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第四章

162:球技場の惨殺

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 ハドリがECN社本社を出た数十分後、ハモネスにある球技場にOP社によって拘束された者たちが集められた。
 球技場はECN社本社から徒歩数分の場所にある。
 拘束された者たちは目隠しをされ、手錠で両手の自由を奪われた状態で、OP社治安改革センターの職員たちに引きずられるようにして移動してきた。
 球技場内にあるグラウンドに到着すると、OP社治安改革センターの職員たちが彼らを乱暴に地面に転がし、四肢を拘束しさるぐつわを噛ませていった。

 グラウンドの中央に四肢を拘束された者が二十名弱集められた。
 周囲はOP社のパトロール・チームの職員に囲まれている。
 観客席の最前列にはステージが設けられており、一人の男がグラウンドを見下ろすように椅子に腰をかけている。男の顔はフードに隠されてよく見えない。
 ステージの下を囲み、上に座っているフードの男を守るかのようにOP社のパトロール・チームの職員が立っている。
 ステージの後方には一〇台ほどのテレビカメラが集められており、グラウンドの様子などを撮影している。

「OP社からサブマリン島の市民の皆様にお伝えしなければならないことがある」
 ステージの正面下に立つパトロール・チームのリーダー、ヒロ・ホンゴウがテレビカメラに向かって演説を始めた。演説の内容は次のようなものである。

 今ここに捕らえられている者たちが「タブーなきエンジニア集団」を名乗ってハモネス南部の倉庫に立てこもっていたこと。
 情報を得たOP社の治安改革センター職員が現場に急行したところ、相手が武器を持って攻撃し、建物に火を放ったこと。
 戦闘の結果、一七名を拘束したが、OP社側に六名の死者と四名の負傷者を出したこと。
 取り調べた結果、OP社の転覆とエクザロームの治安かく乱を目的としたテロを計画していたことが判明したこと、等々である。

 ホンゴウの演説はまだ続いている。耳元の通信機からハドリの声で「演説を伸ばせ」という命令が出ているためである。
「……一七名の罪状は明らかであり、エクザロームの秩序と平和を乱そうとした罪に情状酌量の余地はない!
 エクザロームの安全を確保するために、弊社は彼らに断固とした処置を講じる。
 弊社は、公開すべき情報は必ず公開する。こうした凶悪極まりない犯罪者どもがどう処置されたか、ということを市民の皆様もしっかりと見届け、弊社の覚悟を理解いただきたい!
 彼らの拘束のため、弊社も貴重な人材を多く失った。
 ここに彼らに哀悼の意を表するとともに、心より冥福をお祈りする。
 しかし、凶悪犯はまだ全てが捕まったわけではない!
 逃亡中の者がニ五名残されている! 手配情報を参考に見つけ次第、最寄りの弊社治安改革センターまで連絡をお願いしたい。市民の皆様のご協力に期待する」
 ホンゴウはここでいったん言葉を切った。ハドリの指示を待つためだ。

 それにしても、とホンゴウは思う。
 マスコミを集めて公開処刑をするのは、正直なところ気が進まない。
 相手が凶悪犯であることは否定しないが、わざわざ社の残酷さを表に出すのはどうしたものか?
 一般市民が持つ社の印象を悪くすることにつながらないだろうか?

 司法警察権を有しているとはいえ、OP社は営利企業でもある。その顧客となり得る人々に悪い印象を与えるのは得策でないように思われるのだ。

 また、抵抗する相手を射殺するのはまだ許容できるのだが、今回のケースは既に相手を拘束してしまった後である。
 収監するだけにとどめた方がいいのではないかという気持ちが無いわけでもない。
 要するに冷静になった今、相手を殺害する気になれないというのが彼の本音である。
 ハドリの指示であるからこそ、やらなければならないのだろうが。

 ホンゴウが見に着けている通信機からイヤホンを通じて「一人ずつやれ」という声が聞こえた。
 ホンゴウは近くの部下にハドリの意思を伝える。
 自分で直接手を下さなかったのは、人を殺害するという行為から逃げたということであろう。

 グラウンドの中央に拘束した一人がうつぶせに倒された。
 パトロール・チームの職員が倒された者の背中に右足を置き、その体制で銃の引き金を引いた。

 乾いた音が球技場に響く。
 相手は頭を撃ち抜かれ、すぐに動かなくなった。
 そこにパトロール・チームの職員が殺到し、動かなくなった死体を脇へと乱暴に投げ捨てた。
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