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第二章
79:極秘任務
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「以前、生産管理部門への異動を打診したけど、それについてカワナさんはどう思う?」
オイゲンの言葉にメイの表情が曇る。
「……あまり……私がやりたくは……ないです。すみません」
メイの瞳からは先ほど現れた決意の色が消え、どこか寂しそうな表情を見せた。
オイゲンはそれを見て、すぐに次の案を示すことを決めた。こちらが本命だが、メイの負担が大きいように思われるのが気になる。
オイゲンもメイのことを十分に理解していなかったのが原因だが、オイゲンの目が届かないところで他人と組んで仕事をするというのはメイにとって非常に大きな負担なのだ。
それを理解していれば、生産管理部門への異動を打診することなく、最初から本命の案を提示したはずだ。
「ならばもう一つ考えてあるんだ。生産管理よりは大変だけど……こんな仕事頼んじゃっていいのかな……」
「何でしょうか?」
「ウォーリーが立ち上げた『タブーなきエンジニア集団』のことは知っていますか?」
「はい、話には聞いています」
「彼らの活動を調査して欲しいのです。できるだけ詳細に。カワナさんの自宅で調べられる情報だけで構いません。とにかく彼らの情報が欲しい」
「……それならば……」
オイゲンはメイの言葉に大きくうなずいた。
そして、少し声のトーンを落として言う。社長室に盗聴器が仕掛けられていないか疑ったからであったが、今のところそのようなことはなかった。
「このままだと、うちの会社はOP社に吸収されることになりそうだ」
「そんな……」
「ただ、僕にはOP社に抗しきれるだけの力は無いと思う。今の上層部でも持て余すような気がする」
「……」
「正直な話、OP社のやり方は僕自身どうかと思う。今後、OP社が力を増せば、僕のような人間には生きていきにくい世界になるようにも思える」
「……」
「だから、僕としてはハドリ氏に対抗できる別のグループに出てきて欲しいと思っている。まあ、責任転嫁だけどね」
「それで、トワさんのグループを?」
「そう。僕はこう見えてエゴの塊みたいな人間でね。思いっきり他力本願なのさ」
オイゲンがポーズだけだが悪びれてみせた。
「そんなことは無いと思います」
「そう言ってくれるとありがたいけどね。僕は極めて個人的にウォーリーのファンなので、彼に期待したい、というわけ。僕が心配したところでどうにもならないだろうけどね。ただ、ああ見えてあのチームは所々抜けているところがあるから、危なくなったら裏で手を回したいんだ。押し付けがましくやるとウォーリーが嫌がるだろうから、あくまでも裏で、ウォーリー達に気付かれないようにやればいいかな」
そう言ってオイゲンはニヤリとした。
最近の彼しか知らない人間であれば、この男がこんな表情をするのか、と驚いたかもしれない。
更にオイゲンは続ける。
「さて、問題はそのために彼らの動向を信頼できて、かつOP社に存在をあまり知られていない人に調べてもらいたい。社内に適任者が少ないんだよ」
「私……なんかでいいのですか?」
「そう、カワナさんだよ。OP社に存在を知られていない、という面ではうってつけだ。今までも他の調査とかはお願いしていたわけで、その点も問題ない、というわけ。ただ、危険を伴う可能性があるからちょっとお願いしにくいところはある。だから、嫌なら断って欲しい」
そう言ってオイゲンは複雑な表情をした。
少ししゃべりすぎたと後悔しているのだ。
メイの目に力がこもる。
「わかりました、社長。私なんかで務まるかはわかりませんが……やらせていただきます」
オイゲンはメイに「あまり無理はしないでください」と言ってから、OP社に回答の連絡を入れた。
すぐにOP社から連絡があり、オイゲンは一〇日後の二月一六日にOP社本社に向かうこととなった。そのまま適当な治安改革センターにて研修に入る。
決定をメイに報告した後、オイゲンは自分が不在の間業務を代行するヘンミと引継ぎの日程を調整した。また、クロス・センターとも連絡を取り、キノシタにも引継ぎに参加するよう要請した。
一通りの連絡を終えると、オイゲンは引継ぎの資料を作成し始めた。
メイが立ち上がってオイゲンの前に来た。
そして申し訳無さそうにオイゲンに向かって頼み込む。
「あの……すみません、社長」
「はい?」
「実は……パーティッションが邪魔で……」
「パーティッションですか?」
オイゲンは怪訝な表情を浮かべてメイを見た。
彼女がオイゲンに何かを依頼することは非常に珍しい。
「あ、いえ、その、手間がかかるのだったらいいのですけど、ちょっと圧迫感があるので……」
「どけましょうか?」
「あ、そこまでお気遣いいただかなくても……」
基本的に自己主張の苦手な彼女のことだ、これでも精一杯何かを頼もうとしているのだろう、とオイゲンは考えた。
そこで席を立ち、メイの机の脇にあるパーティッションをどけ、部屋の隅に立てかけた。
これでオイゲンの席とメイの席を隔てていた壁が無くなり、オイゲンの席からはメイの机が丸見えになる。
「僕からカワナさんの作業風景が丸見えになるけど……これでいいのかな?」
オイゲンの言葉にメイは大げさにうなずいた。
