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第四章
163:影武者
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拘束された者の中には声をあげようとした者もいたが、さるぐつわで口がほぼ完全に塞がれており、音となって外に聞こえることはなかった。
一人目と同様に、二人目、三人目が銃によって処刑された。
四人目が倒され、銃が向けられた。
引き金が惹かれようとしたその瞬間である。
ガタン、という音がして、ステージ上の椅子がひっくり返った。座っていた男が倒れたのだ。
ステージを囲んでいたパトロール・チームの職員が色めき立つ。
「何があった?!」
「どこだ?!」
そんな声が飛ぶ中、ホンゴウがステージに飛び上がり、倒れた男を助け起こした。
首には金属製の針のような物が刺さっている。
「これを調べてくれ!」
ホンゴウはそれを抜き取り、近くにいた部下に手渡して内容の調査を指示した。
直後に球技場の上方の観客席に詰めていた職員二人が一人の若い女性を引きずって降りてきた。
「リーダー、この女です! この女がこいつで……」
職員の手には長さ八〇センチほどのパイプのようなものが握られていた。
調べると、棒状のものが射出できるモデルガンのようなものであることがわかった。
一方、引きずられた女性はホンゴウの前で地面に転がされた。すぐに後ろ手に手錠をかけられる。
その脇では倒れた男が担架で運ばれようとしていた。
「無駄だ。そのハドリとかいう殺人犯は助からない。正義の裁きを受けたのだ」
地面に倒れたままの状態で、若い女性がそう言い放ち、唾を吐いた。
「お前がやったのだな?」
ホンゴウが問うた。
「……そうだ。エクザロームの未来を守ったのだ」
女性の答えにホンゴウは無言だった。
「この女、確かスザキといったはずです! 一昨年の新人です!」
近くにいた職員がホンゴウに指摘した。
「OP社などあの殺人犯がいなければ機能しない。それに早く気づいたらどうなのだ?」
スザキと呼ばれた女性は地面に伏したままでそう言ってのけた。
確かに彼女の姓は指摘された通りなのだが、彼女は指摘を無視している。
ホンゴウはスザキを無視して、部下に指示を出した。他に彼女の仲間がいないか周囲を調べさせるためだ。
「いいのですか?」
「構わない。私が彼女を見張っておこう」
「はっ!」
スザキを倒して銃を突き付けていた部下がその場を離れた。
「巨大なトップを失った集団など、内紛で瓦解するのみだ。貴方がたも巻き込まれないようにするのだな」
スザキが吐き捨てるように言った。黙る気はないようだ。
「……」
ホンゴウは表情を変えることなくスザキの言葉を黙って聞いていた。
少しして、ホンゴウの通信機に部下からの報告が伝えられた。
「……スザキさん、か? 君の仲間はすべて拘束されたようだ。それでもわが社に未来は無いというか?」
ホンゴウが部下からの報告を聞き終えてから尋ねた。
「……ないね」
そう言ってスザキは立ち上がる。その表情は凛としており、微塵も怯むところはない。
ほどなくして、二四人のスザキの仲間と思われる男女がパトロール・チームの職員に引きずられてきた。
「スザキさん、これであなたの仲間はすべて拘束された。負けを認めたらどうですか?」
「負け? 負けはトップを失ったお前らの方だろう?」
ホンゴウの意地の悪い問いにもスザキは敢然と立ち向かっている。
スザキの双眸はホンゴウを見据えている。その頬には血が流れを作っているが、彼女は意に介していない。
「どけ、お前ら。俺がやる」
低い声と同時にホンゴウの身体は脇へと強い力で押しやられた。
ホンゴウの影から小柄な男が現れた。女性のスザキと比べてもやや背が低いくらいだ。
その姿に、スザキが初めて怯んだ表情を見せた。
「お前は……大量虐殺犯のハドリ……何故生きている……?」
