ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

文字の大きさ
上 下
110 / 436
第三章

106:どこへ向かうのか?

しおりを挟む
 地下水路の中に飛び込むと、エリックが用意周到なことに懐中電灯を点灯して待っていた。

「……ここはどこなんだ?」
 ウォーリーが周囲を見回しながら問うとエリックが答える。
「雨水の放水路です。私はこの近所に住んでいたので、小さい頃この水路を使って、よく研究所に侵入していたのですよ。マネージャー、私が案内しますからとりあえず一旦逃げましょう」
 そう言ってエリックが先頭に立ち、メンバーを案内しだした。

「……今日のところは、天気予報で雨の予報が出ていないので大丈夫だとは思いますが、雨が降ると大変なことになるので急ぎます」
 エリックがメンバーを急かした。

 幸いなことに今の水位は深いところでくるぶしくらいまでであったし、水路の両サイドは人が一人通れるほどの歩道状になっている。

「……それにしても間一髪だったな。エリックもよく梯子で逃げようと思ったよな」
「建物ごと爆破はOP社の常套手段ですからね。建物から離れないと危ないと思いました」
「……さすがだな。うちで教育されたメンバーは違うわ」
 ウォーリーが苦笑しながら自画自賛した。彼の場合はそれが嫌味にならないのが、天与の才能なのかもしれない。

「……どのくらい歩くんだ?」
 サクライがエリックに尋ねた。放水路がどこにつながっているのかサクライも理解していないのだ。

「そうですね……できるだけ遠くへ出たいので三、四〇分といったところでしょうか」
 エリックが歩調を速めながら時間だけを答えた。
「うへぇ」
 サクライが思わず声をあげたが、ウォーリーにたしなめられる。
「お前、折角エリックが案内してくれるんだ。文句があるならついてこなくていいぞ」
 サクライは両手のひらを上に向けて、やれやれのポーズを取ってから、黙ってエリックに続いた。
 サクライはエリックと親しいため冗談めかして声をあげたのだ。
 しかし、ウォーリーはそのことを知らないメンバーもいるのだから自嘲せよ、と暗に伝えたのであった。

 エリックの言うとおり三〇分ばかり歩いたところで上に上がる足場がある場所に着いた。
 途中、数箇所同じような場所があったのだが、エリックはあえて通り過ぎたのだ。

「ここより先ですと川が近すぎて危なかったり、かえって目立ったりします。ここなら何とか……」
 エリックが足場を使って器用に上へと登っていく。

 少しして中に光が入ってくる。エリックが蓋を開けたのだ。

「……大丈夫です。急いで出ましょう」
 エリックを先頭に続々とメンバーが外へ出る。
 最後にウォーリーが外へ出た。周囲を見回したが彼にはまるでわからない場所だ。
 あまり広くない雑木林の中らしいということだけは理解できる。
 しかし、目印になるような建物はない。木に遮られて見えないのだ。
 これは林の外からもこちらを見通せないことも意味している。

「みんな、無事か?」
 ウォーリーがそう言ってメンバーを見回す。擦り傷程度の怪我をしている者が数名いるが、大したことは無さそうだ。

 ウォーリーは腕を振り上げようとして右肩の痛みに気づいた。どうやら落下したときに打ちつけたらしい。
 痛みがあるが、ゆっくりであれば肩が持ち上がることから、打撲程度で済んだようだ。
 先ほどまでは興奮状態にあったので、痛みにも気づかなかったのだろう。

「……まあ、大丈夫でしょう。とりあえず、どこかいったん落ち着ける場所を探しますか」
 この期に及んでもサクライは落ち着いた様子だ。

「そうだな……?!」
 ウォーリーが何か言いかけたが、エリックが制止した。
 ウォーリーは一瞬不快そうな表情を見せたが、とりあえずエリックに言葉を続けさせた。

「OP社の治安改革の連中が逮捕に来たということは、ポータル・シティ全体に捜査の手が及んでいるでしょう。ハモネスもダメです。マネージャーの顔が知れすぎています。職業学校とか、それとも思いっきり遠くに逃げるのがいいかと……」
「おい! 事務所に残してきた連中や在宅の連中はどうするんだ?! ミヤハラに任せてあるとはいえ、奴の手にも余るかも知れないんだぞ!」
 ウォーリーが激昂してエリックに詰め寄ったが、サクライに止められる。
「……落ち着いてください。とりあえず情報を得ましょう」
 その言葉にエリックがポケットから携帯端末を取り出してテレビ放送を確認しだした。

 放送ではニュース速報で風力エネルギー研究所での火災と爆破事件が報じられていた。
 それによれば「タブーなきエンジニア集団」がOP社の転覆を狙ってテロを起こした、ということになっているようだ。
 幸い、死傷者は出ていないようだが、犯人は逃亡中ということで、周辺区域には戒厳令が敷かれているらしい。

 特別指名手配の凶悪犯としてウォーリーのイメージ映像も映し出されている。
 また、「タブーなきエンジニア集団」の本部も家宅捜索が開始された、ということも報じられた。

「いかん! 早く戻ってミヤハラ達を助けなければ!」
 ウォーリーはそう叫んで走り出したが、サクライに止められる。
「今行ったらOP社の思うツボでしょうが。ミヤハラTMなら事態をうまく処理するでしょうよ。今はOP社の捜査の手から逃れることです。でなければ犬死にです」
 サクライは冷静だ。この男、若いながらに滅多に緊張することがないらしく、この事態にも落ち着いて対処している。

 エリックが続く。
「……マネージャー、ここがどこだか理解されていますか? そちらは事務所の方向ではありません」
 その言葉にウォーリーの歩みが止まる。
「エリック! 事務所の方向に案内してくれ! それとサクライ、他のメンバーを引き連れて職業学校へ逃げ込め! 俺はミヤハラ達を連れて後で合流する」
 ウォーリーは新たな指示を出したが、サクライが引かない。

「冗談じゃありません! それこそOP社の思うツボです」
「じゃあ、どうすればいいんだ! 仲間のピンチだぞ!」
 ウォーリーが再び激昂した。

 その直後、周囲が静まり返った。

「……行き先の候補があります……」
 少しして、メンバーの一人が恐る恐る挙手した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...