93 / 436
第二章
90:講演の評価
しおりを挟む
職業学校の講堂では、本日付で着任した新任教官レイカ・メルツの講演が続いている。
「……さて、自己紹介に戻りますが、私の今までの仕事はこうした『優れているけど、何かが足りなくて皆さんに知られていない商品』を発掘して、その良さを皆さんに知っていただくこと、でした。
これから皆さんに……」
今度はいつもテレビなどで見られるレイカの姿だった。
洗練されているが、あくまでも控えめな様子だ。時々、後ろの画面などを指し示したりするのだが、この仕草がきまっている。
指先までピンと伸ばして画面を指し示す姿は映える。
彼女は長身であるだけではなく手足も長かったから、このようなピンとした姿も似合うのだ。こうした様子は、特に女性の学生に評判がよい。
レイカ自身も自分の外見のことをよく把握していたし、自分を一番良く見せる方法を知っている。これも彼女の売り込み方のひとつなのだ。
客席はしんと静まり返り、レイカの話に聞き入っていた。
ときどきレイカが客席に向けて何かを問いかけることがあり、その度に静寂は破られる。
しかし、レイカの話が始まると再び客席が静まり返る。それの繰り返しだった。
今回の講演でレイカは大多数の聴衆から支持を得たといえよう。今後の教官としての活動にも大いにプラスになると考えられる。
後ろの方の客席ではモリタが落ち着かない様子で身体を左右に動かしながらレイカの講演を聴いていた。それとは対照的にセスとロビーは落ち着いたものだ。
その一列後ろにリスク管理科教官のトニー・シヴァが座っている。彼もちゃっかりレイカの講演を聞きに来ていたのだ。
講演が一段落したところで、トニーがロビーに声をかけた。
「タカミ、あのネーちゃんをどう思う?」
「見てくれは悪くないですね。人気があるのも理解できます」
ロビーは質問の意図を理解しかねていたのだが、正直に感想を答えた。
「……それだけか?」
「今の段階では、それ以上何ともいえませんね」
「……そうか。勉強が足りないな」
「どういうことですか?」
ロビーの口調が少し強くなる。
トニーは落ち着いて答える。
「しょせんは女だ、ってことだ。もうちょっと女として上手に売れる奴かと思ったが、期待はずれだった」
トニーの評価にロビーが怪訝な表情を見せる。
「もう少し詳しく説明いただけると助かります」
ロビーの嫌味が含まれた頼みにトニーは一瞬、出来の悪い生徒を見るような視線を向ける。しかし、それも一瞬のことであった。
「こういうレベルのこともわからないのか……まあいいだろう。
つまり、こういうことだ。
あのねーちゃん先生は、女としてそれなりに見られる見てくれをしているんだから、女で売り込めばよかった。最初にやったように、な」
「……それ以降も女性らしくないですか?」
「いや違う。あの堂々とした動きを見てみろ。あれは男と真っ向からやり合うような姿だ。途中からスタイルを変えるのは、誰に対して売るのかがはっきりしなくなる。まずはそれで減点一、だ」
「他にも減点要素がある、と?」
「……そうだ。男と女では役割は違う。しょせん女は女でしかないのだから、男と勝負する必要はなかった。そこがあのねーちゃん先生の限界だな。
あの顔とスタイルだから男に女としての自分を売り込めば、得られるものが大きかったのだがなぁ」
(結構女好きに見えるのだが、ずいぶん女性に厳しいな……)
ロビーはそう考えながらも、トニーの言葉に積極的に反論を加える気にはならなかった。
「それが、女性に自分を売り込んじまった。これじゃ男が味方にならないし、女も敵に回しかねない。あの顔とスタイルじゃ、他の女に妬まれるぞ。女同士の嫉妬は怖いからな……
リスク管理を学ぶなら、こういった心理にも慣れてないと方向を見誤るぞ。これから補習に行くか?」
「補修?」
「そうだ。あのでっかいのと車椅子のも連れて行こう。講演が終わったら行くぞ!」
ロビーは訳がわからないという様子だったが、断るのも野暮かと考え直し、セスとモリタを連れてトニーについてくことにした。
講演が終わるとトニーはさっと立ち上がって、
「じゃ、補修に行くぞ」
と短く告げた。
「はい。セス、モリタ、悪いけどついてきてくれ」
ロビーが立ち上がり、セスを急いで車椅子に乗せた。
トニーは三人の準備ができるのを待ってから、行くぞ、と言ってどこかへ向けて歩きだした。
移動中セスはロビーに
「補習をするってどうしたの?」
と声をかけていたが、ロビーも内容がわからなかったので、とりあえずついていってみよう、と回答した。
モリタは途中何度も逃げ出そうとしたのだが、その度にトニーに「でっかいの、逃げるなよっ!」と指摘され、しぶしぶついていく羽目になった。どうやらトニーの方が一枚上手らしい。
たどり着いた先はネオンが妖しく光る建物が乱立する繁華街だった。
「今日はこれからここで心理の勉強だ」
トニーが建物の一つを指さして、にこやかな表情で三人に告げた。
