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第三章
123:転院
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翌日、セスの転院が決まった。昨晩、ロビーとモリタは一旦帰宅したが、セスの転院を手伝うために再び昨晩訪れたチクハ・タウンの病院へと顔を出したのだ。
転院とはいっても、エクザロームには救急車など無い。湿地帯が多く、地盤が極端に軟弱なこの土地では自動車を使って移動などできない。
また、石油などの化石燃料も乏しいから、車があっても動かす燃料が無い。
職業学校のあるチクハ・タウンからECN社本社のあるハモネスの間はベルト状に地盤の頑丈な土地があり、この上を鉄道が走っている。
メディットのあるジンもこの鉄道の沿線上だ。昨日より少し回復したセスは車椅子に乗せられて鉄道で転院先のメディットまで移動することになった。
医師や病院職員が移動を手伝う場合もあれば、今回のケースのように知人が移動を手伝う場合もある。
セスは、移動中ずっと力の無い声で
「メディットに転院、ってどうして? 何をするの?」
とロビーやモリタ、そして同行した医師に理由を問い続けていた。
ロビーは、
「前に検査設備の整った病院で一度検査をする必要があると言われたろ。この際だから徹底的に検査しようってだけの話だ。なに、心配要らねぇよ」
と明るくセスに答えたものだ。
「先生、実のところはどうなんですか?」
セスは同行の医師に聞いた。
実は病院に出る前にも主治医に同じ質問をしていたが、答えは皆同じであった。
これは、前日のうちにセスの主治医とロビーたちの間で口裏合わせが行われた結果でもある。
しかし、実のところ、医師たちにも診断を下すためには情報が少なすぎたのは事実であった。
「何だよ、俺を信用してくれないのか?」
ロビーが不満そうな表情を見せた。
「……いや、そういう訳じゃないけど、専門家の意見も聞きたかったから……」
セスはそう言ってお茶を濁したものの、今度は携帯端末を広げてネットに情報がないか調べ始める始末である。さすがに、これは同行の医師に咎められた。
「じゃあ、情報が集まるまで僕は自宅で待機しているよ」
セスがそう宣言して、メディットに通信を入れようとしたものだから、同行の医師が慌てた。
ロビーは落ち着いたもので、セスから携帯端末を取り上げ、「この俺が信用できないのか?」とすごんでみせた。
「だけど……」
とセスは抵抗を見せたが、それ以上は何も言えない。
「先生、今のうち」
モリタにそう言われて同行の医師はセスの腕を取り、鎮静剤を注射する。
セスは、抵抗できずに薬の力でぐったりとなった。
「……やれやれ、君たちの忠告を聞いていてよかったよ」
医師がロビーとモリタに頭を下げた。
「あ、いや。普段は大人しくていい奴なんだよ。ただ、心配性がひどくて、こういうときにパニックになるんですわ。薬の投与が問題なくて助かりました。本当に普段はいい奴なのにねぇ」
ロビーはこれでもセスをかばっているのである。口が悪いのは生まれつきだ。
「この際だから、心療内科にも行ってもらって精神的に何か問題がないか検査してもらった方がいいです」
モリタがロビーに続いた。モリタの場合は純粋に懸念を表明しただけだ。
ロビーが無言でモリタの頭をパシッとはたいた。口を慎め、のサインである。
このときはモリタも大人しく黙った。急いでセスをメディットに運ばないと、薬が切れてまたややこしいことになるかもしれなかったからだ。
一時間ほどでメディットに到着し、直ちに入院の手続きが取られる。
この日は緊急の検査が一つあって、病室に入るや否や、セスは検査に連れ出されてしまった。
同行した医師はメディットの医師への引継ぎを済ませて自分の病院へと帰ってしまった。
そのため、病室にはロビーとモリタだけが残された。この病室には他の入院患者がいないのだ。
「セス、大丈夫かな……」
モリタが心配そうに窓から外を見ている。
「ここはエクザローム一の病院だ。ダメなわけないだろうが!」
ロビーはそう言って否定した。口調が強くなったのは、彼自身自覚していない不安の表れだろう。
今回ばかりは時間がかかりそうだな、というのはロビーも感じていた。
チクハ・タウンの病院も決して小さいものではない。その病院が対応できないからと言ってメディットを紹介するくらいの症状である。それなりに重大なはずだ。
ロビーはセスの入院が長期化することを懸念していた。三ヶ月くらいなら休職で何とか対応できる。
ただ、半年かそれ以上となるとさすがに学校も休職扱いで対応しないだろう。
職業学校の職員である限り、セスの入院費用も生活費の心配も要らない。
だが、無職となってしまっては話が別だ。
メディットに出資している企業や団体に本人か家族が所属している限り、メディットでは無料で治療を受けられる。
しかし、セスに家族はないから、職業学校を辞めさせられたら、治療にかかる費用は全て自腹だ。
セスにそのような経済力がないのは明らかだし、ロビーの稼ぎでもセスを支えきるのは難しいだろう。
(……しゃーねぇ、学校に掛け合ってセスの休職を認めさせるか、俺が追加で別の仕事をするか、だな……)
