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第三章
95:格の違い
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会談の会場となる「キャピタル・オーシャン」のメインホールに到着したハドリは、席に着くや否やヘンミの顔を見据えた。
「貴社の元従業員が、弊社の治安改革活動に反発する活動をしている。弊社は貴社を信頼して提携しているが、貴社はその信頼を裏切った。どうしてくれるつもりだ?」
ハドリの問いにヘンミは息を飲んだ。
ウォーリー・トワが代表を務める「タブーなきエンジニア集団」のことを言っているのは、ヘンミにも容易に理解できた。
「そ、それは……」
ヘンミは言葉に詰まった。
何か言おうとするもハドリの勢いに押されて言葉にならない。
ハドリは無言でヘンミを見据えている。
ヘンミはあることを思い出し、ハドリに答えた。
「それは……弊社が貴社と提携したことに不満を持つ者が弊社を退職して……貴社と弊社の活動に反発しているものですが……」
「貴社に責任は無いということか?」
「そ、そうではありませんが、弊社の管理下に無い者ですので、弊社としても対応が……それに社長のイナが不在なもので……」
ヘンミは汗を拭きながら答えた。体が小刻みに震えている。
「貴社の社長には、弊社で研修を受けてもらっている。これは貴社と弊社とで取り決めたことだ。その決定に今更不満でもあると言うのか?」
ハドリは表情を変えずヘンミを見据え続けている。
「……い、いえ。そのようなことは」
「ならば、貴社がこの不始末をどう処置するのか、対応を聞きたい」
ハドリは的確にヘンミを追い詰めていった。
部下を使ってECN社の内情を徹底調査している強みだ。
ハドリの準備は周到だ。
相手に質問を吟味する時間を与えないのはハドリの常套手段でもある。
ヘンミはしばらく考えてから、
「私の一存では決めかねます……」
と回答を保留した。
「決定権のある者を交渉の席に出すように依頼したのだが。それとも貴社は弊社との決定事項を守るつもりが無いのか?」
「あ、いえ、そういう意味ではありません。ことが重大ですので、社で慎重に検討して間違いの無い対応策を講じたいと……」
ヘンミの回答にハドリが今までにない強い口調で怒鳴りつける。
「ふざけるな! 反乱の首謀者が貴様の元上司だと言うことくらいは調べがついているんだ! 時間を稼いで貴様らも反乱グループに走ろうって魂胆か!
よくも俺の信頼を裏切ってくれたな! 裏切り者の末路を知りたいか?!」
ハドリは立ち上がり、一歩踏み出してテーブルの上に右足を置いてヘンミを上から睨みつけた。
「……」
ヘンミは言葉を発することができない。
「反乱グループ」とされた「タブーなきエンジニア集団」の代表は、ウォーリー・トワである。
ウォーリーがECN社在籍中、ヘンミの上司だったことは事実だ。
直属の上司ではないが、ウォーリーが上級チームマネージャーだったとき、ヘンミは同じ部署で二ランク下のサブマネージャーだった。そのため職務上は比較的近い関係だ。
ただ、ヘンミは人懐っこいこの上司を必ずしも快く思っていたわけではない。
ECN社ではヘンミのほうが四年先輩であったし、年は六つ離れている。
ヘンミは職業学校の五年制特別コースを卒業したエリートであるのに対し、ウォーリーは三年制の普通コースを卒業しただけに過ぎない。
また、ウォーリーは新入社員時代から、直属の上司をすっ飛ばして上申書を提出したり、時には社長室まで直談判に及ぶような人物だった。
ヘンミから見れば「何様のつもりだ」という気にもなる。
その男が突然自分の上司になったのだから、たまったものではない。
それが今や自分の人生における最大級のピンチの原因となっているのである。
(あの大馬鹿が……勝手なことをするから、こっちにとばっちりが行くんだ。
社長も社長だ。あんなのを引っ張りあげるから残された我々が苦労するんだ。引っ張りあげる順番が逆だろう。人を見る目がない)
