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第四章
156:オイゲン・イナの構想
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ハドリが島の西部、ウォーリーが島の東部を治めるというが良いのではないか、というのがオイゲンの考えだ。
併せてウォーリーの補佐にECN社社長秘書のメイ・カワナを登用するという考えもある。
これらの考えの実現のためにはメイがOP社に目をつけられないようにしなければならない。
「タブーなきエンジニア集団」はOP社の公式の敵なのだ。
オイゲンは自分自身にハドリを止める力があるとは思っていない。彼は自己の能力を過大評価するような傾向とは無縁である。
ハドリがウォーリーとの共存を認めるのならまだ問題は大きくない。
しかし、ハドリがそうするとは思えないし、ウォーリーも嫌がるだろう。
そうした場合、考えられる最悪の事態はハドリとウォーリーによる全面対決である。
企業同士が業績で争うのならまだよいが、ハドリのやり方を見ている限り武力衝突になる可能性が十分に考えられる。
オイゲンとしては武力衝突だけは絶対に避けたい。
もともと争いごとが嫌いな性格であるし、ウォーリーとハドリが対決することになれば自分が巻き込まれることはほぼ必至だからである。
(うまく対決を避けてくれよ……)
というのがオイゲンの本音だ。
彼からすれば、戦って消耗する前にやるべきことがあるはずだと思えるのである。
ハドリの主張もわからないでもないが、島の東半分は未開地なのである。
そこに活路を求めて失敗してからでも締め付けは遅くない、とオイゲンは考えている。
島の東半分から少しでも何かが得られれば、今の閉塞感の大部分は解決できるはずである。今の閉塞感は資源と土地の不足が大きな原因となっているのだから。
ただ、オイゲン自身もこの考えに絶対の自信を持っているわけではない。
オイゲンと同じような主張をする者が皆無であったし、秘書のメイ・カワナにこの話をしてもほとんど手ごたえが得られなかったからだ。
(自分あたりが思いつくことではダメだ、ということだろう。ならば、自分より優秀で信頼できる者に委ねてみるのが筋だろうな……)
結局オイゲンの考えはここに行き着いてしまう。
もともと自分が先頭に立って人を動かす、という意識は彼にはない。
彼にとって「自分より優秀で信頼できる者」の代表格がウォーリーやメイであったから、彼らにどうやって肩入れするか、が当面の課題であった。
ECN社全体でOP社に対抗するという方法もあったが、オイゲンにそれはできなかった。
自分が立ち上がったところで、従業員がついてくるとは考えられなかった。
また、OP社に反旗を翻せば、全面的な武力衝突になりかねない。
OP社と提携した結果、ECN社も治安改革のために人を割いており、その規模は社内のどのタスクユニットよりも大きいのだ。
そして彼らは、基本的な戦闘訓練を受けている。これをOP社が見逃す訳がない。
従業員の安全のためにも、武力衝突は絶対に避けたいところだ。
また、ECN社に高齢の従業員が多いのもオイゲンが一歩踏み出せない理由である。
現在ECN社の従業員数は一〇万人を少し切る程度である。
うち四分の一は六六歳以上の高齢者で構成されている。五〇代の人口が極端に少ないエクザロームにおいては高齢者も貴重な労働力だ。
主要な労働力と考えられる世代であるエクザロームの一八歳から五〇歳の者のうちOP社とECN社の従業員はその三分の二近くにも達してしまっている。それでも人手が足りないのである。
OP社には殆ど高齢者がいなかったが、ECN社には高齢者が多い。
高齢者を環境の激変に晒すのは、オイゲンとしても気が引ける。
環境変化を最小限に抑えるためにオイゲンはECN社を現在の状況に置く決断をしたともいえる。
一方でその決断に不満を持つウォーリーらの気持ちも理解しているつもりだ。
彼らには彼らのやりたいようにやらせたかった。だからこそ、オイゲンは「インセンティヴ」と称して、自分の私財を投げ打ってウォーリーに大金を与えたのだ。
オイゲン自身はウォーリーやメイのようになれるとは思っていないから、その代わりに彼らに賭けることを選択している。
