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第三章
94:ハドリの次なる狙い
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LH暦四九年七月某日、OP社社長のエイチ・ハドリは、ついに自社に刃向かう「タブーなきエンジニア集団」を叩き潰す行動を起こすことを決めた。
彼にとって最大の脅威であったECN社については、社長であるオイゲン・イナを研修と称して身柄を確保し、自社の監視下に置いてある。
ハドリの見る限り、オイゲン・イナという人物は覇気の無いことこの上ない人物である。一〇万人以上の企業のトップであるにも関わらず、ハドリが研修と称して彼を呼びつけるや否や、殆ど抵抗らしい抵抗をせず、それに応じたのである。
それどころか、彼を治安改革センターに勤務させ、雑用などもやらせていたのであるが、嬉々として雑用に勤しんでいるようにさえ見える。
治安改革センターに勤務しているOP社の社員は、ハドリから見ても彼、すなわちオイゲン・イナより格下のはずであるが、彼らに意見するのにも躊躇しているような様子さえ見受けられるのだ。
(人畜無害を装っているようにも見えたが……思い過ごしかも知れない。
どちらにせよ監視下に置いておけば、扱いやすい人物だろう)
ハドリはこう考えて他の抵抗勢力との戦いを決めたという訳である。
本命は「タブーなきエンジニア集団」ではないのだが、現在の戦力では本命と戦うのは時期尚早だとハドリは考えている。
ハドリの本命は別のところにあった。
それは、彼がOP社を設立するきっかけとなった相手でもある。
その相手━━ハドリからすれば敵━━は、一〇年ほど前、まだハドリが職業学校の学生だったころに彼の最も大切なものを奪ったのだった。
それも彼の手の届かないところで。
それ以降、ハドリは一瞬たりとも敵に対する復讐の念を忘れたことはなかった。
その復讐の念こそが、OP社にこれだけの力をもたらしたのである。
しかし、まだ足りない。
ハドリは今のOP社の持つ力が復讐を遂げるには不十分であることを理解している。
腹立たしい事実ではあるが、それを無視するほどハドリは愚かではない。
怒りに任せて敵を攻めるのは簡単だ。
ただし、それでは敵を力でねじ伏せ、勝利することはおぼつかない。
闇雲に戦いたいのではない、戦って勝利し、敵を目の前に跪かせた上で、それ相応の報いを受けさせたいのだ。
そのために今は敵を討つための力を蓄える……それには彼が率いるOP社の治安改革部隊に実戦の経験を積ませる必要があった。
「タブーなきエンジニア集団」はその規模といい、OP社に対する姿勢といい、近い将来に手ごろな相手となるはずであった。
他にも敵を討つ前に対処すべきことがある。
OP社に次ぐ規模を有するECN社が逆らわないよう徹底的に反抗の芽を摘んでおくことだ。
今のECN社の残された幹部にはハドリに刃向かうだけの人物がいないように思われる。
警戒を緩めるのは禁物だが、ハドリが力を見せつけておけば反抗の意思は萎えるだろう。
OP社から見たECN社の「あるべき姿」は反抗の意思を失い、その状態を未来永劫続けることだ。
そのために手を打っておく必要はあるとハドリは判断した。
ECN社には「タブーなきエンジニア集団」より人もモノも金も情報もあるが、それを使いこなせるだけの人材はいない。
押さえるところを押さえれば、ECN社は「タブーなきエンジニア集団」と比較して恐るべき相手ではなかった。
ハドリはECN社を更に牽制するために責任者の出頭を命じた。
社長のオイゲンがOP社の監視下で研修中なので別の者を出頭させよ、としたのである。
この事実はオイゲンには伝えられていない。
ECN社はすったもんだの挙句、代表代行のテツヤ・ヘンミを出頭させることに決めた。
ハドリとヘンミの会談はOP社が運営する高級ホテル「キャピタル・オーシャン」のメインホールで行われることになった。
会談、当日ヘンミは明るいグレーのスーツにシルクのシャツとネクタイという姿で会場に現れた。
彼が会場に到着したとき、ハドリはまだ会場に姿を見せていなかった。
OP社の古参社員のノブヤ・ヤマガタがヘンミをメインホールに案内する。
ヤマガタはOP社の番頭役として知られており、ヘンミもその顔を知っている。
ハドリの姿がないので、ヘンミはそれとなく会場の中を見回した。
「キャピタル・オーシャン」の内装は派手で、やたら光る色の装飾が目立つ。
天井は高く、通路は広い。
ヘンミは派手で最低のセンスだと感じていたが、それを表には出さない。
(それにしてもひどいセンスだな……誰か苦言を呈するとかしたほうがいいだろうに)
ヘンミを案内したヤマガタは無言でハドリの到着を待っている。
落ち着かない様子で、入り口の方をチラチラ見ている。ハドリが気になるのは明らかだ。
「ハドリ社長の到着はいつくらいになりますか?」
ヘンミが問うたが、ヤマガタからの返答は無い。
ヘンミもそれ以上はヤマガタに問うことをしなかった。
