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第三章
120:新任教官、協力者を得る
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一体どうしたのかというロビーの問いにレイカは少し遠い目をして口を開いた。
「……君達はいつも一緒にいるみたいだけど、ずっとそうなの?」
「そうですね、職業学校の学生時代からずっとそうです」
レイカの問いに最初に答えたのはモリタだった。
「……そう。仲が良くていいわね。仕事は楽しい?」
「仲が良い、ですか? そう見えますか?」
モリタがセスとロビーを見やってからそう答えた。
ロビーが、おい、とモリタを小突いた。
その様子を見てレイカがくすくすと笑った。講義中などにはあまり見せない表情だ。
子供っぽいのが地なのかもしれないな、とセスは思った。
「私は皆さんのサポートに支えられて、何とかここまでくることができたと思っています。本当にありがとう。
逆に皆さんから、私が何をすればいいかお話してくださると、助かります」
レイカの態度は優等生的なもので、そつがない。
これを面白くないと取るか、できた人だと取るかは人それぞれであろう。
「だったら、俺たちの前ではあんまりかしこまらないでくれ」
ロビーがグラスのビールをあおった。
「え……?」
「ちょっと気になっているんだけどさ、先生は他の教官とか職員の人とあまり話をしないじゃないですか。それは組織の中でどうかな、と思うんですがね」
ロビーの指摘は実はレイカにとっても痛いところである。
レイカは職業学校の教官の中でも他の教官や職員などとの交流が極端に少ない。
モリタやセスは疑問すら持たなかったが、今回モリタ達の誘いに乗ったのも不思議なくらいなのだ。
確かに職業学校の教官には個別の教官室が与えられるため、教官同士の交流は必ずしも盛んではない。
通常、新任の教官は秘書などのスタッフを帯同して着任するケースが多いが、若い彼女には帯同させられるメンバーがいなかった。前職の職場の人間も誘ってはみたのだが、良い返事が得られなかったのだ。
職業学校ではスタッフの地位はどうしても教官より低くなる。
前職の職場ではチームリーダーを除いて全員同じ立場だった。
それがいきなり職業学校で年少者の下につくことができるか、といえばレイカですら難しいな、と思っている。
スタッフを帯同しなかった彼女を見て、職業学校は女性のスタッフ三名を彼女につけた。
学校側としても若い女性の教官という事で人員配置にはかなり気を遣ったのである。
しかし、これが逆効果だった。他の学科からクレームが入ったのである。
確かに学校のレイカに対する待遇は破格であった。
スタッフを帯同していない新任教官に複数のスタッフをつけること自体が異例なのだ。
また、二人以下のスタッフで対応している教官も多かったので、これが不満の種となったのだ。
この不満を知ったレイカは、自分についたスタッフとも相談をして、彼女らの異動を決めた。
レイカ自身、女性スタッフの扱いに苦慮していた部分もあった。
自分より年上の女性達を部下として扱うのは少々やりにくかった。
学校側も事態を重く見て、教官につけるスタッフの増員を図ろうとしたのだが、その矢先に「タブーなきエンジニア集団」による風力エネルギー研究所へのテロ事件が発生してしまった。
スタッフの増員どころか、一部のスタッフは警備担当に回されてしまったのである。
その結果、レイカには直属のスタッフがつかないことになってしまった。
学校側も気を遣ってレイカの希望を聞いたところ、いつも三人で行動している職員の名前を出して、自分の授業のサポートを担当して欲しいと申し出たのだ。
男性の三人組なら、女性と違ってそれほど気を遣わなくて済むとレイカは考えたのである。
教官直属のスタッフではないセスたちを名指しで指名するという行動に学校側も驚いたのだが、それならばということで承知した。
一般職員は教官直属のスタッフより地位や待遇が下であるため、新任のレイカのところに配属しても、他の教官などから苦情が出にくいと考えたためだった。