ヘンミはウォーリーとオイゲンを心の中で呪った。
しかし、ハドリがこちらを見据えているのに気付いたので、これ以上二人を呪うことができなかった。
「『エクザローム防衛隊』なる連中がどうなったか知らない訳ではあるまいな?」
ハドリが更にヘンミに詰め寄った。
「り、理解しております。貴社の信頼を裏切るようなことは致しません。弊社の従業員が『タブーなきエンジニア集団』と接触することを禁止します……」
「不十分だ。住民を惑わし秩序を乱す輩をすべて拘束し、弊社にその身柄を引き渡す、それが最低限の条件だ」
交渉は完全にハドリのペースだ。
周到に準備を進めていたハドリと異なり、ECN社側はOP社に対して有効な手立てを準備できていなかった。
力関係に差がありすぎて、ECN社側で講じたい策があっても、実行できる能力がなかった、という部分も否定できない。
「し、しかしそれには、弊社の従業員が納得できる理由が……」
「ほう、提携している相手が被害を受けているというのに、それが理由にならないのか?」
「……あ、いえ、理由としては十分すぎます。大した価値は無いと思いますが、弊社の社員の士気を上げるため、反乱者どもに更に罪を重ねさせたら、と愚考したまでです。意味がありませんでした、すみません」
「本当に愚考だな……まあいい。早速反乱者どもを拘束してもらおう。ヘンミ代行にはここに残ってもらう。貴社もトップが不在では不便だろうから、弊社から管理担当の者を派遣しておこう」
ハドリはそう言うと、一時下がっていたヤマガタを呼び、ECN社から人員三千名を派遣させる処理を行うよう命じた。
ECN社から派遣させるのは「タブーなきエンジニア集団」のメンバーの拘束を担当させるための人員だ。
ハドリはヤマガタの承知しましたという返事を確認してから部屋を出た。
ヘンミはただ黙ってその場に立ち尽くすしかなかった。
せめて補佐役のキノシタを帯同すべきだったか、と後悔したが後の祭りだった。
「貴社の元従業員が、弊社の治安改革活動に反発する活動をしている。弊社は貴社を信頼して提携しているが、貴社はその信頼を裏切った。どうしてくれるつもりだ?」
ハドリの問いにヘンミは息を飲んだ。
ウォーリー・トワが代表を務める「タブーなきエンジニア集団」のことを言っているのは、ヘンミにも容易に理解できた。
「そ、それは……」
ヘンミは言葉に詰まった。
何か言おうとするもハドリの勢いに押されて言葉にならない。
ハドリは無言でヘンミを見据えている。
ヘンミはあることを思い出し、ハドリに答えた。
「それは……弊社が貴社と提携したことに不満を持つ者が弊社を退職して……貴社と弊社の活動に反発しているものですが……」
「貴社に責任は無いということか?」
「そ、そうではありませんが、弊社の管理下に無い者ですので、弊社としても対応が……それに社長のイナが不在なもので……」
ヘンミは汗を拭きながら答えた。体が小刻みに震えている。
「貴社の社長には、弊社で研修を受けてもらっている。これは貴社と弊社とで取り決めたことだ。その決定に今更不満でもあると言うのか?」
ハドリは表情を変えずヘンミを見据え続けている。
「……い、いえ。そのようなことは」
「ならば、貴社がこの不始末をどう処置するのか、対応を聞きたい」
ハドリは的確にヘンミを追い詰めていった。
部下を使ってECN社の内情を徹底調査している強みだ。
ハドリの準備は周到だ。
相手に質問を吟味する時間を与えないのはハドリの常套手段でもある。
ヘンミはしばらく考えてから、
「私の一存では決めかねます……」
と回答を保留した。
「決定権のある者を交渉の席に出すように依頼したのだが。それとも貴社は弊社との決定事項を守るつもりが無いのか?」
「あ、いえ、そういう意味ではありません。ことが重大ですので、社で慎重に検討して間違いの無い対応策を講じたいと……」
ヘンミの回答にハドリが今までにない強い口調で怒鳴りつける。
「ふざけるな! 反乱の首謀者が貴様の元上司だと言うことくらいは調べがついているんだ! 時間を稼いで貴様らも反乱グループに走ろうって魂胆か!
