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第四章
158:神出鬼没のトップ
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OP社本社にある総務部に、音もなく強面の小男が姿を見せた。
「総務部長、どこだ?!」
強面の小男━━OP社社長のエイチ・ハドリが怒鳴った。
ハドリが声を発するまで、総務部の誰もが彼がやって来たことに気付かなかった。
しかし、ハドリの声がしてすぐに総務部長が転がるようにしてすっ飛んできた。
神出鬼没の社長がいつどこに現れてもよいように総務部長は備えていたのだが、それでも先手を打つことはできなかった。
その代わり、中年のこの男にしてはあり得ないスピードで走ってきたのだ。
息を切らせながら総務部長がハドリの前で頭を下げる。息を整える間があったら、先に頭を下げなければならないからだ。
また、言葉も発していない。求められるまで発言をしてはならないからだ。
「頭が高い!」
ハドリの怒声に総務部長の頭が更に下がった。しかし、その呼吸は苦しそうだ。
「……頭を上げろ」
ハドリが静かに命じた。命令に反応して総務部長が頭を上げる。
総務部長の目に端末の画面を指差したハドリが座っている姿が映しだされる。
「……これが何の表か、わかるか?」
ハドリの指先には数字がいくつも書かれた表がある。総務部長にはその表に見覚えがあった。
「わが社の従業員数の推移かと……」
「そうだ、ならば数字の意味するところはわかるな?」
「は、はい……」
総務部長が答えた通り、ハドリの示した表はOP社の従業員数の推移を示したものであった。
ECN社の事実上の併合、司法警察権の掌握などOP社は一見順風満帆である。
しかし、実態は必ずしも順調ではなかった。その中でもハドリが特に問題視していたことが、実働従業員数の減少である。
OP社の従業員数そのものが減少していることが大きな要因だ。
一昨年、数千の新入社員が犠牲となったビル爆破事件により、LH四八年入社の社員は極端に少ない。爆発を逃れ、生き残った新入社員は一割にも満たなかったのだ。
また、一昨年の事件以降、OP社への志望者が激減した。
事件への対応の際、OP社が意図的に新入社員ごとビルを爆破した、という事実を知る者は多くはなかった。しかし、OP社の業務は危険を伴う、ということが市民に知れ渡ったのも事実であった。
結果、LH四九年、そして今年五〇年入社の新入社員はそれ以前の一〇分の一以下となっている。
更に治安改革活動の実施に疑問を持つ社員や、実際の活動を行った社員の退職者も増加傾向にあり、これは現在も続いているのだ。
減っているのは従業員の総数だけではない。
業務に従事している者の数、割合も減少している。
治安改革活動に参加する社員には負傷者も多いからだ。武装しているとはいえ、警察活動にはそれなりの危険を伴うし、訓練中の事故も多い。
肉体だけではなく、精神を病む者もおり、これらの活動に従事している従業員のうち、実際に稼動可能な状況にある者は七割弱だ。
ハドリが治安改革活動に従事させる従業員の数は年々増加を続け、現在は二万を越える従業員がこの活動に従事している。
ECN社からも一万五千近くを割かせたのだが、こちらはハドリから見ると使い物にならないほどお粗末な状況であった。
ECN社の人間の能力がある程度低いのは、ハドリとしては歓迎できる。
ただし、それにも限度がある。ハドリからすれば信じられないほど統率が取れていないのだ。
「社内もそうだが、それまでの教育が悪い。根を正す必要がある。まずは職業学校がどんな教育をしているか徹底的に調べろ!」
ハドリの命令に総務部長は最敬礼で応じた。
ハドリからすれば教育が適切に行われていれば、統率が取れた気概ある職業人が大量に生産されるはずだ。
気概ある職業人がエクザロームの治安を担うOP社に志願しない訳がないのである。
職業学校へ最大の寄付を行っているのがECN社であることはハドリも知っている。
そのため、教育から軟弱なECN社の影響を排除しようとハドリは考えた。
実際にはECN社は職業学校の教育や運営にほとんど関わっていないが、それでもECN社の影響は存在する。
学校の幹部や一部の教官などは、最大のスポンサーであるECN社の意向に反しないよう、最大限の注意を払っていたから無理もない。だが、ECN社はそのような配慮を求めていなかった。
OP社はECN社に対し職業学校への寄付を停止しその代わりにOP社へ「教育訓練費」を支払うように命じた。ECN社は少なくとも表向きは素直にこれを受諾した。
ハドリはこの金を用いて、自社の治安改革活動に従事する従業員に特別ボーナスを支払った。来るべき戦いの時に備えたのである。
金自体はECN社が持っていたものであり、別にOP社の懐が痛む訳ではなかったので、ハドリも気前よくばら撒いた。
ハドリの行動は止まる事がなかった。
彼は基本的に勤勉な男である。エクザロームの治安改革活動の指揮を執りながら、「タブーなきエンジニア集団」を制し、ECN社を監視下に置き、今度は職業学校を改革しようと考えていたのだ。
