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第三章
136:ハドリによる包囲網
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LH五〇年三月二三日の早朝、医療都市ジンにある小さな一軒家に四人の男が集まっていた。
「マ、マネージャー……
あ、案外似合ってますね……」
エリック・モトムラが鏡の前に立ったウォーリーに向かって言った。
その表情は「驚愕」以外の何者でもなかった。
「馬鹿野郎! お前の計画のせいでこんな格好をするハメになったじゃないか!
何で俺だけなんだ、まったく!」
ウォーリーは、そう怒鳴って周りを見回した。
「な、何だお前らのその格好は……
笑っちまって、力が入らねーじゃないか! ウププッ……
まあ、これなら俺が女装するしかねーか」
確かにウォーリーの言うとおり、周りの仲間の格好は控えめに言ってひどいとしか言いようがない。
ミヤハラはタキシードに蝶ネクタイ、サクライとエリックは学生服姿だ。
ウォーリーに至っては彼の言葉どおり女装である。グレーのパンツスーツ姿で、かつらまでつけている。
何故、このようなことになったのか?
その理由を説明するためには、少し時を遡る必要がある。
トニーが職業学校の運営管理委員長になってから、すこし後のことである。
ジン近郊に潜伏していたウォーリーをはじめとする「タブーなきエンジニア集団」の主要メンバーは仲間の待つフルヤへの脱出の機会を伺っていた。
彼らがテロリストに仕立て上げられた昨年末の事件以降、OP社治安改革センターによる取締りが厳しくなり、動くに動けなくなったのであった。
事件の日以降二、三日は混乱が続いており、彼らがフルヤに向けて脱出する大きなチャンスだった。
しかし、ウォーリーが仲間の安否が気にかかると強硬に主張したため、ジンにとどまって情報を収集することになったのが痛かった。
ウォーリーやサクライなどは混乱が数週間程度続くのではないかと楽観的に考えていたのだが、ハドリの動きは迅速だったのだ。
薬物中毒者や泥酔者の取締りを通じて、市民から「タブーなきエンジニア集団」のメンバーの情報を収集させた。
それだけではなくOP社は治安改革に関する人員を大幅に増強したのである。
その一方で、ECN社から集めた人員は「タブーなきエンジニア集団」の本部捜索の際に多大なる失態を演じたため、その全員がハドリから罰せられた。
実際はハドリにその権限など無いのだが、そのようなことを気にかける彼ではない。
OP社の者から銃火器を奪い、発砲した者については、すべて非公開のうちに処刑した。
その他の者についても現場から逃亡した者については、海洋調査送りとし、作戦に参加した全員について減俸処分を科したのである。
処刑された者を除いては、すべて処分内容が公開された。
処分内容を知った市民の感想は一様ではなかったが、共通していたのは「OP社は必ずやる」会社だという認識を更に強めたことだった。
ウォーリー達は「タブーなきエンジニア集団」の関係者や自身に協力的な市民たちを通じて、処刑された者がいたという事実を知った。
ウォーリーは処刑を実施した責任者であるハドリと、自社の従業員の処刑を止められなかったECN社の幹部とに対して怒り狂ったが、彼が打てる手は全くと言っていいほどなかった。
OP社が「タブーなきエンジニア集団」に関する対策を怠らず、監視を強化したためである。
ハドリは「タブーなきエンジニア集団」の監視に薬物中毒者や泥酔者に対する取締り活動をフル活用した。
この取締りに関しては、市民は比較的歓迎ムードであったので、利用しやかったのだ。
閉塞感がただよう時代の宿命なのかもしれないが、薬物や酒におぼれる者が少なくない。
特に薬物に関しては、いまだ中毒者による傷害事件や殺人事件が散見される状況であり、市民の恐怖を煽っていた。
泥酔者に関してはそのような傷害事件などは殆ど発生していないが、市民の迷惑にはなっている。
ハドリはこれらの者に対して、厳罰をもって臨んだ。
司法警察権を盾に他者を傷つけた薬物中毒者は公開処刑、その他の薬物中毒者は終身刑に、泥酔者は程度に応じて海洋調査送りまたは罰金刑に処したのである。
この徹底した取締りの結果、街から薬物中毒者や泥酔者の姿は消えた。
薬物中毒者はともかく、泥酔者の取締りに関しては、主に酒販業者などが影響を懸念した。
しかし、ハドリは飲酒そのものを禁じた訳ではなかったから、酒販業者なども表立って懸念を表明することができなかった。
結局、酒販業者の懸念は杞憂に終わった。節度を保った飲み方が普及したことにより、市民の酒へのニーズは量から質へと変貌したからだ。
ニーズが変わったため酒類の販売量は減少したものの、金額では増加することとなり、業界はその恩恵を受けたのである。
特に高級酒類は利益率が良かったから、メーカーや酒販業者にとって、収益の増大につながったである。
このようにハドリの施策は非常に厳しい面がある一方で、確実に成果をあげていたから市民の支持も得られている。
その一方で、市民の支持がハドリに向かうことが「タブーなきエンジニア集団」にとって、最大の懸念事項である。
「マ、マネージャー……
あ、案外似合ってますね……」
エリック・モトムラが鏡の前に立ったウォーリーに向かって言った。
その表情は「驚愕」以外の何者でもなかった。
「馬鹿野郎! お前の計画のせいでこんな格好をするハメになったじゃないか!