よくも俺の信頼を裏切ってくれたな! 裏切り者の末路を知りたいか?!」
ハドリは立ち上がり、一歩踏み出してテーブルの上に右足を置いてヘンミを上から睨みつけた。
「……」
ヘンミは言葉を発することができない。
「反乱グループ」とされた「タブーなきエンジニア集団」の代表は、ウォーリー・トワである。
ウォーリーがECN社在籍中、ヘンミの上司だったことは事実だ。
直属の上司ではないが、ウォーリーが上級チームマネージャーだったとき、ヘンミは同じ部署で二ランク下のサブマネージャーだった。そのため職務上は比較的近い関係だ。
ただ、ヘンミは人懐っこいこの上司を必ずしも快く思っていたわけではない。
ECN社ではヘンミのほうが四年先輩であったし、年は六つ離れている。
ヘンミは職業学校の五年制特別コースを卒業したエリートであるのに対し、ウォーリーは三年制の普通コースを卒業しただけに過ぎない。
また、ウォーリーは新入社員時代から、直属の上司をすっ飛ばして上申書を提出したり、時には社長室まで直談判に及ぶような人物だった。
ヘンミから見れば「何様のつもりだ」という気にもなる。
その男が突然自分の上司になったのだから、たまったものではない。
それが今や自分の人生における最大級のピンチの原因となっているのである。
(あの大馬鹿が……勝手なことをするから、こっちにとばっちりが行くんだ。
社長も社長だ。あんなのを引っ張りあげるから残された我々が苦労するんだ。引っ張りあげる順番が逆だろう。人を見る目がない)
ヘンミはウォーリーとオイゲンを心の中で呪った。
しかし、ハドリがこちらを見据えているのに気付いたので、これ以上二人を呪うことができなかった。
「『エクザローム防衛隊』なる連中がどうなったか知らない訳ではあるまいな?」
ハドリが更にヘンミに詰め寄った。
「り、理解しております。貴社の信頼を裏切るようなことは致しません。弊社の従業員が『タブーなきエンジニア集団』と接触することを禁止します……」
「不十分だ。住民を惑わし秩序を乱す輩をすべて拘束し、弊社にその身柄を引き渡す、それが最低限の条件だ」
交渉は完全にハドリのペースだ。
周到に準備を進めていたハドリと異なり、ECN社側はOP社に対して有効な手立てを準備できていなかった。
力関係に差がありすぎて、ECN社側で講じたい策があっても、実行できる能力がなかった、という部分も否定できない。
「し、しかしそれには、弊社の従業員が納得できる理由が……」
「ほう、提携している相手が被害を受けているというのに、それが理由にならないのか?」
「……あ、いえ、理由としては十分すぎます。大した価値は無いと思いますが、弊社の社員の士気を上げるため、反乱者どもに更に罪を重ねさせたら、と愚考したまでです。意味がありませんでした、すみません」
「本当に愚考だな……まあいい。早速反乱者どもを拘束してもらおう。ヘンミ代行にはここに残ってもらう。貴社もトップが不在では不便だろうから、弊社から管理担当の者を派遣しておこう」
ハドリはそう言うと、一時下がっていたヤマガタを呼び、ECN社から人員三千名を派遣させる処理を行うよう命じた。
ECN社から派遣させるのは「タブーなきエンジニア集団」のメンバーの拘束を担当させるための人員だ。
ハドリはヤマガタの承知しましたという返事を確認してから部屋を出た。
ヘンミはただ黙ってその場に立ち尽くすしかなかった。
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