109 / 436
第三章
105:脱出
しおりを挟む
「……」
「……来ねえな」
ウォーリーとサクライの二人が、風力エネルギー研究所屋上のドアの前で追手が来るのを待ち構えている。ウォーリーは人質であるOP社治安改革センターの班長を羽交い絞めにしたままだ。
二人の後ろには約二十名の「タブーなきエンジニア集団」のメンバーの姿があった。
彼らは違法部品を利用した罪でOP社治安改革センターのメンバーに追われている。
少し前に小競り合いとなり、サクライが相手の一人を投げ飛ばして屋上への道を切り開いたのだった。
とっくに追手が屋上に到達してもいいころだ。
しかし、しばらく待ったところで誰も上がってこない。
「……どうしたんだ? 怖気づいたかな?」
ウォーリーの言葉にサクライは
「あと二、三人投げ飛ばしておいても良かったのですが……」
と続けた。
屋上の隅のほうでは慌てたエリックが、設置されていた避難器具を組み立てている。
「……どうした? エリック」
ウォーリーが問うとエリックは、
「危ないからとにかくこれで避難してください。理由は後で説明しますっ!」
と必死の形相で答えた。
ウォーリーは事情が飲み込めていないといった様子だったが、順番に避難器具でメンバーを避難させる。
エリックの危機を見抜く目にはウォーリーもそれなりの信頼を置いている。
エリックの目のおかげでウォーリーは何度も危ない顧客への対応を回避できていたのだ。
「残っている奴はいねぇな? じゃ、俺も行くぞ!」
最後にウォーリーが梯子に手をかけた。
人質の首を片手で捕まえたままである。
「大人しくしてくれ! でないとお前を落っことしてしまうかも知れねえ!」
人質が抵抗したためウォーリーは梯子を降りるのにてこずっているが、今のところ何とか本人と人質は無事だ。
周囲を見ると、OP社の治安改革センターの制服を着た者が少し離れた位置で建物を取り囲んでいるのが見えた。かなり人数が多い。数百名はいそうだ。
ウォーリーは人質が声をあげないよう手でその口を塞いだが、人質の方はそれに抵抗する様子がない。
(……一体、エリックの奴、何を考えているんだ?)
そう思いながらも、ウォーリーが梯子を降りていると、突然、小さな爆発音とともに建物が崩れ、ウォーリーと人質が吹き飛ばされてしまった。
「何?!」
ウォーリーはとっさに地面に背中を向けるように身体をひねった。
直後、ウォーリーの身体は背中から地面に落ちた。
人質の首に回した腕は解いておらず、結果的に人質を落下の衝撃から守ることになった。
下がコンクリートやアスファルトでなく、土だったことはウォーリーにとって幸いだったかもしれない。
「……痛ぇな」
ウォーリーは地面に横たわったままつぶやいた。
人質がすばやくウォーリーの腕を解き、逆にウォーリーを捕らえようとしたが、近くにいたサクライによって腕をとられてしまった。
「離せ! 犯罪者ども!」
班長が叫んだ。
しかし、サクライは聞く耳を持たない。
ウォーリーが背中をさすりながら起き上がると、辺りから「梯子で逃げたぞ!」「二人落ちた!」などという叫び声が聞こえてきた。
ウォーリーが叫び声のあまりしない方向を選んで走ろうとすると、エリックが反対の方向を示して叫んだ。
「こっちです、マネージャー!」
エリックを先頭にメンバーが走る。サクライが人質を引きずっているから、速くは走れないが、それでも走った。
エリックは塀に囲まれた研究所の敷地を突っ切るように走っている。
塀に突き当たると、「遊歩道」と書かれた看板のある道を進んだ。
しかし、二分もしないうちに、行き止まりに突き当たる。
「サクライさんっ!」
エリックが叫ぶと、人質をウォーリーに預けてゆっくりした足取りでサクライが前に出た。
エリックがサクライの耳もとで何かささやくと、サクライはメンバーから身体の大きい者三人を呼んだ。
遊歩道の行き止まり近くは、幅一メートル弱、長さ二メートル半くらいのコンクリート製の蓋が並んで道を作っている。
「それじゃ、やってみます」
サクライをはじめとした四人はこの蓋の片側を持ち上げようと力をこめた。
よく見ると、この蓋だけ割れ目が入っていて、二つに分かれている。
サクライたちが持ち上げようとしたのは、別れたうちの小さい方の蓋だ。
ゆっくりと蓋の片側が持ち上がっていく。
中を見ると水が流れている地下水路のようだ。
「こっちです!」
エリックが中に飛び込んだ。「タブーなきエンジニア集団」のメンバーも順番に続く。
「悪いが、あんたはここで一人で残っていてくれ」
ウォーリーはそう言い残してから、人質を突き飛ばして中に飛び込んだ。
「こっちも行きますわ」
最後に蓋を保持していたサクライが飛び込んだ。
それに伴ってコンクリート製の蓋がゴンと音を立てて閉じる。
突き飛ばされた人質、OP社治安改革センターポータル西部第二班の班長はその場で呆然と立ち尽くすしかなかった。
むしろ重たい蓋の下敷きにならなかっただけでも彼女としては幸運だったとすべきかもしれない。
蓋は二百キロ以上ある代物だったのだ。
彼女一人で蓋を持ち上げることなど、到底できることではないし、下敷きになれば大怪我をしたかもしれないのだから。
「……来ねえな」