「いつも君たちが一緒なのを見て、いいチームだな、と思って思い切って指名してみたの。息がピッタリ合ってるから、ああ、君たちを選んでよかった、って思っているの」
「ありがとうございます。でも、テレビとかで見る有名な人にそう言われちゃうと、驚いちゃいますね」
レイカの言葉にセスがぺこりと頭を下げた。
「あら、私なんか会社の名前でテレビに出ていただけだから……
そこらへんにいる普通の人よ。年だって君たちと大して変わらないし」
「いえいえ、そんなことありませんって! メルツ先生は実際にマーケターとして誰も真似できないくらいのヒット商品を産んだのですから!」
モリタがオーバーアクション気味に手を振りながらレイカを弁護する。
「ま、先生。そういうこった。あまり深刻に考えない方がいいんじゃないかな」
と今度はロビーだ。
「……ありがとう。でも、君たちと違って私は一緒に仕事をするスタッフがいないから……」
「うちらはスタッフ採用じゃなくて単なる一般職員だけど、先生一人のスタッフ的な仕事なら別に三人で請け負っても問題ないけどな。なぁ、モリタ」
ロビーはそう言ってモリタの方を見た。
モリタは、もちろんです、と大げさにうなずいている。
「うーん、一般職員の方にそこまでお願いするのは申し訳ないし、君たちにはリスク管理学科のお仕事もあるわけだし……」
レイカは迷っているが、ロビーが面倒くさい、といわんばかりに決め付ける。
「そんなもん、先生が遠慮することじゃないでしょうが! うちらを見込んで選んだっていうのなら、学科なんて関係ないでしょうが。一緒の職場で仕事をする同僚でしょ! 仲間みたいなもんですよ」
モリタが驚いて、おいおい、とロビーを止めに入るが、ロビーはモリタの制止を無視した。
「で、先生、どうなのよ? 先生はうちらをスタッフみたいに扱いたいと思うの?」
ロビーの質問は直球だ。モリタはしつこく制止を続けていたが、ロビーは言いたいことを言い切ってしまった。
レイカは驚いて口に手を当てたまま呆然としていたが、突然我に返り、
「そうね! 『案ずるより産むが易し』ともいうしね。お願いしちゃっていいかしら?」
と三人に向かって頭を下げた。
セスやロビーを差し置いて、モリタが二つ返事で申し出を受け入れたのは言うまでもない。
「……君達はいつも一緒にいるみたいだけど、ずっとそうなの?」
「そうですね、職業学校の学生時代からずっとそうです」
レイカの問いに最初に答えたのはモリタだった。
「……そう。仲が良くていいわね。仕事は楽しい?」
「仲が良い、ですか? そう見えますか?」
モリタがセスとロビーを見やってからそう答えた。
ロビーが、おい、とモリタを小突いた。
その様子を見てレイカがくすくすと笑った。講義中などにはあまり見せない表情だ。
子供っぽいのが地なのかもしれないな、とセスは思った。
「私は皆さんのサポートに支えられて、何とかここまでくることができたと思っています。本当にありがとう。
逆に皆さんから、私が何をすればいいかお話してくださると、助かります」
レイカの態度は優等生的なもので、そつがない。
これを面白くないと取るか、できた人だと取るかは人それぞれであろう。
「だったら、俺たちの前ではあんまりかしこまらないでくれ」
ロビーがグラスのビールをあおった。
「え……?」
「ちょっと気になっているんだけどさ、先生は他の教官とか職員の人とあまり話をしないじゃないですか。それは組織の中でどうかな、と思うんですがね」
ロビーの指摘は実はレイカにとっても痛いところである。
レイカは職業学校の教官の中でも他の教官や職員などとの交流が極端に少ない。
モリタやセスは疑問すら持たなかったが、今回モリタ達の誘いに乗ったのも不思議なくらいなのだ。
確かに職業学校の教官には個別の教官室が与えられるため、教官同士の交流は必ずしも盛んではない。
通常、新任の教官は秘書などのスタッフを帯同して着任するケースが多いが、若い彼女には帯同させられるメンバーがいなかった。前職の職場の人間も誘ってはみたのだが、良い返事が得られなかったのだ。
職業学校ではスタッフの地位はどうしても教官より低くなる。
前職の職場ではチームリーダーを除いて全員同じ立場だった。