「……ほう、もう少し活きのいい女かと思ったが、大したことはないな」
ハドリは落ち着いた声でスザキに話しかけた。
ただし、その眼光は言葉と裏腹に他を圧倒するほどに鋭い。
「き、貴様のおかげで多くの同期が死んだ! 何人もの社員が犠牲になった! 市民も余計な締め付けで苦しんでいるのだ」
初めてスザキの声が上ずった。
「わが社の社員を殺めたのは貴様らも同じだろう。殺人犯は貴様らのことではないのか?」
「違う! あれは正当防衛だ! 殺人犯ハドリ! 貴様は死をもって、OP社の全関係者とエクザロームの全市民に詫びなければならないのだ! 我々はそれに協力しようとしたまでだ!」
「……結果的に貴様らは判断を誤り、こうして敗者の地位に就いたわけだ」
スザキが脇に目をやると、彼女が撃った相手が担架に寝かされているのが見えた。
「身代わりを使ったのか! 卑怯な! お前の代わりに死んだ社員がまた一人増えたわけだ」
「正々堂々というのは、勝つための方法を思いつく知恵の無い者の戯言に過ぎん。負けたらそれで終わりよ。勝たねば意味が無いのだ。残念だったな」
ハドリは平然と胸ポケットから銃を取り出し、無表情のまま引き金を引いた。左胸を打ち抜かれたスザキがどうと地面に倒れる。
「……他の連中も全員、やっておけ」
ハドリの命令は直ちに実行に移された。
スザキの仲間も全員その場で射殺されたのだ。
その様子を見届けてから、ハドリはホンゴウに命じる。
「……マスコミの連中が外にいる。奴等の罪状と処分内容を報じさせろ。治安改革の妨げになる者は厳罰に処す旨、徹底して伝えろ」
「はっ!」
ホンゴウは命令を受けてすぐにその場を飛び出した。
次にハドリは部下のヤマガタを呼んだ。
そして今回の戦闘で死亡した従業員、負傷した従業員に十分な見舞金を送るように命じた。
左脚を失った者には「義足を作ってやれ」と特に念を押して命じたのだった。
最後に彼に歯向かった者に関する詳細な調査を命じて、ハドリは悠然と球技場を去った。
球技場を出るとき、ハドリが小さくつぶやいたのだが、その言葉を聞いた者はなかった。
「つまらん女だ……もう少し知恵があれば、わが社で別の地位を得たかも知れぬが。期待しすぎたか……」
一人目と同様に、二人目、三人目が銃によって処刑された。
四人目が倒され、銃が向けられた。
引き金が惹かれようとしたその瞬間である。
ガタン、という音がして、ステージ上の椅子がひっくり返った。座っていた男が倒れたのだ。
ステージを囲んでいたパトロール・チームの職員が色めき立つ。
「何があった?!」
「どこだ?!」
そんな声が飛ぶ中、ホンゴウがステージに飛び上がり、倒れた男を助け起こした。
首には金属製の針のような物が刺さっている。
「これを調べてくれ!」
ホンゴウはそれを抜き取り、近くにいた部下に手渡して内容の調査を指示した。
直後に球技場の上方の観客席に詰めていた職員二人が一人の若い女性を引きずって降りてきた。
「リーダー、この女です! この女がこいつで……」
職員の手には長さ八〇センチほどのパイプのようなものが握られていた。
調べると、棒状のものが射出できるモデルガンのようなものであることがわかった。
一方、引きずられた女性はホンゴウの前で地面に転がされた。すぐに後ろ手に手錠をかけられる。
その脇では倒れた男が担架で運ばれようとしていた。
「無駄だ。そのハドリとかいう殺人犯は助からない。正義の裁きを受けたのだ」
地面に倒れたままの状態で、若い女性がそう言い放ち、唾を吐いた。
「お前がやったのだな?」
ホンゴウが問うた。
「……そうだ。エクザロームの未来を守ったのだ」
女性の答えにホンゴウは無言だった。
「この女、確かスザキといったはずです! 一昨年の新人です!」
近くにいた職員がホンゴウに指摘した。
「OP社などあの殺人犯がいなければ機能しない。それに早く気づいたらどうなのだ?」
スザキと呼ばれた女性は地面に伏したままでそう言ってのけた。
