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第三章
108:ピンチのときのミヤハラTM
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ウォーリー達が地下の放水路から地上に出る少し前のことである。
ポータル・シティ東部の「タブーなきエンジニア集団」本部、すなわちウォーリーの自宅はOP社、ECN社合同の部隊に取り囲まれていた。
部隊の隊長が「タブーなきエンジニア集団」本部へと入ろうと試みる。
その際、入口付近にいた女性従業員にこう言い放った。
「OP社治安改革センターだ。貴社には弊社で定めたルールに反し、非合法の部品を納入した嫌疑がある。OP社治安改革センターの権限に基づき、この建物を捜索する!」
女性従業員は慌てて、建物の奥へと走っていった。
それを見て隊長が部隊を引き入れようとすると、奥から一人の若者がのっそりと現れ、隊長の前に詰め寄った。「タブーなきエンジニア集団」副代表のノリオ・ミヤハラである。
「何の用ですか?」
ミヤハラの声はいいところ「休日に家族が留守で仕方なく宅配便を受け取りに来たお父さん」といった調子で、まるで緊張感のないものであった。
隊長は呆れながらも最初に女性従業員へ言った台詞と同じ台詞を繰り返した。
すると、ミヤハラは表情も変えずにのっそりと隊長に詰め寄る。
「どういうことですか? うちにどのような疑いがあるというのです?」
ミヤハラの口調は「落ち着き払った」を通り越して、「のんびりしている」の領域に入り込んでいる。
事態を完全に把握しきっていないせいもあるのだが、もともと緊張とはあまり縁の無い男のことだから、こうなるのも仕方ない。
隊長は胸を反らせた。ミヤハラの方が頭半分ほど背が高く、隊長を見下ろす格好になっているので、無理をしてでも威厳を示したかったのだろう。
逆にあまりにも隊長の行動が露骨なため、周りには少々滑稽な印象を与えている。
もっとも、周りのOP社治安改革センターの関係者は隊長より下の役職の者ばかりなので、上司の滑稽さを笑うような権利を与えられていない。
「貴様のところが風力エネルギー研究所に非合法の部品を納入した上、付近の住民の虐殺を狙って建物を爆破したのだ! この映像を見ろ!」
隊長の隣にいた男が持っていたモニタをミヤハラに向け、ニュース映像を見せた。
「はぁ」
ミヤハラは欠伸をしながらも辛うじてモニタの方に視線だけを向けた。
モニタ映像にはOP社の治安改革センターの職員を投げ飛ばすサクライの姿や、風力エネルギー研究所の建物が破壊された瞬間、逃亡するウォーリーの映像が流れていた。
この時点でミヤハラは事態の重大さを悟ったといってよい。
ようやくおいでなすったか、と音にならない声でつぶやいた。
ミヤハラは「風力エネルギー研究所」からの業務の依頼自体に疑いを持っていた。
忘れた頃にOP社から何らかの報復がある可能性が考えられる、として彼なりに警戒していたのだ。
警戒していても相手に指摘されるまで気づかないあたりが彼らしいのだが。
「……なるほど。あなた方の無礼はひとまず問わないとして、ここは一つ穏便に問題を片付けませんか?
要するに貴方がこのまま引き返して、上司に『捜索したが何も見つからなかった』と報告することです。そうすれば、お互いの傷つくことなく解決するでしょう。もっとも、あなた方がうちの従業員に一切手を出さないことが条件になりますが」
普段と違ってミヤハラはかなり饒舌である。
口調は大人しいが無表情なので、見る者によっては圧力を感じたかも知れない。
隊長はミヤハラと目を合わせられない。彼の発する圧に気圧されたのだ。
しかし、振り返って周りの者達に中に踏み込めと命じる。
すると、ミヤハラがその前に立ちはだかった。
「何の権利があって中に入ろうとする?
我々はOP社による治安改革活動を認めていないし、OP社と取引があるわけでもない。従って捜索は認められない」
ミヤハラが初めて表情を変えた。隊長を見据えるように睨みつけたのである。
声は相変わらず抑制されたものだ。それがかえって恐ろしく感じられる。
ミヤハラは比較的背が高い部類に入るし、横幅も広い。
落ち着いた風貌の中に迫力を感じさせる外見をしているから、相手もそう簡単に手を出せないようだ。
周囲の様子を冷静にミヤハラが観察すると、中に踏み込もうとした者の中に見覚えのある顔がいくつもある。名前は思い出せないがECN社の従業員だ。思わず声をかけてしまう。
「おい、そこの一番右の。そう、お前さんだ。ECNの社員じゃないのか?」
声をかけられたほうが、恐る恐るうなずいた。
「何故、ECNの社員がここにいるのだ? いつからOP社に協力するようになった?」
ミヤハラが質問したが、答えは無い。
「まあ、一従業員レベルじゃ経営のことまではわからん、か。仕方ない。社長のオイゲン・イナと話をさせてくれ。通信をつなげば俺が対応する」
ミヤハラが半ば呆れた様子で質問した相手に声をかけた。
しかし、返ってきた答えはミヤハラの考えもしない内容であった。
「ECN社の現在の代表はテツヤ・ヘンミという者が代行している。それにこの件については、我々OP社に権限がある。要求は認められない」
ミヤハラの提案に隊長が口を挟んだのだった。この隊長は言葉などからするとECN社の従業員ではないようだ。
