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第四章
168:トニー、「リスク管理研究所」を設立する
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職業学校を去ってからトニーが最初にしたことは、彼についてきた者とともに「リスク管理研究所」を立ち上げたことだった。退職してから一ヶ月半ほど後のことである。
教育機関の方が顧客を集めやすかったのだが、それだとはハドリに目をつけられる可能性が高い。
職業学校の二の舞になるのは避けたかったため、あえてトニーは研究機関とすることを選択したのだ。
幸いなことにトニーはECN社でも職業学校でも高額の俸給を得ており、金には困っていない。
また、スポンサーとなる企業も十数社あったから、研究所の立ち上げに資金面の支障はなかった。
問題は研究所の設立場所である。OP社の目が届きにくい場所が望ましいが、そのような場所は多くないからだ。
トニーは検討に検討を重ねた結果、ポータル・シティの東部約五キロメートルにあるニジョウを選択した。
ニジョウはメディットのあるジンの東部と隣接したベッドタウンである。
このあたりは住宅地で住民の多くはECN社やOP社の従業員である。
地盤の良い土地が鉄道駅の南に細長く伸びているという形状も手伝ってか、住宅は単身者向けのアパートが多い。広い建物を建てるのには向いていないのだ。
住宅街の南端はポータル・シティから南部のインデストを結ぶ街道と接しており、鉄道、一般道路とも交通の便は良い。
単身者が多いことから、隣人同士の接触も少ない。
昼間人口も少ないことから、OP社も治安改革センターの設置には力を入れておらず、ニジョウの周辺には駅前に一箇所治安改革センターがあるのみである。
住宅地にいきなり研究機関を作れば怪しまれる恐れがあるが、幸いにしてニジョウには気象関係の研究所が先に乗り込んでいた。二番目の研究機関ならそれほど目をつけられる心配もないだろう。
だが、トニーはハドリに対して警戒を緩めていなかった。
トニーは「リスク管理研究所」の名前でこの気象関係の研究所からデータを購入したり、共同研究を行うなど「必要があってニジョウにやってきた」理由付けをしたのだ。
これならOP社や周辺住民が怪しむ可能性は低くなるだろう。
トニーは「リスク管理研究所」を開設したその日に、研究所内の大会議室に所員全員を集めた。
居並ぶ所員たちの前で最初に
「近所に遊ぶ場所がないのは癪だが、ポータルまで行けばいい話だからな。場所としては悪くない。いいか、お前ら。どうしてこの場所を選んだか、理由をよく考えてから行動しろよ!」
と機嫌良さそうに言った。
トニーはECN社時代、職業学校時代ともに部下たちを連れて女性のいる店に行くことを好んだから、「近所に遊ぶ場所がないのは癪」だというのは本音だろうと、集められた所員たちは考えていた。
職業学校のあったチクハ・タウンと比較してニジョウにはその手の店が少ないというより皆無であったが、トニーを含めてそれでもあまり問題はないと考えている。
サブマリン島最大都市のポータル・シティの繁華街まではニジョウから鉄道で十分程度だからだ。
また、職業学校時代もトニーが部下を連れてポータル・シティの繁華街に繰り出すことは何度もあった。
職業学校のあるチクハ・タウンからだとポータル・シティの繁華街までは四、五〇分かかるのだ。それに比べればニジョウの方がはるかに好条件だ。
トニーは所員たちに当面の業務について説明した後、業務を開始させた。
「リスク管理研究所」の主な事業は次のふたつだ。
ひとつめは、市場や技術などの調査・分析を行うシンクタンクとしての事業だ。
ふたつめは、企業などに向けた社員教育パッケージの提供事業。これは所員たちが最も得意とする分野である。
しかし、これを前面に出すと教育に興味を持つOP社━━特にハドリ━━の注意を惹き付けることになるので警戒が必要だとトニーは所員に繰り返し説明している。
トニーはひとつめの事業を前面に押し出しながら、稼ぐのはふたつめの事業、という方式を採用したのだった。
そして「リスク管理研究所」を隠れ蓑にして「タブーなきエンジニア集団」をハドリにぶつけて、ハドリを打倒するか共倒れを狙う、というのが彼の基本方針だ。
ただし、これは「リスク管理研究所」の所員に知られないよう最大限注意を払う必要があった。こちらの狙いがハドリやウォーリーに漏れるのは都合が悪い。
(さて、トワのところに肩入れしないと奴らがハドリに対抗できないだろうが、どうしたものか……)
トニーは所員たちが去った大会議室の中で頭を悩ませていた。
(……いずれにせよトワと接触する必要がありそうだな。奴が今どこに隠れているのかもわからないが、ハドリと戦うように唆すのがいいだろう。いざというときにいつでも切り捨てられるよう、手を打っておく必要があるが……)
