上 下
107 / 436
第三章

103:火災発生の報

しおりを挟む
「じゃあ、行ってくるわ」
 ウォーリーが残留するミヤハラにそう告げて事務所を出た。

 この日はポータル・シティの西側にある風力エネルギー研究所へ、八月に修理した通信機器の点検に行く予定となっていた。修理から約四ヶ月後のLH四九年一二月二二日のことである。

 ウォーリー率いる「タブーなきエンジニア集団」は、八月にこの顧客に対し、OP社が定めたルールで禁止されている部品を納入していた。
 このため、納入後しばらくの間、「タブーなきエンジニア集団」はハドリ率いるOP社の動向に注意を向けていた。しかし、OP社が動く気配はまったくなく、どうやら心配は杞憂に終わりそうだった。

 ウォーリーは部下で経理を担当しているアツシ・サクライら十数名を引き連れて出発した。
 ミヤハラはいつも通り事務所のウォーリーの席に陣取って、ニュースなどを見ている。
 いつもは無表情で席に座っている彼だが、この日は少し機嫌が良さそうに見える。
 というのも一週間前の一二月一五日、二人目の子供が誕生したのである。
 ミヤハラは仕事を終えたら、メディットに妻と子供を迎えに行く予定を立てていた。
 この日は妻子の退院予定の日で、退院したらメディットに程近い妻の両親の家にしばらく滞在することになっていた。

 ミヤハラは妻の実家に連絡を入れた。義父もメディットに行くと言って引かなかったので、義父との待ち合わせを設定するためだった。
 ミヤハラからすれば、どうせ退院してから数十分で到着するのだから家で大人しく待っていても大差ないと思える。
 だが、それを指摘して義父の機嫌を損ねることもないだろうとも考えていた。

 一方、ウォーリー一行は事務所を出発してから一時間半ほどで風力エネルギー研究所に到着していた。
 事前に取り決めた手順に従って、装置室にて修理箇所や交換した部品の点検が行われる。

 午前中は予定よりやや速いスピードで点検が進んでいった。
 特に問題も無く、機器の動作も順調であった。

 昼食をとった後、午後の点検が開始された。
 点検という単調な作業で上下の瞼が引き寄せられそうなのに耐える必要が生じてきた頃に異変が起きた。

 エリック・モトムラという技術者が困惑した様子でウォーリーに声をかけてきたのだ。
 要約すると八月に作業をしたときと配線が異なる部分がある、ということらしい。

 エリックの見立てでは動作には問題ないと思われるが、正体不明の配線がいくつかあるので心当たりは無いか、ということであった。
 場所が件の「OP社が自社ルールで禁止しているケーブルを使用した箇所」の近辺であったため、エリックは念を入れてウォーリーに確認を取りに来たのだ。

「……記録を見てもそんな作業は見当たらないが。それに俺にもこの作業をしたという記憶がない」
 ウォーリーは作業記録を調べてみたが、該当する箇所は無かったのだった。
「……お客さんが必要を感じて何か作業したのかもしれないな。確認してみるわ」
 ウォーリーは顧客が手を加えた可能性に気付いて、顧客に確認するため装置室を出ようとした。その瞬間である。
 ポンという間の抜けた音がしたかと思うと、非常ベルの音が響き渡った。

「全員集まれ!」
 ウォーリーが怒鳴ると、作業中のメンバーが続々と集まってきた。
 非常ベルが鳴ったということは、何らかの異変が起きている。
 自分たちに原因を止める能力がないのであれば、即座に避難すべきである。
 ウォーリーはそう考えている。原因がわからない以上、彼には避難の選択肢しかなかったのだ。

 全員が集まったことを確認すると、ウォーリーはサクライに最後尾を任せて非常口へと向かった。全員で整然と避難するのだ。
 ウォーリーの行動は常に無謀と隣り合わせ、と評する者もあるが、これは完全な誤りである。
 彼が無謀でない証拠の一つとして、仲間を守るためには迅速に安全策をとることもできるという点が挙げられる。
 今回のケースもそれに該当するといってよいだろう。
 自らの仲間を守るため、危険を察知した時点で彼はすぐに危険を避ける行動を取った。
 この行動を笑う者、非常ベルの音を聞いて何かを考えない者は愚かであるとウォーリーは考えている。

 確かに悪戯や装置の誤作動の可能性は考えられる。
 だが、実際に火災等を知らせていたとしたならば、消火活動を行うなり、逃げるなりの行動を取らなければ、非常ベルを設置した意味が無いのである。
 だから、ウォーリーはすぐに行動に出た。
 このまま放置しておけば、火災なりに巻き込まれて仲間を含めて助かるものも助からなくなる可能性があるからだ。
 非常階段で下のフロアに向かっていると、風力エネルギー研究所の職員が下から上がってきた。
「下で火災が発生しており危険です。上のフロアで待機しましょう。防火シャッターで下のフロアからの火が遮断できますから」
 職員はウォーリー達の姿を認めると、上に避難するよう指示してきた。
 ウォーリー達はその指示に従い、先程まで作業をしていたフロアに戻ったのだった。

「しゃーねえ、ここで落ち着くのを待つか」
 ウォーリーがどっかと床に胡坐をかいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ワイルド・ソルジャー

アサシン工房
SF
時は199X年。世界各地で戦争が行われ、終戦を迎えようとしていた。 世界は荒廃し、辺りは無法者で溢れかえっていた。 主人公のマティアス・マッカーサーは、かつては裕福な家庭で育ったが、戦争に巻き込まれて両親と弟を失い、その後傭兵となって生きてきた。 旅の途中、人間離れした強さを持つ大柄な軍人ハンニバル・クルーガーにスカウトされ、マティアスは軍人として活動することになる。 ハンニバルと共に任務をこなしていくうちに、冷徹で利己主義だったマティアスは利害を超えた友情を覚えていく。 世紀末の荒廃したアメリカを舞台にしたバトルファンタジー。 他の小説サイトにも投稿しています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜

華厳 秋
ファンタジー
───2025年1月1日  この日、日本国は大きな歴史の転換点を迎えた。  札幌、渋谷、博多の3箇所に突如として『異界への門』──アナザーゲート──が出現した。  渋谷に現れた『門』から、異界の軍勢が押し寄せ、無抵抗の民間人を虐殺。緊急出動した自衛隊が到着した頃には、敵軍の姿はもうなく、スクランブル交差点は無惨に殺された民間人の亡骸と血で赤く染まっていた。  この緊急事態に、日本政府は『門』内部を調査するべく自衛隊を『異界』──アナザーワールド──へと派遣する事となった。  一方地球では、日本の急激な軍備拡大や『異界』内部の資源を巡って、極東での緊張感は日に日に増して行く。  そして、自衛隊は国や国民の安全のため『門』内外問わず奮闘するのであった。 この作品は、小説家になろう様カクヨム様にも投稿しています。 この作品はフィクションです。 実在する国、団体、人物とは関係ありません。ご注意ください。

処理中です...