ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

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第三章

104:罠

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「……下がうるさくなってきたな。もうすぐ終わるか?」
 風力エネルギー研究所のある装置室の床に胡坐をかいていたウォーリーが、すっくと立ちあがった。床の振動が不快でたまらなかったのだ。

 ウォーリーの言う通り徐々に下の方のフロアが騒がしくなってきた。消火活動が進んできたようだ。
 騒ぎは徐々に大きくなってきている。消火に当たっている者達がウォーリー達のいるフロアに近づいてきたのだ。

「誰かいるか!?」
 消火を担当していたと思われる者がドア越しに声をかけてきた。
「ここの職員と作業中の人間がいるぞ!」
 ウォーリーが答えた。

 すると装置室のドアが開き、中にニ、三〇名が入ってきた。消火に当たっていた者らしいが、OP社の治安改革センターの制服を着た者が多い。

「我々の仲間が消火に当たっており、下のフロアの火は消えつつあります。ここに怪我人などはいますか?」
 OP社の治安改革センターの制服を着た女性がそう問うてきた。彼女はOP社治安改革センターポータル西部第二班の班長だと名乗った。

「ここにはいない」
 ウォーリーが答えた。
 答えを聞いた班長からこのフロアに待機するよう指示が出された。ウォーリー達は素直に指示に従う。

 OP社の治安改革センターの者が何人かフロアの機器を調査している。
 エリック・モトムラがその様子を見て、ウォーリーに目で合図をした。交換したケーブルがばれないか心配したのである。
 ウォーリーは特に気にしていない、という様子だ。どうせわかりっこない、と踏んでいたのである。

 フロアの機器の調査をしている間、班長は携帯端末で何か話をしていた。機器の調査を終えると、班長がウォーリーに向けて指示を出す。
「無事、火は消えたようです。私どもが誘導しますので、後についてきてください」
 ウォーリー達は指示に素直に従った。建物の外に出るため、下に向かうようだ。

「しかし、何で火事なんかになったんだか……」
 班長のすぐ後ろにつけたウォーリーがぼやくと、即座に班長が答えた。

「原因は調査中です。近日中には判明するでしょう」
 そんなものか、とウォーリーがつぶやくと、いきなり後ろから何者かが襲いかかってきた。

「何をしがやる?! くそっ!」
 ウォーリーは身をひねってその攻撃を回避したが、狭い階段の下りである。隊長を巻き込んで背中から階段を滑り落ちてしまった。
 幸い段数が少なかったのでウォーリーに怪我は無い。

「何をするんだ?! 危ないだろう!」
 ウォーリーは反射的に班長を羽交い絞めにしたまま怒鳴った。ウォーリーが下敷きになって班長を守るための行動だった。

 すると、OP社の治安改革センターの一人が怒鳴り返してきた。
「この犯罪者め! 非合法の部品を取り扱ったのに飽き足らず、班長を人質にするとは卑怯な!」
「非合法? てめえのところで勝手に決めたルールに社員でもない俺達が従う義理は無いね!」
 ウォーリーが隊長の身体を羽交い絞めにしたまま吐き捨てた。
 先ほどまでは隊長の安全のためであったが、今となっては隊長の身柄を拘束するためだ。

 ウォーリーがOP社治安改革センターの一人を睨みつけていると、階段の下のほうからどやどやと人が押し寄せてきた。その中にはウォーリーの見覚えのある顔もある。
「貴様らが『タブーなきエンジニア集団』か?! ルールに違反した部品の納入の罪により逮捕する!」
 階段の下の方からそんな声までもが聞こえてきた。

 ウォーリー達はあっという間に百名近くに取り囲まれてしまった。
 とはいっても、狭い非常階段でのことなので、直接向き合っているのは階段の上下の五、六名に過ぎない。
 残った者は行列を作って並んでおり、列は上下のフロアにまで達していた。

「ちっ! これがハドリの奴のやり方か」
 ウォーリーが舌打ちすると、エリックがウォーリーに小声で耳打ちした。

「……マネージャー、多勢に無勢すぎます。逃げる方法を考えないと……」
 それを聞いた班長がウォーリーに羽交い絞めにされたまま言った。
「無駄だ。これだけの人数相手だ、意味が無いだろう。それに人質をとったところでひるむわが社でもない」
 ウォーリーは「どうかな?」と班長を挑発するかのように答えてから、サクライに目で合図した。

 サクライは階段の上の方にゆっくり歩き出すと、一番近くにいた敵を下に向けて投げ飛ばした。
 周囲のOP社治安改革センターの者達の目が点になる。

 サクライはそれほど身体が大きい訳ではないが、柔道の有段者なのである。投げ飛ばされた方は、声を立てる間も無く一つ下の踊り場へと落ちていった。

「今だ、上へ行け!」
 ウォーリーが叫んだ。十数名のメンバーが一斉に上に向かう。
 下と比較すれば上にいる敵の人数の方が少ない。
 また、班長を人質にとられていることと、サクライの第二の犠牲者になることを恐れたのか、上にいる敵は半ば道を空けるように階段の脇や踊り場に散った。

「走れっ!」
 ウォーリーの指示にメンバーが全力で走る。研究所の建物は四階建てだ。あっという間に屋上に達する。

 ウォーリーとサクライの二人が屋上のドアの前で待ち構える。
 上がってきた敵をここで迎え撃とうというのだ。
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