トニーはそう考えて「タブーなきエンジニア集団」との接触の機会を窺うことにしたのである。
教育機関の方が顧客を集めやすかったのだが、それだとはハドリに目をつけられる可能性が高い。
職業学校の二の舞になるのは避けたかったため、あえてトニーは研究機関とすることを選択したのだ。
幸いなことにトニーはECN社でも職業学校でも高額の俸給を得ており、金には困っていない。
また、スポンサーとなる企業も十数社あったから、研究所の立ち上げに資金面の支障はなかった。
問題は研究所の設立場所である。OP社の目が届きにくい場所が望ましいが、そのような場所は多くないからだ。
トニーは検討に検討を重ねた結果、ポータル・シティの東部約五キロメートルにあるニジョウを選択した。
ニジョウはメディットのあるジンの東部と隣接したベッドタウンである。
このあたりは住宅地で住民の多くはECN社やOP社の従業員である。
地盤の良い土地が鉄道駅の南に細長く伸びているという形状も手伝ってか、住宅は単身者向けのアパートが多い。広い建物を建てるのには向いていないのだ。
住宅街の南端はポータル・シティから南部のインデストを結ぶ街道と接しており、鉄道、一般道路とも交通の便は良い。
単身者が多いことから、隣人同士の接触も少ない。
昼間人口も少ないことから、OP社も治安改革センターの設置には力を入れておらず、ニジョウの周辺には駅前に一箇所治安改革センターがあるのみである。
住宅地にいきなり研究機関を作れば怪しまれる恐れがあるが、幸いにしてニジョウには気象関係の研究所が先に乗り込んでいた。二番目の研究機関ならそれほど目をつけられる心配もないだろう。
だが、トニーはハドリに対して警戒を緩めていなかった。
トニーは「リスク管理研究所」の名前でこの気象関係の研究所からデータを購入したり、共同研究を行うなど「必要があってニジョウにやってきた」理由付けをしたのだ。
これならOP社や周辺住民が怪しむ可能性は低くなるだろう。
トニーは「リスク管理研究所」を開設したその日に、研究所内の大会議室に所員全員を集めた。
居並ぶ所員たちの前で最初に
「近所に遊ぶ場所がないのは癪だが、ポータルまで行けばいい話だからな。場所としては悪くない。いいか、お前ら。どうしてこの場所を選んだか、理由をよく考えてから行動しろよ!」
と機嫌良さそうに言った。
トニーはECN社時代、職業学校時代ともに部下たちを連れて女性のいる店に行くことを好んだから、「近所に遊ぶ場所がないのは癪」だというのは本音だろうと、集められた所員たちは考えていた。
職業学校のあったチクハ・タウンと比較してニジョウにはその手の店が少ないというより皆無であったが、トニーを含めてそれでもあまり問題はないと考えている。
サブマリン島最大都市のポータル・シティの繁華街まではニジョウから鉄道で十分程度だからだ。
また、職業学校時代もトニーが部下を連れてポータル・シティの繁華街に繰り出すことは何度もあった。
職業学校のあるチクハ・タウンからだとポータル・シティの繁華街までは四、五〇分かかるのだ。それに比べればニジョウの方がはるかに好条件だ。
トニーは所員たちに当面の業務について説明した後、業務を開始させた。
「リスク管理研究所」の主な事業は次のふたつだ。
ひとつめは、市場や技術などの調査・分析を行うシンクタンクとしての事業だ。
ふたつめは、企業などに向けた社員教育パッケージの提供事業。これは所員たちが最も得意とする分野である。
しかし、これを前面に出すと教育に興味を持つOP社━━特にハドリ━━の注意を惹き付けることになるので警戒が必要だとトニーは所員に繰り返し説明している。
トニーはひとつめの事業を前面に押し出しながら、稼ぐのはふたつめの事業、という方式を採用したのだった。
そして「リスク管理研究所」を隠れ蓑にして「タブーなきエンジニア集団」をハドリにぶつけて、ハドリを打倒するか共倒れを狙う、というのが彼の基本方針だ。
ただし、これは「リスク管理研究所」の所員に知られないよう最大限注意を払う必要があった。こちらの狙いがハドリやウォーリーに漏れるのは都合が悪い。
(さて、トワのところに肩入れしないと奴らがハドリに対抗できないだろうが、どうしたものか……)
トニーは所員たちが去った大会議室の中で頭を悩ませていた。
(……いずれにせよトワと接触する必要がありそうだな。奴が今どこに隠れているのかもわからないが、ハドリと戦うように唆すのがいいだろう。いざというときにいつでも切り捨てられるよう、手を打っておく必要があるが……)
トニーはそう考えて「タブーなきエンジニア集団」との接触の機会を窺うことにしたのである。
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