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第三章
103:火災発生の報
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「じゃあ、行ってくるわ」
ウォーリーが残留するミヤハラにそう告げて事務所を出た。
この日はポータル・シティの西側にある風力エネルギー研究所へ、八月に修理した通信機器の点検に行く予定となっていた。修理から約四ヶ月後のLH四九年一二月二二日のことである。
ウォーリー率いる「タブーなきエンジニア集団」は、八月にこの顧客に対し、OP社が定めたルールで禁止されている部品を納入していた。
このため、納入後しばらくの間、「タブーなきエンジニア集団」はハドリ率いるOP社の動向に注意を向けていた。しかし、OP社が動く気配はまったくなく、どうやら心配は杞憂に終わりそうだった。
ウォーリーは部下で経理を担当しているアツシ・サクライら十数名を引き連れて出発した。
ミヤハラはいつも通り事務所のウォーリーの席に陣取って、ニュースなどを見ている。
いつもは無表情で席に座っている彼だが、この日は少し機嫌が良さそうに見える。
というのも一週間前の一二月一五日、二人目の子供が誕生したのである。
ミヤハラは仕事を終えたら、メディットに妻と子供を迎えに行く予定を立てていた。
この日は妻子の退院予定の日で、退院したらメディットに程近い妻の両親の家にしばらく滞在することになっていた。
ミヤハラは妻の実家に連絡を入れた。義父もメディットに行くと言って引かなかったので、義父との待ち合わせを設定するためだった。
ミヤハラからすれば、どうせ退院してから数十分で到着するのだから家で大人しく待っていても大差ないと思える。
だが、それを指摘して義父の機嫌を損ねることもないだろうとも考えていた。
一方、ウォーリー一行は事務所を出発してから一時間半ほどで風力エネルギー研究所に到着していた。
事前に取り決めた手順に従って、装置室にて修理箇所や交換した部品の点検が行われる。
午前中は予定よりやや速いスピードで点検が進んでいった。
特に問題も無く、機器の動作も順調であった。
昼食をとった後、午後の点検が開始された。
点検という単調な作業で上下の瞼が引き寄せられそうなのに耐える必要が生じてきた頃に異変が起きた。
エリック・モトムラという技術者が困惑した様子でウォーリーに声をかけてきたのだ。
要約すると八月に作業をしたときと配線が異なる部分がある、ということらしい。
エリックの見立てでは動作には問題ないと思われるが、正体不明の配線がいくつかあるので心当たりは無いか、ということであった。
場所が件の「OP社が自社ルールで禁止しているケーブルを使用した箇所」の近辺であったため、エリックは念を入れてウォーリーに確認を取りに来たのだ。
「……記録を見てもそんな作業は見当たらないが。それに俺にもこの作業をしたという記憶がない」
ウォーリーは作業記録を調べてみたが、該当する箇所は無かったのだった。
「……お客さんが必要を感じて何か作業したのかもしれないな。確認してみるわ」
ウォーリーは顧客が手を加えた可能性に気付いて、顧客に確認するため装置室を出ようとした。その瞬間である。
ポンという間の抜けた音がしたかと思うと、非常ベルの音が響き渡った。
「全員集まれ!」
ウォーリーが怒鳴ると、作業中のメンバーが続々と集まってきた。
非常ベルが鳴ったということは、何らかの異変が起きている。
自分たちに原因を止める能力がないのであれば、即座に避難すべきである。
ウォーリーはそう考えている。原因がわからない以上、彼には避難の選択肢しかなかったのだ。
全員が集まったことを確認すると、ウォーリーはサクライに最後尾を任せて非常口へと向かった。全員で整然と避難するのだ。
ウォーリーの行動は常に無謀と隣り合わせ、と評する者もあるが、これは完全な誤りである。
彼が無謀でない証拠の一つとして、仲間を守るためには迅速に安全策をとることもできるという点が挙げられる。
今回のケースもそれに該当するといってよいだろう。
自らの仲間を守るため、危険を察知した時点で彼はすぐに危険を避ける行動を取った。
この行動を笑う者、非常ベルの音を聞いて何かを考えない者は愚かであるとウォーリーは考えている。
確かに悪戯や装置の誤作動の可能性は考えられる。
だが、実際に火災等を知らせていたとしたならば、消火活動を行うなり、逃げるなりの行動を取らなければ、非常ベルを設置した意味が無いのである。
だから、ウォーリーはすぐに行動に出た。
このまま放置しておけば、火災なりに巻き込まれて仲間を含めて助かるものも助からなくなる可能性があるからだ。
非常階段で下のフロアに向かっていると、風力エネルギー研究所の職員が下から上がってきた。
「下で火災が発生しており危険です。上のフロアで待機しましょう。防火シャッターで下のフロアからの火が遮断できますから」
職員はウォーリー達の姿を認めると、上に避難するよう指示してきた。
ウォーリー達はその指示に従い、先程まで作業をしていたフロアに戻ったのだった。
