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第四章
149:逃亡生活の終わり
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街道は「はじまりの丘」のすぐそばが起点になっていた。
この道がハモネスの北部を経由してポータル・シティまで続いている。
砂利道だが、湿地帯と比較すればはるかに歩きやすい。
かつてこの街道は「ルナ・ヘヴンス」の残骸をポータル・シティやハモネスなどの都市へ運ぶために使われていた。
一〇年ほど前までは往来が比較的活発だったため、辺境の道としては整備が進んでいる。
「地に足がついている、というのは変だが、道があるのは助かるな」
サクライがつぶやいた。
足場の悪い湿地帯と比較すれば「地に足がついている」というサクライの感覚も理解できるだろう。
「すみません、計画が甘かったです……」
「あ、いや……エリックが詫びるところじゃない」
エリックがしゅんとなったのを見て、サクライが慌ててエリックの前に回り込んで両手を合わせた。エリックはフルヤへの到着が遅れていることに人一倍責任を感じている。
「……お前もミヤハラに次ぐ幹部なのだから言葉に気をつけろ」
ウォーリーがサクライを後ろに引っ張り、その頭を軽く小突いた。
フルヤまでは約一五〇キロメートルの道のりだ。
天候の良い日に街道で移動するなら、三日か四日の距離だ。
サブマリン島は移動手段が発達していないため、住民は健脚の者が多い。
ウォーリー達も例外ではないので、それほど時間を要することなくフルヤに到着できるはずだ。
目的地までは街道をポータル・シティ方面に進んだ後、最後に脇道に逸れる。
この脇道の最後の方が湿地帯の中なのだが、それを除けばほぼ平坦な道のりらしい。
「……しかし、拍子抜けしますね。湿地帯の中とは大違いだ」
サクライのぼやいた通り、街道を歩くのは湿地帯を歩くのと比較して楽だ。
ウォーリーは道を急いでいるようで、かなりの早足で歩いている。
最初は三人がウォーリーの直後に続いていたが、現在はエリック一人が少し距離を置いてウォーリーに続いている。
一方、ミヤハラとサクライは遅れ気味だ。エリックはこの二人を気遣って、敢えてウォーリーと二人の間に立つようにしている。
「おい! ミヤハラ、サクライ、急ぐといっているだろう!」
ウォーリーが怒鳴った。
「うぉーい」
サクライがくぐもった声で答えた。ミヤハラは無言だ。
ウォーリーはその答えに無言で先を急いだ。
普段なら何か言い返すところなのだが、今日の彼は違う。
(……どうも身体に力が入らなくていけねぇ。早いところフルヤに着いておかないとな)
逃亡生活に入ってから、彼は再び身体の変調を感じていたのだ。
当初は精神力で押さえ込めば大丈夫だろう、とたかをくくっていた。
だが、ユニヴァースの小屋に到着したあたりでは、厳しくなる寸前の状態だったのだ。
ユニヴァースの小屋で二日休んで少し回復はしていたものの、万全にはほど遠い。
自分が倒れる前にフルヤに着いておかねば、という義務感で彼は歩を進めていた。
(まったく、こっちの気も知らねぇで……
それにしても俺の身体もどうかしてるぜ! ここのところ仕事をしてなかったから、精神がぶったるんだかな? まったく!)
ウォーリーは同行の三人へ順番に目をやりながら、行き場の無い怒りを自分自身にぶつけていた。
「マネージャー、少し落ち着いた方がいいのでは? 道が良いと言っても、一日やそこらで歩ける距離じゃないです」
ミヤハラがウォーリーに追いついて忠告した。ウォーリーは無言で歩を進める。
(まあ、最後は何だかんだ言っても俺の身体だからな。このくらい克服できないで、ハドリの奴をぶっ倒せる訳がねぇ! 気合入れていくか!)
結局、ウォーリーの気合が体調に勝ったのか、それほど深刻な状況にならずに、三日後、フルヤの集落の入口に着いた。
「……さて、着いたいいが、どうするんだ?」
フルヤの集落の入口でウォーリーがエリックに問うた。
入口といっても、高さ二メートルほどの柱が二本立てられているだけだ。
周囲を囲う柵などもないため、柱が無ければどこが入口かはわからないし、どこからでも集落に入ることができる。
エリックは任せてくださいと携帯端末を取り出した。
この場所ならECN社の通信経路を通ることなく、直接「タブーなきエンジニア集団」のメンバーと連絡が取れるはずだ。
エリックはキーボードを操作して、その場で待つ。それほど時間を要することなく迎えが来るはずだ。
一〇分ほどして二人の「タブーなきエンジニア集団」の男性メンバーがやってきた。
「マネージャー! お待ちしておりました」
「おう、カツヤか。何とか無事に着いたぜ。まったく、えらい目に遭ったがな」
ウォーリーが悪態をついた。
カツヤと呼ばれたメンバーが苦笑いしながらウォーリーたちを案内する。
集落の中ほどにアンテナが二本立っている小屋があった。
カツヤはウォーリーたちをその小屋へと案内する。
「おう! 今着いたぜ!」
ウォーリーが中にいるメンバーに声をかけた。懐かしい顔だ。
ミヤハラ、サクライ、エリックも三人三様のやり方で、仲間との再会を喜んでいた。
LH五〇年四月二日、「タブーなきエンジニア集団」のトップ、ウォーリー・トワの逃亡生活はようやく終わりを告げたのである。
この道がハモネスの北部を経由してポータル・シティまで続いている。
砂利道だが、湿地帯と比較すればはるかに歩きやすい。
かつてこの街道は「ルナ・ヘヴンス」の残骸をポータル・シティやハモネスなどの都市へ運ぶために使われていた。
一〇年ほど前までは往来が比較的活発だったため、辺境の道としては整備が進んでいる。
「地に足がついている、というのは変だが、道があるのは助かるな」
サクライがつぶやいた。
足場の悪い湿地帯と比較すれば「地に足がついている」というサクライの感覚も理解できるだろう。
「すみません、計画が甘かったです……」
「あ、いや……エリックが詫びるところじゃない」
エリックがしゅんとなったのを見て、サクライが慌ててエリックの前に回り込んで両手を合わせた。エリックはフルヤへの到着が遅れていることに人一倍責任を感じている。
「……お前もミヤハラに次ぐ幹部なのだから言葉に気をつけろ」
ウォーリーがサクライを後ろに引っ張り、その頭を軽く小突いた。
フルヤまでは約一五〇キロメートルの道のりだ。
天候の良い日に街道で移動するなら、三日か四日の距離だ。
サブマリン島は移動手段が発達していないため、住民は健脚の者が多い。
ウォーリー達も例外ではないので、それほど時間を要することなくフルヤに到着できるはずだ。
目的地までは街道をポータル・シティ方面に進んだ後、最後に脇道に逸れる。
この脇道の最後の方が湿地帯の中なのだが、それを除けばほぼ平坦な道のりらしい。
「……しかし、拍子抜けしますね。湿地帯の中とは大違いだ」
サクライのぼやいた通り、街道を歩くのは湿地帯を歩くのと比較して楽だ。
ウォーリーは道を急いでいるようで、かなりの早足で歩いている。
最初は三人がウォーリーの直後に続いていたが、現在はエリック一人が少し距離を置いてウォーリーに続いている。
一方、ミヤハラとサクライは遅れ気味だ。エリックはこの二人を気遣って、敢えてウォーリーと二人の間に立つようにしている。
「おい! ミヤハラ、サクライ、急ぐといっているだろう!」
ウォーリーが怒鳴った。
「うぉーい」
サクライがくぐもった声で答えた。ミヤハラは無言だ。
ウォーリーはその答えに無言で先を急いだ。
普段なら何か言い返すところなのだが、今日の彼は違う。
(……どうも身体に力が入らなくていけねぇ。早いところフルヤに着いておかないとな)
逃亡生活に入ってから、彼は再び身体の変調を感じていたのだ。
当初は精神力で押さえ込めば大丈夫だろう、とたかをくくっていた。
だが、ユニヴァースの小屋に到着したあたりでは、厳しくなる寸前の状態だったのだ。
ユニヴァースの小屋で二日休んで少し回復はしていたものの、万全にはほど遠い。
自分が倒れる前にフルヤに着いておかねば、という義務感で彼は歩を進めていた。
(まったく、こっちの気も知らねぇで……
それにしても俺の身体もどうかしてるぜ! ここのところ仕事をしてなかったから、精神がぶったるんだかな? まったく!)
ウォーリーは同行の三人へ順番に目をやりながら、行き場の無い怒りを自分自身にぶつけていた。
「マネージャー、少し落ち着いた方がいいのでは? 道が良いと言っても、一日やそこらで歩ける距離じゃないです」
ミヤハラがウォーリーに追いついて忠告した。ウォーリーは無言で歩を進める。
(まあ、最後は何だかんだ言っても俺の身体だからな。このくらい克服できないで、ハドリの奴をぶっ倒せる訳がねぇ! 気合入れていくか!)
結局、ウォーリーの気合が体調に勝ったのか、それほど深刻な状況にならずに、三日後、フルヤの集落の入口に着いた。
「……さて、着いたいいが、どうするんだ?」
フルヤの集落の入口でウォーリーがエリックに問うた。
入口といっても、高さ二メートルほどの柱が二本立てられているだけだ。
周囲を囲う柵などもないため、柱が無ければどこが入口かはわからないし、どこからでも集落に入ることができる。
エリックは任せてくださいと携帯端末を取り出した。
この場所ならECN社の通信経路を通ることなく、直接「タブーなきエンジニア集団」のメンバーと連絡が取れるはずだ。
エリックはキーボードを操作して、その場で待つ。それほど時間を要することなく迎えが来るはずだ。
一〇分ほどして二人の「タブーなきエンジニア集団」の男性メンバーがやってきた。
「マネージャー! お待ちしておりました」
「おう、カツヤか。何とか無事に着いたぜ。まったく、えらい目に遭ったがな」
ウォーリーが悪態をついた。
カツヤと呼ばれたメンバーが苦笑いしながらウォーリーたちを案内する。
集落の中ほどにアンテナが二本立っている小屋があった。
カツヤはウォーリーたちをその小屋へと案内する。
「おう! 今着いたぜ!」
ウォーリーが中にいるメンバーに声をかけた。懐かしい顔だ。
ミヤハラ、サクライ、エリックも三人三様のやり方で、仲間との再会を喜んでいた。
LH五〇年四月二日、「タブーなきエンジニア集団」のトップ、ウォーリー・トワの逃亡生活はようやく終わりを告げたのである。
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