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第三章
100:何かありそうな案件
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「タブーなきエンジニア集団」事務所の端末に着信があり、残っていたメンバーが対応している。
そのときウォーリー、ミヤハラ、サクライの三人は業務を終えてオイゲンを肴に酒を飲んでいた。
ウォーリーが酒を注ぐ手を止めて、端末の方を見る。
しばらくして通信が終わると、対応したメンバーがやってきた。
「マネージャー、西部地区の風力エネルギー研究所からなのですが、通信設備の修理か交換をお願いしたいとのことです」
それを聞いたミヤハラが首をひねった。
「……あの研究所はOP社の設備を使っていたのじゃなかったのか? OP社にも近いのに何でウチに……?」
ウォーリーがミヤハラを制する。
「まあ、困っているってことなら、ウチが対応すべきだろう。それがウチの方針なのだからな。で、どんな状況かわかるか?」
ウォーリーの言葉の直後、資料が端末の画面に表示された。
ウォーリーとミヤハラが一つ一つチェックしていく。
技術者ではないサクライには、このような場面での出番が無い。
もっとも、ウォーリーはともかくミヤハラもあまり技術に詳しい訳ではない。
彼がサクライと異なるのはウォーリーの補佐を長く続けているためか、勘所をつかむのは比較的得意という点であった。
「……ひでぇなぁ。交換たって、範囲が広すぎるぞ。予算を考えると何とか修理で対応したほうがいいかもな……」
ウォーリーが露骨に嫌そうな顔をした。
「……そうですね。交換だと大工事になっちまいますね。部品をかき集めて修理でしょう、これは」
ミヤハラも首を横に振った。
二人の意見が「修理で対応する」に一致したところで、ウォーリーが部下達に必要な部品類を調査させる。
一五分ほどで必要な部品類が判明した。このスピードも「タブーなきエンジニア集団」のウリである。
部下の一人が心配そうな顔でウォーリーに告げる。
「あの……このケーブルなんですけど、OP社が使用禁止にした規格です。使用可能な規格のものに変えると、両端の機器を丸ごと交換する必要があります。従来のケーブルだと非合法ですから、我々が罰せられることになりませんか?」
「非合法? ハドリの奴が勝手に決めたルールじゃないか。法律と言うのはおこがましいぞ。単なる自分勝手かわがままって奴だ」
ウォーリーが舌打ちした。「非合法」という言葉が気に入らなかったらしい。
OP社は治安改革活動を開始してから通信機器の規格を改めた。
これはOP社が考案した特殊な規格であり、機器を通過するすべてのデータが発信源と伝達経路の情報を合わせてOP社もしくはECN社のデータ管理センターに伝達される仕組みになっている。
「エクザローム防衛隊」への対処の教訓から、全ての通信情報はOP社の管理下におかれることとなった。
この仕組みに対応していない通信機器はOP社が定めた治安改革ルールに違反しているとされ、所有者や設置者はOP社によって罰せられることとなっていた。
「んなもん、あの研究所の予算じゃ、機器の交換なんて無理だろう。通信が止まったら研究所も研究にならん。こっそり交換して、もともとあったものを使っています、ってことにすりゃいいだろう」
ウォーリーは彼なりに現実に即した提案をしたつもりだ。
OP社の定めたルールでは、従来からある設備については、最大二年の移行期間が認められていた。
そのため、従来からある機器ということにすればルールに抵触することはない。
「いくらOP社が大きいとはいえ、一つひとつの機器をチェックするなど現実的じゃない。それにウチみたいな団体を攻撃したところで、市民の支持が得られるとは思わない。『エクザローム防衛隊』と違って、テロや人殺しの類はやってないんだから」
今まで黙っていたサクライがようやく口を開いた。技術の話でなければ彼も参加できる。
ウォーリーたちのやり取りをミヤハラは腕を組んで黙ったまま見つめている。
ウォーリーが部下に指示を出す。
「一応、口裏あわせをしておいたほうがいいな。部品を交換するのではなく、もともとあったものを接続しなおしただけとすればいいだろう。経理の処理はサクライに任せる」
「はい。経理上の書類はこちらで対応しておきますよ」
部下が応じてこれで一件落着、とウォーリーが酒をグラスに注ごうとしたとき、ミヤハラが重い口を開いた。
「……どうも引っかかる。相手がOP社の機械を使っている会社だからな。OP社とグルの可能性もあるが、それにしてはあからさまだ。誰が何の目的でこんな依頼を出したんだ?」
それを聞いたウォーリーがミヤハラのグラスに酒を注ぎながら答える。
「んなもん現地に行って確かめてからで遅くないだろう。OP社の連中が警戒していれば、こっちは部品を入れずにそのまま戻ってくればいい。俺も行くから心配するな」
ウォーリーの答えにミヤハラは「だから心配なんだよ!」という表情を見せたが、それ以上ウォーリーに反論することはしなかった。