「おい、モリタ。セスの入院が長引きそうだったら、お前も手伝え!」
ロビーが立ち上がってモリタに命令した。
転院とはいっても、エクザロームには救急車など無い。湿地帯が多く、地盤が極端に軟弱なこの土地では自動車を使って移動などできない。
また、石油などの化石燃料も乏しいから、車があっても動かす燃料が無い。
職業学校のあるチクハ・タウンからECN社本社のあるハモネスの間はベルト状に地盤の頑丈な土地があり、この上を鉄道が走っている。
メディットのあるジンもこの鉄道の沿線上だ。昨日より少し回復したセスは車椅子に乗せられて鉄道で転院先のメディットまで移動することになった。
医師や病院職員が移動を手伝う場合もあれば、今回のケースのように知人が移動を手伝う場合もある。
セスは、移動中ずっと力の無い声で
「メディットに転院、ってどうして? 何をするの?」
とロビーやモリタ、そして同行した医師に理由を問い続けていた。
ロビーは、
「前に検査設備の整った病院で一度検査をする必要があると言われたろ。この際だから徹底的に検査しようってだけの話だ。なに、心配要らねぇよ」
と明るくセスに答えたものだ。
「先生、実のところはどうなんですか?」
セスは同行の医師に聞いた。
実は病院に出る前にも主治医に同じ質問をしていたが、答えは皆同じであった。
これは、前日のうちにセスの主治医とロビーたちの間で口裏合わせが行われた結果でもある。
しかし、実のところ、医師たちにも診断を下すためには情報が少なすぎたのは事実であった。
「何だよ、俺を信用してくれないのか?」
ロビーが不満そうな表情を見せた。
「……いや、そういう訳じゃないけど、専門家の意見も聞きたかったから……」
セスはそう言ってお茶を濁したものの、今度は携帯端末を広げてネットに情報がないか調べ始める始末である。さすがに、これは同行の医師に咎められた。
「じゃあ、情報が集まるまで僕は自宅で待機しているよ」
セスがそう宣言して、メディットに通信を入れようとしたものだから、同行の医師が慌てた。
ロビーは落ち着いたもので、セスから携帯端末を取り上げ、「この俺が信用できないのか?」とすごんでみせた。
「だけど……」
とセスは抵抗を見せたが、それ以上は何も言えない。
「先生、今のうち」
モリタにそう言われて同行の医師はセスの腕を取り、鎮静剤を注射する。
セスは、抵抗できずに薬の力でぐったりとなった。
「……やれやれ、君たちの忠告を聞いていてよかったよ」
医師がロビーとモリタに頭を下げた。
「あ、いや。普段は大人しくていい奴なんだよ。ただ、心配性がひどくて、こういうときにパニックになるんですわ。薬の投与が問題なくて助かりました。本当に普段はいい奴なのにねぇ」
ロビーはこれでもセスをかばっているのである。口が悪いのは生まれつきだ。
「この際だから、心療内科にも行ってもらって精神的に何か問題がないか検査してもらった方がいいです」
モリタがロビーに続いた。モリタの場合は純粋に懸念を表明しただけだ。
ロビーが無言でモリタの頭をパシッとはたいた。口を慎め、のサインである。
このときはモリタも大人しく黙った。急いでセスをメディットに運ばないと、薬が切れてまたややこしいことになるかもしれなかったからだ。
一時間ほどでメディットに到着し、直ちに入院の手続きが取られる。
この日は緊急の検査が一つあって、病室に入るや否や、セスは検査に連れ出されてしまった。
同行した医師はメディットの医師への引継ぎを済ませて自分の病院へと帰ってしまった。
そのため、病室にはロビーとモリタだけが残された。この病室には他の入院患者がいないのだ。
「セス、大丈夫かな……」
モリタが心配そうに窓から外を見ている。
「ここはエクザローム一の病院だ。ダメなわけないだろうが!」
ロビーはそう言って否定した。口調が強くなったのは、彼自身自覚していない不安の表れだろう。
今回ばかりは時間がかかりそうだな、というのはロビーも感じていた。
チクハ・タウンの病院も決して小さいものではない。その病院が対応できないからと言ってメディットを紹介するくらいの症状である。それなりに重大なはずだ。
ロビーはセスの入院が長期化することを懸念していた。三ヶ月くらいなら休職で何とか対応できる。
ただ、半年かそれ以上となるとさすがに学校も休職扱いで対応しないだろう。
職業学校の職員である限り、セスの入院費用も生活費の心配も要らない。
だが、無職となってしまっては話が別だ。
メディットに出資している企業や団体に本人か家族が所属している限り、メディットでは無料で治療を受けられる。
しかし、セスに家族はないから、職業学校を辞めさせられたら、治療にかかる費用は全て自腹だ。
セスにそのような経済力がないのは明らかだし、ロビーの稼ぎでもセスを支えきるのは難しいだろう。
(……しゃーねぇ、学校に掛け合ってセスの休職を認めさせるか、俺が追加で別の仕事をするか、だな……)
「おい、モリタ。セスの入院が長引きそうだったら、お前も手伝え!」
ロビーが立ち上がってモリタに命令した。
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