「……さて、自己紹介に戻りますが、私の今までの仕事はこうした『優れているけど、何かが足りなくて皆さんに知られていない商品』を発掘して、その良さを皆さんに知っていただくこと、でした。
これから皆さんに……」
今度はいつもテレビなどで見られるレイカの姿だった。
洗練されているが、あくまでも控えめな様子だ。時々、後ろの画面などを指し示したりするのだが、この仕草がきまっている。
指先までピンと伸ばして画面を指し示す姿は映える。
彼女は長身であるだけではなく手足も長かったから、このようなピンとした姿も似合うのだ。こうした様子は、特に女性の学生に評判がよい。
レイカ自身も自分の外見のことをよく把握していたし、自分を一番良く見せる方法を知っている。これも彼女の売り込み方のひとつなのだ。
客席はしんと静まり返り、レイカの話に聞き入っていた。
ときどきレイカが客席に向けて何かを問いかけることがあり、その度に静寂は破られる。
しかし、レイカの話が始まると再び客席が静まり返る。それの繰り返しだった。
今回の講演でレイカは大多数の聴衆から支持を得たといえよう。今後の教官としての活動にも大いにプラスになると考えられる。
後ろの方の客席ではモリタが落ち着かない様子で身体を左右に動かしながらレイカの講演を聴いていた。それとは対照的にセスとロビーは落ち着いたものだ。
その一列後ろにリスク管理科教官のトニー・シヴァが座っている。彼もちゃっかりレイカの講演を聞きに来ていたのだ。
講演が一段落したところで、トニーがロビーに声をかけた。
「タカミ、あのネーちゃんをどう思う?」
「見てくれは悪くないですね。人気があるのも理解できます」
ロビーは質問の意図を理解しかねていたのだが、正直に感想を答えた。
「……それだけか?」
「今の段階では、それ以上何ともいえませんね」
「……そうか。勉強が足りないな」
「どういうことですか?」
ロビーの口調が少し強くなる。
トニーは落ち着いて答える。
「しょせんは女だ、ってことだ。もうちょっと女として上手に売れる奴かと思ったが、期待はずれだった」
トニーの評価にロビーが怪訝な表情を見せる。
「もう少し詳しく説明いただけると助かります」
ロビーの嫌味が含まれた頼みにトニーは一瞬、出来の悪い生徒を見るような視線を向ける。しかし、それも一瞬のことであった。
「こういうレベルのこともわからないのか……まあいいだろう。
つまり、こういうことだ。
あのねーちゃん先生は、女としてそれなりに見られる見てくれをしているんだから、女で売り込めばよかった。最初にやったように、な」
「……それ以降も女性らしくないですか?」
「いや違う。あの堂々とした動きを見てみろ。あれは男と真っ向からやり合うような姿だ。途中からスタイルを変えるのは、誰に対して売るのかがはっきりしなくなる。まずはそれで減点一、だ」
「他にも減点要素がある、と?」
「……そうだ。男と女では役割は違う。しょせん女は女でしかないのだから、男と勝負する必要はなかった。そこがあのねーちゃん先生の限界だな。
あの顔とスタイルだから男に女としての自分を売り込めば、得られるものが大きかったのだがなぁ」
(結構女好きに見えるのだが、ずいぶん女性に厳しいな……)
ロビーはそう考えながらも、トニーの言葉に積極的に反論を加える気にはならなかった。
「それが、女性に自分を売り込んじまった。これじゃ男が味方にならないし、女も敵に回しかねない。あの顔とスタイルじゃ、他の女に妬まれるぞ。女同士の嫉妬は怖いからな……
リスク管理を学ぶなら、こういった心理にも慣れてないと方向を見誤るぞ。これから補習に行くか?」
「補修?」
「そうだ。あのでっかいのと車椅子のも連れて行こう。講演が終わったら行くぞ!」
ロビーは訳がわからないという様子だったが、断るのも野暮かと考え直し、セスとモリタを連れてトニーについてくことにした。
講演が終わるとトニーはさっと立ち上がって、
「じゃ、補修に行くぞ」
と短く告げた。
「はい。セス、モリタ、悪いけどついてきてくれ」
ロビーが立ち上がり、セスを急いで車椅子に乗せた。
トニーは三人の準備ができるのを待ってから、行くぞ、と言ってどこかへ向けて歩きだした。
移動中セスはロビーに
「補習をするってどうしたの?」
と声をかけていたが、ロビーも内容がわからなかったので、とりあえずついていってみよう、と回答した。
モリタは途中何度も逃げ出そうとしたのだが、その度にトニーに「でっかいの、逃げるなよっ!」と指摘され、しぶしぶついていく羽目になった。どうやらトニーの方が一枚上手らしい。
たどり着いた先はネオンが妖しく光る建物が乱立する繁華街だった。
「今日はこれからここで心理の勉強だ」
トニーが建物の一つを指さして、にこやかな表情で三人に告げた。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる