ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

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第四章

147:悪天候への苛立ち

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 ユニヴァースは台所に入ると、四人に向けて告げる。
「……昼の時間です。貴方がたもあるものを自由に取って食べてください」

 ウォーリーは肩透かしをくったかのように、その場につんのめった。
「……やれやれ、調子が狂うぜ」
 そうぼやきながらウォーリーもユニヴァースに続いて食べ物を取りに行っているのだから世話がない。

 食事を終えてようやくユニヴァースがウォーリーの質問に答え始めた。

「……私も詳しいことを知っている訳ではありません。ただ、ポータル・シティの歴史を調査している際に、いくつかの文書に名前が登場しているのを見ているだけです」
 そして、ユニヴァースがモニタを指し示した。
 ユニヴァースが示した文書は全部で六つだった。

「ポータル・シティの地盤調査報告書」
「ポータル・シティ-インデスト間の道路建設計画書」
「ポータル・シティ沖に建設する海流発電用の堤防建設計画書」
 等々である。
 六つのうち三つの資料には調査員としてモトム・トワ、フローレンス・トワの両者の名前が、残りの三つにはモトム・トワの名前だけが記されている。

 「ポータル・シティ-インデスト間の道路建設計画書」が、六つの中でもっとも新しい文書であるが、この文書を最後として彼らの名前がこの手の文書に登場しなくなったというのである。
 こうしたエクザロームの歴史に関わる公的な━━といっても、エクザロームには公共団体の類が存在しないため、公的らしき、というのが適切かもしれない━━文書に登場する人物の中で、消息不明の者がいるという。
 モトム・トワ、フローレンス・トワ夫妻もその一部で、そうした人物の情報を集めているとユニヴァースは言った。

「このような理由で、もしや貴方が何かを知っているのではないかと思ったのですが」
 ユニヴァースの言葉にウォーリーは申し訳なさそうに首を横に振る。
「残念だが、俺にもこれ以上情報がない。役に立てなくてすまんね」
 ウォーリーがそう答えたので、そこで会話が途切れてしまった。
 ユニヴァースが更にウォーリーに何かを問うことをしなかったからだ。

 ウォーリーの現在における最大の興味は「タブーなきエンジニア集団」のメンバーのことであり、ハドリの打倒である。
 ハドリ一人を追い落とせば、現在の問題の大部分は解決すると踏んでいたから、自分の両親の問題はその後でも構わないだろうと考えていた。

 両親のことはウォーリー自身気になる問題なのではあるが、「タブーなきエンジニア集団」やハドリの問題と違ってプライベートなものであった。
 プライベートの問題よりは公の問題を優先すべき、と彼は考えているのでここではこれ以上話を続けなかったのである。
 勿論、ハドリのことはウォーリーにとって公の問題、それも最優先で対処すべきものであった。

 ウォーリーが黙ってしまったので、サクライとエリックがミヤハラの方に目をやった。
 会話を続けなくていいのか? と無言で問いかけたのだ。

 しかし、ミヤハラは無言でサクライに向けて手で「お前が話をしろ」というサインを出した。
 サクライは露骨に嫌そうな顔をしたが、ミヤハラに頼んでも無駄と悟ったのだろう。
 意を決して、サクライがユニヴァースに声をかけた。
「ところで、ユニヴァースさん、天気はいつ回復するんですか?」
 
「確実にとは言えませんが、明日には外に出られると思われます」
 ユニヴァースはそう答えると自室へと引っ込んでしまった。

「ちょ、ちょっと!」
 サクライが声をかけたが、既にユニヴァースは自室の扉を閉じてしまっていた。

「……仕方ない。無理して声をかけるような状況でもないだろう」
 いけしゃあしゃあとそう言ってのけたミヤハラに、サクライは半ば呆れていた。
 しかし、すぐに気を取り直して
「TM、露骨に逃げましたね」
 と嫌味を言うことを忘れない。

「外に出られる状況ではないのだし、俺たちにできることもないだろう。だったら今は休んで体力を回復させるのが一番だ。余計なことはしないに限る」
「TMの案を否定するつもりはないですけどね」
 サクライは嫌味たっぷりな声でミヤハラに言った。

「お前ら、ごちゃごちゃうるさいぞ! 天気が良くなったら出発するぞ! 出発に備えておけ!」
 ミヤハラとサクライのやり取りを聞いていられなくなったのか、ウォーリーがキレ気味に怒鳴った。
 いつもより少し声が抑制されていたが、それはユニヴァースに気を遣ったためであろう。

「あ、こっちで道は調べておきます。TMとサクライさんは保存食を用意してもらえないでしょうか?」
 エリックも耐えられなくなったのか、ミヤハラとサクライの会話に割り込んできた。

「そうだな。二人には食料を確保してもらうか。エリック、俺たちが持ってきたのはあとどのくらい残っているんだ?」
 ウォーリーの問いにエリックが三日分くらい、と答えた。

 サクライとミヤハラはお互いに「余計なことをするから面倒ごとを押し付けられたじゃないか」と無言で非難し合っていた。

「今は天気が悪いから仕方ねえが、時間がないんだぞ。天気が良くなったらすぐ出発するからな!」
 ウォーリーはそう吐き捨てて台所の方へと向かった。
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