ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

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第三章

115:ウォーリー、思いとどまる?

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 ウォーリーは資金の動きからOP社がウォーリー達の居場所を特定するのは困難であるという見解を示した。

 サクライなどはこの見解に必ずしも納得していなかった。
 しかし、結局はウォーリーの言葉に全員従うしかない。

 OP社に関してはともかく、ECN社の内部情報にもっとも詳しいのはウォーリーなのだ。
 これはECN社時代の地位も影響している。
 仲間内でECN社時代の役職がもっとも上だったのはウォーリーだから、それだけ機密情報に触れることも多い。

 また、ECN社の社長のオイゲンが意図的にウォーリーに重要な情報に触れる機会を設けたということも影響している。
 オイゲンの職業学校時代の同級生であったミヤハラなどはそのことを知っていたから、あえてウォーリーに反対意見を述べなかったのだ。

 サクライが無言で部屋に置かれているテレビの電源を入れた。
「タブーなきエンジニア集団」の仲間がどうなっているかの情報が欲しかったからだ。

 ようやく「タブーなきエンジニア集団」本部の近くにおける混乱が治まったのか、画面には中継と称して「タブーなきエンジニア集団」の本部が映っている。

 ウォーリーが凶悪犯として指名手配されていることは相変わらず報じられていた。
 それだけではなく、「タブーなきエンジニア集団」が危険思想を持つ団体として、その関係者を見つけ次第、OP社の治安改革センターに報告するように、という通知も出されていた。
 また、逮捕者も十数名出ていることも報じられた。
 名前や顔写真などが明らかにされなかったから、誰が捕まったかも、逮捕が事実かも不明ではある。

 しかしウォーリーには、それで十分だった。
 ミヤハラやサクライなどからも、ウォーリーの肩が怒りで震えているのがわかる。

 ミヤハラは部屋のドアに一番近い位置に座っていた。そして、その場所から動こうとしない。
 ウォーリーが怒りに任せて肩を怒らせながら部屋を出ようとしたが、ミヤハラが邪魔で部屋の外に出ることができない。

「ミヤハラ、そこをどいてくれッ!」
 ウォーリーがミヤハラを押しのけて部屋を出ようとするが、ミヤハラが動かない。

「いい加減にしてくれっ!」
 ウォーリーがミヤハラを無理矢理押しやろうとしたが、今度はサクライに後ろから羽交い絞めにされた。
 ウォーリーの方がサクライより一〇センチばかり背が高いが、サクライが背中を反らせてウォーリーを持ち上げる。

「サクライ! 何をするんだ! 俺がうちの仲間を救いに行かなくてどうするっ!」
 ウォーリーは足をばたつかせるが、サクライはピクリとも動かない。
 力と力の勝負では明らかにサクライに分があるし、足が浮いているので力を入れようとしても力が入らない。

「マネージャー! 一人で丸腰であなたが出て、何になるというのです?」
 ミヤハラは落ち着いた口調で諭すようにウォーリーに問いかけた。

「黙れ、ミヤハラ! うちのメンバーに危険が及んでいるんだ! トップが救いに行かなくて何になる!」
 ウォーリーの声はほとんどわめくようであった。

「いいところ、犬死した死体というところでしょう」
 ウォーリーの背中から冷静にサクライが言った。
「何?!」
 ウォーリーは色めき立ったが、サクライは手を緩めない。

「誰がハドリに拘束されて、そしてどこに連れて行かれたもわからない状況で何をするというのですか。落ち着いて情報の収集に努める必要があります」
 今度はエリックがそう答えた。彼の言うとおり、どの仲間がどこに拘束されたか、という情報はウォーリーには無い。

「それでもトップは行かねばならん時がある! それが今だっ! ハドリの奴にどんな目にあわされているかもわからん!」
 ウォーリーの怒りは治まらない。

「いくらなんでも、メンバー全員を捕まえて処罰することは無理でしょうよ。三千人以上をまとめて捕えるだけの人員も相手には無いでしょうし、全員処罰したら市民だって黙ってはいないでしょうよ」
 サクライがウォーリーの後ろから言った。
 まだウォーリーを羽交い絞めにしているのだ。

「とにかく情報をつかんでから動きましょう。それからでも遅くないはずです」
 エリックが仲裁に入った。しかし、ウォーリーは納得しない。

「……エリック、ハドリの奴なら全ての仲間を処刑しかねないぞ! 現に俺達は建物ごと吹き飛ばされかけたし、他にも建物ごと吹き飛ばされた奴らがいるじゃないか! それを『情報をつかんでから動く』だと?! 手遅れになるに決まってるじゃないか!
 サクライも早く離せっ!間に合わなかったらどうするんだ?!」
「……では」
 ウォーリーの様子を見かねたのか、ミヤハラが重い口を開いた。

「ここは私に任せてもらいましょう」
 ミヤハラの言葉に全員が振り向いた。
「エリックの言うとおり、今は情報を集めましょう」
 ミヤハラの言葉にウォーリーが目を見張った。
 ミヤハラは「タブーなきエンジニア集団」の幹部で唯一ウォーリーより年上だ。
 ウォーリーもそのあたりはわきまえているつもりなのだ。

「つまり……こういうことです。本部の捜索に来た連中の失態をOP社が見逃すか、ということです。我々幹部は別にして、一般のメンバーよりOP社は内部の人間の処罰を優先するでしょうよ。今の状態では、三千人以上いるうちのメンバー全体に対する対処などできはしないはずです」
「そう考えるか……」

 ウォーリーはしばらく考えていたが、
「……わかった。当面はミヤハラの言うとおり情報収集だ。俺が自ら収集に行こう」
 と言って部屋を飛び出していった。

 ドアをふさいで座っていたミヤハラもこの動きにはついていけずにウォーリーの脱出を許してしまう。

「エリック、マネージャーを頼む」
 ミヤハラがエリックにそう命じると、エリックは慌ててウォーリーの後をついていった。
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