ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

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第三章

135:トニーの戦果とレイカの戦果

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 職業学校の女性スタッフ、職員活用推進のために設置された「女子メンバー会」だが、レイカ・メルツの提案により、立食パーティーの対象者を学内関係者全員とされた上に、割り当てられる予算も減額された。
 この結果、レイカは「女子メンバー会」の一部のメンバーの怒りを買うこととなった。

 よりによって、発案者が会の元メンバーである。提案者のレイカにとって更に不運だったのは、彼女が会の廃止を訴えたと情報が誤って伝えられたことだった。

「女子メンバー会」はこれ以上レイカに余計な口出しをさせまいとトニーを頼った。トニーが実質的に学校の財政を握っていたことに感づいていたからだ。

 トニー自身はコスト面から会の廃止に賛成した側なのだが、そのことは公に伝わっていなかったので、「女子メンバー会」のメンバーが知る由もなかった。
 また、そのことを「女子メンバー会」のメンバーに伝えるような者もいなかった。
 会の廃止については昨年秋の幹部会議で議論されたのだが、その結果を職員やスタッフに伝えようなどという出席者はいなかった。ほとんどの出席者は「決定事項は学校が発表すべきであり、自分の仕事ではない」と考えていたのである。

 トニーは自身を頼ってきた「女子メンバー会」のメンバーの要望を受け入れた。
 そして、要望通りに先程の幹部会議で「甘ちゃんのねーちゃん先生」に何本もの釘を刺したのだ。

 トニーがいる教官用の控室に集まった女性職員などからは、レイカについて「男性に媚びている」「ええかっこしい」などの悪口が発せられている。レイカは目立つ存在であるがゆえに味方も多いが、敵も少なくないのだ。
 トニーからすれば悪口の後者はともかく、前者は「むしろお前達のほうじゃないか」と思っているのだが、それを口に出すことはない。「女とはそんなものだ」程度に考えているのである。

 ただ、トニーとしてもレイカの存在は面白くない。
 会議などでトニーの意見に反対の意見を示すことが多いのだ。
 意見の内容に受け入れるべきものがあれば、トニー自身もそれを受け入れるという考えはある。
 しかし、トニーからはレイカの意見は「役に立たない建前」「会議の効率的な運営を邪魔するたわ言」に過ぎないものでしかない。
 最初のうちは、「女だから近視眼的で視野が狭いのは当然か」と割り切っていたのだが、段々わずらわしくなってきた。

「役に立たない建前」「会議の効率的な運営を邪魔するたわ言」といったもので自分の意見を邪魔されるのは面白くない。
 意見を聞くだけ時間の無駄であるし、なまじ人気のある人物なので彼女の意見に惑わされる愚か者も少なくない。
 トニーが出した結論は、彼女の存在は害である、というものであった。

 トニーとレイカの姿勢や考え方の差には、二人の経歴の差が影響している可能性も否定できない。
 トニーはECN社時代に常に経営企画業務に従事していたから、経営全般の視点で意見することが多い。
 一方で、レイカはマーケター出身である。その関係か顧客の視点、すなわち学生の視点で意見するケースが散見される。

 このような事情から、トニーがレイカの意見を「近視眼的で視野が狭い」と評価するのは無理ないことかもしれなかった。
 ただ、レイカを放置しておけばトニーが目指す学校運営に大きな支障が出る可能性が考えられた。
 これはトニーにとっては許せない事態である。折角ベストの方策を提示しても、それを実現できなければただの絵に描いた餅である。
 それでは意味がない。だからトニーには「邪魔をするな」とレイカに釘を刺しておく必要があった。その機会として今回の幹部会議はうってつけだったのである。

 しかし、この幹部会議ではトニーが一方的に得るものを得て、レイカが失うばかり、という結果になった訳ではなかった。

 女性スタッフや職員の間でも「女子メンバー会」を快く思っていない者は多かったのである。
 こうした者のうち、数名の職員がレイカのいるマーケティング学科に転属を希望し、実際に彼女のところで働くようになったのだ。

 こうして、ようやく彼女は学内にも仕事仲間を得られたのであった。
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