ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

文字の大きさ
上 下
135 / 436
第三章

131:覇気のない社長を動かすという決断

しおりを挟む
 (……使い物にならん手足も厄介だが、中途半端に有能な反逆者も面倒だな……
 この手の輩は徹底的に叩き潰しておくに限る)

 「使い物にならない」三名を下がらせたのち、ハドリは対処すべき事項について対応策を考えていた。
 彼は一人になれる空間を求めて会議室から社長室へと向かっていた。
 その間も彼の頭脳はフル回転していた。移動時間を無為に過ごすような無駄は彼の嫌うところであった。

 社長室へと戻り、部屋の扉に鍵をかける。
 邪魔な者の侵入を防ぎ、思考に集中するためだ。
 室内に机と椅子はあるのだが、彼は椅子に腰かけることなく、窓の脇の壁にもたれかかった。この位置であれば外部から狙撃されることはないからだ。

「タブーなきエンジニア集団」は、幹部級の人材が比較的有能らしいということで厄介な存在である。
 ただし、彼らは力無い市民達の運動で成り立っている部分があることをハドリは見抜いていた。
 そこでハドリは市民を変えることでその存在を不可能にするよう手を打った。
 市民は一般的に力が無いから、力ある者が正しい方向に導かなくてはならない、というのが彼の信念である。
 力の無い者達をコントロールするのも自分の役割だとハドリは自覚している。
 小狡い連中がこうした市民を隠れ蓑にして、悪事を働くという現場を彼は何度も目撃しているからだ。

 一方で、ECN社に対しても手を打たなければならない。
 密かに派遣していた部下の報告によれば、ウノを追い返した人物はキノシタという中堅社員で、なかなか手強いらしい。こちらに対しては早急な対処が必要である。

 トップとしてハドリの手下を送り込みキノシタを押さえ込むのが良いだろうが、人選が難しい。
 無能な者を送り込めばウノの二の舞になる可能性が高く、有能すぎてはハドリのコントロールを外れてしまう可能性がある。

(オオカワとホンゴウは治安改革活動を担当させた方がマシだな……
 ヤマガタは社の管理に必要だから今の職務から外すわけにはいかん……
 タノダは……)

 ハドリは主だった部下達を順番に思い浮かべていったが、ウノ以上に結果を出せそうな者が見当たらなかった。

 (……あの覇気の無い社長を戻すか……)

 ハドリの頭に浮かんだのは、オイゲンを社に戻すことだった。

 当初、半年の期間で研修と称した身柄拘束をしていた。
 いつの間にかその期間は延長され、そろそろ一年になろうとしていた。
 他に優先度が高い事項があったため、ハドリがオイゲンの処遇についての決定を後回しにしていたのが原因の一つであった。

 しかし、それだけではなかった。
 ハドリはオイゲンの人となりを図りかねていたのであった。

 今となってはそうも言っていられないので、ECN社に送り込む候補としてオイゲンはどうかと考えてみることにした。この場合、送り込むというより元のさやに戻すことになるわけだが。

 ハドリの見る限り、オイゲンは覇気が無く従順で反乱の意思があるようには思われなかった。というよりも、他者を攻撃するという意思そのものが欠落しているように思われたのである。

 一年弱見てきた中で、オイゲンの能力は大したことはないと断言できる。
 ただ、勤務態度は良好で、真面目で従順なのは確かなようだ。
 ハドリからすれば、社内の他の者よりも遥かに手下として使いやすそうな人物に見える。

 そのような人物を装っている可能性も考えられたが、OP社による約一年の監視で尻尾をつかませないというのは不可能に近い。
 ハドリにはオイゲンがそれほどの能力者だとは考えられなかったし、自社の監視体制に問題があったとも思えなかった。

 それならば、変に才気走った部下よりよっぽど信頼できる。
 中途半端に能力のある者は、いつハドリのコントロールを外れるかわからないという危うさを持つ。
 オイゲンならば、その心配は無用であろう。

 (……他の選択肢よりはマシ、か……いいだろう、奴がどこまでやれるか見てやろうじゃないか。ECN社を押さえ込めなければ、それを理由に処分する、という手もある)
 ここでハドリはオイゲンをECN社に戻すことを決断したのである。

 一方でヘンミの身柄を拘束し、人質のような形で自社に置いておくことも忘れていなかった。ヘンミの方は、やや才気走った面が感じられ、ハドリにとっても油断ならない人物に思えたのである。
 また、拘束した「タブーなきエンジニア集団」のメンバーをそのままにし、それを公に発表することもあわせて行った。
 表向きの理由は事件の背後関係を調査するためであるが、ウォーリー達に対する人質の意味を持たせるのが真の目的だ。

 ハドリにとってオイゲンをECN社に戻すという決断は必ずしも本意ではなかった。
 多くの選択肢を検討した結果、もっとも得るものが多い選択肢を選ぶという決断を彼は好んだ。
 しかし、今回の決断は消去法で最も損が少ない選択肢を選んだだけに過ぎないからだ。
 
 ハドリの不本意な決断の結果、オイゲン・イナはLH五〇年一月二七日、約一年ぶりに自分の会社に戻ってきたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...