ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

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第四章

154:次の仕事と懸念

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 オイゲンがセスの病室を訪れてから二週間後のLH五〇年四月二四日、約束どおりオイゲンはセスの見舞いにやってきた。
 あまり感情が表に出ない人物なので意外に思う者も多いのだが、こう見えてオイゲンはかなり義理堅いのである。

 病室に入るや否や、オイゲンが切り出した。
 最初の提案としてオイゲンが個人的にセスの入院費を持つ、という。

「……社長さんよ、申し出はありがたいんだけど、金で全てカタがつく、って問題でもないのよ。そこはわかっているんだろうな?」
 ロビーがそう反論したのだが、オイゲンは申し訳ないので入院費は私が面倒見ます、と答えた。

「……それと医師の方の許可が取れれば、一度弊社まで来ていただきたいと思うのですが……
 お願いしたいことがあるのです」
 オイゲンがそう申し出た。
 
「あなた、そんなこと頼める立場なの?」
 カネサキが立ち上がってオイゲンに詰め寄ったが、これはレイカに止められる。

「……カネサキさん、イナ社長の話を聞いてからにしましょう」
 カネサキは黙って引き下がった。職業学校での立場はレイカの方が上なのだ。

「イナ社長は何をお考えなのでしょうか?」
「……レイカ・メルツ先生、でしたね? テレビで何度か拝見したことがありますが、何故あなたがここにいらっしゃるのでしょうか?」
 オイゲンがレイカの姿を見て首を傾げた。

「私達は仕事上のパートナーです」
 レイカがきっぱりと言い切った。
「……そうでしたか。そうするとかえってご迷惑をかけてしまう可能性がありますね……」
 不意にオイゲンは口ごもった。

「社長さんよ。とりあえず言ってみてくれないか? 内容は俺達が判断するからよ」
 ロビーがオイゲンを促すと、オイゲンはわかりましたと答えて、話を再開した。

 ECN社では最近になって倉庫から使用されていない情報端末が大量に発見された。
 端末の中には社内のデータベースに登録されていない情報類が多々あると思われるが、社員を割いてその内容の調査をしている余裕がない。
 そのため内容を調査し、その報告と社内データベースへの登録をする作業者を探しているのだが、その作業をしてもらえないか、ということであった。
 この作業に従事していれば、社内のデータベースに接続する大義名分も立つという。

 当初、オイゲンは情報の機密保持のため、社員にその業務をさせようとしたのだが、これにはOP社から待ったがかかったのだ。
 そのような何も生まない作業に社員を割くのは非効率である、ということだった。OP社社長のエイチ・ハドリ直接の指示で、アルバイトを雇ってその業務に従事させることになったのだ。
 オイゲンは社に戻ってOP社の許可を得た上で、今日の訪問に臨んだのだった。

 一通り話を聞いたところで、セスはロビーとモリタを交互に見やった。
「予めお断りしておきますが、正直なところ端末に何の情報が登録されているかは私も把握していません。ですので、あなた方にとって有益な情報かどうかも判断できません。それでもよろしければ、ということですが……」
 オイゲンは正直なところを語った。

「……受けてみたら?」
 カネサキがセスに向かって言った。セスは無言だ。他の者の顔色をうかがっているように見える。

「モリタ、お前に反対とは言わせない。セス、受けてみようぜ」
 ロビーが口を開こうとするモリタを制した。セスはロビーの言葉にうなずいた。

「これで決まりと言いたいが……」
 ロビーが口ごもった。
 問題はセスが病院を出て仕事ができるかである。
 当面は何台か端末を病院に運び込んで対応することになりそうだ。

 しかし、調査を必要とする端末の数が膨大であり、登録されている情報の内容によっては社外に持ち出さないほうがよい可能性もある。
 いずれはECN社の本社で作業をしなければならなくなるだろう。

 一方、セスが入院してから数十回も検査が行われていたが、詳しいことは何一つ判明していない。
 医師の話では「時間をかけて、検査結果の推移を見ていかない限り、有効な治療方針を立てることが難しい」ということであった。

 しかし、これらの事実はセスに正確に伝えられているわけではなかった。
 セスの性格から、状況を知ってしまった場合に悪影響があると医師が判断したためである。
 このため、セスの病状を一番詳しく知っているのはロビーである。

 ロビーはほとんど親のようにセスに接している。
 実際年は二つしか離れていないのだがセスが実年齢より外見、性格ともに年少さを感じさせるということもあり、このような役割分担が出来上がったといえるかもしれない。

 (何とか病院と話をつけるしかないな……)

 ロビーがそう考えていると、オイゲンが「医師の方と話をしてみます」と申し出た。
 副院長が知り合いなので、話がしやすい、ということらしい。

 オイゲンはその後セスに探している兄に関する質問をいくつかした。
 セスは知っている限りのことを答えた。

「イナ社長。ECN社はエクザロームで一番歴史のある会社だとうかがっています。その歴史ある会社にご協力いただけることに感謝しています」
 セスがそう礼を言うと、オイゲンはできる限りの協力をしたいと思います、と答えた。

 セスがオイゲンの表情を見てから、更に続ける。
「……それと、できれば……二年前、僕やここにいるロビー、モリタを含めた発電関係の学生が何故、御社に不採用になったのか、その理由も知りたいのです」
 オイゲンは目を閉じてうなずいた後、質問に答えだした。

 当時はOP社との提携交渉段階にあり、提携を結ぶ上では、社内の発電関連の部門を縮小する必要があった。そのため、新規に発電関係の技術者の採用ができなくなった。
 決定したのは自分であり、その責任を負うのは自分である。
 今更謝罪したところでどうしようもないが、迷惑をかけたことについてはお詫びしたい、ということであった。

 社長としては軽率な発言かもしれないが、これがオイゲンなりの誠意である。基本的に正直な男なのだ。

 するとモリタがオイゲンにその話を自分の母親にしてくれないか、と申し出た。オイゲンは少し考えてから承諾した。
 そして、連絡を取るためモリタとオイゲンが病室を後にした。
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