96 / 436
第二章
93:セスの心配性とロビーの決意
しおりを挟む
病院に到着した三人は、受付でセスの状況を告げた。
残念ながらセスの主治医はこの日の担当ではなく出勤していなかったため、別の医師の診察を受けることになった。
診察中、ロビーとモリタは待合室でセスの戻りを待つことにした。
結果によっては明日以降の業務に影響が出るため、職場に報告が必要と判断したからだ。
診断が下るまでにはそれほど時間はかからなかった。
医師の診断は「微熱があるが、現時点では原因は特定できない。問題となる可能性は低いと思われるが、当分の間、経過を観察しよう」とのことであった。
事実上判断を保留したのと同義だ。
医師は主治医が来る日にもう一度来院するよう求めた。
セスは帰り際に「明日、僕の担当の先生に見てもらうことにする。僕のことをよく理解しているのは、継続して僕を診察している人だろうから」とロビーに向けて言った。
三人の翌日の勤務は午後からであったから、午前中に診察を受けることができるだろう。
診察の後、セスは自分の宿舎に来るようロビーを誘った。モリタも誘ったのだが、「用事がある」と帰ってしまったのだ。
宿舎に到着してからセスは落ち着かない様子でロビーに昆布茶を出したり、テレビのスイッチを入れたりしている。何かせずにはいられないのだ。
セスは自身の体調について自信が持てていない。今回の医師は「あまり心配は要らない」と言っていたが、初めてセスを診た医師だ。
何年もの間セスの症状を観察してセスのことを熟知している者ではない。だから、その診断結果にも確証が持てない。
「あまり心配は要らない」としているところも、セスにとっては不安である。
絶対としていないところが、もしかしたら何か潜在的で重篤な症状が隠されている可能性を残しているのではないだろうか、と疑われるのである。
また、セス自身は循環器系の障害から車椅子での生活を余儀なくされているが、主治医から「遺伝的なものだろう」とされていることも気にかかる。
遺伝的なものであるならば、彼の血縁の者も同じ障害を持っている可能性がある。
セスは真っ先に彼が探し求めている兄が同じ障害を持っていることを疑っていた。
セスの障害はただちに生命に関わるものではない、とされているものの、障害の出方によっては生命に重大な危険があることも理解している。
もし、彼の兄がそのような状況であったならば……?
既にその状況を通り抜け、現世の住人ではなくなっている可能性も考えられる。
実際のところはセスの障害が寿命にどの程度影響するのか、専門家である医師たちにもよくわかっていない。
しかし、セスはこうした場合、ことを悪い方に考える傾向がある。
(僕は、絶対に見つからないものを探し求めているのだろうか……?)
そのような考えが浮かんでくる。
セスにとっては考えたくない可能性である。
じっとしていると、不安ばかりが浮かんでくる。
できることなら思考を停止して何もかも思い浮かばなかったことにしたかったが、セスにそれはできないようだった。
彼の考えはかなり飛躍しているのだが、そのことにも気付けないくらい、本人は必死で自分が見えていない。
だから不安が浮かばないよう、彼は動きつづけるしかなかった。動いている間は少しなら不安が浮かんでくるペースが落ちるような気がした。他のことに意識が向いている分、不安を思い浮かべるために割ける脳の力が減るように思えたからだ。
「?! ロビー、どうかした?」
不意にセスは自分を見守るようなロビーの視線を感じて声をかけた。
※※
一方、体調の異変を感じた後のセスの一連の行動についてロビーは少し大げさかなとも考えていた。外から見ただけではあまり変わったところがなかったからだ。
しかし、セスの心配性には彼が訴えた通りに対処する方が本人混乱しないということをロビーは過去の経験から学習していた。
そこでロビーはセスの言う通り医師の診察を受けさせたのだった。この方がセスの精神衛生上はよいだろうと判断したからだ。
診察の結果からも今すぐどうにかなるという訳ではなさそうなので、セスの錯乱っぷりに対してはロビーも少し慌てすぎだろうと考えていた。
だが、彼は友人の性質を知り尽くしている。
(また、セスの心配性だな……)
セスが病院からの帰り際にロビーとモリタを誘ったことについて、セスが一人になりたくないのだろうと看破していた。だから、彼はセスの誘いに乗ったのだ。放置できないと思ったのだ。
(……急いだほうが良さそうだな。このままでは埒が明かねえし、本人にとってもいいことがねえ)
ロビーはセスが抱えている障害よりも、それを知ったセス本人の精神状態の方がより彼の肉体に悪影響を与えるのではないかと懸念していた。
このままでは自らの気持ちの問題によってセスが崩壊しかねない、そう考えたのだ。
ロビーはセスの様子を見ながら密かに決意していた。
(セスが目的を達成するため、俺は……セスを守り抜く!