ウォーリーをトップに立てメイを参謀役にするためには、いくつかクリアしなければならないハードルがある。
ウォーリーについては当面、心配ないだろう。OP社に拘束されないように注意する必要はあるが、オイゲンにできることはそう多くない。
一方、メイについては懸念事項が多い。
OP社に存在を知られれば、社長であるオイゲンと接する時間が最も多い彼女だ。
その彼女に関する監視は厳しくなるだろう。そうなるとウォーリーの陣営に彼女を送り込むことは困難だ。
また、メイ自身の性格のこともある。
相変わらず極端な対人恐怖症のため、オイゲン以外の者とは話もできない。
ウォーリーと話ができなければ参謀役が務まらない。
更にメイの意思の問題もある。彼女が望まなければ、オイゲンは自身の意見を通すつもりはない。
ここがトップとしてのオイゲンの限界なのであるが、彼は目の前にいる人に対してその意思に反してまで自分の意見を通すことのできる人間ではないのだ。
メイに対しては他の人間とも接することができた方がいいな、と考えることはある。
しかし、最近ECN社の従業員で社長室に来る者はほとんどいなかったし、社内で業務以外のことをオイゲンと話す者も激減した。
オイゲンと近づくだけでOP社のチェックが入るためだ。これでは、メイが自分以外の人と接する機会も得られない。
そこでオイゲンはセスたちを引き入れることで、メイに他の人と接する機会を提供しようと考えた。
また、オイゲンはメイ以外の話し相手にも事欠いていたから、セスたちにはその役目も期待している。
ただし、メイ本人がそれを嫌った場合は話が別だ。
オイゲンは他人に対して、その意思に反することを命じたり、強制したりすることを極端に嫌う。
それが「正しい」と思われる場合であっても躊躇する面がある。
何故なら、彼自身が意思に反することを押し付けられるのが嫌いだからである。
それを強制された側の辛さも多少は理解しているつもりだ。
また、何が正しいことなのか、そして、正しいことを強制するのが正しいことなのか、オイゲン自身は両者ともに疑問を感じている。
そうしたことを他人に強制する権利が自分自身にあるとは思っていない。
だからこそ意思に反することを強制される辛さを他人に感じさせたくないのである。
メイがオイゲンと接することに苦痛を感じないのは、オイゲンのこうした性格も関係している。
併せてウォーリーの補佐にECN社社長秘書のメイ・カワナを登用するという考えもある。
これらの考えの実現のためにはメイがOP社に目をつけられないようにしなければならない。
「タブーなきエンジニア集団」はOP社の公式の敵なのだ。
オイゲンは自分自身にハドリを止める力があるとは思っていない。彼は自己の能力を過大評価するような傾向とは無縁である。
ハドリがウォーリーとの共存を認めるのならまだ問題は大きくない。
しかし、ハドリがそうするとは思えないし、ウォーリーも嫌がるだろう。
そうした場合、考えられる最悪の事態はハドリとウォーリーによる全面対決である。
企業同士が業績で争うのならまだよいが、ハドリのやり方を見ている限り武力衝突になる可能性が十分に考えられる。
オイゲンとしては武力衝突だけは絶対に避けたい。
もともと争いごとが嫌いな性格であるし、ウォーリーとハドリが対決することになれば自分が巻き込まれることはほぼ必至だからである。
(うまく対決を避けてくれよ……)
というのがオイゲンの本音だ。
彼からすれば、戦って消耗する前にやるべきことがあるはずだと思えるのである。
ハドリの主張もわからないでもないが、島の東半分は未開地なのである。
そこに活路を求めて失敗してからでも締め付けは遅くない、とオイゲンは考えている。
島の東半分から少しでも何かが得られれば、今の閉塞感の大部分は解決できるはずである。今の閉塞感は資源と土地の不足が大きな原因となっているのだから。
ただ、オイゲン自身もこの考えに絶対の自信を持っているわけではない。
オイゲンと同じような主張をする者が皆無であったし、秘書のメイ・カワナにこの話をしてもほとんど手ごたえが得られなかったからだ。
(自分あたりが思いつくことではダメだ、ということだろう。ならば、自分より優秀で信頼できる者に委ねてみるのが筋だろうな……)
結局オイゲンの考えはここに行き着いてしまう。
もともと自分が先頭に立って人を動かす、という意識は彼にはない。
