ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

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第三章

110:エリック、サクライの二名、ミヤハラと合流す

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 一人のがっしりした体型の大柄な男がのんびりとジン方面に向かう大通りを歩いている。
 その足取りはゆっくりで、隠居の散歩のようにすら見える。
 しかし、男は青年といえる年齢であり、隠居とするには程遠かった。

 「タブーなきエンジニア集団」の本部から男の目的地である医療都市ジンにある巨大医療施設メディットまでは歩いても三〇分とかからない距離だ。
 本部からの脱出に成功した? ミヤハラは特に目立たない道を歩くなどの配慮はしていない。堂々と大通りを歩いている。

 途中、OP社の治安改革センターの前を何箇所か通ったが、呼び止められることもなかった。
 おかしなことに、普段なら人通りが多いエリアにも関わらず、人っ子一人見かけない。

「連中は何をやっているんだ?」
 ミヤハラの口から疑問というよりも愚痴に近い言葉が発せられた。
 彼から見れば敵に当たる者どものこととはいえ、ここまで何もないとかえって気になる。

 とはいっても立ち止まって辺りの様子を確認することもしなければ、歩調を速めて一秒でも早くメディットに到着しようとも考えないのが彼らしい。

 ミヤハラはゆったりとしたペースで目的地へと向けて歩を進めていく。

「……TM、TM」
 不意にミヤハラの後ろから声がした。声が小さいためか、ミヤハラは気付かない。

「……TM」
 少し声が大きくなった。それでもミヤハラは気付かない。声の主はミヤハラの右肩に手をかけて引っ張った。
「?!」
 何事かとミヤハラが身構えるとそこには見慣れた顔があった。

「……何だ、エリックじゃないか。何でこんなところにいるんだ?」
 ミヤハラを呼んだのは同じ「タブーなきエンジニア集団」に所属する技術者のエリック・モトムラであった。
(エリックはマネージャーと風力エネルギー研究所に行っていたはずだが……)
 この場にいるはずがない人物の姿を認めてミヤハラは違和感を覚えたが、それを顔に出したりはしない。傍から見ればエリックに興味があるのかどうかすらわからないような様子だ。

 エリックは無言でミヤハラの腕を引っ張り、細い路地へと向かいだした。ミヤハラが動かないので焦れたのだろう。
「お、おい……」
 ミヤハラは抗議の声をあげたが、エリックは構わず無言で進んでいく。
 相手が顔見知りのエリックなので、ミヤハラも抵抗を諦めて大人しく引っ張られていく。
 そして百メートルほど進んだところで一件の民家に入った。

「……ここです、TM」
 エリックが部屋に案内すると中にはサクライが待っていた。

「サクライじゃないか! マネージャーはどうなった?」
 ミヤハラが開口一番、サクライに問いかけた。
 エリックやサクライはウォーリーに同行して風力エネルギー研究所に行っていたはずだ。

 ミヤハラが先ほどまでいた「タブーなきエンジニア集団」本部にはOP社治安改革センターの捜査が入った。恐らく風力エネルギー研究所に対しても同様ではないかとミヤハラは考えていた。
 サクライとエリックの姿がここにあるということは、捜査の手を逃れたのだろう。
 そうであるならば同行していたウォーリーはどうなったのか、とミヤハラが気にかけるのも当然のことである。

「……マネージャーなら一人でメディットに行った。TMの家族を確保しに行くってね。我々はここで待っていろ、と」
「……はぁ?」
 ミヤハラは呆れてものも言えない、という様子で大口をあけてしまった。
 OP社によって拘束されたのではないだけマシではあろうが、いくら何でも無謀すぎる。

「うちのマネージャーは言ったら絶対引かないんだから、どうにもならなかったですよ」
 ミヤハラの様子を見たサクライが言葉を付け足した。
 ウォーリー相手ならばそうなるだろう、というのはミヤハラもサクライと同意見だ。

「ところで本部の方はどうなりましたか? 捜査が入ったことはニュースで見ましたけど、他の人たちは無事でしょうか? それとこちらの状況もTMにお伝えした方がいいですね」
 ここでエリックが二人の間に割って入り、お互いの状況を確認した。

「……そうか、そっちは全員無事らしいか。こっちの状況はわからん。本部の建物を出たのは俺が最後だったが……」
 ミヤハラがそう答えて難しい顔をした。
 ミヤハラ自身が最後まで残り、他のメンバーを逃がす時間を稼いだが、現在彼らがどうなったかまではわからないのだ。

 エリックが状況を確認しましょう、と携帯端末を広げ、その画面にテレビ放送を映すようにした。
 本部がOP社に占拠されたのであれば、本社にある機器を通じて確認すると足がつく恐れがあると判断してのことだ。

 ニュースなどでは現在ウォーリーが逃亡中であり、OP社が情報提供を求めているといったことは報じられている。
 しかし、肝心の「タブーなきエンジニア集団」の本部の状況に関する報道が無い。

 三〇分ほどいくつかの放送局の放送をチェックしたが、ウォーリーの逃亡とポータル・シティの大部分のエリアに戒厳令が敷かれたことくらいしか情報が無い。
 だから人を見なかったのか、とミヤハラは気付いたが、これにはいくつかの事情が絡んでいた。
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