。
「へ? 端末を持ち込むのにそんな書類を書いたっけか?」
ロビーが間の抜けた声をあげた。
「ルールはルールですから守って頂かなければなりません。あなた方の申請書は、イナ社長が提出されました」
アイネスの答えにロビーが思わずオイゲンの方を振り向いた。オイゲンは少し表情を緩めてうなずいた。
「私は端末のキーを存じてはいません。ただ、彼……私の古い知り合いでもあるのですが、フェイ・イヴ・ユニヴァース氏なら何か知っているかもしれません」
アイネスの言葉に部屋にいた全員が振り向いた。
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