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第三章
126:第二の面会者
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「……本当に大丈夫なの? 何かうまく言いくるめられたような気がするんだけど。何かあったらロビーの責任で対処してくれよ」
モリタが不安げな表情で訴えてきた。
トニーが三人に依頼した教材作成の業務は金額的には魅力だ。だが、要求される水準が未知数だった。
トニーの性格からして、かなり高い水準を要求される可能性があるのはロビーも覚悟している。
そのためロビーは、
「この状況じゃ仕方ねえだろ。他に選択肢があるわけじゃねえ」
と完全に開き直っている。
今の状態でセスがこれ以上職業学校に残ることは困難そうであったし、ロビーとモリタが職業学校に残ったとしても、教材を作るより経済的には厳しくなるからだ。
「……退職金もちゃんと振り込まれるのかなぁ。だまされていないよね?」
モリタはなおも不安げだ。ただ、この不安が的中しなかったことは後日判明する。
振込日には、規定の五割増の退職金が振り込まれていたのだ。実際にトニーが学校に掛け合った結果である。
セスはというと、病院生活が長くなる方に不安の矛先が向いているようで、仕事があることに安堵している様子だ。少なくとも当面の収入の不安からは解放される。
「まあ、三人いれば何とかなるだろうよ」
ロビーは楽観的だが、モリタが反論する。
「メルツ先生の手伝いの方はどうなっちゃうんだよ?」
「あ、やべ……」
ロビーの頭の中からは、マーケティング学科の仕事のことはきれいさっぱり消え去っていたのだ。
「こっちの方が取り返しがつかないよ! どうしてくれるんだ?!」
モリタはそう喚いて慌てて病室を出ようとする。
「どうしようってんだ?」
「決まっているよ! シヴァ先生を追いかけて退職願を取り返すんだ。今ならまだ間に合う」
「今さらどうしようってんだ!」
ロビーが力いっぱいモリタの肩を引き寄せようとしたが、モリタが動きを止めたため、ロビーが椅子ごと後ろにひっくり返ってしまった。
「急になんだよ!」
ロビーが身体を起こしながら抗議したが、モリタは直立不動の姿勢でその場に立ちつくしていた。
その視線がドアの方に向いていたので、ロビーも無意識に視線をそちらに向けた。
ドアのところには明るいベージュのスーツを着た長身の女性が紙袋を抱えて立っていた。
授業を終えたレイカ・メルツだ。トレードマークの赤いスカーフは今日も首に巻かれている。
「……学校から連絡もらって、飛んできたんだけど……」
レイカは困惑した様子で病室に入ってきた。
「あ、わざわざすみません」
セスがベッドの上で頭を下げた。
レイカはベッドの脇へ行き、紙袋からファイルを取り出してセスに手渡す。
「これ、昨日話していた資料。時間はあると思うから、体調が許せば読んでみて。専門じゃないから、十分なものじゃないかもしれないけど……」
「変な要求をしてしまってすみません。お忙しいのに……」
セスが答えるや否や、モリタが口を挟んだ。
「そうだぞ、セス。メルツ先生は多忙なんだから、甘えて変な注文ばかりするんじゃないぞ」
それを聞いたロビーがモリタの耳元で何かささやくと、モリタは「まあ、今回は仕方ないか」と引き下がった。
「……そういえば、先生。学校の方に行けなくなって申し訳ありません」
ロビーが申し訳なさそうに頭を下げた。
「授業は一コマだけだったし、今日の内容なら問題無いわ。学校から何か聞いてる?」
レイカの言葉にセス、ロビー、モリタの三人は首を横に振った。
「そう……」
レイカの言葉が途切れたのにセスが気づいた。
「メルツ先生、何かあったのですか? 僕達は何を言われても構いませんから、よかったらお話いただけませんか? 先生の立場が悪くなるようなことであれば、無理に、とは言いませんけど」
セスがまくし立てるように尋ねてきたので、レイカは少し考えてから、いいわ、と話を始めた。
レイカの話によると今日の午前中に緊急幹部会議が開かれたらしい。
幹部会議には、通常、各学科から代表二名の教官と、学校側の役員クラスが参加する。
会議では職員の人員削減と教官付きスタッフの増員とが決定したという。
職員については、事実上総務関係と警備以外の者はほぼ全員が解雇となる見通しらしい。
スタッフの増員についても全学科一律とはいかないそうだ。
スタッフ数の少ないリスク管理学科が優先され、マーケティング学科については現状維持となる見通しである。
「……スタッフの増員をするんだけど、むしろ採用要件は厳しくなっているわ。他社での業務経験八年以上が条件になりそうなの。私だって引っかかっちゃうわ。職員は減らす方向だし……何とか君たちの雇用は確保してもらうよう理事長に掛け合ってみるけど……」
そう言ってレイカはふぅとため息をついた。
「……確かに先生でも引っかかるな。先生を手伝えなくなってしまうのは不本意だが、こっちはこっちで何とかできる目処は立ってるから先生が心配することじゃないです」
「そうですよ、メルツ先生。先生を手伝えなくなるのは申し訳ないのですが、ロビーの言うとおりです。僕らのことは僕らで何とかできます」
ロビーとモリタの言葉にレイカが驚いた表情を見せた。
「え……?! どういうこと?」
モリタが中心になって、トニーとのやりとりの内容をレイカに話した。
「……事後報告になってすみません」
モリタがレイカに謝罪した。
「……この状況では仕方無いわ」
「だから、先生さ、悪いんだけど先生のところの仕事ができなくなったんですよ。昨日ああ言った手前、病院に持ち込めるものなら、裏からノーギャラで手伝いますけどね」