「ヘンミぃ? 誰だ、そいつは?」
ミヤハラの反応が予想外のものだったので、隊長の表情が固まった。
ポータル・シティ東部の「タブーなきエンジニア集団」本部、すなわちウォーリーの自宅はOP社、ECN社合同の部隊に取り囲まれていた。
部隊の隊長が「タブーなきエンジニア集団」本部へと入ろうと試みる。
その際、入口付近にいた女性従業員にこう言い放った。
「OP社治安改革センターだ。貴社には弊社で定めたルールに反し、非合法の部品を納入した嫌疑がある。OP社治安改革センターの権限に基づき、この建物を捜索する!」
女性従業員は慌てて、建物の奥へと走っていった。
それを見て隊長が部隊を引き入れようとすると、奥から一人の若者がのっそりと現れ、隊長の前に詰め寄った。「タブーなきエンジニア集団」副代表のノリオ・ミヤハラである。
「何の用ですか?」
ミヤハラの声はいいところ「休日に家族が留守で仕方なく宅配便を受け取りに来たお父さん」といった調子で、まるで緊張感のないものであった。
隊長は呆れながらも最初に女性従業員へ言った台詞と同じ台詞を繰り返した。
すると、ミヤハラは表情も変えずにのっそりと隊長に詰め寄る。
「どういうことですか? うちにどのような疑いがあるというのです?」
ミヤハラの口調は「落ち着き払った」を通り越して、「のんびりしている」の領域に入り込んでいる。
事態を完全に把握しきっていないせいもあるのだが、もともと緊張とはあまり縁の無い男のことだから、こうなるのも仕方ない。
隊長は胸を反らせた。ミヤハラの方が頭半分ほど背が高く、隊長を見下ろす格好になっているので、無理をしてでも威厳を示したかったのだろう。
逆にあまりにも隊長の行動が露骨なため、周りには少々滑稽な印象を与えている。
もっとも、周りのOP社治安改革センターの関係者は隊長より下の役職の者ばかりなので、上司の滑稽さを笑うような権利を与えられていない。
「貴様のところが風力エネルギー研究所に非合法の部品を納入した上、付近の住民の虐殺を狙って建物を爆破したのだ! この映像を見ろ!」
隊長の隣にいた男が持っていたモニタをミヤハラに向け、ニュース映像を見せた。
「はぁ」
ミヤハラは欠伸をしながらも辛うじてモニタの方に視線だけを向けた。
モニタ映像にはOP社の治安改革センターの職員を投げ飛ばすサクライの姿や、風力エネルギー研究所の建物が破壊された瞬間、逃亡するウォーリーの映像が流れていた。
この時点でミヤハラは事態の重大さを悟ったといってよい。
ようやくおいでなすったか、と音にならない声でつぶやいた。
ミヤハラは「風力エネルギー研究所」からの業務の依頼自体に疑いを持っていた。
忘れた頃にOP社から何らかの報復がある可能性が考えられる、として彼なりに警戒していたのだ。
警戒していても相手に指摘されるまで気づかないあたりが彼らしいのだが。
「……なるほど。あなた方の無礼はひとまず問わないとして、ここは一つ穏便に問題を片付けませんか?
要するに貴方がこのまま引き返して、上司に『捜索したが何も見つからなかった』と報告することです。そうすれば、お互いの傷つくことなく解決するでしょう。もっとも、あなた方がうちの従業員に一切手を出さないことが条件になりますが」
普段と違ってミヤハラはかなり饒舌である。
口調は大人しいが無表情なので、見る者によっては圧力を感じたかも知れない。
隊長はミヤハラと目を合わせられない。彼の発する圧に気圧されたのだ。
しかし、振り返って周りの者達に中に踏み込めと命じる。
すると、ミヤハラがその前に立ちはだかった。
「何の権利があって中に入ろうとする?
我々はOP社による治安改革活動を認めていないし、OP社と取引があるわけでもない。従って捜索は認められない」
ミヤハラが初めて表情を変えた。隊長を見据えるように睨みつけたのである。
声は相変わらず抑制されたものだ。それがかえって恐ろしく感じられる。
ミヤハラは比較的背が高い部類に入るし、横幅も広い。
落ち着いた風貌の中に迫力を感じさせる外見をしているから、相手もそう簡単に手を出せないようだ。
周囲の様子を冷静にミヤハラが観察すると、中に踏み込もうとした者の中に見覚えのある顔がいくつもある。名前は思い出せないがECN社の従業員だ。思わず声をかけてしまう。
「おい、そこの一番右の。そう、お前さんだ。ECNの社員じゃないのか?」
声をかけられたほうが、恐る恐るうなずいた。
「何故、ECNの社員がここにいるのだ? いつからOP社に協力するようになった?」
ミヤハラが質問したが、答えは無い。
「まあ、一従業員レベルじゃ経営のことまではわからん、か。仕方ない。社長のオイゲン・イナと話をさせてくれ。通信をつなげば俺が対応する」
ミヤハラが半ば呆れた様子で質問した相手に声をかけた。
しかし、返ってきた答えはミヤハラの考えもしない内容であった。
「ECN社の現在の代表はテツヤ・ヘンミという者が代行している。それにこの件については、我々OP社に権限がある。要求は認められない」
ミヤハラの提案に隊長が口を挟んだのだった。この隊長は言葉などからするとECN社の従業員ではないようだ。
「ヘンミぃ? 誰だ、そいつは?」
ミヤハラの反応が予想外のものだったので、隊長の表情が固まった。
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