常人では考えられないバイタリティである。
「総務部長、どこだ?!」
強面の小男━━OP社社長のエイチ・ハドリが怒鳴った。
ハドリが声を発するまで、総務部の誰もが彼がやって来たことに気付かなかった。
しかし、ハドリの声がしてすぐに総務部長が転がるようにしてすっ飛んできた。
神出鬼没の社長がいつどこに現れてもよいように総務部長は備えていたのだが、それでも先手を打つことはできなかった。
その代わり、中年のこの男にしてはあり得ないスピードで走ってきたのだ。
息を切らせながら総務部長がハドリの前で頭を下げる。息を整える間があったら、先に頭を下げなければならないからだ。
また、言葉も発していない。求められるまで発言をしてはならないからだ。
「頭が高い!」
ハドリの怒声に総務部長の頭が更に下がった。しかし、その呼吸は苦しそうだ。
「……頭を上げろ」
ハドリが静かに命じた。命令に反応して総務部長が頭を上げる。
総務部長の目に端末の画面を指差したハドリが座っている姿が映しだされる。
「……これが何の表か、わかるか?」
ハドリの指先には数字がいくつも書かれた表がある。総務部長にはその表に見覚えがあった。
「わが社の従業員数の推移かと……」
「そうだ、ならば数字の意味するところはわかるな?」
「は、はい……」
総務部長が答えた通り、ハドリの示した表はOP社の従業員数の推移を示したものであった。
ECN社の事実上の併合、司法警察権の掌握などOP社は一見順風満帆である。
しかし、実態は必ずしも順調ではなかった。その中でもハドリが特に問題視していたことが、実働従業員数の減少である。
OP社の従業員数そのものが減少していることが大きな要因だ。
一昨年、数千の新入社員が犠牲となったビル爆破事件により、LH四八年入社の社員は極端に少ない。爆発を逃れ、生き残った新入社員は一割にも満たなかったのだ。
また、一昨年の事件以降、OP社への志望者が激減した。
事件への対応の際、OP社が意図的に新入社員ごとビルを爆破した、という事実を知る者は多くはなかった。しかし、OP社の業務は危険を伴う、ということが市民に知れ渡ったのも事実であった。
結果、LH四九年、そして今年五〇年入社の新入社員はそれ以前の一〇分の一以下となっている。
更に治安改革活動の実施に疑問を持つ社員や、実際の活動を行った社員の退職者も増加傾向にあり、これは現在も続いているのだ。
減っているのは従業員の総数だけではない。
業務に従事している者の数、割合も減少している。
治安改革活動に参加する社員には負傷者も多いからだ。武装しているとはいえ、警察活動にはそれなりの危険を伴うし、訓練中の事故も多い。
肉体だけではなく、精神を病む者もおり、これらの活動に従事している従業員のうち、実際に稼動可能な状況にある者は七割弱だ。
ハドリが治安改革活動に従事させる従業員の数は年々増加を続け、現在は二万を越える従業員がこの活動に従事している。
ECN社からも一万五千近くを割かせたのだが、こちらはハドリから見ると使い物にならないほどお粗末な状況であった。
ECN社の人間の能力がある程度低いのは、ハドリとしては歓迎できる。
ただし、それにも限度がある。ハドリからすれば信じられないほど統率が取れていないのだ。
「社内もそうだが、それまでの教育が悪い。根を正す必要がある。まずは職業学校がどんな教育をしているか徹底的に調べろ!」
ハドリの命令に総務部長は最敬礼で応じた。
ハドリからすれば教育が適切に行われていれば、統率が取れた気概ある職業人が大量に生産されるはずだ。
気概ある職業人がエクザロームの治安を担うOP社に志願しない訳がないのである。
職業学校へ最大の寄付を行っているのがECN社であることはハドリも知っている。
そのため、教育から軟弱なECN社の影響を排除しようとハドリは考えた。
実際にはECN社は職業学校の教育や運営にほとんど関わっていないが、それでもECN社の影響は存在する。
学校の幹部や一部の教官などは、最大のスポンサーであるECN社の意向に反しないよう、最大限の注意を払っていたから無理もない。だが、ECN社はそのような配慮を求めていなかった。
OP社はECN社に対し職業学校への寄付を停止しその代わりにOP社へ「教育訓練費」を支払うように命じた。ECN社は少なくとも表向きは素直にこれを受諾した。
ハドリはこの金を用いて、自社の治安改革活動に従事する従業員に特別ボーナスを支払った。来るべき戦いの時に備えたのである。
金自体はECN社が持っていたものであり、別にOP社の懐が痛む訳ではなかったので、ハドリも気前よくばら撒いた。
ハドリの行動は止まる事がなかった。
彼は基本的に勤勉な男である。エクザロームの治安改革活動の指揮を執りながら、「タブーなきエンジニア集団」を制し、ECN社を監視下に置き、今度は職業学校を改革しようと考えていたのだ。
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