一〇分ほどして背の低い男が部屋に入ってきた。
ヤマガタがヘンミに「社長のハドリです」と紹介した。そしてヤマガタは「失礼します」と言って部屋を出た。
彼にとって最大の脅威であったECN社については、社長であるオイゲン・イナを研修と称して身柄を確保し、自社の監視下に置いてある。
ハドリの見る限り、オイゲン・イナという人物は覇気の無いことこの上ない人物である。一〇万人以上の企業のトップであるにも関わらず、ハドリが研修と称して彼を呼びつけるや否や、殆ど抵抗らしい抵抗をせず、それに応じたのである。
それどころか、彼を治安改革センターに勤務させ、雑用などもやらせていたのであるが、嬉々として雑用に勤しんでいるようにさえ見える。
治安改革センターに勤務しているOP社の社員は、ハドリから見ても彼、すなわちオイゲン・イナより格下のはずであるが、彼らに意見するのにも躊躇しているような様子さえ見受けられるのだ。
(人畜無害を装っているようにも見えたが……思い過ごしかも知れない。
どちらにせよ監視下に置いておけば、扱いやすい人物だろう)
ハドリはこう考えて他の抵抗勢力との戦いを決めたという訳である。
本命は「タブーなきエンジニア集団」ではないのだが、現在の戦力では本命と戦うのは時期尚早だとハドリは考えている。
ハドリの本命は別のところにあった。
それは、彼がOP社を設立するきっかけとなった相手でもある。
その相手━━ハドリからすれば敵━━は、一〇年ほど前、まだハドリが職業学校の学生だったころに彼の最も大切なものを奪ったのだった。
それも彼の手の届かないところで。
それ以降、ハドリは一瞬たりとも敵に対する復讐の念を忘れたことはなかった。
その復讐の念こそが、OP社にこれだけの力をもたらしたのである。
しかし、まだ足りない。
ハドリは今のOP社の持つ力が復讐を遂げるには不十分であることを理解している。
腹立たしい事実ではあるが、それを無視するほどハドリは愚かではない。
怒りに任せて敵を攻めるのは簡単だ。
ただし、それでは敵を力でねじ伏せ、勝利することはおぼつかない。
闇雲に戦いたいのではない、戦って勝利し、敵を目の前に跪かせた上で、それ相応の報いを受けさせたいのだ。
そのために今は敵を討つための力を蓄える……それには彼が率いるOP社の治安改革部隊に実戦の経験を積ませる必要があった。
「タブーなきエンジニア集団」はその規模といい、OP社に対する姿勢といい、近い将来に手ごろな相手となるはずであった。
他にも敵を討つ前に対処すべきことがある。
OP社に次ぐ規模を有するECN社が逆らわないよう徹底的に反抗の芽を摘んでおくことだ。
今のECN社の残された幹部にはハドリに刃向かうだけの人物がいないように思われる。
警戒を緩めるのは禁物だが、ハドリが力を見せつけておけば反抗の意思は萎えるだろう。
OP社から見たECN社の「あるべき姿」は反抗の意思を失い、その状態を未来永劫続けることだ。
そのために手を打っておく必要はあるとハドリは判断した。
ECN社には「タブーなきエンジニア集団」より人もモノも金も情報もあるが、それを使いこなせるだけの人材はいない。
押さえるところを押さえれば、ECN社は「タブーなきエンジニア集団」と比較して恐るべき相手ではなかった。
ハドリはECN社を更に牽制するために責任者の出頭を命じた。
社長のオイゲンがOP社の監視下で研修中なので別の者を出頭させよ、としたのである。
この事実はオイゲンには伝えられていない。
ECN社はすったもんだの挙句、代表代行のテツヤ・ヘンミを出頭させることに決めた。
ハドリとヘンミの会談はOP社が運営する高級ホテル「キャピタル・オーシャン」のメインホールで行われることになった。
会談、当日ヘンミは明るいグレーのスーツにシルクのシャツとネクタイという姿で会場に現れた。
彼が会場に到着したとき、ハドリはまだ会場に姿を見せていなかった。
OP社の古参社員のノブヤ・ヤマガタがヘンミをメインホールに案内する。
ヤマガタはOP社の番頭役として知られており、ヘンミもその顔を知っている。
ハドリの姿がないので、ヘンミはそれとなく会場の中を見回した。
「キャピタル・オーシャン」の内装は派手で、やたら光る色の装飾が目立つ。
天井は高く、通路は広い。
ヘンミは派手で最低のセンスだと感じていたが、それを表には出さない。
(それにしてもひどいセンスだな……誰か苦言を呈するとかしたほうがいいだろうに)
ヘンミを案内したヤマガタは無言でハドリの到着を待っている。
落ち着かない様子で、入り口の方をチラチラ見ている。ハドリが気になるのは明らかだ。
「ハドリ社長の到着はいつくらいになりますか?」
ヘンミが問うたが、ヤマガタからの返答は無い。
ヘンミもそれ以上はヤマガタに問うことをしなかった。
一〇分ほどして背の低い男が部屋に入ってきた。
ヤマガタがヘンミに「社長のハドリです」と紹介した。そしてヤマガタは「失礼します」と言って部屋を出た。
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