……そして、絶対にセスに目的を達成させてやる!)
残念ながらセスの主治医はこの日の担当ではなく出勤していなかったため、別の医師の診察を受けることになった。
診察中、ロビーとモリタは待合室でセスの戻りを待つことにした。
結果によっては明日以降の業務に影響が出るため、職場に報告が必要と判断したからだ。
診断が下るまでにはそれほど時間はかからなかった。
医師の診断は「微熱があるが、現時点では原因は特定できない。問題となる可能性は低いと思われるが、当分の間、経過を観察しよう」とのことであった。
事実上判断を保留したのと同義だ。
医師は主治医が来る日にもう一度来院するよう求めた。
セスは帰り際に「明日、僕の担当の先生に見てもらうことにする。僕のことをよく理解しているのは、継続して僕を診察している人だろうから」とロビーに向けて言った。
三人の翌日の勤務は午後からであったから、午前中に診察を受けることができるだろう。
診察の後、セスは自分の宿舎に来るようロビーを誘った。モリタも誘ったのだが、「用事がある」と帰ってしまったのだ。
宿舎に到着してからセスは落ち着かない様子でロビーに昆布茶を出したり、テレビのスイッチを入れたりしている。何かせずにはいられないのだ。
セスは自身の体調について自信が持てていない。今回の医師は「あまり心配は要らない」と言っていたが、初めてセスを診た医師だ。
何年もの間セスの症状を観察してセスのことを熟知している者ではない。だから、その診断結果にも確証が持てない。
「あまり心配は要らない」としているところも、セスにとっては不安である。
絶対としていないところが、もしかしたら何か潜在的で重篤な症状が隠されている可能性を残しているのではないだろうか、と疑われるのである。
また、セス自身は循環器系の障害から車椅子での生活を余儀なくされているが、主治医から「遺伝的なものだろう」とされていることも気にかかる。
遺伝的なものであるならば、彼の血縁の者も同じ障害を持っている可能性がある。
セスは真っ先に彼が探し求めている兄が同じ障害を持っていることを疑っていた。
セスの障害はただちに生命に関わるものではない、とされているものの、障害の出方によっては生命に重大な危険があることも理解している。
もし、彼の兄がそのような状況であったならば……?
既にその状況を通り抜け、現世の住人ではなくなっている可能性も考えられる。
実際のところはセスの障害が寿命にどの程度影響するのか、専門家である医師たちにもよくわかっていない。
しかし、セスはこうした場合、ことを悪い方に考える傾向がある。
(僕は、絶対に見つからないものを探し求めているのだろうか……?)
そのような考えが浮かんでくる。
セスにとっては考えたくない可能性である。
じっとしていると、不安ばかりが浮かんでくる。
できることなら思考を停止して何もかも思い浮かばなかったことにしたかったが、セスにそれはできないようだった。
彼の考えはかなり飛躍しているのだが、そのことにも気付けないくらい、本人は必死で自分が見えていない。
だから不安が浮かばないよう、彼は動きつづけるしかなかった。動いている間は少しなら不安が浮かんでくるペースが落ちるような気がした。他のことに意識が向いている分、不安を思い浮かべるために割ける脳の力が減るように思えたからだ。
「?! ロビー、どうかした?」
不意にセスは自分を見守るようなロビーの視線を感じて声をかけた。
※※
一方、体調の異変を感じた後のセスの一連の行動についてロビーは少し大げさかなとも考えていた。外から見ただけではあまり変わったところがなかったからだ。
しかし、セスの心配性には彼が訴えた通りに対処する方が本人混乱しないということをロビーは過去の経験から学習していた。
そこでロビーはセスの言う通り医師の診察を受けさせたのだった。この方がセスの精神衛生上はよいだろうと判断したからだ。
診察の結果からも今すぐどうにかなるという訳ではなさそうなので、セスの錯乱っぷりに対してはロビーも少し慌てすぎだろうと考えていた。
だが、彼は友人の性質を知り尽くしている。
(また、セスの心配性だな……)
セスが病院からの帰り際にロビーとモリタを誘ったことについて、セスが一人になりたくないのだろうと看破していた。だから、彼はセスの誘いに乗ったのだ。放置できないと思ったのだ。
(……急いだほうが良さそうだな。このままでは埒が明かねえし、本人にとってもいいことがねえ)
ロビーはセスが抱えている障害よりも、それを知ったセス本人の精神状態の方がより彼の肉体に悪影響を与えるのではないかと懸念していた。
このままでは自らの気持ちの問題によってセスが崩壊しかねない、そう考えたのだ。
ロビーはセスの様子を見ながら密かに決意していた。
(セスが目的を達成するため、俺は……セスを守り抜く!
……そして、絶対にセスに目的を達成させてやる!)
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる