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第二章
86:ハドリ、新たな「敵」の存在を知る
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時は少し遡る。
「タブーなきエンジニア集団」の活動開始からほどなくして、ハドリも「タブーなきエンジニア集団」の存在を知ることになった。その時点でハドリはECN社を完全に掌握する方を優先した。
「タブーなきエンジニア集団」のトップがECN社の元幹部であり、そのメンバーの多くがECN社の出身者であったためである。
ハドリの怒りは「タブーなきエンジニア集団」そのものよりも、そのような人物を多数輩出したECN社に向けられていた。
ECN社から「タブーなきエンジニア集団」への人材流出が続けば、ECN社を掌握してもその効果は半減してしまう。
「タブーなきエンジニア集団」を今叩いて殲滅したところで、同じような集団が別にできてしまっては意味がない。
そこでハドリは元となるECN社を自社の完全監視下に置き、自身に逆らう集団への人材供給源を絶とうと考えたのだ。
更に「タブーなきエンジニア集団」の動きが無視できないほど大きなものとなったら、ECN社に彼らの討伐を行わせようと考えた。
ハドリは現在のところ、研修としてECN社社長のオイゲン・イナを監視下に置いている。ECN社が不穏な動きを見せれば、彼を人質に使うことができるだろう。
しかし、ここでハドリが疑問を持ったのが「果たしてオイゲンが社内の支持を受けているのか」という点である。どう見ても人を率いる能力があるようには見えない。
ハドリの知る限り、他にも現在のECN社に一〇万人以上の企業を率いるだけの骨のある人物はいない。敢えて言えば役員のすぐ下のクラスの者達だが、せいぜい数千人の組織を率いるのが精一杯といったレベルだ。
このような状況から、ハドリはECN社を「オイゲンという看板を盾に弱い者が集まって悪知恵を働かせているだけの集団」にすぎないと考えた。
そのような者達が相手なら、盾となるトップを監視下に置くことは十分な牽制になる。
(盾を失った奴らがどう動くか……選択肢はふたつだ。従うか、消えるかだ。さて、奴らはどちらを選ぶ?)
ハドリはオイゲン以外のECN社の幹部に大して興味を持っていなかった。
彼の興味の対象はあくまで「ECN社がどちらの選択肢を選ぶか?」だけである。
与えた選択肢から答えを選ぶ手助けとして、ECN社に対する監視の手を緩めるわけにはいかない。
不意にハドリは携帯端末を取り出し、通信を通じて部下に次のように命じた。
「オオカワとホンゴウにECN社が妙な動きをしないか見張れと伝えておけ。何かあったらすぐに俺に報告させろ」
どんなに小さい存在であったとしても、ハドリに敵対する意思を持つ者の存在を許してはならない。小さな芽すら摘み取っておく必要がある。ハドリはそのための打ち手は惜しまない性質だ。
(そうだ……あの連中はECN社を飛び出した跳ね返りどもだったな……)
ハドリはECN社への対処を進めながらも、「タブーなきエンジニア集団」に関する情報収集も怠らなかった。
既にハドリは「タブーなきエンジニア集団」のトップがオイゲンや幹部相手に啖呵を切って社を飛び出した上級チームマネージャーであったことを把握しており、部下に命じて動向を調べさせていた。
その対象はあくまで上級チームマネージャー本人に限定されていた。
しかし、最近になって市民から「タブーなきエンジニア集団」なる団体がOP社の治安改革活動に反対する訴えをしている、という報告があがってくるようになった。
報告が一件や二件なら無視しただろうが、その数が日増しに増えていったこと、そして「タブーなきエンジニア集団」を支持する市民が増えてきたことはハドリにとって看過できなかった。
「タブーなきエンジニア集団」はOP社のビジネスの競合でもある。
手をこまねいていては足元をすくわれる。
(奴らを黙らせなければ将来に禍根を残すことになる、か……)
そう考えたハドリは冷静に現在の状況を分析した。
今のOP社の力でもECN社と「タブーなきエンジニア集団」を同時に敵に回すのは厳しい。
特にECN社と「タブーなきエンジニア集団」を組ませるのは最悪で、ハドリとしてもこれは避けたい。
そのため、ECN社を先に支配下に置くことを優先するというこれまでの方針を継続することを決めた。
ECN社を支配下に置けば、OP社は強大な力を得るからだ。
また、「タブーなきエンジニア集団」への人材供給源を断つこともできる。
ハドリが目指す世界の実現のためには、まだまだOP社は力を得る必要があるのだ。
その一方で「タブーなきエンジニア集団」に対しても打てる手は打っておく。
つけ入る隙を見出すためにも、彼らについての情報は必要だからだ。
ハドリは治安改革センター網を利用して、彼らに関する情報をできるだけ多く入手するよう指示を出した。
こうした判断や命令はすべてハドリ一人の考えで行われた。
彼は部下たちに対して、感覚器や手足としての機能以外を求めていなかったのだ。
(俺に盾突いていると思っていられるのも今のうちだと覚悟しておけ……)
ハドリは将来的に叩き潰すであろう敵に向けてうそぶいた。
「タブーなきエンジニア集団」の活動開始からほどなくして、ハドリも「タブーなきエンジニア集団」の存在を知ることになった。その時点でハドリはECN社を完全に掌握する方を優先した。
「タブーなきエンジニア集団」のトップがECN社の元幹部であり、そのメンバーの多くがECN社の出身者であったためである。
ハドリの怒りは「タブーなきエンジニア集団」そのものよりも、そのような人物を多数輩出したECN社に向けられていた。
ECN社から「タブーなきエンジニア集団」への人材流出が続けば、ECN社を掌握してもその効果は半減してしまう。
「タブーなきエンジニア集団」を今叩いて殲滅したところで、同じような集団が別にできてしまっては意味がない。
そこでハドリは元となるECN社を自社の完全監視下に置き、自身に逆らう集団への人材供給源を絶とうと考えたのだ。
更に「タブーなきエンジニア集団」の動きが無視できないほど大きなものとなったら、ECN社に彼らの討伐を行わせようと考えた。
ハドリは現在のところ、研修としてECN社社長のオイゲン・イナを監視下に置いている。ECN社が不穏な動きを見せれば、彼を人質に使うことができるだろう。
しかし、ここでハドリが疑問を持ったのが「果たしてオイゲンが社内の支持を受けているのか」という点である。どう見ても人を率いる能力があるようには見えない。
ハドリの知る限り、他にも現在のECN社に一〇万人以上の企業を率いるだけの骨のある人物はいない。敢えて言えば役員のすぐ下のクラスの者達だが、せいぜい数千人の組織を率いるのが精一杯といったレベルだ。
このような状況から、ハドリはECN社を「オイゲンという看板を盾に弱い者が集まって悪知恵を働かせているだけの集団」にすぎないと考えた。
そのような者達が相手なら、盾となるトップを監視下に置くことは十分な牽制になる。
(盾を失った奴らがどう動くか……選択肢はふたつだ。従うか、消えるかだ。さて、奴らはどちらを選ぶ?)
ハドリはオイゲン以外のECN社の幹部に大して興味を持っていなかった。
彼の興味の対象はあくまで「ECN社がどちらの選択肢を選ぶか?」だけである。
与えた選択肢から答えを選ぶ手助けとして、ECN社に対する監視の手を緩めるわけにはいかない。
不意にハドリは携帯端末を取り出し、通信を通じて部下に次のように命じた。
「オオカワとホンゴウにECN社が妙な動きをしないか見張れと伝えておけ。何かあったらすぐに俺に報告させろ」
どんなに小さい存在であったとしても、ハドリに敵対する意思を持つ者の存在を許してはならない。小さな芽すら摘み取っておく必要がある。ハドリはそのための打ち手は惜しまない性質だ。
(そうだ……あの連中はECN社を飛び出した跳ね返りどもだったな……)
ハドリはECN社への対処を進めながらも、「タブーなきエンジニア集団」に関する情報収集も怠らなかった。
既にハドリは「タブーなきエンジニア集団」のトップがオイゲンや幹部相手に啖呵を切って社を飛び出した上級チームマネージャーであったことを把握しており、部下に命じて動向を調べさせていた。
その対象はあくまで上級チームマネージャー本人に限定されていた。
しかし、最近になって市民から「タブーなきエンジニア集団」なる団体がOP社の治安改革活動に反対する訴えをしている、という報告があがってくるようになった。
報告が一件や二件なら無視しただろうが、その数が日増しに増えていったこと、そして「タブーなきエンジニア集団」を支持する市民が増えてきたことはハドリにとって看過できなかった。
「タブーなきエンジニア集団」はOP社のビジネスの競合でもある。
手をこまねいていては足元をすくわれる。
(奴らを黙らせなければ将来に禍根を残すことになる、か……)
そう考えたハドリは冷静に現在の状況を分析した。
今のOP社の力でもECN社と「タブーなきエンジニア集団」を同時に敵に回すのは厳しい。
特にECN社と「タブーなきエンジニア集団」を組ませるのは最悪で、ハドリとしてもこれは避けたい。
そのため、ECN社を先に支配下に置くことを優先するというこれまでの方針を継続することを決めた。
ECN社を支配下に置けば、OP社は強大な力を得るからだ。
また、「タブーなきエンジニア集団」への人材供給源を断つこともできる。
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その一方で「タブーなきエンジニア集団」に対しても打てる手は打っておく。
つけ入る隙を見出すためにも、彼らについての情報は必要だからだ。
ハドリは治安改革センター網を利用して、彼らに関する情報をできるだけ多く入手するよう指示を出した。
こうした判断や命令はすべてハドリ一人の考えで行われた。
彼は部下たちに対して、感覚器や手足としての機能以外を求めていなかったのだ。
(俺に盾突いていると思っていられるのも今のうちだと覚悟しておけ……)
ハドリは将来的に叩き潰すであろう敵に向けてうそぶいた。
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