彼にとって「自分より優秀で信頼できる者」の代表格がウォーリーやメイであったから、彼らにどうやって肩入れするか、が当面の課題であった。
ECN社全体でOP社に対抗するという方法もあったが、オイゲンにそれはできなかった。
自分が立ち上がったところで、従業員がついてくるとは考えられなかった。
また、OP社に反旗を翻せば、全面的な武力衝突になりかねない。
OP社と提携した結果、ECN社も治安改革のために人を割いており、その規模は社内のどのタスクユニットよりも大きいのだ。
そして彼らは、基本的な戦闘訓練を受けている。これをOP社が見逃す訳がない。
従業員の安全のためにも、武力衝突は絶対に避けたいところだ。
また、ECN社に高齢の従業員が多いのもオイゲンが一歩踏み出せない理由である。
現在ECN社の従業員数は一〇万人を少し切る程度である。
うち四分の一は六六歳以上の高齢者で構成されている。五〇代の人口が極端に少ないエクザロームにおいては高齢者も貴重な労働力だ。
主要な労働力と考えられる世代であるエクザロームの一八歳から五〇歳の者のうちOP社とECN社の従業員はその三分の二近くにも達してしまっている。それでも人手が足りないのである。
OP社には殆ど高齢者がいなかったが、ECN社には高齢者が多い。
高齢者を環境の激変に晒すのは、オイゲンとしても気が引ける。
環境変化を最小限に抑えるためにオイゲンはECN社を現在の状況に置く決断をしたともいえる。
一方でその決断に不満を持つウォーリーらの気持ちも理解しているつもりだ。
彼らには彼らのやりたいようにやらせたかった。だからこそ、オイゲンは「インセンティヴ」と称して、自分の私財を投げ打ってウォーリーに大金を与えたのだ。
オイゲン自身はウォーリーやメイのようになれるとは思っていないから、その代わりに彼らに賭けることを選択している。
ウォーリーをトップに立てメイを参謀役にするためには、いくつかクリアしなければならないハードルがある。
ウォーリーについては当面、心配ないだろう。OP社に拘束されないように注意する必要はあるが、オイゲンにできることはそう多くない。
一方、メイについては懸念事項が多い。
OP社に存在を知られれば、社長であるオイゲンと接する時間が最も多い彼女だ。
その彼女に関する監視は厳しくなるだろう。そうなるとウォーリーの陣営に彼女を送り込むことは困難だ。
また、メイ自身の性格のこともある。
相変わらず極端な対人恐怖症のため、オイゲン以外の者とは話もできない。
ウォーリーと話ができなければ参謀役が務まらない。
更にメイの意思の問題もある。彼女が望まなければ、オイゲンは自身の意見を通すつもりはない。
ここがトップとしてのオイゲンの限界なのであるが、彼は目の前にいる人に対してその意思に反してまで自分の意見を通すことのできる人間ではないのだ。
メイに対しては他の人間とも接することができた方がいいな、と考えることはある。
しかし、最近ECN社の従業員で社長室に来る者はほとんどいなかったし、社内で業務以外のことをオイゲンと話す者も激減した。
オイゲンと近づくだけでOP社のチェックが入るためだ。これでは、メイが自分以外の人と接する機会も得られない。
そこでオイゲンはセスたちを引き入れることで、メイに他の人と接する機会を提供しようと考えた。
また、オイゲンはメイ以外の話し相手にも事欠いていたから、セスたちにはその役目も期待している。
ただし、メイ本人がそれを嫌った場合は話が別だ。
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何故なら、彼自身が意思に反することを押し付けられるのが嫌いだからである。
それを強制された側の辛さも多少は理解しているつもりだ。
また、何が正しいことなのか、そして、正しいことを強制するのが正しいことなのか、オイゲン自身は両者ともに疑問を感じている。
そうしたことを他人に強制する権利が自分自身にあるとは思っていない。
だからこそ意思に反することを強制される辛さを他人に感じさせたくないのである。
メイがオイゲンと接することに苦痛を感じないのは、オイゲンのこうした性格も関係している。
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