ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

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第三章

137:動かない二大勢力と歩み始めた「タブーなきエンジニア集団」

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 ウォーリーをはじめとする「タブーなきエンジニア集団」にとって当面の課題は主要メンバーがフルヤに脱出することなのである。
 しかし、現在の状況ではそれすらハドリに協力的な市民の目があるから難しい。

 ウォーリー達はジンにある知り合いの借家でニヶ月以上潜伏生活を強いられている。
 ウォーリー、ミヤハラ、サクライ、エリックのうち、エリックだけはあまり顔が知られていなかったおかげで、比較的自由に行動できた。
 しかし、他の三名は指名手配の映像が出回っており、借家から出ることすらままならなかった。
 それでも、彼らがハドリの魔手に絡めとられずにいたのは、彼らを支持する市民も一定数いたからである。

 一企業、それも社長のワンマン経営の会社が、司法警察権を持つということに危機を感じる者もいたし、ミヤハラの義父のようにOP社嫌いの市民もいる。
 また、ポータル・シティ西部の風力エネルギー研究所で「タブーなきエンジニア集団」が起こしたとされる爆破テロ事件に関しても、報道やOP社の発表に対して懐疑的な者もいた。

 風力エネルギー研究所の所員やOP社、ECN社合同の捜査チームに犠牲者が一人もなかった点が、こうした疑念を呼んだのだった。
 更に一部の市民グループは、実際にマスコミやOP社の発表と現場の状況などを調べ上げていた。

 この調査によれば、マスコミやOP社の発表にはいくつか疑わしい点や矛盾点があり、「タブーなきエンジニア集団」がこれらの筋書き通り犯行を行うのは事実上不可能だった、とされている。
 この調査結果が人づてに広まっていき、事件に関しては「タブーなきエンジニア集団」を貶めるためのOP社のでっち上げ、と考える者も次第に増え始めていた。
 こうした市民の協力者の尽力により、彼らは今のところ無事であったのだ。

 また、協力者たちからは、いくつかの情報が得られていた。

 OP社に拘束された「タブーなきエンジニア集団」のメンバーが約三〇名いること
 そして、その他のメンバーについては厳しく監視されているものの、今のところ捜査の手がほとんど及んでいないこと
 拘束されたメンバーはOP社の監視下に置かれており、懲役刑を科されていること
 などである。

 ウォーリーは拘束されたメンバーを救出すると主張しているが、現段階ではそれもかなわない。
 一人でも動くと行動を起こしかけたことは何度もあるが、その度にミヤハラやサクライ、エリックに止められたのである。

 ハドリの活動に反対する者たちの希望となる有力な勢力はエクザロームには二つある。
 一つは職業学校、もう一つが「タブーなきエンジニア集団」である。
 しかし、そのどちらも決定力を欠く。

 職業学校は教職員約八千、学生数四万ニ千、と人員数だけで言えばOP社、ECN社に次ぐ集団である。
 しかし、最大の資金提供者が実質OP社傘下のECN社であること、そしてOP社にも大量に人材を送り込んでいることがネックである。
 このような状況では、OP社に対して反対の意思を表明することは難しいだろう。

 OP社トップのハドリも職業学校の出身ではあるのだが、彼が学校の言うことを聞くような人物ではないことは容易に予想できる。
 そのような意味では、職業学校に多くを期待することは難しい。

 一方で、「タブーなきエンジニア集団」は明確にOP社の動きに反対することを表明しているから、意思の点では明確である。
 また、トップのウォーリーに対する市民たちからの評価は高い。

 しかし、こちらは人員を欠く。
 参加しているメンバーこそ三千を超えるが、現在まとまって行動できるのはウォーリーのグループ四名とフルヤでウォーリーらを待つ十数名に過ぎない。
 OP社による締め付けも今後厳しくなると思われるので、まとまった人数で行動するのは難しいだろう。

 現在置かれた状況にウォーリーには忸怩たる思いがある。
 OP社に身柄を拘束された「タブーなきエンジニア集団」のメンバーはすべて元ECN社員だった。
 ECN社のトップは、そこを考慮して彼らを救い出すという考えを持てないのだろうか?
 もちろん、ウォーリー自身にも彼らを救う義務があるという思いがある。
 しかし、それに必要な資源はより多くECN社が有しているのだ。

 ウォーリーは感情的にはそう考えているが、その一方でECN社に多くは期待できないと思われることも理解している。
 ECN社に期待できない以上、ウォーリーは一度フルヤへ撤退し、そこで捲土重来を期すしかないと考えるようになった。彼にもその程度の冷静さはある。

 フルヤへの撤退に失敗するとウォーリーとて後が続かなくなることは重々承知している。
 そこで、ウォーリーは四人の中でもっとも慎重派と思われるエリックに脱出計画の詳細を立案させることとした。

 計画立案中、エリックは何度もウォーリーに内容の確認を求めた。
 しかし、ウォーリーは大まかなところの確認をしただけで詳細はエリックに任せた。
 ウォーリーは自ら動いて仕事をするが、必要に応じて部下に仕事を任せることのできるトップだった。
 そして、一度任せた仕事は相手を信頼してすべて任せることができるという性質を持っていた。

 エリックはウォーリーの信頼に応えようと必死で計画を立案し、実行の準備を整えた。
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