ウォーリーとサクライの二人が、風力エネルギー研究所屋上のドアの前で追手が来るのを待ち構えている。ウォーリーは人質であるOP社治安改革センターの班長を羽交い絞めにしたままだ。
二人の後ろには約二十名の「タブーなきエンジニア集団」のメンバーの姿があった。
彼らは違法部品を利用した罪でOP社治安改革センターのメンバーに追われている。
少し前に小競り合いとなり、サクライが相手の一人を投げ飛ばして屋上への道を切り開いたのだった。
とっくに追手が屋上に到達してもいいころだ。
しかし、しばらく待ったところで誰も上がってこない。
「……どうしたんだ? 怖気づいたかな?」
ウォーリーの言葉にサクライは
「あと二、三人投げ飛ばしておいても良かったのですが……」
と続けた。
屋上の隅のほうでは慌てたエリックが、設置されていた避難器具を組み立てている。
「……どうした? エリック」
ウォーリーが問うとエリックは、
「危ないからとにかくこれで避難してください。理由は後で説明しますっ!」
と必死の形相で答えた。
ウォーリーは事情が飲み込めていないといった様子だったが、順番に避難器具でメンバーを避難させる。
エリックの危機を見抜く目にはウォーリーもそれなりの信頼を置いている。
エリックの目のおかげでウォーリーは何度も危ない顧客への対応を回避できていたのだ。
「残っている奴はいねぇな? じゃ、俺も行くぞ!」
最後にウォーリーが梯子に手をかけた。
人質の首を片手で捕まえたままである。
「大人しくしてくれ! でないとお前を落っことしてしまうかも知れねえ!」
人質が抵抗したためウォーリーは梯子を降りるのにてこずっているが、今のところ何とか本人と人質は無事だ。
周囲を見ると、OP社の治安改革センターの制服を着た者が少し離れた位置で建物を取り囲んでいるのが見えた。かなり人数が多い。数百名はいそうだ。
ウォーリーは人質が声をあげないよう手でその口を塞いだが、人質の方はそれに抵抗する様子がない。
(……一体、エリックの奴、何を考えているんだ?)
そう思いながらも、ウォーリーが梯子を降りていると、突然、小さな爆発音とともに建物が崩れ、ウォーリーと人質が吹き飛ばされてしまった。
「何?!」
ウォーリーはとっさに地面に背中を向けるように身体をひねった。
直後、ウォーリーの身体は背中から地面に落ちた。
人質の首に回した腕は解いておらず、結果的に人質を落下の衝撃から守ることになった。
下がコンクリートやアスファルトでなく、土だったことはウォーリーにとって幸いだったかもしれない。
「……痛ぇな」
ウォーリーは地面に横たわったままつぶやいた。
人質がすばやくウォーリーの腕を解き、逆にウォーリーを捕らえようとしたが、近くにいたサクライによって腕をとられてしまった。
「離せ! 犯罪者ども!」
班長が叫んだ。
しかし、サクライは聞く耳を持たない。
ウォーリーが背中をさすりながら起き上がると、辺りから「梯子で逃げたぞ!」「二人落ちた!」などという叫び声が聞こえてきた。
ウォーリーが叫び声のあまりしない方向を選んで走ろうとすると、エリックが反対の方向を示して叫んだ。
「こっちです、マネージャー!」
エリックを先頭にメンバーが走る。サクライが人質を引きずっているから、速くは走れないが、それでも走った。
エリックは塀に囲まれた研究所の敷地を突っ切るように走っている。
塀に突き当たると、「遊歩道」と書かれた看板のある道を進んだ。
しかし、二分もしないうちに、行き止まりに突き当たる。
「サクライさんっ!」
エリックが叫ぶと、人質をウォーリーに預けてゆっくりした足取りでサクライが前に出た。
エリックがサクライの耳もとで何かささやくと、サクライはメンバーから身体の大きい者三人を呼んだ。
遊歩道の行き止まり近くは、幅一メートル弱、長さ二メートル半くらいのコンクリート製の蓋が並んで道を作っている。
「それじゃ、やってみます」
サクライをはじめとした四人はこの蓋の片側を持ち上げようと力をこめた。
よく見ると、この蓋だけ割れ目が入っていて、二つに分かれている。
サクライたちが持ち上げようとしたのは、別れたうちの小さい方の蓋だ。
ゆっくりと蓋の片側が持ち上がっていく。
中を見ると水が流れている地下水路のようだ。
「こっちです!」
エリックが中に飛び込んだ。「タブーなきエンジニア集団」のメンバーも順番に続く。
「悪いが、あんたはここで一人で残っていてくれ」
ウォーリーはそう言い残してから、人質を突き飛ばして中に飛び込んだ。
「こっちも行きますわ」
最後に蓋を保持していたサクライが飛び込んだ。
それに伴ってコンクリート製の蓋がゴンと音を立てて閉じる。
突き飛ばされた人質、OP社治安改革センターポータル西部第二班の班長はその場で呆然と立ち尽くすしかなかった。
むしろ重たい蓋の下敷きにならなかっただけでも彼女としては幸運だったとすべきかもしれない。
蓋は二百キロ以上ある代物だったのだ。
彼女一人で蓋を持ち上げることなど、到底できることではないし、下敷きになれば大怪我をしたかもしれないのだから。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる