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第四章

144:久々の屋根の下

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 ユニヴァースが玄関の方に向かった理由はすぐに判明した。
 彼は雨戸を閉めて、部屋の戸締りを確認していたのだった。
 確認を終えるとすぐに台所へ行き、自分の食事を持ってきた。
 野菜の漬物と白飯である。四人の分はない。
 その代わりに四人に向けてこう告げた。
「食べるものは台所にある。持ってきて食べておきなさい」
 ウォーリーたちは言われた通りにした。

 部屋の中央には大きなちゃぶ台のようなものがあり、その中央は、炭火で火を使うことのできるコンロになっていた。
 コンロの上には網が置かれており、網の上では五匹の魚が焼かれている。どうやら全員の分を用意したらしい。
 ユニヴァースはウォーリーたちに特に魚を勧めることはしなかった。
 しかし、サクライが魚に手を伸ばしたときにユニヴァースが何も言わなかったので、他の三人も自分達の分だと理解したのである。

 食事の後、ユニヴァースは一度も口を開かず、コンピュータの画面とにらめっこを続けては手帳に何か記録していた。
 そして、二一時半になると「私は寝ます。寝具はこの部屋の隅にあるものを使いなさい」と言って引っ込んだ。

「……ずいぶん早いんだな」
 ウォーリーがそう言ったのだが、答えは無かった。
「老人だから夜が早いんですかねぇ、といっても老人ってほどの年でもないか」
 サクライが首をひねった。確かに彼の言う通り、ユニヴァースは老人というには程遠い年齢のように思われる。

「それにしても彼は何者なのだろうか……こんなところに一人で住んでいるとは……」
 ミヤハラが疑問を口にした。確かに人里離れたところに一人で住んでいるのは奇妙な話である。
 年の頃はウォーリーたちの両親の世代よりやや下に見える。五〇代なかばといったところか。

「しまった! 現在地と道を聞いてないぞ!」
 ウォーリーが大声をあげた。四人とも完全にユニヴァースのペースに乗せられており、肝心な情報が何一つ入っていないことに気付いたのだ。

「……まあ、慌てても仕方無い。あの親父さんの言葉では、あとニ、三日はここを出られそうもないですから、明日にでも聞けば住む話だ」
 ミヤハラは落ち着き払っている。何時の間にか自分の布団を敷きはじめている。

「えっ? TMも、もう寝ちゃうんですか?」
 サクライが驚いたように声をあげた。
「はい? まだ寝てはダメでしょうか?」
 サクライの後ろからエリックが声をあげた。彼は既に布団を敷き終わって、その上に座り込んでいる。

「二人とも早いな。まあ、いいだろう。寝たい奴は今のうち寝ておけば」
 ウォーリーの言葉にミヤハラとエリックが布団に潜り込んだ。
「やれやれ、夜早いのは年配の人だけじゃないんですね」
 サクライがウォーリーに向けて言った。
「エリックは緊張し通しだったからな。ミヤハラが夜早いのはいつものことだ。深夜業務だと奴は必ず椅子に座ったまま寝ていたからな」
 ウォーリーはさすがにトップだけあって、メンバーの行動をよく把握している。
 サクライはそんなものですかね、と言って自分の携帯端末を取り出した。
 どうも電波が通じるようで、ニュース映像などを見ることができる。

「……電波が通ってますね。都市に案外近い場所なのかもしれないですね」
 画面を指で示しながら、サクライが言った。
「ああ、心配するほどじゃないだろう」
 ウォーリーとサクライは携帯端末を使って、ニュースなどを検索している。
 どうやら、逃亡中に目立った事件は発生していないようだった。
 逃亡中のウォーリーを探し出した者に賞金を出すという広報映像が流れていたが、この映像が流れていること自体、OP社がウォーリーの足取りを掴めていない証拠である。

「フルヤにいる連中には心配をかけているな。早いところ到着して、奴らを安心させたいところだ」
 ふとウォーリーがつぶやいた。
 フルヤに向かったグループとは三ヶ月以上連絡が取れていない。
 ウォーリーはフルヤという集落のことをよく知らないが、途方もない田舎だと聞いていたから、十分な情報が得られていない。

「まあ、ハドリのグループもフルヤまでは追ってこれないだろうよ」
 そう言った後にウォーリーの心にやり場のない怒りが込み上げてくる。
 俺達は正当な企業活動をしたに過ぎないのに、あろうことかテロリストに仕立て上げられ、本拠地まで失った。
 仲間の大多数は散り散りになり、行方が知れない者もいる。

「何もかもあのハドリの野郎が!」
 ウォーリーは思わず声をあげてしまった。
 サクライが驚いてウォーリーの方を見やった。
「俺は天涯孤独の身だから、どうなろうと構わん。とにかくハドリの奴を潰すまでだ。奴がいるから、エクザロームが混乱する。
 考えてみろ。奴の会社では部下が上司に意見することすら許されないというじゃないか! それにてめえが法律だと勘違いしているような奴が権力を持つとロクなことになりはしねぇ!
 俺はそんな息が詰まるような世界はご免だね! 奴を潰して、思うようにできる世界を取り戻すまでさ!」
 ウォーリーは一気にまくし立ててから息をついた。かなり興奮しているようだ。
 サクライにもウォーリーの気持ちは理解できる。ただ、彼はウォーリーほど感情表現がストレートではない。

「奴がいるからこんな面倒なことになってますからね。それにしても、ウチの会社もウチの会社だ。どうせなら、マネージャーが乗っ取っちゃえばいいんですよ。人も資源も十分ありますからね」
 サクライはECN社を「ウチの会社」と言った。単に現状を失念していただけなのであるが、一応ECN社に対する愛着はあるようだ。
 サクライの言葉には、ウォーリーがすぐ反応した。ウォーリーの逆鱗に触れてしまったらしい。

「おい! それは聞き捨てならん!
 俺はあの会社の上層部、特に社長の能力は評価しないが、少なくとも会社自体は買っている! 俺達が所属していた会社だぞ! 何の権利をもって悪く言う?
 それに俺はあの会社をハドリのようなあくどい手段で乗っ取る気は無い!
 そうするくらいなら、腹を切った方がまだマシだ!
 いいか、今後二度と『乗っ取る!』という言葉を使うなよ!」

「……はあ、すみません」
 サクライは頭を掻きながら謝った。
「ああ、俺も言い過ぎた」
 ウォーリーも素直に引き下がる。どうも逃亡生活を強いられて気が立っているらしい。
「まあいい、今日のところは俺達も休むとしよう」
 ウォーリーの言葉にサクライも同意した。

 こうして四人は久しぶりに屋根の下で休むことになった。
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