「しゃーねえ、ここで落ち着くのを待つか」
ウォーリーがどっかと床に胡坐をかいた。
ウォーリーが残留するミヤハラにそう告げて事務所を出た。
この日はポータル・シティの西側にある風力エネルギー研究所へ、八月に修理した通信機器の点検に行く予定となっていた。修理から約四ヶ月後のLH四九年一二月二二日のことである。
ウォーリー率いる「タブーなきエンジニア集団」は、八月にこの顧客に対し、OP社が定めたルールで禁止されている部品を納入していた。
このため、納入後しばらくの間、「タブーなきエンジニア集団」はハドリ率いるOP社の動向に注意を向けていた。しかし、OP社が動く気配はまったくなく、どうやら心配は杞憂に終わりそうだった。
ウォーリーは部下で経理を担当しているアツシ・サクライら十数名を引き連れて出発した。
ミヤハラはいつも通り事務所のウォーリーの席に陣取って、ニュースなどを見ている。
いつもは無表情で席に座っている彼だが、この日は少し機嫌が良さそうに見える。
というのも一週間前の一二月一五日、二人目の子供が誕生したのである。
ミヤハラは仕事を終えたら、メディットに妻と子供を迎えに行く予定を立てていた。
この日は妻子の退院予定の日で、退院したらメディットに程近い妻の両親の家にしばらく滞在することになっていた。
ミヤハラは妻の実家に連絡を入れた。義父もメディットに行くと言って引かなかったので、義父との待ち合わせを設定するためだった。
ミヤハラからすれば、どうせ退院してから数十分で到着するのだから家で大人しく待っていても大差ないと思える。
だが、それを指摘して義父の機嫌を損ねることもないだろうとも考えていた。
一方、ウォーリー一行は事務所を出発してから一時間半ほどで風力エネルギー研究所に到着していた。
事前に取り決めた手順に従って、装置室にて修理箇所や交換した部品の点検が行われる。
午前中は予定よりやや速いスピードで点検が進んでいった。
特に問題も無く、機器の動作も順調であった。
昼食をとった後、午後の点検が開始された。
点検という単調な作業で上下の瞼が引き寄せられそうなのに耐える必要が生じてきた頃に異変が起きた。
エリック・モトムラという技術者が困惑した様子でウォーリーに声をかけてきたのだ。
要約すると八月に作業をしたときと配線が異なる部分がある、ということらしい。
エリックの見立てでは動作には問題ないと思われるが、正体不明の配線がいくつかあるので心当たりは無いか、ということであった。
場所が件の「OP社が自社ルールで禁止しているケーブルを使用した箇所」の近辺であったため、エリックは念を入れてウォーリーに確認を取りに来たのだ。
「……記録を見てもそんな作業は見当たらないが。それに俺にもこの作業をしたという記憶がない」
ウォーリーは作業記録を調べてみたが、該当する箇所は無かったのだった。
「……お客さんが必要を感じて何か作業したのかもしれないな。確認してみるわ」
ウォーリーは顧客が手を加えた可能性に気付いて、顧客に確認するため装置室を出ようとした。その瞬間である。
ポンという間の抜けた音がしたかと思うと、非常ベルの音が響き渡った。
「全員集まれ!」
ウォーリーが怒鳴ると、作業中のメンバーが続々と集まってきた。
非常ベルが鳴ったということは、何らかの異変が起きている。
自分たちに原因を止める能力がないのであれば、即座に避難すべきである。
ウォーリーはそう考えている。原因がわからない以上、彼には避難の選択肢しかなかったのだ。
全員が集まったことを確認すると、ウォーリーはサクライに最後尾を任せて非常口へと向かった。全員で整然と避難するのだ。
ウォーリーの行動は常に無謀と隣り合わせ、と評する者もあるが、これは完全な誤りである。
彼が無謀でない証拠の一つとして、仲間を守るためには迅速に安全策をとることもできるという点が挙げられる。
今回のケースもそれに該当するといってよいだろう。
自らの仲間を守るため、危険を察知した時点で彼はすぐに危険を避ける行動を取った。
この行動を笑う者、非常ベルの音を聞いて何かを考えない者は愚かであるとウォーリーは考えている。
確かに悪戯や装置の誤作動の可能性は考えられる。
だが、実際に火災等を知らせていたとしたならば、消火活動を行うなり、逃げるなりの行動を取らなければ、非常ベルを設置した意味が無いのである。
だから、ウォーリーはすぐに行動に出た。
このまま放置しておけば、火災なりに巻き込まれて仲間を含めて助かるものも助からなくなる可能性があるからだ。
非常階段で下のフロアに向かっていると、風力エネルギー研究所の職員が下から上がってきた。
「下で火災が発生しており危険です。上のフロアで待機しましょう。防火シャッターで下のフロアからの火が遮断できますから」
職員はウォーリー達の姿を認めると、上に避難するよう指示してきた。
ウォーリー達はその指示に従い、先程まで作業をしていたフロアに戻ったのだった。
「しゃーねえ、ここで落ち着くのを待つか」
ウォーリーがどっかと床に胡坐をかいた。
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