何で俺だけなんだ、まったく!」
ウォーリーは、そう怒鳴って周りを見回した。
「な、何だお前らのその格好は……
笑っちまって、力が入らねーじゃないか! ウププッ……
まあ、これなら俺が女装するしかねーか」
確かにウォーリーの言うとおり、周りの仲間の格好は控えめに言ってひどいとしか言いようがない。
ミヤハラはタキシードに蝶ネクタイ、サクライとエリックは学生服姿だ。
ウォーリーに至っては彼の言葉どおり女装である。グレーのパンツスーツ姿で、かつらまでつけている。
何故、このようなことになったのか?
その理由を説明するためには、少し時を遡る必要がある。
トニーが職業学校の運営管理委員長になってから、すこし後のことである。
ジン近郊に潜伏していたウォーリーをはじめとする「タブーなきエンジニア集団」の主要メンバーは仲間の待つフルヤへの脱出の機会を伺っていた。
彼らがテロリストに仕立て上げられた昨年末の事件以降、OP社治安改革センターによる取締りが厳しくなり、動くに動けなくなったのであった。
事件の日以降二、三日は混乱が続いており、彼らがフルヤに向けて脱出する大きなチャンスだった。
しかし、ウォーリーが仲間の安否が気にかかると強硬に主張したため、ジンにとどまって情報を収集することになったのが痛かった。
ウォーリーやサクライなどは混乱が数週間程度続くのではないかと楽観的に考えていたのだが、ハドリの動きは迅速だったのだ。
薬物中毒者や泥酔者の取締りを通じて、市民から「タブーなきエンジニア集団」のメンバーの情報を収集させた。
それだけではなくOP社は治安改革に関する人員を大幅に増強したのである。
その一方で、ECN社から集めた人員は「タブーなきエンジニア集団」の本部捜索の際に多大なる失態を演じたため、その全員がハドリから罰せられた。
実際はハドリにその権限など無いのだが、そのようなことを気にかける彼ではない。
OP社の者から銃火器を奪い、発砲した者については、すべて非公開のうちに処刑した。
その他の者についても現場から逃亡した者については、海洋調査送りとし、作戦に参加した全員について減俸処分を科したのである。
処刑された者を除いては、すべて処分内容が公開された。
処分内容を知った市民の感想は一様ではなかったが、共通していたのは「OP社は必ずやる」会社だという認識を更に強めたことだった。
ウォーリー達は「タブーなきエンジニア集団」の関係者や自身に協力的な市民たちを通じて、処刑された者がいたという事実を知った。
ウォーリーは処刑を実施した責任者であるハドリと、自社の従業員の処刑を止められなかったECN社の幹部とに対して怒り狂ったが、彼が打てる手は全くと言っていいほどなかった。
OP社が「タブーなきエンジニア集団」に関する対策を怠らず、監視を強化したためである。
ハドリは「タブーなきエンジニア集団」の監視に薬物中毒者や泥酔者に対する取締り活動をフル活用した。
この取締りに関しては、市民は比較的歓迎ムードであったので、利用しやかったのだ。
閉塞感がただよう時代の宿命なのかもしれないが、薬物や酒におぼれる者が少なくない。
特に薬物に関しては、いまだ中毒者による傷害事件や殺人事件が散見される状況であり、市民の恐怖を煽っていた。
泥酔者に関してはそのような傷害事件などは殆ど発生していないが、市民の迷惑にはなっている。
ハドリはこれらの者に対して、厳罰をもって臨んだ。
司法警察権を盾に他者を傷つけた薬物中毒者は公開処刑、その他の薬物中毒者は終身刑に、泥酔者は程度に応じて海洋調査送りまたは罰金刑に処したのである。
この徹底した取締りの結果、街から薬物中毒者や泥酔者の姿は消えた。
薬物中毒者はともかく、泥酔者の取締りに関しては、主に酒販業者などが影響を懸念した。
しかし、ハドリは飲酒そのものを禁じた訳ではなかったから、酒販業者なども表立って懸念を表明することができなかった。
結局、酒販業者の懸念は杞憂に終わった。節度を保った飲み方が普及したことにより、市民の酒へのニーズは量から質へと変貌したからだ。
ニーズが変わったため酒類の販売量は減少したものの、金額では増加することとなり、業界はその恩恵を受けたのである。
特に高級酒類は利益率が良かったから、メーカーや酒販業者にとって、収益の増大につながったである。
このようにハドリの施策は非常に厳しい面がある一方で、確実に成果をあげていたから市民の支持も得られている。
その一方で、市民の支持がハドリに向かうことが「タブーなきエンジニア集団」にとって、最大の懸念事項である。
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