ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

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第三章

140:脱出作戦開始!

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 ウォーリー、ミヤハラ、エリックの三人が校舎から出ようとする直前、遠くで花火の音が鳴った。
 湖畔にいた教職員の意識が花火に向いた。
 一人を残して教職員たちは、花火の打ち上げられた方向へと走っていった。

「エリック、行くぞ! ミヤハラは落ち着くまでここで待っていろ」
 ウォーリーはエリックの手を引いて湖畔へと走る。
「え、ええっ?!」
 エリックは訳もわからずウォーリーに引きずられていく。

「卒業生か? もうすぐ式が始まるぞ」
 ボートの係留所の手前で残っていた者に呼び止められた。
 ECN社の元経営企画室長サワムラだった。現在は職業学校リスク管理学科の教官である。

 幸いにして、サワムラはこちらの正体に気づいていない様子だ。
「おい、卒業式はまだ終わっていないだろう! 早く自分の教室に戻りなさい」
 サワムラが注意した。
 ウォーリーは無言で立ち止まる。
 エリックもそれにつられて立ち止まるが、言葉も出ない。

「早く教室に戻りなさい」
 サワムラの注意にウォーリーはうつむいたような様子を見せている。
 エリックは無言でそこに立ち尽くしている。

「……早く戻りなさいというのがわからないか? それとも学外の者か? 学外の者は、今日は立入禁止だから帰りなさい」
 その言葉にウォーリーは顔を上げ、一歩前に踏み出した。
 するとそれを合図に横からサクライが走ってきた。近くの物陰に隠れており、ウォーリーがそれに気づいたのだ。
 サングラスをかけているのは一応変装のつもりらしい。

「先生っ! お世話になりましたっ!」
 そう言ってサクライはサワムラを持ち上げた。
「胴上げ行きますっ!」「行きますっ!」
 ウォーリーとエリックもそれに同調する。

 元経営企画室長はいつの間にか加わったミヤハラを含めた四人に持ち上げられている。
「お世話になりましたっ!」
 ウォーリーを除く三人は口々にそう言いながら、サワムラを運んでいく。
「ありがとうございましたっ!」
 そう言ってサワムラを近くのボートに放り込み、四人は別のボートに飛び乗った。
 そして四人はボートを無言で湖の沖へ向かって走らせた。

「……はは、そうそうことか」
 サワムラは呆然とその様子を見守ったが、あることに気付いて四人に「気をつけろよ」と声をかけた。

 サワムラも職業学校のOBだったのだが、彼も卒業式の日、式から脱走を試みたのだ。
 もっとも、彼の場合はすぐに職員に捕まって、式に戻されてしまったのだが。

 そのことを思い出して、密かに彼らを応援したのである。彼らがECN社時代反目していた相手とも気付かずに。

 四人は全力でボートを走らせる。
「まあ、俺達がやればこんなものだろう。しかし、かつらは暑くてかなわないな」
 かつらを脱ぎながら、ウォーリーがこともなげに言った。
 エリックからすればとんでもない、と反論したいところだがここは黙って耐える。

 ボートはオールが四本ついた小さなもので、四人が荷物をおろして乗ると、ほとんど空きスベースが無い状況である。

「……それにしても、狭い船だな」
 サクライがそうぼやいたが、ウォーリーはしばらくの辛抱だから耐えろとサクライの後頭部を軽くはたいた。

 確かに成人男性四人と荷物を載せるには少々小さいボートである。

 五分ばかりボートを沖、すなわち東に進めた後、今度は北に進路を変えた。
 岸が見える位置でボートを北に進めるのが当初の予定だったから、四人はその通りにボートを進めているのだが、次第に岸が遠ざかっていく。

「何か変じゃないですか? 岸が遠くなっていますけど」
 エリックが懸念を表明すると、他の三人も漕ぐ手を休めて様子を見始めた。

 確かに徐々にではあるが、船は沖のほう、すなわち東に流されている。
「いかん!急げ! 針路は北西にするぞっ!」
 ウォーリーは慌てて指示を出した。そして、オールを漕ぐ腕に力を込めた。

 東に流されるのはまずい、と直感したからだ、

 湖の東側は滝になっており、その落差は数百メートルになると言われている。
 滝を越えて東に行った者はなかったし、滝まで達したら到底助かる術は無い。

「急げ!」
 ウォーリーが大声で叫んだ。
 そうしている間も四人は必死でボートを漕いでいる。
 三月でまだ気候的には涼しいはずなのだが、四人の額には玉のような汗が浮かんでいる。

「……難儀な話だな」
 ミヤハラがそうつぶやいた。その間も手は休めていない。
 四人が必死にボートを漕いでいるにも関わらず、一向に岸は近づかない。

「構わん、今度は岸に、西に向かって進めるぞ!」
 十分北の方向には進んだだろう、と判断してウォーリーは針路をまっすぐ岸の方に向けた。

 これは効果を生んだのか、少しずつだが岸が近づいてきた。
 そして、何とか岸にたどり着いたときは、既に午後一時を回っていた。

 当初は三〇分ほどでボートを降りる予定だったから、思わぬ時間のロスだ。
 しかし、さすがに遠くまできたせいか、追ってくる者はない。

「……さて、一休みしたらフルヤに向かうぞ」
 ウォーリーはボートを片付けながらそう宣言した。

 仲間の待つフルヤまでの道のりはまだ遠い……
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