彼はこのような場合にウォーリーに諫言しても無駄だということを身に染みて理解しているのだ。
そのときウォーリー、ミヤハラ、サクライの三人は業務を終えてオイゲンを肴に酒を飲んでいた。
ウォーリーが酒を注ぐ手を止めて、端末の方を見る。
しばらくして通信が終わると、対応したメンバーがやってきた。
「マネージャー、西部地区の風力エネルギー研究所からなのですが、通信設備の修理か交換をお願いしたいとのことです」
それを聞いたミヤハラが首をひねった。
「……あの研究所はOP社の設備を使っていたのじゃなかったのか? OP社にも近いのに何でウチに……?」
ウォーリーがミヤハラを制する。
「まあ、困っているってことなら、ウチが対応すべきだろう。それがウチの方針なのだからな。で、どんな状況かわかるか?」
ウォーリーの言葉の直後、資料が端末の画面に表示された。
ウォーリーとミヤハラが一つ一つチェックしていく。
技術者ではないサクライには、このような場面での出番が無い。
もっとも、ウォーリーはともかくミヤハラもあまり技術に詳しい訳ではない。
彼がサクライと異なるのはウォーリーの補佐を長く続けているためか、勘所をつかむのは比較的得意という点であった。
「……ひでぇなぁ。交換たって、範囲が広すぎるぞ。予算を考えると何とか修理で対応したほうがいいかもな……」
ウォーリーが露骨に嫌そうな顔をした。
「……そうですね。交換だと大工事になっちまいますね。部品をかき集めて修理でしょう、これは」
ミヤハラも首を横に振った。
二人の意見が「修理で対応する」に一致したところで、ウォーリーが部下達に必要な部品類を調査させる。
一五分ほどで必要な部品類が判明した。このスピードも「タブーなきエンジニア集団」のウリである。
部下の一人が心配そうな顔でウォーリーに告げる。
「あの……このケーブルなんですけど、OP社が使用禁止にした規格です。使用可能な規格のものに変えると、両端の機器を丸ごと交換する必要があります。従来のケーブルだと非合法ですから、我々が罰せられることになりませんか?」
「非合法? ハドリの奴が勝手に決めたルールじゃないか。法律と言うのはおこがましいぞ。単なる自分勝手かわがままって奴だ」
ウォーリーが舌打ちした。「非合法」という言葉が気に入らなかったらしい。
OP社は治安改革活動を開始してから通信機器の規格を改めた。
これはOP社が考案した特殊な規格であり、機器を通過するすべてのデータが発信源と伝達経路の情報を合わせてOP社もしくはECN社のデータ管理センターに伝達される仕組みになっている。
「エクザローム防衛隊」への対処の教訓から、全ての通信情報はOP社の管理下におかれることとなった。
この仕組みに対応していない通信機器はOP社が定めた治安改革ルールに違反しているとされ、所有者や設置者はOP社によって罰せられることとなっていた。
「んなもん、あの研究所の予算じゃ、機器の交換なんて無理だろう。通信が止まったら研究所も研究にならん。こっそり交換して、もともとあったものを使っています、ってことにすりゃいいだろう」
ウォーリーは彼なりに現実に即した提案をしたつもりだ。
OP社の定めたルールでは、従来からある設備については、最大二年の移行期間が認められていた。
そのため、従来からある機器ということにすればルールに抵触することはない。
「いくらOP社が大きいとはいえ、一つひとつの機器をチェックするなど現実的じゃない。それにウチみたいな団体を攻撃したところで、市民の支持が得られるとは思わない。『エクザローム防衛隊』と違って、テロや人殺しの類はやってないんだから」
今まで黙っていたサクライがようやく口を開いた。技術の話でなければ彼も参加できる。
ウォーリーたちのやり取りをミヤハラは腕を組んで黙ったまま見つめている。
ウォーリーが部下に指示を出す。
「一応、口裏あわせをしておいたほうがいいな。部品を交換するのではなく、もともとあったものを接続しなおしただけとすればいいだろう。経理の処理はサクライに任せる」
「はい。経理上の書類はこちらで対応しておきますよ」
部下が応じてこれで一件落着、とウォーリーが酒をグラスに注ごうとしたとき、ミヤハラが重い口を開いた。
「……どうも引っかかる。相手がOP社の機械を使っている会社だからな。OP社とグルの可能性もあるが、それにしてはあからさまだ。誰が何の目的でこんな依頼を出したんだ?」
それを聞いたウォーリーがミヤハラのグラスに酒を注ぎながら答える。
「んなもん現地に行って確かめてからで遅くないだろう。OP社の連中が警戒していれば、こっちは部品を入れずにそのまま戻ってくればいい。俺も行くから心配するな」
ウォーリーの答えにミヤハラは「だから心配なんだよ!」という表情を見せたが、それ以上ウォーリーに反論することはしなかった。
彼はこのような場合にウォーリーに諫言しても無駄だということを身に染みて理解しているのだ。
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