それがいきなり職業学校で年少者の下につくことができるか、といえばレイカですら難しいな、と思っている。
スタッフを帯同しなかった彼女を見て、職業学校は女性のスタッフ三名を彼女につけた。
学校側としても若い女性の教官という事で人員配置にはかなり気を遣ったのである。
しかし、これが逆効果だった。他の学科からクレームが入ったのである。
確かに学校のレイカに対する待遇は破格であった。
スタッフを帯同していない新任教官に複数のスタッフをつけること自体が異例なのだ。
また、二人以下のスタッフで対応している教官も多かったので、これが不満の種となったのだ。
この不満を知ったレイカは、自分についたスタッフとも相談をして、彼女らの異動を決めた。
レイカ自身、女性スタッフの扱いに苦慮していた部分もあった。
自分より年上の女性達を部下として扱うのは少々やりにくかった。
学校側も事態を重く見て、教官につけるスタッフの増員を図ろうとしたのだが、その矢先に「タブーなきエンジニア集団」による風力エネルギー研究所へのテロ事件が発生してしまった。
スタッフの増員どころか、一部のスタッフは警備担当に回されてしまったのである。
その結果、レイカには直属のスタッフがつかないことになってしまった。
学校側も気を遣ってレイカの希望を聞いたところ、いつも三人で行動している職員の名前を出して、自分の授業のサポートを担当して欲しいと申し出たのだ。
男性の三人組なら、女性と違ってそれほど気を遣わなくて済むとレイカは考えたのである。
教官直属のスタッフではないセスたちを名指しで指名するという行動に学校側も驚いたのだが、それならばということで承知した。
一般職員は教官直属のスタッフより地位や待遇が下であるため、新任のレイカのところに配属しても、他の教官などから苦情が出にくいと考えたためだった。
「いつも君たちが一緒なのを見て、いいチームだな、と思って思い切って指名してみたの。息がピッタリ合ってるから、ああ、君たちを選んでよかった、って思っているの」
「ありがとうございます。でも、テレビとかで見る有名な人にそう言われちゃうと、驚いちゃいますね」
レイカの言葉にセスがぺこりと頭を下げた。
「あら、私なんか会社の名前でテレビに出ていただけだから……
そこらへんにいる普通の人よ。年だって君たちと大して変わらないし」
「いえいえ、そんなことありませんって! メルツ先生は実際にマーケターとして誰も真似できないくらいのヒット商品を産んだのですから!」
モリタがオーバーアクション気味に手を振りながらレイカを弁護する。
「ま、先生。そういうこった。あまり深刻に考えない方がいいんじゃないかな」
と今度はロビーだ。
「……ありがとう。でも、君たちと違って私は一緒に仕事をするスタッフがいないから……」
「うちらはスタッフ採用じゃなくて単なる一般職員だけど、先生一人のスタッフ的な仕事なら別に三人で請け負っても問題ないけどな。なぁ、モリタ」
ロビーはそう言ってモリタの方を見た。
モリタは、もちろんです、と大げさにうなずいている。
「うーん、一般職員の方にそこまでお願いするのは申し訳ないし、君たちにはリスク管理学科のお仕事もあるわけだし……」
レイカは迷っているが、ロビーが面倒くさい、といわんばかりに決め付ける。
「そんなもん、先生が遠慮することじゃないでしょうが! うちらを見込んで選んだっていうのなら、学科なんて関係ないでしょうが。一緒の職場で仕事をする同僚でしょ! 仲間みたいなもんですよ」
モリタが驚いて、おいおい、とロビーを止めに入るが、ロビーはモリタの制止を無視した。
「で、先生、どうなのよ? 先生はうちらをスタッフみたいに扱いたいと思うの?」
ロビーの質問は直球だ。モリタはしつこく制止を続けていたが、ロビーは言いたいことを言い切ってしまった。
レイカは驚いて口に手を当てたまま呆然としていたが、突然我に返り、
「そうね! 『案ずるより産むが易し』ともいうしね。お願いしちゃっていいかしら?」
と三人に向かって頭を下げた。
セスやロビーを差し置いて、モリタが二つ返事で申し出を受け入れたのは言うまでもない。
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