ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

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第四章

143:一息ついて……

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 何をしているかという声に四人が後ろを振り返ると、そこには粗末な服を着た壮年の男が立っていた。手には魚を入れた魚篭を持っている。

「道に迷ってしまったので、お邪魔させてもらっています。街道へ出たいのだが……」
 ウォーリーが四人を代表して答えた。敬語が長続きしないのが彼らしい。

「今日と明日は止めておきなさい。雨風がひどくなる」
 男はそう答えて、中に入っていこうとする。四人がいてもお構いなしだ。

「おい、おやっさん! そんなことを言われても俺達には泊まる宿なんて無いぜ! 近くに旅館でもあるのなら教えてくれないかな?」
 ウォーリーがそう怒鳴ると、男はジロリとウォーリーの方を見やってから中へ入っていった。

「おい、おやっさん! 無視するんじゃないぜ!」
 ウォーリーが中に飛び込もうとしたところに、中から白いものがウォーリー目掛けて飛んできた。

「外に風呂がある。身体を洗ったら、上がってきなさい」
 ウォーリーに向かって飛んできたのは四枚のタオルだった。

「サンキュー! おやっさん!」
 ウォーリーは調子よく礼を言ってタオルを受け取ると、外の風呂を探しに出た。他の三人もそれに続いた。

 四人が風呂から出て建物の中に入ると中では先程の男がコンピュータとにらめっこしていた。何か情報を調べているらしい。

「ところでおやっさん、ここはどこなんだ?」
 ウォーリーが男に声をかけた。
「……私は『おやっさん』という名前ではありません。フェイ・イヴ・ユニヴァースという名前があります」
 男はきっぱりとウォーリーの質問を切り捨てた。

「すまないな。ところで、ユニヴァースさん、ここはどこなのでしょうか?」
 ウォーリーは表面上すまなそうにしていたが、男はまだ質問には答えない。
 
「……人に質問をする前に、貴方が誰だか名乗ったらどうですか?」
「それもそうだな。俺は、ウォーリー・ト……おい! 何をするんだ!」
 ウォーリーが名乗りかけたが、エリックが必死に口を塞いだ。
「何やっているんですか! 名前を言ったらダメじゃないですか!」
 エリックがウォーリーの耳元でささやいた。
 ウォーリーはしまった、という表情をしているがすでに遅い。
 男がゆっくりとウォーリーの方を向いた。

「まさか、貴方があの『タブーなきエンジニア集団』とやらの代表なのですか?」
 男の仕草はゆったりとしているのに、何故か有無を言わさぬ迫力がある。言葉に重さがあるように感じられる。

「ああ、そうだが」
 ウォーリーは開き直って、男の言葉を認めてしまった。

「……我々に手出しをしようというなら、ユニヴァースさんには申し訳ないが、こっちも抵抗させてもらうが」
 ミヤハラがウォーリーを制してぬっと一歩前に出た。

「貴方がたの正体などに興味はありません」
 ユニヴァースは机の中から手帳を引っ張り出した。
 そして、ウォーリーのほうにゆっくり足を踏み出した。

「今、何が起こっているかを知りたいのです。私の質問に答えてくれませんか」
 ユニヴァースが大真面目な顔でウォーリーに尋ねた。
「……マネージャー、罠じゃないでしょうか?」
 エリックがウォーリーの耳元でささやいた。
「まあ、相手は一人だ。いざとなったら、俺の好みじゃないが叩きのめすしかないだろうよ。ただ、俺達を捕まえてどうこうしようという意思は無いと思うぜ」
 ウォーリーとエリックがやりあっていても、ユニヴァースは気にする様子を見せない。
 再び「質問に答えてくれますか?」と要求しただけだ。

「……ああ、別に構わないぜ」
 ウォーリーが鷹揚にうなずいた。
「昨年の一二月二二日、ポータル・シティの風力エネルギー研究所で起こった事件について、実際に何があったかを話してください」
 その話か……とエリックの気が重くなったが、ウォーリーは意に介していないようだ。

 ウォーリーが一気にまくし立て始める。
「あれはハドリの野郎が仕組んだことで、俺達は無実なんだがな。何故かテロリストに仕立て上げられちまったんだよな。捕まったメンバーもいるし……」
「想像や推測はどうでもいいのです。発生した出来事、事実だけを時系列に沿って話してください」
 ユニヴァースがピシャリとウォーリーの話を断ち切った。
「あ、ああ……」
 ウォーリーは面食らいながらも素直にユニヴァースの言うとおりにする。
 四人がかりで、昨年の風力エネルギー研究所で起きた事件のことを話す。

 風力エネルギー研究所から、通信機器の修理の依頼があったこと。
 通信機器の交換が予算的に難しいことから、OP社が認めていない部品を使って、修理を敢行したこと。
 そして、修理後の点検作業中にOP社の者がなだれ込んできて、逮捕されかかったこと。
 屋上から脱出した直後に、建物が爆破されたこと、などである。

「ところで、ユニヴァースさん、これを聞いてどう思う?」
 ウォーリーがユニヴァースに尋ねたが、ユニヴァースの返事は素っ気無かった。
「私は事実にしか興味はありません」
 ユニヴァースはそう言うと立ち上がり、玄関の方に向かった。
「おい、何をするんだ?」
 ウォーリーがユニヴァースを呼び止めたが、答えは無かった。
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