確かに彼女の姓は指摘された通りなのだが、彼女は指摘を無視している。
ホンゴウはスザキを無視して、部下に指示を出した。他に彼女の仲間がいないか周囲を調べさせるためだ。
「いいのですか?」
「構わない。私が彼女を見張っておこう」
「はっ!」
スザキを倒して銃を突き付けていた部下がその場を離れた。
「巨大なトップを失った集団など、内紛で瓦解するのみだ。貴方がたも巻き込まれないようにするのだな」
スザキが吐き捨てるように言った。黙る気はないようだ。
「……」
ホンゴウは表情を変えることなくスザキの言葉を黙って聞いていた。
少しして、ホンゴウの通信機に部下からの報告が伝えられた。
「……スザキさん、か? 君の仲間はすべて拘束されたようだ。それでもわが社に未来は無いというか?」
ホンゴウが部下からの報告を聞き終えてから尋ねた。
「……ないね」
そう言ってスザキは立ち上がる。その表情は凛としており、微塵も怯むところはない。
ほどなくして、二四人のスザキの仲間と思われる男女がパトロール・チームの職員に引きずられてきた。
「スザキさん、これであなたの仲間はすべて拘束された。負けを認めたらどうですか?」
「負け? 負けはトップを失ったお前らの方だろう?」
ホンゴウの意地の悪い問いにもスザキは敢然と立ち向かっている。
スザキの双眸はホンゴウを見据えている。その頬には血が流れを作っているが、彼女は意に介していない。
「どけ、お前ら。俺がやる」
低い声と同時にホンゴウの身体は脇へと強い力で押しやられた。
ホンゴウの影から小柄な男が現れた。女性のスザキと比べてもやや背が低いくらいだ。
その姿に、スザキが初めて怯んだ表情を見せた。
「お前は……大量虐殺犯のハドリ……何故生きている……?」
「……ほう、もう少し活きのいい女かと思ったが、大したことはないな」
ハドリは落ち着いた声でスザキに話しかけた。
ただし、その眼光は言葉と裏腹に他を圧倒するほどに鋭い。
「き、貴様のおかげで多くの同期が死んだ! 何人もの社員が犠牲になった! 市民も余計な締め付けで苦しんでいるのだ」
初めてスザキの声が上ずった。
「わが社の社員を殺めたのは貴様らも同じだろう。殺人犯は貴様らのことではないのか?」
「違う! あれは正当防衛だ! 殺人犯ハドリ! 貴様は死をもって、OP社の全関係者とエクザロームの全市民に詫びなければならないのだ! 我々はそれに協力しようとしたまでだ!」
「……結果的に貴様らは判断を誤り、こうして敗者の地位に就いたわけだ」
スザキが脇に目をやると、彼女が撃った相手が担架に寝かされているのが見えた。
「身代わりを使ったのか! 卑怯な! お前の代わりに死んだ社員がまた一人増えたわけだ」
「正々堂々というのは、勝つための方法を思いつく知恵の無い者の戯言に過ぎん。負けたらそれで終わりよ。勝たねば意味が無いのだ。残念だったな」
ハドリは平然と胸ポケットから銃を取り出し、無表情のまま引き金を引いた。左胸を打ち抜かれたスザキがどうと地面に倒れる。
「……他の連中も全員、やっておけ」
ハドリの命令は直ちに実行に移された。
スザキの仲間も全員その場で射殺されたのだ。
その様子を見届けてから、ハドリはホンゴウに命じる。
「……マスコミの連中が外にいる。奴等の罪状と処分内容を報じさせろ。治安改革の妨げになる者は厳罰に処す旨、徹底して伝えろ」
「はっ!」
ホンゴウは命令を受けてすぐにその場を飛び出した。
次にハドリは部下のヤマガタを呼んだ。
そして今回の戦闘で死亡した従業員、負傷した従業員に十分な見舞金を送るように命じた。
左脚を失った者には「義足を作ってやれ」と特に念を押して命じたのだった。
最後に彼に歯向かった者に関する詳細な調査を命じて、ハドリは悠然と球技場を去った。
球技場を出るとき、ハドリが小さくつぶやいたのだが、その言葉を聞いた者はなかった。
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