オイゲンはその様子に首を傾げたが、すぐに作業に戻った。引継ぎに使える時間は一〇日しかないのだ。
オイゲンの言葉にメイの表情が曇る。
「……あまり……私がやりたくは……ないです。すみません」
メイの瞳からは先ほど現れた決意の色が消え、どこか寂しそうな表情を見せた。
オイゲンはそれを見て、すぐに次の案を示すことを決めた。こちらが本命だが、メイの負担が大きいように思われるのが気になる。
オイゲンもメイのことを十分に理解していなかったのが原因だが、オイゲンの目が届かないところで他人と組んで仕事をするというのはメイにとって非常に大きな負担なのだ。
それを理解していれば、生産管理部門への異動を打診することなく、最初から本命の案を提示したはずだ。
「ならばもう一つ考えてあるんだ。生産管理よりは大変だけど……こんな仕事頼んじゃっていいのかな……」
「何でしょうか?」
「ウォーリーが立ち上げた『タブーなきエンジニア集団』のことは知っていますか?」
「はい、話には聞いています」
「彼らの活動を調査して欲しいのです。できるだけ詳細に。カワナさんの自宅で調べられる情報だけで構いません。とにかく彼らの情報が欲しい」
「……それならば……」
オイゲンはメイの言葉に大きくうなずいた。
そして、少し声のトーンを落として言う。社長室に盗聴器が仕掛けられていないか疑ったからであったが、今のところそのようなことはなかった。
「このままだと、うちの会社はOP社に吸収されることになりそうだ」
「そんな……」
「ただ、僕にはOP社に抗しきれるだけの力は無いと思う。今の上層部でも持て余すような気がする」
「……」
「正直な話、OP社のやり方は僕自身どうかと思う。今後、OP社が力を増せば、僕のような人間には生きていきにくい世界になるようにも思える」
「……」
「だから、僕としてはハドリ氏に対抗できる別のグループに出てきて欲しいと思っている。まあ、責任転嫁だけどね」
「それで、トワさんのグループを?」
「そう。僕はこう見えてエゴの塊みたいな人間でね。思いっきり他力本願なのさ」
オイゲンがポーズだけだが悪びれてみせた。
「そんなことは無いと思います」
「そう言ってくれるとありがたいけどね。僕は極めて個人的にウォーリーのファンなので、彼に期待したい、というわけ。僕が心配したところでどうにもならないだろうけどね。ただ、ああ見えてあのチームは所々抜けているところがあるから、危なくなったら裏で手を回したいんだ。押し付けがましくやるとウォーリーが嫌がるだろうから、あくまでも裏で、ウォーリー達に気付かれないようにやればいいかな」
そう言ってオイゲンはニヤリとした。
最近の彼しか知らない人間であれば、この男がこんな表情をするのか、と驚いたかもしれない。
更にオイゲンは続ける。
「さて、問題はそのために彼らの動向を信頼できて、かつOP社に存在をあまり知られていない人に調べてもらいたい。社内に適任者が少ないんだよ」
「私……なんかでいいのですか?」
「そう、カワナさんだよ。OP社に存在を知られていない、という面ではうってつけだ。今までも他の調査とかはお願いしていたわけで、その点も問題ない、というわけ。ただ、危険を伴う可能性があるからちょっとお願いしにくいところはある。だから、嫌なら断って欲しい」
そう言ってオイゲンは複雑な表情をした。
少ししゃべりすぎたと後悔しているのだ。
メイの目に力がこもる。
「わかりました、社長。私なんかで務まるかはわかりませんが……やらせていただきます」
オイゲンはメイに「あまり無理はしないでください」と言ってから、OP社に回答の連絡を入れた。
すぐにOP社から連絡があり、オイゲンは一〇日後の二月一六日にOP社本社に向かうこととなった。そのまま適当な治安改革センターにて研修に入る。
決定をメイに報告した後、オイゲンは自分が不在の間業務を代行するヘンミと引継ぎの日程を調整した。また、クロス・センターとも連絡を取り、キノシタにも引継ぎに参加するよう要請した。
一通りの連絡を終えると、オイゲンは引継ぎの資料を作成し始めた。
メイが立ち上がってオイゲンの前に来た。
そして申し訳無さそうにオイゲンに向かって頼み込む。
「あの……すみません、社長」
「はい?」
「実は……パーティッションが邪魔で……」
「パーティッションですか?」
オイゲンは怪訝な表情を浮かべてメイを見た。
彼女がオイゲンに何かを依頼することは非常に珍しい。
「あ、いえ、その、手間がかかるのだったらいいのですけど、ちょっと圧迫感があるので……」
「どけましょうか?」
「あ、そこまでお気遣いいただかなくても……」
基本的に自己主張の苦手な彼女のことだ、これでも精一杯何かを頼もうとしているのだろう、とオイゲンは考えた。
そこで席を立ち、メイの机の脇にあるパーティッションをどけ、部屋の隅に立てかけた。
これでオイゲンの席とメイの席を隔てていた壁が無くなり、オイゲンの席からはメイの机が丸見えになる。
「僕からカワナさんの作業風景が丸見えになるけど……これでいいのかな?」
オイゲンの言葉にメイは大げさにうなずいた。
オイゲンはその様子に首を傾げたが、すぐに作業に戻った。引継ぎに使える時間は一〇日しかないのだ。
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