ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

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第四章

151:セスの目指すものを知る

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 モリタの巨体がセスの病室に飛び込んできた。
「飲み物買ってきましたーっ! あ、カネサキさん、今日はいろいろ作ってきましたね」
 飛びこむや否やモリタが作業机に広げられた菓子に目をやった。

「任せときなさい! そうそう、クルスくんが退院したら、私の家に集まってパーティーでもやりましょう。メルツ先生にはお菓子を作ってもらえるといいわね」
 カネサキの言葉にモリタが真っ先に反応する。
「メルツ先生が作るお菓子ってどんなものですか?」

 その反応にレイカが困惑したような表情で答える。
「……あ、大した物じゃないのよ」
 そこにオオイダが口を挟んだ。
「大した物じゃない、って言いながらすごく豪華なもの作っているのだから! どこかの職人さんに頼んだんじゃないかって思っちゃったわ」

 カネサキも同調する。
「そうそう。仕事のできる人は違うわ。謙遜しちゃっているけど、メルツ先生は仕事だけじゃないからねぇ」
「大した人なんだな、先生は。さすが食品のプロ、ってところだな」
 ロビーがやや的外れの感想を述べた。マーケター時代のレイカの専門は酒類とコーヒーである。食品全般を担当していたわけではないのだ。
「あぁ、秘密にしてたのに……」
 レイカは頬を赤らめて口に手をやった。

 カネサキがレイカの方を向いた。
「もう、この先生はこういうところ可愛いんだから! 変な男に引っかかったらダメよ。ここの子たちはみんないい子だから、こういうのを選ぶのよ!」
 そう言って、レイカの肩を叩いた。
 レイカは、はい、とだけ答えた。

「もう少し私が若かったら、私がほっとかないんだけどねぇ」
 カネサキが今度はセス、ロビー、モリタの三人を見回した。
「カネサキさん、別に年は関係ないっすよ」
 笑いながらロビーがそう答えた。
 すると、病室内は爆笑に包まれた。
 その後、自然にティータイムに入る。

 ロビー、モリタ、カネサキ、オオイダの四人が会話の中心となっている。
 この四人は、とにかくよく話す。
 特にロビー、カネサキ、オオイダの三人はプライベートのことも遠慮なしに話すので、レイカやセスは何時の間にかこうした情報に通じてしまった。

「そう言えば、三人はよくデータ室で調べものをしていたわね。あれは何?」
 オオイダがロビーに尋ねた。微塵も遠慮する気はないようだ。

「ああ。あれは……何か知ってたら協力して欲しいんだけど、セスの奴には生き別れになった兄貴らしい人がいるんですよ。その人に関する情報を調べているんですけどね」
 ロビーが即答した。モリタとセスが口を開く暇も無かった。
 レイカがピクリと反応したが、それに気づいた者はなかった。

「そう……大変ね。若いのに苦労しているのね」
 オオイダがセスに同情する様子を見せた。
 一方で、いきなりロビーにプライベートをぶちまけられたセスは少し困惑気味だ。

「そういうことだったのね……
 そうだ! カネサキさん、何か手伝ってあげられないかしら?」
 今まで殆ど言葉を発さなかったレイカが声をあげた。
「先生、任せて! クルス君、今一番困っているのは何?」
 カネサキがレイカに応える形で手を挙げた。
 セスはロビーとモリタを交互に見やっている。

「そうだな……時間と情報が足りないことだなぁ。シヴァ先生からの仕事は予想以上に時間を喰うし……」
 ロビーが愚痴ると、カネサキがセスの肩を叩いた。
「よし、わかった。ここは私達に任せなさい。
 オオイダ、コナカ、いい? クルス君のお兄さん探しのために、私達がクルス君たちの仕事を引き受けるのよ!」
「はーい」「はいっ!」
 オオイダとコナカがうなずいた。

「私も何か手伝うわ」
 レイカがそう申し出たが、カネサキが止める。
「メルツ先生は忙しいんだから、自分の仕事に専念してください! 私は先生も心配ですからね!」
「はい……」
 カネサキに止められたレイカが素直に引き下がった。

「何か……自分のことで皆さんの手を煩わすのは申し訳なさ過ぎるのですが……」
 セスが申し訳なさそうにしているが、オオイダが首を横に振る。
「いいの、若い子は遠慮しないの! 一緒に仕事している人が困ってたら、それを手伝うっていうのが筋というものでしょう!」
「……でも、僕一人抜けただけでもオオイダさんたちの負担が増えちゃいますし……
 今でさえ、作業する人は全部で七人なんですよ」
 セスの言葉が少し早口になった。

「よっと」
 するとカネサキがいつの間にかセスのベッドに背中を向けて飛び乗った。
 そしてベッドに腰かけながらセス、ロビー、モリタを順番に指差して
「クルス君、タカミ君、モリタ君の三人は仕事を減らしてもらって、クルスくんのお兄さん探しに専念する! 教材の原案はあるのだから、私達で仕上げちゃうわよ。三人は最後のチェックをする、でいいじゃないの。一緒に仕事している仲なんだから! 家族みたいなものよ」
 と言い切った。

「わかりました。そこまで言っていただけるのなら……ありがとうございます」
 セスがカネサキに頭を下げた。

「その代わり、いい? ちゃんとお兄さんを見つけるまで、仕事は控えめにするのよ!」
 カネサキがセスの背中をポーンと叩いた。
 そしてモリタとロビーの方に目をやる。
「モリタ君もタカミ君もクルス君を手伝うのよ!」
 カネサキの言葉にロビーとモリタがうなずいた。
 セスはロビーとモリタに向かって手を合わせた。

 カツ、カツ、カツ……
 不意に足音がセスの病室の方に向けて近づいてきた。
 看護師や医師の巡回の時間ではない。

「あら? あの人……」
 レイカが廊下を指差した。
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