ロビーが申し訳なさそうにレイカに申し出た。さすがに言いだしっぺなので気にかけていたらしい。
「……ちょっと待ってね」
レイカが額に手を当てて考え込んだ。
モリタが不安げな表情で訴えてきた。
トニーが三人に依頼した教材作成の業務は金額的には魅力だ。だが、要求される水準が未知数だった。
トニーの性格からして、かなり高い水準を要求される可能性があるのはロビーも覚悟している。
そのためロビーは、
「この状況じゃ仕方ねえだろ。他に選択肢があるわけじゃねえ」
と完全に開き直っている。
今の状態でセスがこれ以上職業学校に残ることは困難そうであったし、ロビーとモリタが職業学校に残ったとしても、教材を作るより経済的には厳しくなるからだ。
「……退職金もちゃんと振り込まれるのかなぁ。だまされていないよね?」
モリタはなおも不安げだ。ただ、この不安が的中しなかったことは後日判明する。
振込日には、規定の五割増の退職金が振り込まれていたのだ。実際にトニーが学校に掛け合った結果である。
セスはというと、病院生活が長くなる方に不安の矛先が向いているようで、仕事があることに安堵している様子だ。少なくとも当面の収入の不安からは解放される。
「まあ、三人いれば何とかなるだろうよ」
ロビーは楽観的だが、モリタが反論する。
「メルツ先生の手伝いの方はどうなっちゃうんだよ?」
「あ、やべ……」
ロビーの頭の中からは、マーケティング学科の仕事のことはきれいさっぱり消え去っていたのだ。
「こっちの方が取り返しがつかないよ! どうしてくれるんだ?!」
モリタはそう喚いて慌てて病室を出ようとする。
「どうしようってんだ?」
「決まっているよ! シヴァ先生を追いかけて退職願を取り返すんだ。今ならまだ間に合う」
「今さらどうしようってんだ!」
ロビーが力いっぱいモリタの肩を引き寄せようとしたが、モリタが動きを止めたため、ロビーが椅子ごと後ろにひっくり返ってしまった。
「急になんだよ!」
ロビーが身体を起こしながら抗議したが、モリタは直立不動の姿勢でその場に立ちつくしていた。
その視線がドアの方に向いていたので、ロビーも無意識に視線をそちらに向けた。
ドアのところには明るいベージュのスーツを着た長身の女性が紙袋を抱えて立っていた。
授業を終えたレイカ・メルツだ。トレードマークの赤いスカーフは今日も首に巻かれている。
「……学校から連絡もらって、飛んできたんだけど……」
レイカは困惑した様子で病室に入ってきた。
「あ、わざわざすみません」
セスがベッドの上で頭を下げた。
レイカはベッドの脇へ行き、紙袋からファイルを取り出してセスに手渡す。
「これ、昨日話していた資料。時間はあると思うから、体調が許せば読んでみて。専門じゃないから、十分なものじゃないかもしれないけど……」
「変な要求をしてしまってすみません。お忙しいのに……」
セスが答えるや否や、モリタが口を挟んだ。
「そうだぞ、セス。メルツ先生は多忙なんだから、甘えて変な注文ばかりするんじゃないぞ」
それを聞いたロビーがモリタの耳元で何かささやくと、モリタは「まあ、今回は仕方ないか」と引き下がった。
「……そういえば、先生。学校の方に行けなくなって申し訳ありません」
ロビーが申し訳なさそうに頭を下げた。
「授業は一コマだけだったし、今日の内容なら問題無いわ。学校から何か聞いてる?」
レイカの言葉にセス、ロビー、モリタの三人は首を横に振った。
「そう……」
レイカの言葉が途切れたのにセスが気づいた。
「メルツ先生、何かあったのですか? 僕達は何を言われても構いませんから、よかったらお話いただけませんか? 先生の立場が悪くなるようなことであれば、無理に、とは言いませんけど」
セスがまくし立てるように尋ねてきたので、レイカは少し考えてから、いいわ、と話を始めた。
レイカの話によると今日の午前中に緊急幹部会議が開かれたらしい。
幹部会議には、通常、各学科から代表二名の教官と、学校側の役員クラスが参加する。
会議では職員の人員削減と教官付きスタッフの増員とが決定したという。
職員については、事実上総務関係と警備以外の者はほぼ全員が解雇となる見通しらしい。
スタッフの増員についても全学科一律とはいかないそうだ。
スタッフ数の少ないリスク管理学科が優先され、マーケティング学科については現状維持となる見通しである。
「……スタッフの増員をするんだけど、むしろ採用要件は厳しくなっているわ。他社での業務経験八年以上が条件になりそうなの。私だって引っかかっちゃうわ。職員は減らす方向だし……何とか君たちの雇用は確保してもらうよう理事長に掛け合ってみるけど……」
そう言ってレイカはふぅとため息をついた。
「……確かに先生でも引っかかるな。先生を手伝えなくなってしまうのは不本意だが、こっちはこっちで何とかできる目処は立ってるから先生が心配することじゃないです」
「そうですよ、メルツ先生。先生を手伝えなくなるのは申し訳ないのですが、ロビーの言うとおりです。僕らのことは僕らで何とかできます」
ロビーとモリタの言葉にレイカが驚いた表情を見せた。
「え……?! どういうこと?」
モリタが中心になって、トニーとのやりとりの内容をレイカに話した。
「……事後報告になってすみません」
モリタがレイカに謝罪した。
「……この状況では仕方無いわ」
「だから、先生さ、悪いんだけど先生のところの仕事ができなくなったんですよ。昨日ああ言った手前、病院に持ち込めるものなら、裏からノーギャラで手伝いますけどね」
ロビーが申し訳なさそうにレイカに申し出た。さすがに言いだしっぺなので気にかけていたらしい。
「……ちょっと待ってね」
レイカが額に手を当てて考え込んだ。
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